パラレルシンガー・七海うらら「Kiss and Cry」リリース記念1万字インタビュー 彼女を紐解くバックグラウンドと決意の声

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パラレルシンガー・七海うららは11月20日、1stフルアルバム「Kiss and Cry」をリリースした。

2019年よりTikTokで動画投稿をスタート。2021年にエイベックスが実施したオーディションでグランプリに輝き、2022年には同社運営のクリエイターエージェンシー・muchoo(ムチュー)に加入する。YouTubeショートなどで火が付いてチャンネル登録者を増やし、2023年にメジャーデビュー。以来、顔は出さないものの、リアルの体でもステージに立つというリアルとバーチャルを行き来するユニークなスタイルでライブなどの活動を続けている……というシンガーになる。

そんな彼女にとって、2024年は飛躍の年であったはず。3月には2ndワンマンライブ「Parallel Show “Prism”」を東京と大阪で開催。7月からはTVアニメ「未来の黒幕系悪役令嬢モリアーティーの異世界完全犯罪白書」のOPとして「感情革命ロックンロール」を提供した。対外的にも、数々のライブやラジオ番組に呼ばれただけでなく、7月にはフジテレビ「オールスター合唱バトル」に「ミリオン再生合唱団」チームの1人として出演し、他6チームを抑えて優勝したのが印象的だった。

2ndワンマンの様子

そうした流れからのフルアルバムリリースとなるわけだ。タイトルの「Kiss and Cry」は、フィギュアスケートで滑走が終わった後に点数を待つ場所になる。彼女はどんな経緯でアーティスト活動を始めるようになり、このアルバムにどんな想いを込めたのか。約1万字のロングインタビューを行ったので、その魅力をぜひ知ってほしい。


宝塚、アニソン、フィギュア、ニコニコ……多彩な背景

──子供の頃のうららさんはどのようなお子さんでしたか?

七海うらら(以下、七海) 子供の頃から演劇やミュージカルが好きで、フィギュアスケートをやっていたということもあって”音楽に関わるエンタメ”がずっと好きでした。音楽が直接的には関わりがない界隈でも、エンタメというコンテンツとしては通ずる部分があるなと感じていて、歌や音楽がずっと好きというのが共通してるかなと。

 
──例えば映画やドラマなどで子供の頃から好きだった作品があれば教えていただきたいです。

七海 私が好きだった……そうですね……「2.5次元」と呼ばれるジャンルのミュージカルをみていて、「忍たま乱太郎」のミュージカル作品がすごく好きでした。メインはいわゆる子供向け番組だと思うんですけども、成人女性や学生といった方に混じって追いかけてました。ジャンル的には2.5次元系のミュージカルを学生時代からかなり見ていて、あとは宝塚歌劇も当時から見ていました。

 
──そういえばですが、ご出身は関西でしたよね?

七海 そうですね。

 
──なるほど。関西でミュージカルがお好きと言えば、宝塚歌劇団は絶対に外せないですね。

七海 宝塚の劇場にもよく足を運んでいましたし、実際には新人の方を中心にした1日限りの公演とかを見に行ったりしてました。私設の個人ファンクラブみたいなのがあるんですけど、それにも入ってましたね。

 
──そこまでいくとかなりディープにハマっていたのがわかります。

七海 タカラジェンヌの方々にお会いできる「お茶会」というのがあるんですけど、当時マダムな方に紛れてポツンと参加してました(笑)。なので、割とすぐ覚えてもらってたかもしれないですね。「こんなにお若い子も来ていらっしゃるのね」みたいな感じで。

 
──とても微笑ましい絵が目に浮かびます。そういった中で、「歌をやろう」と思ったきっかけはなんだったんでしょう?

七海 いくつかのきっかけがあるんですけど、一つは水樹奈々さんやアニソンの出会いです。テレビでアニメを見ていたのと同時に、「アニソングランプリ」というアニメソングの歌手を目指す人のオーディション番組を見たのがキッカケです。

その当時、番組に出ている人たちがみんな水樹奈々さんの歌を歌っていたんです。自分がいいなと思った人も水樹さんを歌われていたこともあって、「どんな方だろう?」という感じで調べて聞いてみたら、めちゃくちゃいい。しかも自分が好きな作品、「しゅごキャラ!」にも水樹奈々さんが関わっていらっしゃったんですよ。

 
──ほしな歌唄さんの「迷宮バタフライ」とか?

七海 そうです! 他にも「マクロス」シリーズなど歌や音楽が軸になるアニメを自然とよく見ていて、漠然とアニソンシンガーにあこがれていたんです。それが小中のころ。そのあとに「けいおん!」が流行りだしてバンド女子が流行るのを体感もしました。実際に「アニソングランプリ」に応募したことあるんですけど、かすりもしなくて(笑)。それで”夢を追う”というよりかは、高校の部活で自分も軽音やりたいみたいなところから音楽を始めてたって感じですね。

 
──それ以前には、幼い頃からフィギュアスケートをやられていたとお聞きしました。

七海 私は小学生からでフィギュアスケートをやっていましたが、「もうすでに遅いタイミング」という感じでした。「フィギュアスケートでオリンピックを目指す」というのは5歳くらいから始めていないと現実的じゃないと巷でも言われていて、上位に入る子は小さい頃からずっとやっているので追いつけなかった。なので途中でそういった気持ちは妹に託して、音楽のほうに進みましたね。

 
──なるほどです。当時から現在にかけて音楽を聞かれていて、「この人に憧れている」「この人を参考にしている」というミュージシャンやシンガーさんはいますか?

七海 LiSAさんはロックやアニソンどちらにも知れ渡っていて、”ロックな女性シンガー”として力強いし、ソロアーティストとしてライブ映像などを見て研究してます。私自身も初めてライブに立つ前に、LiSAさんのライブを見て少し研究しました、「どんな風に人を惹きつけているんだろう?」みたいな。

 
──なんというか世代がすごく出ていて納得感がすごいです(笑)

七海 「Angel Beats」も放送当時に見ていて、そこからLiSAさんを知ったので、その影響ですね(笑)。あとジャンルは全然違うんですが、ミュージカルで活躍されている新妻聖子さん。個人的に「こんなに歌が上手い人、他にいるのかな」っていうぐらい歌の上手さや表現力がズバ抜けてるなと思っています。

新妻さんのコンサートに足を運んだりミュージカルも見に行くので、実際に生で歌を聞くことがあるんですが、聴いているこちら側の心の震わせ方が尋常じゃなくて,涙がボロッて出るみたいな感動があって、「どうやってこの感動を”声の震わせ”でやってるんだろう」っていう研究みたいに見てます。それにこういう歌を歌えるようになったらどれだけ気持ちいいだろうな」って想像もしちゃいます。お二人が「一人のアーティストとして」という意味合いで、技術面でも参考にしていて、憧れの存在になりますね。

 
──ありがとうございます。七海さんは歌い手さんとしてデビューしたのが2020年頃でしたが、以前から「歌い手」「歌ってみた」というカルチャーはご存知でしたか?

七海 はい、もちろんです。

 
──ということは、ニコニコ動画で動画投稿してみたこともあったり?

七海 そうですね。いちユーザーとして、パソコンにマイク直挿して録音・投稿してみたこととかありましたよ。今でこそ考えられないですけど、ゲジゲジの音質で音源を上げたりとかを遊びでやっていたんですよ(笑)。あとは当時だと、ニコニコ動画とか以外にも声だけを投稿するアプリとかもあって……。

 
──「koebu」だったり?

七海 あとは「nana」とかですね。そういうアプリを使ってアカペラで歌って投稿するみたいな感じでした。中学生や高校生くらいの頃にちょっと遊びでやってて、仲良い親戚もニコニコ動画とかを知っている子だったので、そういったボカロ好きとかの知り合いとか、友達とかと聞くためだけに共有して楽しんでました。

 
──アニメ、アニソン、ミュージカル、フィギュアスケート、ニコニコ動画に動画投稿。なんというか、聞けば聞くほどバックグラウンドの多彩さを感じます。

七海 色々なことに興味がありつつ、自分が表に立つというよりかは真似事をしてたって感じですね。

 
──でも多分ですが、同世代の人でそういう方多分多いんじゃないかなと思うんですけど。

七海 同世代とこういう話をしても「分かる分かる」と言ってもらえることは確かに多いですよ。歌声を投稿したりとかニコニコ動画とかで配信していたという経験や感覚がいろいろあって、いまに繋がっているなと思います。やっぱ当時のニコニコ動画、いわゆる米津さん……ハチさんたちがバーって出てた頃は、ハチさんをもうめちゃめちゃ尊敬していて、本当に神様みたいに見えていました。

そんなハチさんがいま日本を代表するアーティストになっているのを見てると、「自分たちの畑の人が輝いてる!嬉しい!」みたいな感覚にはなりますね。Adoさんとかももちろんそうです。

 
──HoneyWorksさんがお好きというのも含めて、ボカロPが全般的にお好き?

七海 ボカロPは、それこそ推しとかっていうものではないですね。特に自分がカバーをするという立場になって、やっぱり原作者へのリスペクトが生まれたという感じです。なので、おのずと好きにはなりますし、曲は聴くんですけど、ファンというよりかはリスペクトが近いです。

 
──ありがとうございます。今後自分の活動の中で、コラボしてみたいミュージシャンの方とか作曲家の方っていらっしゃいますか?

七海 やっぱりHoneyWorksさんとご一緒できるようになるのは夢なので、こうしてデビューする前からずっと言ってます。例えばフィーチャリングだったりとか、歌い手さんとかが起用されていることが多いので、自分もその一人になれたらいいなっていうふうに夢を見ています。

作曲家さんといえば、オーイシマサヨシさんは楽曲も聴いているし、提供曲もすごく大好きです。オーイシさんご自身の作風や色がすごくて、自分も歌っていて実家のような安心感があるというか、ここに住みたいと思うぐらいあの安心感があるんです。いつか叶えたいなっていうふうには思ってます。


残された時間、「後悔しないようにする」

──ヘビーな話になるんですけど、七海さんは学生時代に脳腫瘍を発症し、OL時代には乳がんと診断されるなど、20歳前後の若さで大きな病気を2つ患ってしまった過去があります。すごくネガティブな感情になったことは理解しつつ、そこからどういう心の持ちようがあって、ポジティブな方向へと持っていったのか聞きたいんですけども、いかがでしょう?

七海 そうですね……当時のことを思い出すのは今でも辛いことです。要は自分の体の状態、病気についてあんまり分かっていない、「自分の病状がどれほどのものか?」「余命があるのか」といったところが分からない状態が一番怖いんです。

そこから治療だったり方針が進んでいくにつれて、どういうふうに回復していくかみたいなビジョンが明確に見えだしたとき、初めて光が見えたかなというふうに思ってます。なので「知らないこと」が一番不安なことです。

それでも、いざ「ガンです」と言われたときの、「もう死が見えてしまった」みたいな時の絶望感みたいなのは、患った方にしかわからない……ちょっとわからない感覚なんじゃないかなと思います。

あの経験があったことで「結局残された時間で何やるか?」「自分が後悔しないようにする」と感じるようになりました。もしかするとちょっと生き急いでるように見えるかもしれないんですけど、でもやっぱりこう……「今できることを全部全力でやる」というのが、あのタイミングから残された時間で自分が一番すべきことだとも思っているので。

ポジティブな方向へ心を持っていけたのは、自分が治った後のことを想像して闘病するというのを考えていたからだと思います。イマジネーションや想像力とかでポジティブに回復力にブーストがかかるみたいなのは、私はきっとあると思っていて。治った後の自分の未来を想像する、新しい自分を想像して前に進むしかないのかなと思います。

 
──難しいご質問にお答えいただきありがとうございます。そこからTikTokから「歌ってみた動画」を投稿して本格的に活動をスタートしましたけど、YouTubeやニコニコ動画もある中で、TikTokから始められたのはなぜなんでしょう。

七海 実は戦略的に考えたうえでTikTokを選んだというわけではないんです。2020年当時はYouTubeなどにショート動画が実装されていない時期で、縦型で収録できて、スマートフォンでパッと撮ってパッと上げられる、いってしまえば機材がなにも揃っていない状態からスマホ一つでできるのもあって、TikTokが一番ハードルが低かったんです。

 
──そこは結構、現実路線でTikTokを選ばれたって感じなんですね。

七海 ちょうどTikTokをみんなやりだしたっていうタイミングだったので、「じゃあ自分もこikTokに投稿してみようかな」みたいな感覚と近いですね。

 
──そのあと2021年に、楽曲コンテスト「こはならむ『迷えるヒツジ』楽曲カバー選手権」に応募して優勝しました。

七海 この時私は自分のオリジナル曲をまだ持っていなくて、ボカロPさんに依頼するルートもあんまり分かっていなかったし、「どうしたら自分のオリジナル楽曲を作れるんだろう?」となっていた頃なんです。そんなときにらむちゃんのコンテストをみたら優勝特典がオリジナル楽曲を1曲提供というもので、すごく魅力的に感じて応募しました。

実はああいった楽曲コンテストもかなりみていて、同じ主催者さんによる前回のコンテストを知ってたんです。その頃、ちょっとでもいいから自分の歌を聴いてもらえるきっかけをずっと探していたんです。当時はSNSのフォロワーも全然いなかったので、「多くの人に拡散してもらう」というのが現実的ではなくて、「友達同士で聞き合う」ところで終わっちゃってたんです。

こうして盛り上がっているコンテストなら、私の歌をちゃんと聞いてくれる人が増えるかもと思いましたし、私を知らない人にちょっとでも届け!という思いでやっていました。


自分で作詞した曲を歌うから「そのまま届けられるように感じる」

──ここから音楽活動についてご質問したいんですけど、これまで歌ってきたオリジナル楽曲の中で一番のお気に入りの楽曲は何でしょう。

七海 今回アルバムを出したことによってちょっと更新されたかもなっていうのがあって。今までは「Seventh Heaven」だったんですけれど、今回アルバムを出したことで「Kiss and Cry」になったなと思います。なんというか、自分にとっての人生の歌になったかもしれないなと。

 
──「Kiss and Cry」は作詞が七海さん、作曲は佐藤厚仁さんでしたが、どういった制作でしたか?

七海 この曲は曲先で制作が進んでいて、すでに仮の歌詞が入っていた状態から私が歌詞を実制作するという流れでした。今回はこの曲で「私が歌詞を入れたい」「作詞に挑戦してみたい」と立候補したんです。

 
──このアルバムは14曲収録されていて、七海さんが歌詞を担当されてる楽曲が5曲あります。作詞するのはほぼ初めてかと思うんですけど、どうでしたか?

七海 今まで自分はいろんな歌に触れてきているし、「歌」「曲」への理解とかはずっと深めていると思うんですけど、いざ自分が作るってなるとあまりにも難しすぎました。しかも時間をかければできるものでもなく、「ひねり出す」という作業が必要で、締め切りがある中で答えのないものを探すのってすごく難しいなと思いました。

今までも作家さんであったりアーティストさんの提供をしていただいた曲は、「私の人生」「さまざまな葛藤」とかをお伝えしたうえで楽曲を制作していただいてて、今までの提供楽曲にも私のエッセンスがふんだんに振りかけられています。

ただやっぱり自分の言葉で書いた曲だと、より伝わりやすい言葉で、より真っ直ぐに気持ちを伝えられるなと思います。

 
──アルバム発表後に何度かライブをしていますが、「自分が作った言葉や歌詞をみんなにぶつけていく」というような形が歌っている中で生まれると思うんですけど、どうでしょう?

七海 なんというんでしょうね。前段階として、いわゆる「歌詞を覚える」というのがなくて、歌うときにも不思議とでてくる感じなんですよ。

 
──そのままドーンッ!と出てくるみたいな?

七海 自分の言葉で書いているからですかね? 自分の中から言葉がでてくるみたいな感じですね。普段歌っているときはいろんなことを考えながら歌っているんです。こういう声のニュアンスでこの言葉を届けようとか、次の歌詞忘れないようにしなきゃなとか、そういったことを考えながら歌ってて。

そうして考えながら歌っている中でひとつ分、しかもとても大事なところを気にしないで歌えている感覚はあります。しかもそのままお客さんに届いているようにも感じられるんです。私側からはわからないですけど、きっと感じられ方も違うんだろうなっていうのは想像しています。

 
──先ほどのお話から感じられた多彩なバックグラウンドが音楽として現れてるアルバムだと感じます。アニソンっぽいものもあれば、クラブミュージックライクなやってる曲もあり、演劇やミュージカルっぽい曲もいくつかある。王道なバラードで真摯に歌う曲もあり、最後は田淵智也さんによる「Seventh Heaven」で締める。七海うららご本人らしさみたいなものがちゃんと出されてる。

七海 アルバムを出すという話をスタッフさんと決めたとき、「七海うららの集大成・総決算」といった1枚にしようという話があったんです。ちゃんと伝わっているのがわかると、やはり嬉しいですね。

 
──アルバムのなかに「リバースラバーズ」という曲があって、七海さんと宮嶋淳子さんのお2人で歌詞を作られた曲なんですが、この曲がHoneyWorksリスペクトな色合いがかなり出ているなという1曲だと思ったんです。そもそも、どうしてこういった学園モノショートドラマのような歌詞にしようと思ったんですか?

七海 あの曲を書いたきっかけがあるんです。自分は妄想や裏テーマとして、「この曲がマンガの主題歌だったら?」「あの作品の主題歌だったら?」というifストーリーで曲の歌詞を書くことが結構あるんです。例えば「Kiss and Cry」だと、自分の人生を作品にみたててオープニング主題歌を作るならこんな感じで……という風に書いてみるみたいな。

「リバースラバーズ」はそういう制作とは違って、自分が好きな漫画を読んだりした時に感じた”胸キュン”なときめきを、同じように感じさせられないか?と思って作ったんです。

表には感情は出さないんだけど心の中では超ドキドキしてるというか、モノローグではめっちゃ喋るのに一見クールぶってるみたいな、そういったタイプの女の子が出てくる漫画とかがすごく好きだったし、そういったものを自分のエッセンスも含めて曲にできたら楽しいだろうなと思って歌詞を書き始めました。

 
──この曲の前には「パラレル☆ショータイム」もあるじゃないですか? この2曲を聞いていて「キャラクターを演じる」「演技をする」みたいなところに抵抗がない方なんだと思いましたが、その辺はいかがでしょう?

七海 もともとオーディションを受けていた頃があると話したじゃないですか? もちろんアニメ作品やアニソンも好きだったので、いわゆる声のお仕事をずっとしたかったんです。ガンなどの闘病が終わって落ち着いた時期に、思い切って声優の学校に入ってみたんです。

そこでお芝居の勉強は1年以上がっつりやっていて、基礎練習や発声練習もそうですし、お芝居のなかでの表情や抑揚のつけ方といったところを学んでいて、それがいまに生きているんだなぁと思いました。

 
──自分は結構驚きました。普通のボーカリストさんだと絶対こうしないよなという歌い方があったり。

七海 キャラソンっぽいですよね。

 
──そう。コミカルな部分が思い切って打ち出せる感じになっていて、普通のシンガーさんじゃない引き出しをちゃんとお持ちの方だとも感じました。

七海 ありがとうございます。

 
──最後にアルバムについて。アルバムジャケットの中で一部とはいえ顔出しをされているじゃないですか? ご自身の中でどういう風な判断でこのジャケットにしようと思ったのかというのをお聞きしたいです。

七海 自分と今二人三脚でいつも専属のように対応してくださっているデザイナーさんとカメラマンさんがいらっしゃって、ワンチームでこれまでいろんな撮影をしてきました。そのチーム自体もデビューしてからもう何年もの付き合いでずっとお世話になっていて、打ち合わせとかもすごくしやすくて、自分の気持ちとか本心をすごく伝えやすいし、意思疎通も取りやすいメンバーなんです。

自分は今回の作品で自分自身を広げていきたいし、フェーズをもっとステップアップしていきたいという気持ちで臨んでいて、バーチャルというカルチャーに囚われないで活動していくという決意の現れとしてご相談させてもらって、撮影してもらったんですよね。

 
──なるほど。

七海 なんですかね……見えない範囲が多ければ多いほどメディアにも出にくいというか、自分が活動できる範囲も狭くなっちゃうのかな?という風に思えるところもあって。「自分がリアルな姿で出たい」「でも顔は出したくない」「くわえてテレビには出たい」とか結構わがままなことを言っている自覚もあります。

ただ自分の活動の裏テーマとして「今ここまでできるんだ」というアピールと、「ここまで表現方法を広げています」という部分は意識しています。

私の活動自体、会社員をやりながら趣味からのスタートで、インターネットに自分の顔を上げながらも普段の生活していました。そこにどんなリスクがはらんでいるか?、どんな誹謗中傷が飛んでくるか?というのもある程度予想ができるところでした。

そういったコンプレックスや不安を持ちながら、どういった活動をしていくか?という選択肢は今は一杯あると思うし、その中で私は「リアルとバーチャル」を選んでいる。その表現自体も、私がどこまでさらけ出せるかという自分の判断で変わり得るかなと思っていますし、今回はこのアルバムジャケットが答えになっているかなとも思います。

タワーレコードで行われた「Kiss and Cry」リリース記念イベントの様子


「年末に忙しいアーティストになりたい」

──これまでの活動を振り返ってみて、思い出深い出来事はありますか?

七海 今年でいうと、アニメソングの主題歌を担当できたというのは大きな一歩だったかなと思いますし、今後のステップにつながる一歩なのかなと。私の作品の中で、大ヒットと言われたりとか日本中のみんなが知ってるみたいな曲はまだ出ていない。

ファンの方が愛してくださったものが世間に広がるまではきっとタイムラグがあると思いますし、そこは運もあると思います。すごくいいものはあげ続けている自覚はあるんですけれども、いろんな悔しさを今年1年で経験してきて、ファンの輪の中でとどまらない未来を見たいですね。

 
──今年は、まずソロアルバムのリリースがあり、セカンドソロライブ「Prism」を開催して、フジテレビの「オールスター合唱バトル」にもご出演もなされた。その後には「MINAMI WHEEL」に出演されて会場を盛り上げた。ニッポン放送ラジオ番組の「七海うららのパラレルーム」もスタートしましたし、2023年には「世にも奇妙な物語」にもご出演なされたじゃないですか?

七海 はい、そうですね。

 
──もしかしてですけど、達成感は実はあまりない?

七海 うーん、焦りや悔しいという気持ちが普段から大きい方なのですけど、人と比べちゃったりとか、やっぱり劣等感みたいなのを感じながら活動をしているんです。

実際自分が目標としている場所であったりとか、周りの人がすごい活躍しているのを見るとどうしたって焦っちゃいます。「このステージに立ちたい」「このテレビに出たい」「いろいろ音楽番組に出たい」と思っていても、それだけではできない。メジャーシーンに出て、初めて茨の道というものの大きさを感じてもいます。

 
──ここまで1年半近く活動されて、「よし!ある程度やりきった!」達成を感じてもおかしくないと思うんですけど、悔しさが先に出るんですね。

七海 そうですね。なので逆に、ステージに立って直接お客様の顔を見て歌っているときに、「やっと自分の夢や願いが叶えられている」と感じてます。

「MINAMI WHEEL」のステージとかもまさにそうなんですけど、足を運んでくださっている方のなかにも、全然知らないけど来てみたという人もいれば、北海道から実際来てくださっているファン、加えて海外とかからも足を運んでくださっている方もいたんです。自分のステージの30分のためにですよ?

そうやってライブに来た人が直接熱量を感じて嬉しそうな顔が見れたときに、「自分で一人でやってきたネット発の活動で、ここまでの人が足を運ぶほどになっているんだ」って思えて、なんか結構グッときたんです。

しかもライブの最後に「Seventh Heaven」を歌ったとき、後ろの方で手を組んでた人たちが手を上げ始めてたんです、それまで腕組んでジィ―っと見ていた観客たちが。

 
──会心のライブじゃないですか。

七海 本当にもう……ドラマのワンシーンみたいな光景が広がってて、なんかここが答えだなと思えましたね。音楽活動のやりたいことが発揮できている、そして自分の歌が通用するんだ!みたいな思いになりました。

自分のアルバムが色々なアーティストさんとCDを競っているのも見ていて、「うらんちゅ」(七海うららのファンネーム)の方々の高い熱量によるものだと思ってますし、こうやって輪を広がっていくんだなというのも、すでに感じ始めています。

あとは本当に、自分の曲を遠くまで届けるだけだ!という気持ちです。どの層に聴かれても恥ずかしくない、胸を張ってお勧めできる曲がたくさんあるので、J-POPシーンに切り込んでいきたいし、もっと上のステージを目指したいというのは思います。

 
──そういった中で、2025年の目標は何でしょう?

七海 年末に忙しいアーティストになることです。2025年の12月、要は今から1年後の冬に向けてを考えています。「紅白歌合戦」や「FNS歌謡祭」「カウントダウンTV」といったテレビ番組は難しいかもしれないですが、「COUNTDOWN JAPAN」のような音楽フェスに出演したり……「自分がこの1年を締めるにふさわしいアーティストになりたい」というのが目標かなと。

 
──なるほど。音楽番組というのは一足飛びなイメージがありますが、年末に音楽イベントに出演して年を締めるライブを見せるというのは、ありえなくもないのかなと自分は感じました。

七海 叶えたいですね。そのためにはいろいろやらなきゃいけないこともあります。たとえばヒット曲を出したいというのもその一つ。ですので、2025年の目標というよりももう少し長く、年単位でいうとっていうところともいえますね。

 
──最後に、今の七海さんにとってVTuberやバーチャルシンガーはどういう存在に見えているかをお聞きしたいです。

七海 私にとっては……なんだろう? 表現方法の一つというイメージです。前に「バーチャル」という言葉の語源を調べたことがあって、「実質」とかいう意味だったんですよ。「仮想空間」みたいなイメージが一番にあったんですけどね。

そういう話題が出たときに調べてて、「その結局人間の体だってアバターじゃん」みたいなことを書いてる人がいたんです。例えば芸能人の方とかも、別に私生活の同じまま出てるわけじゃなくて、芸能人の〇〇さんという芸名がアバターの代わりとなっていて、メディアに立つ自分としての芸名かつアバターになってると。

 
──今の「バーチャル」と言われてるものって、「自分のルックスや事物をアニメーション化する」という意味合いとほぼ同義になっていて、今後どんどん広まっていくんだろうなって思っています。すごく極端な話をしますけど、木村拓哉さんがあと2年後にアニメルックになって、どっちも使って芸能活動をするみたいなことがナチュラルなことになっていくんじゃないのかなって。

七海 「ぶいごま」(編集註:後藤真希のVTuberの姿)さんがまさにそうですね。

 
──ぶいごまさんがまさにそう。彼女だからできることだなと思うんですけど、どういうふうに広がっていくのか、需要されていくのかっていうのを考えています。七海うららさんは、結構そこにかなり近いポジションに僕はいると思っていますが、その辺の意識はどうでしょうか。

七海 「顔を出さない」っていうところだけで言うと、バーチャルじゃなくてもできますよね。Adoさんや「ずっと真夜中でいいのに。」のACAねさん、ヨルシカのお2人にコレサワさん……。いろんなアーティストさんが今「顔出しNGのアーティスト」とも言われたりしますよね。

 
──少し前だとClariSのメンバーが顔出さずに活動してきました。

七海 そうですよね。実際にバーチャルの人ではないながらも、「お顔を見せない」状態で活動されている方がたくさんいらっしゃる。そういった流れの中で私は”あえて”バーチャルの姿・アバターを選んでいるというところがあります。

根底にあるのは「いろんな場所で聴いてもらいたい」という思いで、聴くフィールドを留めないように考えてます。バーチャルのオンラインライブでも聴いてもらいたいし、リアルの現場でも聴いてもらいたいしっていう、なんかどっちも欲張りなんですけど(笑)、どちらも選択肢を提示もしていきたい。アーティストやタレントのあり方のひとつに、なっていければと思います。

 
──スタイルというかスタンスですよね。

七海 そうですね。表現方法のひとつとしてバーチャルの姿があるという。私たちには実際の音楽アーティストと何ら変わらない魅力があるし、私たちにしかない魅力もありますし、長く愛されるスタイルになっていけばいいなと思っています。

(TEXT by 草野虹


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