「私たちは絶対に諦めません」 VRアイドル・えのぐ、6周年ワンマンライブ「#2589日目の奇跡」レポ

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「6年前、VTuberを選ばなかった私たちの現在」

ゴールデンウィーク明け初日の5月7日、「合同会社えのぐ 鈴木あんず白藤環日向奈央」名義で、投稿者のことを知らない人でも気になるタイトルの記事noteで公開した「VRアイドルえのぐ」

記事の本文にあたる「年表」は、「私たちの歴史は、常に”失敗”からのスタートでした」という一文からスタート。そこには、後に「えのぐ」として活動する5人の少女がVRタレント専門の芸能事務所「岩本町芸能社」(2024年3月に廃業)に入所した2017年春から、合同会社を設立して独立後、最初のワンマンライブを終えたばかりの現在まで、約7年間の活動や当事者としての心境が、かなり赤裸々に記されている。VR業界やアイドル業界に限らず、エンタメコンテンツに関心のある人ならば、興味深く読み進められるだろう。

約2万字もの長文だが、自分たちの存在や歩みを一人でも多くの人に伝えたいという思いのこもった文章は、分かりやすく丁寧。そこに記されている嬉しい思い出や悔しい出来事のすべてにおいて当事者でありながら、適度に感情の抑制も効いていて、非常に読みやすい。えのぐについて詳しくない人や、まったく知らなかった人でも、きっとえのぐの活動に対する好奇心が刺激されるはずだ。

2023年からは、鈴木あんずさん、白藤環さん、日向奈央さんの3人体制で活動しているえのぐの最新最高のパフォーマンスを楽しめるのが、5月3日(金)にZepp DiverCity TOKYOで開催された「enogu 6th Anniversary Live #2589日目の奇跡」。この記事では、生バンドの演奏とともに全28曲が披露された6周年ワンマンライブの模様をレポートしていく。

なお、開演から9曲目までの配信映像は、えのぐの公式YouTubeチャンネルで無料公開中。ライブの全編は、ニコニコ生放送のタイムシフトで有料視聴できる。noteの記事やこのレポートで興味を持った人は、配信でも伝わるえのぐの熱を一度、感じてみてほしい。

【一部無料】グループ結成6周年記念ライブ「enogu 6th Anniversary Live #2589日目の奇跡


奇跡を起こす6周年ワンマンは、「YeLL for Dear」で開幕

バンドメンバーも参加した代表曲メドレーによる「overture」の後、「YeLL for Dear」で、2024年最初のワンマンライブは開幕。タイトル通りにド直球な応援歌で、ワンマンライブでは初の会場となるZepp DiverCity TOKYOの広い客席にエールと熱を届けていく。1周年記念ライブで発表された「YeLL for Dear」に続いては、2周年記念ライブで発表された「Colors」。次の3曲目は、3周年ライブの発表曲かなと想像していると、逆に時代を遡って、2018年8月に行われた初本格ライブの披露曲「絵空事」。筆者がえのぐに注目し始めたのは約3年半前なのだが、もっと古参のファンであれば、これらの初期曲をZeppのワンマンでパフォーマンスする3人の姿には、さらに大きく感情が動いたことだろう。

最初のMCでは、会場のファンが開演前に寄せ書きしたメッセージ垂れ幕を紹介。筆者は、開演時間ギリギリの到着になってしまったので、メッセージ垂れ幕が作られていく様子を見ることはできなかったのだが、ステージの左右に飾られた2枚の大きな垂れ幕は、「えのぐみ(えのぐファンの愛称)」からのメッセージで埋め尽くされている。文字の大きさや勢いからも、えのぐのメンバーに負けず劣らずなえのぐみの熱量の高さを感じた。開演からの3曲は、まるでライブのクライマックスのようなセレクトだと感じていたのだが、最初のMCもすでにフィナーレ間近のような熱さ。

鈴木「順風満帆とはほど遠い人生で、この先も成功が約束されてるわけじゃないけど。でも、私たちは奇跡を信じて良いだけの日々を送って来たって。奇跡が起きた時、その後、期待に応えるグループだって、自信を持って言えます。だから、いつかではなくて、今日、皆さんと私たちで奇跡を起こしましょう!」

MC後の第2ブロック最初の曲は、夏がテーマのタオル曲「常夏パーティータイム」。曲振りのMCで白藤さんも紹介していたが、「TOKYO IDOL FESTIVAL2019」に出演した際にZepp DiverCity TOKYOのステージで初披露した曲を5年ぶりに立った同じステージで、5年分の成長も込めて歌う。現在とは違い、えのぐやVRアイドルどころか、バーチャルタレントとという存在でさえ、ファン以外の認知度はまだまだ低かった2019年当時。アウェイ状態の中、ステージに上がった3人だったが、「常夏パーティータイム」を歌っているとき、他のアイドルのファンもタオルを回してくれて、勇気づけられたそうだ。会場中がえのぐみでいっぱいだったこの日は、当然、無数のタオルが回りまくっていた。

ノンストップで6曲をパフォーマンスした第2ブロック。12日間で10ステージを走り切った「enogu 10 Days Live -遮二無二-」のテーマ曲「BRAVER」や、4周年ワンマン「enogu 4th Anniversary Live – POSSIBLE -」のタイトル曲「Possible」など、過去のライブでメインを飾った楽曲を連発。さらに、8曲目にオリジナル曲の中で最もメタルな「Defiant Deadman Dance」で激しいステージ見せた後、メロディアスな導入や和テイストな曲調が特徴的な「鏡花水月」を披露するなど、短時間の間に、さまざまな顔を見せてくれた。


メンバー個人の個性も感じるセットリスト

9曲目の後、一旦、退場した日向さんは、二人でMCを行った鈴木さん、白藤さんと入れ替わるように再登場。「Zepp Zepp DiverCity、ニコニコ生放送、全員、ひなおに付いて来~い!」と客席をあおった後、ソロ曲「なないろ」をライブ初披露した。「ヒナタナオ」名義で発表しているソロ曲では、作詞にも挑戦してきた日向さん。明るいだけではない世界の中でも、明るい場所に目を向けるような歌詞は、いかにもえのぐのリーダーらしい。緑に染まった会場に、爽やかな歌声が響いた。

鈴木さん、白藤さんも加わり、再び3人で披露したのは、3周年記念ライブ「enogu 3rd Anniversary Live -臨戦態勢-」で発表した「Armor Break」。ライブで見る度にどこか変化している日向さんのソロダンスパートも大きな見どころの楽曲だ。さらに、この日は、ソロダンスの後、日向さんをセンターに3人がいつも以上に激しく客席をあおる。このブロックの主役は日向さんなのだなとセットリストの狙いが見えてきたところで、続く12曲目は、昨年12月の「大絶響祭 2023 WINTER -ONE DAY MORE-」で発表された「BAD DANCE」。岩本町芸能社からの独立を目前にしていた「大絶響祭 2023」では、各メンバーが1曲ずつ新曲をプロデュースしたのだが、「BAD DANCE」は、日向さんがプロデュースを担当。何も知らない人でも簡単に楽しみ、一緒に踊れることをコンセプトにした楽曲だ。「えのぐ初心者」でも楽しめる曲でありながら、非常にダンサブルなリズムや白藤さんのラップパートなど、「えのぐ」の曲としての個性は尖っている。

短いMCの後は、日向さんプロデュースの新曲「NoReason」を初披露。先ほどまでとはガラリと変わったジャズテイストの楽曲で、会場全体がチルでアダルトな空気に染まっていく。音楽が大好きで、普段から、さまざまなジャンルの曲を聞きまくっているであろう「日向奈央プロデューサー」の振り幅の広さを感じさせた。

【6th Anniv】NoReason – えのぐ #2589日目の奇跡 – Zepp DiverCity / Live ver.

日向さんが「ベースが映える曲」などの新曲のコンセプトを明かした後は、白藤さん一人がステージに残る。ここからは、えのぐの「キャプテン」白藤さんが主役のブロックだ。まずは、「×××中毒(らぶりーぽいずん)♡たまきちゃん」名義の1stソロ曲「好きすぎてしんどローム」を披露。楽しさと可愛さとオタクの面倒くささを詰め込んだ電波曲で、会場の空気をガラリと変える。日向さんプロデュース曲のラップパートでも印象的だった白藤さんの滑舌の良さは、オタクの高速詠唱でも生かされていた。

3人が揃っての15曲目は、「Armor Break」と同じ3周年記念ライブで発表した「アンプリファー」。飛行機ポーズの3人がくるくると回るダンスは今回も楽しく、白藤さんの「世界を変える!」という絶叫は、これまで以上に力強く響いた。16曲目は、白藤さんの初プロデュース曲「ピリパリッ!!!」。日向さんプロデュースの「BAD DANCE」とは、ある意味、真逆のコンセプトで、少し難易度高めなえのぐみのコールも加わってこそ完成する楽曲。初披露ライブの前には配信でコールの練習を行い、会場ではコール表も配布されていた。正直、筆者は完全にコールを忘れて、ただのお客さんとして楽しんでいたのだが、周囲のえのぐみには、きっちりとコールを入れる猛者も多く、白藤さんが目指したファンと一緒に曲を育てることにも成功している。

白藤「環は、あんずと奈央ちゃんのことが大好きです。私たちを支えてくれている人たちのことが大好きです。そして、応援してくれるみんなのことが、大、大、大好きです。だから、大好きなえのぐを絶対に世界一のVRアイドルグループにします。それが、えのぐのキャプテン、白藤環の生き様です。これからもえのぐをよろしくお願いします!」

突然の告白と、改めての決意表明の後は、白藤さんプロデュースの新曲「とぶらぶっ!!!」を初披露。ファンも参加することで完成する曲というコンセプトは、「ピリパリッ!!!」から継続で、今度はタイトル通りにえのぐみをジャンプさせる楽曲になっていた。当然、メンバーの3人もステージ上で何度もジャンプするのだが、17曲目のパフォーマンスとは思えないジャンプの高さ。イントロからリズムに乗りやすい楽曲で、初披露ながら白藤さんの狙いは大成功。えのぐみのジャンプが会場を揺らしていた。


3人のプロデュース曲「僕色インフィニティ」を初披露

ここまでの流れから推測した通り、18曲目は、鈴木さんのソロステージ。ゲーム「探偵撲滅」のEDテーマソングでもある2ndソロシングル「kotonoha」を披露した。えのぐ曲での熱唱とはがらりと変わった優しく美しい歌声は、シャボン玉が舞う演出にもマッチして、はかなげだ。

ちなみに、鈴木さんは「探偵撲滅」で「渋谷探偵」の声優も担当しているのだが、その演技が楽しめるゲーム実況配信の2本のアーカイブ(【渋谷探偵役】鈴木あんずの『探偵撲滅』ゲーム実況【えのぐ】)もオススメ。自分の出演作を実況プレーするという珍しいシチュエーションも含めて楽しく、あまり他に類を見ない配信になっている。

3人が揃っての19曲目は、3周年記念ライブで発表した「Magic」。各メンバーのソロ曲やプロデュース曲で構成されたブロックに、3周年記念ライブでの発表曲を1曲ずつ組み込むセットリストは、同じ日に発表した曲が3曲もあるからこそ成立するもの。えのぐのワンマンでは、新曲披露は当然で、それが1曲だけだと少ないと感じてしまうくらい、毎回、盛りだくさんなのだ。「kotonoha」に続いて聴いたことも影響しているかもしれないが、いつも以上に優しく感じた「Magic」の後は、鈴木さんのプロデュース曲「小さな勇気」。「リアルとバーチャル」、そして、新たなことに挑戦する人への応援歌がコンセプトで、一歩ずつ前に進んでいるようなリズムに乗せて、そっと背中を押すような優しい歌声と言葉が響く。

この日、3曲目の初披露曲は、鈴木さんのプロデュースの「またね、って言うよ」。鈴木さんらしい熱い思いは感じつつも、爽やかな青春賛歌のようでもあるこの曲。鈴木さんにとっては、「ライブが好きって気持ちとか、今この瞬間をみんなで楽しみたいって気持ちを詰め込んだ、おまじないみたいな楽曲」らしい。そして、ライブのクライマックスに向けて、鈴木さんの魂の叫びが会場に響く。

鈴木「まだまだ、えのぐとみんなで見たことのない景色を見に行きたい。もっともっと上に行きたい。今しかないこの時間を一緒に全力で生きたい。だから、何度でもステージで会う約束をしましょう。これからも道なき道を共に歩んでくれると嬉しいです」

次に披露されたのが、「私たちが過ごした2589日の色で描いた新曲」の「僕色インフィニティ」。このライブ、4曲目の新曲だ。鈴木さん、白藤さん、日向さんとボーカルを担当するメンバーが変わるごとに曲調も変化。そこから、3人が同じフレーズを順番に歌い、サビでは3人の声が重なり合って響く。まさに、異なる3つの色が混ざり合って一つになっていくような構成が面白い。

【6th Anniv】僕色インフィニティ – えのぐ #2589日目の奇跡 – Zepp DiverCity / Live ver.

白藤さんの「残すはあと2曲です」という宣言後の23曲目と24曲目は、デビュー曲「えのぐ」と、現在の3人体制になって最初に発表した曲「星は三度瞬く」。曲の方向性はまったく異なるが、どちらも「えのぐ」にとっては始まりの曲。えのぐの歴史を知っている人ならば、曲間に日向さんが叫んだ「私たちは、何度でも瞬きます!」という言葉が胸に刺さる。3人は、自分たちを鼓舞するような推進力のある楽曲とパフォーマンスで、6周年ライブの一旦のゴールを走り抜けた。


アンコールでは、3rdアルバムのリリースを発表

終演の挨拶後、3人は「ありがとうございました」と感謝の言葉を何度も繰り返しながら、退場。ステージの照明が落ちると、すぐにアンコールの「えのぐ」コールが始まった。数分後、まずはバンドメンバーがステージに再登場。メンバーを紹介する映像とともに、一人一人が華麗な演奏で、客席のテンションをまた盛り上げていく。

ステージに戻ってきた3人は、4人体制で発表された最後の曲で、アイドルとしての心意気が込められた「LIVE Ⅳ LIFE」と、ラジオ「ミューコミVR」のVTuber楽曲ランキングでも2位に選ばれた、今のえのぐ楽曲の中でも特に勢いがある曲の一つ「ヴァーチャルバーサーカー」を続けて披露。アンコールで満を持して披露された「ヴァーチャルバーサーカー」での会場の盛り上がり方は、ギアがオーバートップに入ったような感覚でもあった。「狂戦士(バーサーカー)」などという物騒なタイトルの楽曲が、可愛い3人のアイドルにぴったり過ぎるほどにマッチしていることも今さらながら面白い。

MCでは、この日のライブで初公開した4曲が翌日0時からダウンロードサイトやサブスクで配信されることと、4曲を収録したEP「僕色インフィニティ」がリリースされることを発表。これまでのえのぐのワンマンでも、今後の活動に関するさまざまな新情報が発表されることは、定番の流れ。しかし、独立して初めて迎えるワンマンだけに、正直、ポジティブな発表があるとはあまり思っていなかったため、より嬉しいニュースだった。

「全員ラストまで全力で駆け抜けるぞ!」という日向さんのあおりから、この日、二度目の「僕色インフィニティ」。3人でプロデュースしたというこの曲は、えのぐの最新の代表曲として、今後もさまざまな色を放ちながら披露され続けていくのだろう。

最後のMCでは、鈴木さんから、さらに嬉しい報告。2024年に3枚目のアルバムをリリースすることが発表されたのだ。この発表は、完全に想定外のニュース。多くのえのぐみにとって、心の支えとなる未来への約束になったはずだ。

白藤「2023年、(夏目)ハルちゃんの引退からこのメンバーで再出発し、(バーチャルライブイベント)『VRide!』の立ち上げや、『TIF2023 アイドル総選挙』での3位受賞など、たくさんのドラマが発表されました」

日向「そして、今年、2024年、これまで7年間過ごした岩本町芸能社の廃業、独立という大きな出来事があり、今もまだ、この先の活動が約束されているわけではありません」

鈴木「それでも私たちは絶対に諦めません。2589日でも駄目なら、次の日も、その次の日も、可能性がある限り駆け抜けて。世界一のVRアイドルになります。その信念と応援してくださる皆さんの思いが、私たちがこれから切り開く道のりを照らす灯りです!」

熱すぎるメッセージに続いて披露された「燈し火」は、2021年の「enogu one-man Live 2021 Winter -雲外蒼天-」で発表された楽曲。何度も聴いてきた曲だが、まるで、このライブのフィナーレに合わせて作られた曲なのかと思うほど、内容もパフォーマンスもピタリとハマっていた。

日向「2589日目の奇跡。今日、私たちと過ごした時間を忘れないでください。約束してくれる人は、一緒に飛びますよ。準備は良いですか? せーのー!」

誓いのジャンプでライブは終了。最後の最後を締めくくるのは、やはり、えのぐの「センター」鈴木さんの言葉だ。

鈴木「今年は、これまで以上に、皆さんと私たちで団結して、バーチャルアイドル文化の新しい可能性も切り開いて行きたいと思います。7年目も応援、よろしくお願いします。以上、VRアイドルえのぐでした!」

最後まで楽しそうにワチャワチャと騒ぎながら、会場中のえのぐみに手を振りながら、3人は退場。彼女たちが、活動をはじめて2589日目のライブは、熱狂の中、終了した。

「2589日目の奇跡」と題して開催された6周年ワンマンライブ。ライブの4日後に投稿されたnoteの終盤には、「結果から言えば「奇跡」はまだ起きていません」と明確に書かれており、えのぐと仲間たちの奇跡を起こすための歩みは、まだ続いている。

しかし、すでに発表されている楽曲はソロ曲を含めて50曲以上。えのぐの公式YouTubeチャンネルでは、過去のライブ映像の無料パートや切り抜き動画なども数多く公開されている。そして、座学が好きな人にぴったりな詳細な活動記録もnoteで発表された。奇跡の種は様々な形で数多くばら撒かれており、奇跡採用担当の神様の目に止まるときも、きっと少しずつ近付いているはずだ。奇跡が起きる瞬間を見逃さないためにも、3人の活動には、引き続き注目していきたい。


(取材・文:丸本大輔

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