VTuberの魂はコピーできる? 「AIの遺電子」山田胡瓜ロングインタビュー(その1)

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このところバーチャルYouTuber界隈で話題になっているのが、「キズナアイの分裂」だ。

当初は1人で活動していたアイちゃんだったが、今年6月、動画内で4人に分裂し、最終的に大人っぽいアイちゃん、ゲームが得意なアイちゃん、中国語をしゃべるアイちゃんと別々の人格をインストールしたことで、4つの個性を持ったアイちゃんが並行して活動することとなった。

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しかしその後、キズナアイのYouTubeチャンネルでは、1人目であるアイちゃんはもっぱらオリジナル曲や「歌ってみた」で、中国語をのぞくその他の2人が多くの動画を投稿するようになった。これにファンが「1人目のアイちゃんが引退するのでは」「今まで見てたアイちゃんを見せてほしい」と反発して、今までの騒動につながっている。とりもなおさず、ファンは今まで自分たちが応援してきた最初のアイちゃんの活躍する姿を見たいわけだ。

PANORAでも、ムーブメントが巻き起こる前からいち早くアイちゃん本人にインタビューしたり、VTuberが置かれた特殊さについて語ったトークセッションを記事にしてきた。

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アイちゃんの分裂だけでなく、「ゲーム部」における声優交代も波紋を呼んだ。モーションキャプチャーという技術の低価格化によって多くのプレイヤーが参入し、当初は「キャラクターだからスキャンダルが起こらない」という話もあったVTuber業界だったが、蓋を開けてみれば全然そんなことはない3年間だった。

もっと広い視野でいえば今後、新技術をきっかけにわれわれの生活やエンターテインメントが変化した際にも、何らかのトラブルが起こることが予見される。ここ数年、VTuberだけでなく、「VRChat」などのVRコミュニケーションサービスが台頭してきたこともあり、われわれは好きにデザインした電子の体を手に入れ、そのアバターとしてネットやVR上で生きれるようになってきた。魂を体に簡単にコピーできるようになった時代に、心はその変化に追いつけていけるのだろうか。

そんな漠然とした思いを元に今回、マンガ「AIの遺電子」で知られる山田胡瓜(やまだきゅうり)先生にインタビューを敢行した。

同作は、ヒューマノイドやロボットが日常生活に溶け込んだ近未来を舞台にし、主人公であるヒューマノイド専門医・須堂光を中心に起こるドラマを描いたオムニバス作品だ。続編の「AIの遺電子 RED QUEEN」では、須堂光が母を追う続き物となる。

両作中には、人格を新しい体にコピーできるという設定で、それがゆえに悩みを抱えたり、事件が発生したりするヒューマノイドが登場する。ジャンル的にはSFだが、人の幸せとは何か、愛とは何かと考えるきっかけをつくってくれる作品だ。
折しも「AIの遺電子RED QUEEN」完結となる5巻が8月8日に発売され、一気に読むのにぴったりのタイミングなので、ぜひチェックしてほしい。

VRを題材にした映画「Ready Player One」、ARのアニメ「電脳コイル」、VRAVの漫画「ルサンチマン」、AIとの恋愛映画「her/世界でひとつの彼女」など、SFの作品の中には少しだけ先の日常が提示されていて、実際に実現することもままある。「AIの遺電子」の胡瓜さんは、どんな未来を想像しているのか。「アイ」「愛」「AI」を軸に、ざっくばらんにお話を聞いた。なお、非常に長くなってしまったため、3回に分けて掲載する。

双方向で育てた「魂」は代替できない

 
──……という感じで、キズナアイちゃんの「分裂」だったり、「ゲーム部」の声優交代など、「魂」に関する問題が今、VTuber業界で注目を集めていたりします。まずこの話題を聞いてもいいでしょうか?

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山田 実はVTuberに関してはそんなに追っている方ではなく、一気に注目を集めた2017年末の「のじゃロリおじさん」ぐらいの知識なので、外れたことを言うかもしれませんが……。VTuberはキャラクターといえど、中に人間がいる以上、結局、中の人がつくり出す空気やユーモアも全部含んでの存在になりますよね。

僕が思い出すのはショートアニメの「紙兎ロペ」で、2013年頃に原作者かつ「中の人」だった内山勇士さんが手を引いてから作品の空気感も大きく変わってしまった。それとほぼ一緒というか、中の人を変えてしまったら元の雰囲気が好きだったファンから反発が起こるのは仕方ない話だと思います。

 
──確かに、VTuberでファンが一番喜ぶのって「魂」の素が出たときだったりします。

山田 ファンのみんなも現実ではない、つくられたものが好きなんだけど、どこかでリアルも求めていて、そこにリアルがあると信じさせてくれる瞬間を待っている。だからキャラから急に内側の人間の素が出てきたときに生々しさが出て、みんな喜ぶという。そこが普通のキャラクターとVTuberの一番大きな違いじゃないですかね。

 
──「魂」のその生々しさが代替できないから、声優の交代に批判が出るという。

山田 最初に演者を結びつけた時点で一蓮托生な気がします。ファンはVTuberに中の人らしさを求めていて、それは簡単に取り替えられない。物語として分岐するシチュエーションを作ってあげれば、また印象は変わってくるのかもしれませんが、その理由が現実の理不尽な問題だったりするとファンも受け入れようがないですよね。

それにファンはそのVTuberと動画やTwitterなどでコミュニケーションしてきた結果、今の応援したい気持ちがあるわけです。それが突然別の人格に変わるとなると、やはり別人としか思えないですよね。

 
──そうか。テレビなどの時代、ファンは基本的にタレントやアイドルの発信を一方向でしか受けることしかできなかったけど、双方向性を持つネットが出てきたことで、相手に直接関与できるようになり、それがより強い感情移入を生んでいるという。

山田 ファンの中には、VTuberの人格の何割かは俺たちがつくったみたいな気持ちを持っている人がいるかもしれない。「あのときこういう反響があって、みんなで盛り上がった結果、このVTuberはこういうことをするようになった」みたいな。寄与したことによる物語性があって、それが別の人格になると断ち切られてしまうから、演技で形として真似できても、ちょっとやっぱり違いますよね。

 
──自分が寄与してきたからこそキャラクターへの愛ではなく、VTuberへの「ガチ恋」が目立つという。

山田 「ガチ恋」?

 
──「俺の嫁」からさらに進んで、本当に恋愛対象としてみてしまうという。そういえば「愛は双方向、恋は一方向」という話もありますが、「ガチ愛」とはいわないですね。

「AIの遺伝子」では、パートナーロボットとの疑似恋愛が男女向けともに描かれている。未来では、リアルやバーチャルのタレントがこうしたロボットに「魂」をコピーするようになるのだろうか(上・無印版2巻12話「俺の嫁」、下・無印版5巻49話「ジゴロのジョー」より)©︎山田胡瓜(秋田書店)2016

現実の人間の見た目をスキャンしてパートナーにできるというAR恋愛ゲームの話も登場する。人の振る舞いをするバーチャルの存在と関係性を深めるとどうなるか。その一端を教えてくれる話だ(無印版4巻35話「痛恨の混濁」より)©︎山田胡瓜(秋田書店)2016

 
山田 本当にかわいい、好き、憧れちゃう……という感じなんですかね。映画の「007」シリーズでも、定期的にジェームズ・ボンド役が変わったりして、僕は最初は違和感を持ったりします。一方向の映画ですら違和感があるのに、双方向のVTuberならなおさら違和感が強いと思います。

キズナアイちゃんの「増える」という物語は、もちろん拒否する人はいるでしょうが、最初の人格は残っているわけで、まだ受け入れられる余地はありそうですが。

 
──4人中3人が同じチャンネルで投稿していて、1人目のアイちゃんの動画投稿頻度が下がったのが、問題視されていたります。

山田 4人いるアイちゃんについて、同じキズナアイだと思っている人はぶっちゃけゼロじゃないですか。でも、最初のアイちゃんが決断したことだから、それを尊重してほかのアイちゃんも認めようみたいになっているのだと思います。

「AIの遺電子」でもひとつの人格が複数のヒューマノイドにコピーされて分裂し、置かれた環境の違いで変化していくという話が出てきますが、あくまでも「分岐」であって、ある時点までの人格の同一性は担保されている。キズナアイの分裂はそうでなく、中の人が変わりましたというのが3人増えた。

それをするんだったら「弟がいました」とか「友達の○○君です。彼も今日からVTuberやるので、こいつのチャンネルも見てください」みたいな話でもよさそうですよね。

そうしないのは、やはりVTuberがキャラクターに対する強いこだわりで成り立っているからなんでしょうね。そのキャラの人気を生かすために分裂や交代を選択する。そのこだわりが薄ければ、同じキャラである必然性がないですし、「弟です」で済むわけです。

 
──「おそ松くん」みたいな。もしかしたら今後、分裂した3人も「魂」の素が発見されて、1人目のアイちゃんとは別の愛され方をするかもしれません。

山田 人気の差がついて、それが「バーチャル蠱毒」のように、この人格が一番人気だからこの子に集中して、他の子はシュリンクしていく……みたいなのは嫌ですよね。

 
──それはないとは思いますけどね。同じ顔でも4人が別々のYouTubeチャンネルを持っていたらよかったのかもしれません。しかし、演劇の世界だとダブル主演は受け入れられてますが……。

山田 ただ、演劇の世界だと終わりが決まってて、それが終わったらキャストは違う世界に戻っていく。あるキャラクターを誰かが演じても、それは期限付きだというのが約束事としてある。そのときしか見られない世界だからみんな体験しにいくという。VTuberは漫画の連載みたいに終わりがない。その終わりのなさや、ゆるくなさが、熱狂も、摩擦も、疲弊も生んでいるのかもしれません。

僕はそういう世界にあまりのめり込まない人間だから、のじゃおじさんみたいに、もっとゆるいVTuberに惹かれるタイプですね。のじゃおじさんも、まんま男性の声で「世知辛いのじゃ~」と言っていたりするから、僕でも楽しめる部分があった。

 
──ルックスに惹かれたわけではなく、コンテンツとして面白かったという。

山田 コンビニで「世知辛いのじゃ~」といっているおじさんが、猫耳キャラの見た目というギャップが面白い。そこに「ガチ恋」はまったくないわけです。

今はバーチャルアイドルが中心ですが、そこから先、もしバーチャルタレントを一般に広げたいなら、萌えの文脈とは別視点を持っている存在も必要だと思います。そういうVTuberが増えてくると裾野が広がって、さらにその中間ぐらいのやつが出てくると、またいい感じにバランスするんじゃないかな。

 
(TEXT by Minoru Hirota

 
*その2はこちら

 
 
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