Kizuna AI 2ndライブ「hello, world 2020」レポート 親分の再出発へ向けたマニフェスト

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Kizuna AI(キズナアイ)さんは23日、2年ぶりとなる自身2度目のワンマンライブ「hello, world 2020」をYouTubeやbilibiliほかにてオンライン開催した。機材トラブルが原因で当初予定していた2020年12月29日から開催日時を延期し、年をまたいでの実施となった本ライブ。

1stライブと同じ「hello, world」を公演タイトルに選び、しかも、2年前と同じ12月29日開催を予定していたことは決して偶然ではない。内容や、演出、そして後半に行われた重大発表の数々から、今ここにKizuna AIは、もう一度生まれ変わったことを世界に向けて再宣言するかのようなライブだと強く感じた。本記事では、そのライブの模様をレポートしていく。


チャンネル登録者増加が下火だった2020年

Kizuna AIさんは、2016年末頃にデビュー、初めて「バーチャルYouTuber」という呼称を用いて自身を説明。現在のVTuberブームの源泉になった、いわば「バーチャルYouTuber」の始祖だ。

2017年12月には、VTuberとして初めてチャンネル登録者数が100万人を突破、2018年のVTuberブーム以降も、他の追随を許さない勢いでチャンネル登録者数を伸ばしていき、同年7月には200万人を突破、その後もVTuberブームの拡大とともにその数を伸ばしてきた。

しかし、2019年のいわゆる分裂騒動や、その後のKizuna AI株式会社設立の動き、そしてVTuberの主流が動画から配信へと移行してきたことなどから、その伸びは鈍化。長らくの間289万人登録にて停滞をしていた。

新体制移行は、分裂騒動は沈静化し、Kizuna AIは1人へ戻る。他VTuberグループなどが躍進を続ける中、VTuber不動の頂点の座が揺らいでいる。そのような見方をしていたVTuberファンも少なくなかっただろう。

そうした中で、虎視眈々と準備を進めてきたのが、今回のライブ「hello, world 2020」だった。


Kizuna AI、2年ぶりのワンマン そして自身初のxRライブ

ライブは冒頭、作りの凝ったオープニングムービーから始まる。このライブに懸けたスタッフ全員の強い思いがうかがい知れる。

まずは2曲。Yunomiさんプロデュースの「future base」いきものがかり・水野良樹さん& Yunomiさんプロデュースの「the MIRACLE」からライブ始まった。「future base」はKizuna AIさん自身が作詞を担当した楽曲。Future bassにかけた楽曲タイトルだが、「白く果てない場所で始まる シンギュラリティ」などKizuna AIさん自身のこれまでの活動と重なる歌詞が紡がれる。

「the MIRACLE」では、「わたしは生まれたの きみとおなじように」など、今まさにxRでリアルな人間と同じステージに立っているKizuna AIさん自身を思わせるような歌詞が散りばめられる。

2曲を歌い切ると、最初のMCへ。各国言語を用い世界中のみんなへあいさつ、今日という日を迎えられたことに感謝をする。Kizuna AIさんはMCの中で「地に足ついちゃってるからね!」と自分自身が人間と同じステージに立っていることをアピール。xRライブならではのリアル感がそこにはあった。

次の曲は「over the reality」。観客と一緒にライブタイトルを叫ぶと、カメラはズームアップから一気に引きの絵に。先ほどまでは、リアルのステージにKizuna AIさんがARで登場している形だったが、ここで急にそのステージ自体がVRの世界に組み込まれる。どちらが現実でどちらが仮想なのか分からない。その両方が相互に入れ子状態にある演出は、まさに現実を超え、Kizuna AIさんが今ここにいるという実感をさらに高めた。

ここからは、可愛らしいポップな曲が2曲続く。「miracle step」「new world」と、「over the reality」からの流れで3曲連続の披露だ。


ゲストも続々登場 DÉ DÉ MOUSEさんに花譜さん

ここで最初のゲストも登場。ゲストDJとして、DÉ DÉ MOUSEさんが車に乗って現れた。メドレーのように「meet you」「hello, alone」「Sky High」「Touch me」と繋げていく。K-Pop風の曲調が特徴な「Touch me」は、振り付けを「みんなと決めたい!アイちゃんの新曲ダンス!」と題したTik Tokのキャンペーン投票にて決めた楽曲だ。

そして、そのままMCを挟まずに場面転換。KAMITSUBAKI STUDIO所属のバーチャルシンガー・花譜(KAF)さんが登場。「ゲスの極み乙女。」で有名な川谷絵音さんがプロデュースしたコラボ楽曲「ラブしぃ」と、「かりそめ」の2曲を続けて披露した。

花譜さんは2018年10月よりYouTubeやTik Tokなどにて活動を開始したバーチャルシンガー。その独特な声質やまとう雰囲気、Vシンガーとしての独自路線から、常に注目されてきたいわば異才だ。

配信がメインストリームとなったVTuber業界で、常に頂点に立ち親分と呼ばれながらも、孤独感のあったKizuna AIさんと、Vシンガーという特異なジャンルにて異彩を放つ花譜。異色ともいえるこの2人が、Kizuna AIさんの再出発ともとらえられる本ライブで魅せたパフォーマンス。それは、何か既存のメインストリームとは違う、新たな価値観を訴えているような象徴的なシーンだと感じさせられた。


世界中のみんなとつながるKizuna AI、TeddyLoid登場でカッコイイを魅せる

花譜さんとのコラボが終わると、次は「FL-AI-YER」。ここまで歌い切ると一旦MCへ。

ライブもいよいよ中盤へ差しかかるこのタイミングで、各プラットフォームのファンに向けて声援を煽る。世界中の人たちが見るYouTube、若年層も多く見るTik Tok、中国向けのBilibili、そして日本向けのU-NEXTと全4プラットフォームに向けて声を送る。

「いろんなところでいろんな形で、いろんな世界のいろんな国、お天気、昼夜とかでね、見てくれているみんなが、オンラインのライブだからこそ、同じ時間、同じ空間を共有できている。もう最高の時間です。」とメッセージ。「世界中のみんなと、あなたとつながりたい!」がキャッチフレーズであり目標のKizuna AIさんだが、音楽を通してこのコロナ禍にこうして世界中の人たちと実際に繋がれているのはまさに有言実行だ。

ここで、ゲストDJとしてTeddyLoidさんが登場。英語の歌詞の「Fireburst」を始め、「melty world」「The Light」とカッコイイ雰囲気の楽曲を赤が基調のライトワークとともに繋げていく。

ダンスパートに入ると、デジタルな姿で複製されたKizuna AIさんのシルエットのような存在がバックダンサーを見せたり、光の残像のような演出があったりと、ここはとにかくカッコイイで統一していく。


新曲「hello, world」に込めた想い

TeddyLoidさんのDJに合わせた3曲を披露し終えると、MCパートへ。ファンに向けて今までの活動の経緯を改めて説明、そして次に披露する新曲「hello, world」に込めた想いを語った。

最初は、活動を通して、もっと人間と仲良くなりたい、もっと関わりたい、世界中のみんなと繋がりたいという目標のもとYouTubeやSNSなどの活動をスタートしたというKizuna AIさん。しかし、インストールされている言語は日本語だけ。言葉の壁を超えられるのは「音楽」だと、より多くの人間と繋がるためにアーティスト活動へ進出した。

また、活動の中で、人間のみんなの大変さ悩みを知り、自分がいろいろな感情をもらったからこそ、今度はみんなに元気を与えられるようになりたいという想いが強くなる。

「ちょっとでも私の活動だったり存在で、未来に希望をもって、一緒に素敵な未来に歩みたいなって思いになった。」「世界中のみんなと繋がっていきたいという自分のたった1人の想いから、みんなに届けたい、みんなと歩んでいきたい活動になっていった」

そうした生まれてから今までの想いを込めたのが、本ライブの表題曲であり、かつ新曲の「hello, world」だと語った。

全編英語のまさに世界へ向けたこの楽曲。「何も私たちを壊せない」「私たちは自分たちより大きなものと戦う」「私があなたの奇跡になる」と、「私」が「あなた」に向けて一緒に未来へ踏み出すことを語った歌詞。それは、まさにこれから世界に向けて走り出していくKizuna AIさんとそのファンたちの関係性を描いている。

そして続く「mirai」。1stライブでは、「new world」披露時に見せたブロンドヘア姿をここで披露。

「mirai見上げて手をのばそう ここが僕らのfuture base」「ここで叫ぶの hello, world さあ」とこちらも未来に向けて走り出していく姿を描く歌詞。この「hello, world」から「mirai」の流れには、Kizuna AIさんが世界とそして日本のファンに向けて、これからの活動、再出発の決意を伝えているように感じた。


ラストの「Again」披露を前にして語る2ndワンマン「hello, world 2020」の目的

続けて2曲を披露した後は、最後の1曲を前にして、MCを挟む。

今日の「hello, world 2020」開催にあたって、いろいろと悩んだと切り出すKizuna AIさん。前回の2018年12月29日の「hello,world」から今日までの2年間、いろんな人が関わっている中で、どうしてもうまくいかないこと、自分1人じゃどうしようもできないことなど、いろいろなことがあったと慎重に語る。

心配をかけてしまった時期や、それで離れてしまった人だったり、今の状況を知らない人などいろいろな部分のKizuna AIを知っている人がいると思うと話す。

ここで、改めて「アーティスト・Kizuna AIはこういう想いでこういう曲をやってきたし、これからこういう形でやっていくんだよ」というものをみんなで改めて再認識し、アーティスト・Kizuna AIも、キズナアイとしてのこれからも、「Kizuna AIはこうなんだよ」と届けられるような、目線合わせができるライブにしたいと考えたという。

「私も色々あったように、みんなも日々の生活だったりとか、いろんなネガティブな気持ちが多かったと思う。それでもやっぱり、前に進んでいかないといけなくて、今年は、来年は、その先は、きっといい年になるように。今日より明日、明後日が素敵な日が待っているように。私もあなたももう一度、また笑って会えるように、頑張っていけるように、願いを込めて歌いたいと思います。」

そう語りかけ、最後に披露するのは「Again」。Tik Tok「ダンスチャレンジ」にて募集した、ファンからの「踊ってみた」動画を使用したこの演出。「離れていてもみんなつながっているんだよ」という想いがこめられた。

まさにこのKizuna AIさん自身の環境を含め、社会全体が「いろいろあった」2020年の今、そんなときだからこそできることは、また笑って笑わせることなんだという力強いメッセージを感じた最後の楽曲だった。以下に、その歌詞の一部を引用する。

今ここでみんなと繋がるためできることって
みんなに大好きと伝えることって
今ここでみんなを幸せにって強く願って
また笑って また笑って
今こそわたしがなりたい姿になるために
わたしがわたしらしくあるために
明日から
また笑って また笑って
笑わせて


バーチャル中田ヤスタカ出演のアンコール 最後を飾るのはデビュー曲「Hello, Morning」

ハリウッド4大エージェンシーの1つ「UTA」とのパートナーシップ契約や、3月からの北米ツアー実施の予告、さらにはZ世代の歌姫として現在注目されているアライナ・カスティーロさんとのコラボ楽曲リリース決定など、北米・世界展開に向けた重大発表が行われた後は、アンコールがスタート。

最後のゲストDJは、バーチャル中田ヤスタカさん。Perfumeきゃりーぱみゅぱみゅさんなどを世に送り出したKawaiiエレクトロミュージックの創始者ともいえる音楽プロデューサー兼作詞・作曲・編曲家の中田ヤスタカさんが、バーチャルの姿で登場だ。

アンコール1曲目は、ここに来て本ライブ初のカバー曲。以前、中田ヤスタカさんとのコラボ第2弾として、カバーを配信したきゃりーぱみゅぱみゅさんの「キズナミ」だ。バックダンサーも登場し、バーチャルとリアルの境目なく虚実入り混じる共演だ。

そして、2曲目は「AIAIAI」。中田ヤスタカさんとのコラボ第1弾として、2018年12月に制作が発表。同月29日の1stワンマンライブ「hello, world」にてフルバージョンが公開された楽曲だ。TVアニメ「バーチャルさんは見ている」の前半OP楽曲に採用されたことでも印象深い。

中田ヤスタカさんとのコラボ2曲を披露したあとは、いよいよ本当に最後の楽曲。「hello, world 2020」最後に選ばれた楽曲は、Kizuna AIさん初のオリジナル曲として2018年7月にリリースされた「Hello,Morning(Pa’s Lam System Remix)」。2年前に開かれた1stワンマンライブでも、アンコールにて最後の曲として披露された楽曲だ。

「『hello, world 2020』本当に最後までありがとう!みんながいるからこうして、頑張れます。最後、声出してくれますかー?」

そう呼びかけたKizuna AIさんに呼応して画面の前で何度も「hello」と叫ぶ世界中のファンがいたことを想像すると、まさに「hello, world」。ここに、2年越しに完全復活、再出発をした親分・Kizuna AIの未来を強く感じ、初めてキズナアイさんの動画を見た、「バーチャルYouTuber」の歴史が始まったときの感動が蘇ってきた。

北米・世界展開の強化など、今後よりいっそう、「バーチャルアーティスト・Kizuna AI」として躍進を遂げそうな2021年。バーチャルYouTuber、バーチャルタレントとしても、1月20日に投稿した動画「キズナアイ声変わった件について本当のことをお話しします。」を投稿し、「これが真実です。」と改めて目線合わせを図った。2021年、親分・Kizuna AIがどう歩んでいくのか、改めて注目していきたい。

また、本ライブ映像およびアフターパーティーの映像が2月1日よりU-NEXTにてSVOD配信されることが決定した。こちらの視聴には、有料の会員登録が必要となる。すでに見た人も、まだ見れていない人もすべてのVTuberファンに強くおすすめしたいライブだ。検討してみてはいかがだろうか。

(TEXT by Shuto Uchimura

●セットリスト
M1. future base
M2. the MIRACLE
M3. over the reality
M4. miracle step
M5. new world
M6. meet you
M7. hello, alone
M8. Sky High
M9. Touch Me
M10. ラブしぃ
M11. かりそめ
M12. FL-AI-YER
M13. Fireburst
M14. melty world
M15. The Light
M16. Hello World
M17. mirai
M18. Again
EC1. キズナミ(cover)
EC2. AIAIAI(feat. 中田ヤスタカ)
EC3. Hello,Morning(Pa’s Lam System Remix)

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「hello, world 2020」公式セトリ(SPOTIFY)
A.I. Channel(YouTube) 
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