本日10月15日に発売開始となった一体型VRゴーグルの「Meta Quest 3S」。128GBモデルが4万8400円とあって、気になっている方もいるでしょう。
参考までに原稿執筆時点での上位モデル「Meta Quest 3」128GBモデルは正規販売品の在庫が枯渇しており、もっとも安いショップで7万1999円(正規価格は6万9300円)、同じ価格帯の前モデルとも言える「Meta Quest 2」の128GBモデルは4万3353円で購入できます。
価格面でみるとQuest 2より少し高く、Quest 3より2万円以上も安いQuest 3Sですが、これら3機種の性能差はいかほどのものでしょうか。まずはカタログスペックの比較表からご覧ください。
Quest 3S | Quest 3 | Quest 2 | |
チップセット | Qualcomm Snapdragon XR2 Gen 2 | Qualcomm Snapdragon XR2 Gen 2 | Qualcomm Snapdragon XR2 |
メモリー | 8GB | 8GB | 6GB |
ストレージ | フレネルレンズ | パンケーキレンズ | フレネルレンズ |
視野角 | 水平97度/垂直93度 | 水平110度/垂直96度 | 水平97度/垂直93度 |
パネル解像度 | 片目1832×1920ピクセル | 片目2064×2208ピクセル | 片目1832×1920ピクセル |
リフレッシュレート | 120Hz | 120Hz | 120Hz |
IPD調整 | 58~68mm 3段階 | 58~71mm | 58~68mm 3段階 |
パススルー/MR | カラー | カラー | モノクロ |
深度センサー | - | ◯ | - |
コントローラー | Meta Quest Touch Plusコントローラ | Meta Quest Touch Plusコントローラ | Meta Quest 2コントローラ |
イヤホン端子 | - | ◯ | ◯ |
Wi-Fi | Wi-Fi 6E | Wi-Fi 6E | Wi-Fi 6 |
バッテリー容量 | 約5060mAh | 4324mAh | 3640mAh |
重量 | 514g | 515g | 503g |
新製品発売時の価格 | 4万8400円(128GBモデル・299ドル) | 7万4800円(128GBモデル・499ドル) | 3万7180円(64GBモデル・299ドル) |
Quest 3Sを端的に紹介するならば、Quest 3の処理能力とMR/カラービデオパススルー機能をもち、Quest 2のディスプレーパネル&フレネルレンズを備えた廉価版。コントローラもリング状のパーツがないQuest 3と同じものが同梱されます。
細部を見ていくとQuest 3と比較して深度センサーがない、IPD調整が3段階のみといった違いはありますが、実際に使ってみると清く正しい作りの廉価版であり、用途を間違えなければ2024年秋の時点では最高のコストパフォーマンスを実現したスタンドアローンXRヘッドセットです。
VR視野はQuest 2と同等でやや狭め
レンズに映っている映像のスクリーンショットでは視野の広さ・描写範囲が分かりづらいため、主観ですがQuest 3SとQuest 3の視野の差を表してみました。
Quest版VRChatやビートセイバー、YouTube VRで見比べてみると、カタログスペック上の視野角の差がそのまま視界の違いとなっています。またレンズの形状の違いからか、Quest 3S/Quest 2は斜め下の視野がやや狭くなっているのも特徴です。
また周辺視野が滲みやすい傾向があります。Quest 2ゆずりのフレネルレンズの傾向がそのまま出ていますね。
目に入る色域はやや浅めだがコッテリ志向
自分で撮影したデジカメ画像を各機のストレージに保管し、「ファイル」から画像を選択して表示。ウィンドウを最大化したうえで、視野全体に広がる位置からチェックしました。
Quest 3S/Quest 2は全体的に明るく表示されます。表示した画像によっては同心円状の光の輪が見えるため、輝度の明るい色があるとレンズ表面のギザギザ面で光が飽和するのでしょう。
その傾向があってもなお、鮮やかさを感じます。ダイナミックレンジも、YouTube VRやQuest用ゲーム/アプリ、JPEG撮って出しの画像であれば及第点。満足できるものです。使用しているディスプレイパネルの発色のよさを印象付けていますね。
パンケーキレンズを用いたQuest 3で同じ画像を見ると光の飽和がなくなり、黒色がビシッと引き締まって見えてきます。オーディオ評論などで「ヴェールが1枚はがれたような」と表現するアレですアレ。
ただ動画を見たり、ゲームなどで遊んでいるぶんにはその差を忘れてしまったのも事実です。
シャープすぎる描写をなじませてくれるフレネルレンズ
際っ際までシャープな写真となるように現像した画像を映し出すと、ちょっと面白い違いがあることに気が付きました。
Quest 3はもともとシャープな描写を得意とするXRヘッドセットゆえに、高速シャッターゆえの水しぶきのカタチもはっきりくっきりと映し出します。個人的にはちょっとやり過ぎかな、現像で追い込みすぎたかと感じたのですが、Meta Quest 3S/Meta Quest 2は視野の端の滲みがあることで、水しぶきにモーションブラーがかかっているように感じたのです。
もしくは、オールドレンズで撮影したときのアナログ的な柔らかさと称しましょうか。
個人的にこれはアリ。単純な画質比較ではMeta Quest 3のほうが上だと答える方が大半でしょうが、高年齢の方はQuest 3S/Quest 2のふんわりとした描写を求めるかもしれない、という予感もあるからです。
実際にQuest 3よりもQuest 2のほうが眼に優しいから好き、と応えてくれた僕の先輩(60歳代)もいました。フィットネスやバーチャルツーリズム目的でQuestシリーズを購入されるのであれば、Meta Quest 3Sのほうが相性良いかもしれません。
被写体に一点集中したい、お砂糖距離したい方にはMeta Quest 3
「君の眼のなかの★を見せて……?」「その舌ピアスを見せて……?」と、アバターにぐいぐいとにじり寄りたい方には、シャープな描写のQuest 3がいいかもしれません。
視野が狭いQuest 3S/Quest 2は最初からメインとなる被写体をズームアップしているような、近づいているような見え方がすることからのダイナミズムがあるのですが、近づきたい=より高度な情報量を得たい、眼や肌や耳や下の艶やかな描写を余すことなく受け入れたいというお気持ちを満たすには、パンケーキレンズが必須かなと感じますね。
MR/ビデオパススルーはMeta Quest 3SとMeta Quest 2で差がある
MR/ビデオパススルーで比較すると、Quest 2はモノクロかつ背景補正が甘いというだけではなく、Quest 3Sよりも一段と視野角が狭くなることに気が付きました。もしくは、Quest 3Sは高性能化したプロセッサやステレオRGBカメラのおかげで、レンズの性能を引き出せるビデオパススルー性能を手に入れられたと考えてもいいでしょう。
深度センサーを持たないQuest 3Sですが、手を近づけて見ても背景のブレ・滲みは少なく、Quest 3とほとんど変わらない印象があります。
映像以外の機能や装着感などはQuest 3ゆずり
フレネルレンズ&ディスプレーパネルはQuest 2準拠となりますが、その他のハードウェア面はQuest 3と同等です。スピーカーは片側2ユニットが収まっており低音表現も意外に得意ですし、マイクの品質もほとんど変わらない様子。
前述したようにコントローラはMeta Quest 3と同じMeta Quest Touch Plusコントローラが付属します。下側/手前側に重心があるので、ゲームプレイ時に動かしやすいといったメリットがあります。
VRとMR/ビデオパススルーは、側面ダブルタップではなく下部のボタンを押して切り替えます。こういった部分にコストダウンの気配がありますが、映像面以外は同じスペックというのに2万円以上安く仕上げたことには驚きますね。
PC VRという沼にハマらなければ名機となりそうなQuest 3S
まだまだ円が安い2024年秋の時点において、4万8400円という価格でスタンドアローンXRヘッドセットが購入できることは、誰もが拍手で歓迎するべきでしょう。
しかし、しかしです。上位機種のMeta Quest 3とのポテンシャルの差をまざまざと見せつけられるケースもありました。それはPC VR、すなわちSteamVRのゲーム/アプリです。
Quest用のゲーム/アプリは、搭載されるプロセッサーのスペック上、そこまでリッチな表現を追求していません。それが「結局VRゲームの画質ってPS3クラスじゃん」と言われる要因になっているのですが、SteamVRのゲーム/アプリは違う。そして細部まで作り込まれたワールドに、全身フルコーディネートしたアバターが集うVRChatイベントも違う。数十万円のGPUを使ってなおフレームレートが30fpsくらいしか出せない美の祭典を見ると、「やっぱ時代はパンケーキレンズっスよ」と言いたくなってきちゃう。
一眼レフデジカメやミラーレス一眼でセンサーの性能を引き出して美しいものを捉えるには、高精度で高価なレンズが必要となりがちですが、VRの世界でも”美しいもの”を見るのであれば、レンズ性能にこだわったXRヘッドセットが必要になるんだなあ、という気づきがありました。
(TEXT by 武者良太)
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