テレビ朝日が、毎週金曜日深夜0時45分から放送しているバラエティー番組「金曜日のメタバース」(金メタ)。生身のタレントに並び、メタバース民やVTuberがVTR中や雛壇のコメンテーターとして出演しているというスタイルがユニークで、PANORAでも初回放送やリニューアル回などを現地取材してきた(実はPANORAとしても今年5月からメタバース監修として制作に協力しています)。
その金メタが8月28日にメタバース上で公開収録を開催! なんと今、日本におけるVRChatの火付け役としてバズりまくっているゲーム配信者「スタンミじゃぱん」さんも出演するという話を聞きつけて、いてもたってもいられず再度取材を申し込みスタジオに乗り込み、スタンミさん自身にも取材を敢行した。現地からのレポートとあわせて、2回に分けてお届けしていこう。ちなみに出演回は9月13日放送分となる。
インタビューでは、地上波テレビに初出演した感想のほか、「VRChatのクリエイターは、自分たちのコンテンツを本気で信じている」「トコロバだけが特別じゃなく、出会った全員が特別」「『生主』時代の外配信がVRChatに活きている」……など、配信に対する目利きの鋭さと真摯な姿勢をうかがえる発言を聞けた。VRChatユーザーのみならず、全ネットクリエイターに読んでほしい。
「何も飾らずに、配信のまんまで出られた」
──本日、初めてのテレビ収録に臨んで率直な感想は?
スタンミ なんというか、普段の配信ってずっとしゃべり続けるコンテンツで、話したいことももっとたくさんあるんですけど、テレビの収録って明らかに別の人のターンが存在するじゃないですか。そこがまだ掴みきれてないなってのを感じました。でも、結構自分が出せたかなと思ってます。スタンミのまんま、何も飾らずに、配信のまんまで出られたかな。
──いやほんとその通りだと思います。VRCボクシングも、サキュバス酒場も配信でやられてきたそのままで本領発揮されていました。
スタンミ なんかもう、なんか台本こうやってくださいね、流れがっていうのを……結構無視しちゃったんで(笑)
──(笑)
スタンミ (打ち合わせで)「流れちょっとぶった切ってやっていいですか?」って聞いたらそ、スタッフの方とかがすごい苦い顔してて。その中でぶった切ってやってしまったので、オンエアがどうなるのかと。
──公開収録では全部見られましたが、地上波でどこが使われるのかがとても楽しみです。
スタンミ VRCボクシングのところとかも、結構、MCの芝さん(モグライダーの芝大輔さん)をいじってしまって、そういうのがどうなのかというのを手探りで、それこそジャブを打ちながらやってみた感じです。
──しかし、スタンミさんの持ち味は、配信がまさにそうであるように「いじり」にあると思います。目の前にある現象をスタンミさんが解釈して視聴者に伝えるとそういう表現になるんだ、っていう面白さが素晴らしい。
スタンミ それが僕自身でも僕のコンテンツのデカいところだなとは思ってるんで、なんかそれを出さないでってなったら俺じゃなくてよくなっちゃうんで。ありのままにやらせていただきました。
VRChat民は「自分たちのコンテンツを本気で信じている人」
──VRやVRChatに興味を持ったきっかけは?
スタンミ 僕、普段から「マシュマロ」(匿名の質問サービス)で視聴者の方々からお便りいただいて、それに答えるラジオコンテンツを配信しているんです。その質問が1テーマあたり1000件ほど来るのですが、VRChatのときに2000とか2500件とか来て「なんだこの界隈は」と。
──どうしてVRChatをトークのテーマに?
スタンミ やっぱりラジオコンテンツってアングラな方がいいんです。例えば、最近だと「ホストの姫の方、文句ありますか」だったりを取り上げている中、「VRChatってやばいらしいよ? 既婚者なのに、VRChatの中で結婚している相手がまたいて……」みたいな話を聞いて、「それは許されるのか?」とか興味を持ったんです。
──それはXで知ったんですか?
スタンミ 取り上げるだけではもったいないし、アングラだけではないと感じたので体験してみようと。
──そこが素直にスゴいと感じます。ネットでは話題になったものを「こんな変なものを見つけた」と伝聞で取り上げがちですが、実際にやってみるのが偉い。どうしてVRChatに飛び込んでみようと思ったのですか?
スタンミ いやもう僕自身こういう新しい体験っていうのが好きなんで。全然別の話になってしまいますが、雑談で「お前、投資するならなんの分野にする?」という振りがあったときに、「VRのゲームセンターかな」と答えたぐらいなので。VRってPCまで揃えると高額だけど、ゲームセンターで遊べて、カードで自分のアバターとかも管理できたら人が集まって、前の「戦場の絆」ブームみたいなのが起こるんじゃないかって。だから今、まさに興味があった分野だったんです。
──すぐにVR機器を買ったという?
スタンミ いや、元々2021年にMetaさんからVR版「バイオハザード4」をノーミスクリアチャレンジするという案件を配信者のSHAKAとともにいただいて、そのときの機器があったんです。それで張り出してきて体験して、「うわ、すごいんだね」っていうところから始めました。
──そこからVRChat内での配信にもつながっていくわけですが、どう紹介していこうと工夫しましたか?
スタンミ ぶっちゃけて言うと、世間に出すときに独自の文化、例えば男性が女性の声を出しているようなところに嫌悪感を持つ人も絶対に出てくるだろうなと。それで変にヘイトを買うのも違うので、ワンクッション置かないといけないなと考えて、企画したのが「ボイチェン人狼」でした。内容的にも面白いなって思ったんですけど、視聴者がVRChatを受け入れてくれるための導入としてもハマってくれて偏見を取り消せた。
──スゴい。きちんと段階を踏んでいたんですね。
スタンミ 多分、視聴者からするとわからないはずです。ボイチェン人狼でもオーディションをやって、不快感を出さないような枠組みをちゃんとつくって準備しています。
──スタンミさんの紹介の仕方でも一貫してスゴいなと思うのは、本心から楽しんだり、作り手に対するリスペクトがあるのが伝わってくるところです。
スタンミ 僕自身、おもんないものはおもんないで、顔に出ちゃうんです。僕が今、この状況(編註:VRChatで注目されている)にいられるのっていうのは、VRChatのコンテンツが濃厚というのがあった上で、10年以上配信者として活動してきた土壌があったからだと思います。
あんま言ってない話なんですけど、TikTokにもいち視聴者みたいなアカウントをつくって、そこでもメタバースの魅力を発信していたりもします。僕の名前ではなく、ファンとして「これ面白いから見てよ」って感じのほうが拡散されやすくて、そこでもメタバースを知ってくれた人もいると思います。
今回、僕のTwitch配信を見るためだけにアプリを入れてくれた人もたくさんいました。自分がただ楽しんでいるだけで、うちのリスナーも楽しんでくれる。でも色々なところに発信してもきちんと面白く見られるものになるのは、元々のVRChatのコンテンツが濃厚だからこそで、俺のおかげで広まったという感覚はないです。多分、俺がいなくても、半年後とかにまた俺みたいな人が出てきていた。
──いやずっと取材してきて思うのは、ニコニコ動画でも、ボーカロイドでも、VTuberでも、ネット文化が大きく跳ねるときは、たまたまその場にいた才能のある人が頑張ったからだということです。そんなVRChatで、何に一番スゴさを感じました?
スタンミ コレすげえなと思ったのって、コミュニケーションですかね。コミュニケーションツールとして面白いっていうのと、あとはやっぱり中の人たちの熱量。言い方が難しいですが、変な話、世間のほとんどの人が知らない状況なわけで、でも流行っていないのにそこにいる人たちって、自分たちのコンテンツを本気で信じている人たちなんです。
──わかります。
スタンミ だから、その人たちの熱量に惹かれたというか……。例えば、あるワールドに行ったときに「これすごいね、なんかNetflixみたいなシステムにしたらお金になるんじゃない」って思っていた時期もあったんですが、その考え方は多分根本から間違っていて、お金を絡ませてはいけないんです。熱量がファーストであるから、お金よりスキが先行するからこそ成り立ってるところもよさが生まれるんだなって。
──スタンミさん自身の配信も、自分のスキから始まってますよね。
スタンミ 僕のスタイルがそうだったんですけど、他のコンテンツを見るときにそれを一瞬忘れてしまって。「いや、これ金を絡ませた方がワールド数増えるし、もっとクオリティの高いものもできるし、いいんじゃね」って思ったんすけど、「違う。これ金じゃない。好きだからみんなやってるんだ。金払ったら違う方向行くわ」っていうことに気づいたんです。そんなみんなのスキやこだわりがひとつひとつのものに詰まっていて、それこそが原動力なのかなって。
トコロバだけが特別じゃなく、みんなが特別
──そうして活動を始めたあとにトコロバさんという「相棒」に偶然出会うわけです。トコロバさんについてはどう考えています?
スタンミ トコロバは言うて特別なんですけど、それはVRCahtという画面越しで見るエンタメだから特別に見えるのであって、僕としてはVRChatで出会った人みんなが特別で、何人も友達ができたイメージなんです。さっきも言ったように、中にいる人たちが本物なんで、話してるだけで面白さが出てくる。今後も色々な人と出会いうのが楽しみで楽しみで、仲よくなった人とはVRCの中だけではなくネットの友達になりたいです。現状トコロバとはそんな感じなんで(笑)
──VRChat上のアバターやワールドのクリエイター、イベントの運営やスタッフなどについてはどう思います? 多くは無償でもがんばっていますが……。
スタンミ うわ、それ言い方が難しいですよね。多分、みんながんばってないんですよ。がんばるってなると多分やめちゃって、好きだから勝手に続いちゃってる人たちが集まってる。本当にクリエイターの集まりなんで、俺はそれをめっちゃ感じます。
──わかります。ニコニコも、ボーカロイドも、VTuberも、当初は売れるための手段のひとつではなく、自分がつくったものを見てくれて反応をくれるのが純粋に嬉しかった場ですよね。
スタンミ マジでそうっすね。ニコニコの初期ってのは、なんか結構近いと思います。
──そのフロンティアが、3Dと空間になったというのがVRChat。ちなみにニコニコを見ていた当時、何歳ぐらいでした?
スタンミ 今29歳で、当時は17歳ぐらいです。
──となると日本におけるインターネット動画文化の歴史を結構見てきているという。
スタンミ はい、結構見てます。僕も自分から550円お金払って配信してました。
──「生主」(ニコニコ生放送での配信者)だ!
スタンミ あのときも、自分からお金払って別に生まれるものって、何もなかったじゃないですか。それ、感覚似てるなっていうのはあって。
──スゴい。インターネットの文化を肌でわかっているから、ここまで解像度が高い接し方ができて、それで面白さを引き出せて、爆発的に広められたという結果につながったという流れを感じました。
スタンミ でもそれはぶっちゃけあると思います。なんかインターネット長いのと、僕、外配信の経験がめっちゃデカいと思って。自分でカメラを持って、街中の人とコミュニケーションを取りながら生配信するんですよ。例えば浅草を歩いてて、道行く人に「何がおすすめですか」って聞いたり。ときどきファンが「凸って」(現地に突撃して)きたりするんですが。
──VRChatの配信とやってること変わってないですね!
スタンミ そうなんですよ。当時とやってることが変わっていない。お店のアポも事前にじゃなくて、何も決めないで行って、あえてその日に取る。「うまそうなカレー屋さんがあるじゃん、ちょっと待って、みんなアポ取ってくるわ」って話をして、「いけたわ」っていうあとに食べるところを見せるというのを生でやるんです。
──ネットのコンテンツで大事な、過程を共有して「共犯者」になってもらう、自分ごとに感じてもらう仕掛けですね。うまい。
スタンミ そう。後日、視聴者のみんなが訪問してくれて、「スタンミが行ってたカレー屋だ。素晴らしい」って投稿してくれたりするんです。元々、リアルでやっていたことがVRChatで反映できたのかなっていうのは、めちゃめちゃ感じてます。
配信者のみんなに聞くと、「外配信ってリスキーじゃん」とか、「なんかファンが来たときにどうしたらいいかわかんない」といった声も聞くのですが、僕がVRChatでの配信に抵抗ないのは、その外配信をやっていたから。
それがプラスの面なんですけど、マイナス面の話をすると、そういう経験が乗り越えられる人じゃないと難しい。例えば、実際、変な人が来たときの対処だったり、初対面で会ったときの温度感とか、どういう話し方をするのか、どういう面白さを持ってるかっていうのを感じ取って、配信の方向をどう持っていくかみたいなすぐに判断ができないといけない。
──空気を読みつつ「いじり」でギリギリを攻めるやり方が成立するのは、長年の経験があったからなんですね。
スタンミ 今でもちょっとギリギリなとこありますけどね。ちょっと色々、相談しつつというか、相談っていうのも言葉に出さない温度感を読み取るみたいなことですが。
──生配信やアーカイブ動画だけ見ていると本当に楽しい配信なんですが、裏でめちゃくちゃ考えられていて、今までの経験もフルで生かしているという。
スタンミ そうだと嬉しいですけどね。僕はもっとVRChatやメタバースで配信できることもっとあると思っていて、せっかくApple Watch買ったのに、SUICAしか使ってないみたいな、まだまだ使える機能はたくさん残ってるぜ!みたいなイメージです。
──これからどんなことに挑戦していきたいですか?
スタンミ 配信コンテンツとVRChatやメタバースをちょっとずつ融合していけたらと考えていて、それこそ「金曜日のメタバース」が目指しているようなことがベストなのかなと。
今、VTuberのライブを企画していて、まず会場の制作からスタートしました。これがうまく行ったら、でっけえ事務所に頭下げて来てもらってライブとかができたら、なんか1歩進んだ感あるんじゃねえかな。バーチャルライブというと、観客席のアバターを自動で動かしていたりするけど、VRChatなら中の客も生きてるし、既存のライブとは違う魅力ができるので、それをちゃんと見せられたら可能性に気づく人が絶対に出てきてくれる。
VRChat自体を知ってもらうことはある程度できたと思っているので、ここから「こんなことができるんだよ」とか、繋がりを広げていければ嬉しいなと思います。
(TEXT by Minoru Hirota)
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