Pico Technology Japanは20日、一体型MRゴーグルの新製品となる「PICO 4 Ultra」とモーショントラッカー「PICO Motion Tracker」を発売しました。特に「PICO Motion Tracker」は、価格が1万1800円と従来のフルトラ製品に比べ大幅に安価で、かつ重量もわずか27グラムの超軽量、装着は両足首の二点だけと、気軽にフルトラを始めたいユーザーにとって、衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。
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筆者もそんな期待を寄せていたユーザーの一人です。本記事では、「PICO Motion Tracker」が公式対応しているVRアプリのひとつ「VRChat」を例にとり、ズバリ「VRChatユーザーである筆者が、満足できる製品であるのか」を包み隠さずレビューしていきたいと思います。
「PICO Motion Tracker」はどんなトラッカー?
まず、「フルトラ」について簡単におさらいしておきましょう。
フルボディトラッキング(Full-body Tracking)とは、全身(フルボディ)の動きをセンサーなどを用いて追跡(トラッキング)するモーションキャプチャーシステムを指します。通常のVRゴーグルの場合は、頭部と両手コントローラーの3点のみをトラッキングしており、アバターなどに反映される動きは「上半身のみ」です。
通常のVRゲームを遊んだり、バーチャルワークスペースを利用したりする場合には、上半身のみで十分なのですが、たとえばサッカー、カンフー、フットホッケー、ダンスなど全身を動かしたVRスポーツゲームを遊びたい場合や、「VRChat」のようにアバターを使ってコミュニケーションを取る場合などは、上半身だけではなく下半身も含めて全身を動かしたい。そんな需要に応えるのが「フルトラ」です。
フルトラを実現するデバイスには、さまざまなものがありますが、よく比較されるポイントは、「トラッキング方式」「装着感」「精度」ではないでしょうか。
「PICO Motion Tracker」は、マルチモーダルセンサー方式とのこと。基本的には、IMUセンサー(慣性推測)に加えて、ソケットを含めて12個の赤外線センサーが搭載されています。さらに、独自のマルチモーダルAIトラッキングアルゴリズムを用いて、VRゴーグル、コントローラー、そして2点のモーショントラッカーの合計5点から、全身24箇所の骨格ポイントにわたる6DoFデータを生成。これにより、軽量・お手軽ながら、精度の高いトラッキングを実現しているようです。
装着感については、もう抜群です。おそらく、この装着感を超えるためにはカメラトラッキングなどで「もはや何も着けない」ところまで行かないといけないのではないか、というほど。
まず、何よりもサイズが小さい。一昨年、話題を呼んだソニーのモーキャプ機器「mocopi」に並ぶほどのサイズ感・重量です。
そしてなにより、装着箇所が二箇所だけ。しかも、足首に装着するタイプなので、胸や腰、膝などと違い締め付けが気になりにくいです。バンドも肌との接地部にはクッションがついているなど、優しい設計。これまでのフルトラデバイスにどうしてもつきものだった「わざわざ装着している」感が全くありません。
気になる実際の「精度」は?
と、ここまで概要と装着感についてレビューしてきましたが、やはり一番気になるのはその「精度」。実際に使い物になるのか?という点でしょう。結論からいえば、「フルトラの入門デバイスとしては、最有力」だと思います。ここから、実際の使用感について、「良い点」と「改善してほしい点」に分けて、詳しくレビューしていきます。
おすすめできる「良い点」!
まず、精度についてはマルチモーダルセンサー、AIスケルトン補正が効いているのか、2点しか装着していないとは思えないほど良いです。
特に驚いた点が、「腰」の動き。当然、足首のみなので、腰には一切デバイスを付けていないのですが、しっかりと左右に「腰を入れる」ことができるんです。
また、IMUセンサーにありがちな「前かがみになると足が浮く」といったことも全くありませんでした。
特に、「立っている姿勢」に関しては、他の中価格帯トラッカーにも全く引けを取らない精度だと思います。また、意外なポイントとして、IMUセンサーにありがちな「使用していると段々、わずかな誤差が蓄積し、大幅に姿勢が崩れていってしまう、いわゆる「ドリフト」現象も”立ち姿勢の場合は”あまり感じられませんでした。
何気に嬉しいポイントは、キャリブレーションの手軽さ。「VRChat」をプレイ中でも、右手コントローラーからクイックメニューを開き、「PICO Motion Tracker」のウィンドウを開いて、「再キャリブレーション」を押したら、すぐにキャリブレーションがやりなおせます。
さらに、キャリブレーションは「①つま先を前に向けて正面を向く」「②パススルーでトラッカーが映るように、そのまま下を向く」の2ステップのみ。ものの十数秒で完了します。
ちなみに、初期設定もアップデート済みの「PICO4」「PICO4 Ultra」であれば、最初からアプリ欄にある「PICO Motion Tracker」を起動し、ペアリングのためトラッカー本体の上部にあるボタンを長押しするだけ。純正ならではの非常に単純なUIです。
欲を言えば……「改善してほしい点」
とはいえ、さすがに「2点」かつ「1万円台」の製品。何もかもが完璧というわけにはいきません。すでにSNS上でも話題になっている通り、「AIスケルトン補正」がどうやら諸刃の剣のようです。
というのも、この「PICO Motion Tracker」。立っている姿勢には、かなり強みをもっている一方で、「座ったり」「寝転がったり」すると、明確にトラッキングが崩れていってしまうのです。
しかし、このトラッキングが崩れる現象は、IMUセンサー特有の「ドリフト」のズレ方とは異なり、「段々と立ち姿勢に近づいていく」というもの。どうやら、マルチモーダルAIトラッキングアルゴリズムによる姿勢補正が強力に働きすぎているようなのです。
ちなみに、これは環境によって大きく変わるようで、筆者も到着初日、翌日に使用した際は、ゲーミングチェアに座っているはずが、ものの5分程度でどんどんと膝が落ちて、足が伸びて行って、10分もすれば立ち姿勢になっていたり、仰向けに寝転がってみた際にも、同じように10分ほどで身体が直立状態になってしまっていたのですが、4日目ほどにふと同じ姿勢を取ってみたら、5分程度で若干、膝下が落ちていって以降、30分ほど経過しても特に変化がありませんでした。
また、筆者は未検証ですが、実は「実験的機能」として追加トラッカーを腰にも装着し、「3点(全身で6点)」のトラッキングを行うことも可能。腰トラッカーを追加した場合には、上記のような姿勢のズレは大幅に解消されるようです。今後のアップデートに期待したいところですね。
あとは、こちらも仕方ないと言ってしまえばそれまでなのですが、フルトラのフィット感というところで違和感になりそうな点が、「膝のトラッキングの精度」です。当然、両足首しか装着していないので、膝の動きにスケルトンが付いてくること自体、評価すべきポイントなのですが、VRChatユーザーとしてはどうしても気になってしまうところ。
膝の位置は、あくまで推測であるため、実際の位置とは全然ズレているということもままあります。常にズレているわけではなく、付いてくるときは付いてくるので、写真撮影など特定のシチュエーションでは、何度かキャリブレーションをやり直すなどして、対処すると良いでしょう。
はじめてのフルトラには最適? 本格的なものを望むなら要検討
後半部では、辛口な評価もしてしまいましたが、総評として「約1万円」で「このサイズ・装着感」で、「気軽さ」があるのであれば、かなりおすすめできるトラッカーだと言えます。コストパフォーマンスという点でいえば、抜群のクオリティでしょう。特に、すでに「PICO4」を持っている、「PICO4 Ultra」を買う予定があるというVRChatユーザーは、とりあえず手元に置いておくと良い製品だと思います。
普段使いという点に関しては、「座り姿勢」「寝ころび姿勢」のAI補正問題が解決すれば100点満点。そうでなくても、十分使い物になる範囲かなと思います。特に、写真撮影などでポーズを決めたいという場合には、非常にお手軽です。
逆に、「ダンスをしたい」「アクロバットをしたい」「演劇をしたい」など、より繊細な動きが求められるシチュエーションに関しては、他のフルトラ製品が求められるでしょう。本格的な精度を期待するのであれば、「VIVE Tracker(3.0)」や「VIVE Tracker Ultimate」が現状の選択肢の中では有力です。
・【週刊VRChat】「フルトラ」の魅力はアバターへの没入感にあり! HaritoraX・Uni-motion・VIVE Tracker利用者に聞いてみた(PANORA)
・VIVEトラッカー(3.0)・VIVEフェイシャルトラッカーを先行体験 VTuber・アバターの表現がより豊かに!(PANORA)
みなさんもぜひこの機会に「フルトラ」を始めてみてはいかがでしょうか。
(TEXT by アシュトン)
●関連リンク
・PICO Motion Tracker公式ページ