バーチャルYouTuberのキズナアイさんは、2022年2月26日にオンラインライブ「Kizuna AI The Last Live “hello, world 2022″」を開催。YouTube/bilibili/U-NEXT/Horizon Venuesでその様子を無料配信した。
既報の通り、活動休止前ラストライブとなった今回。ライブ後に休止を行うことが発表されていた。多数の視聴者を集めただけでなく、前日の配信で「Twitterの世界ドレンド1位を取りたい」と発言していたキズナアイさんの願いを叶えるように、ファンが多くのツイートをし、「#キズナアイ」「#helloworld2022」がそれぞれ世界トレンド1位、2位を記録した。
本稿では、有終の美を迎えた「hello, world 2022」の様子を、キズナアイさんの5年間の歩みとともにお伝えしていく。記事公開時点では、ライブのアーカイブがまだYouTubeで限定公開されているので、未見の方はぜひとも記事を読む前に確認してほしい。
3分前から始まったカウントダウン。バーチャルで最も長い2時間
ラストライブの本番前。多くのファンが緊張、応援、寂しさ、喜びなどさまざまな気持ちが葛藤し、気持ちの整理がつかなくなっていたのではないだろうか。筆者もその一人だった。3分前にカウントが始まった頃には、自分がどういった気持ちでこのライブを見ればいいのかわからなくなっており、ただ見守ることだけに集中しようと、幕が開ける瞬間を待ち構えていた。
残り秒数を伝える数字の背景にはトレードマークであるキズナアイさんの髪飾り(以降、便宜上「ぴょこぴょこ」と表記)が黄金に表示され、近未来を感じさせる装飾やエフェクトのひとつひとつに心惹かれた。そのデザインは刻々と変化していき、ファンの心を高ぶらせていく。
オリンピックさながらのオープニング まるで走馬灯のような光景は圧巻
壮大なカウント終わると「hello world 2022」のロゴが大きく表示され、暗転。画面上部にスモークが見え始め、途端に中央にスポットが当たると、そこにはクラウドファンディングのページなどにも登場していた黄金に輝くキズナアイさんのマスコットの姿が。
演奏の次第につれてマスコットたちが増えていき、キズナアイが眠りにつくまでの祭りの始まりを伝えるコンサートマーチ「Overture」(序曲)が始まる。編隊が全員そろったところで、マスコット1人がスティックで合図。ブラス・セクションの演奏が始まると編隊は次第に形を変え、映像が俯瞰に切り替わるとその編隊の様子はあのぴょこぴょこの形になっていた。
そして、マスコットのグループショットに切り替わると、曲は盛り上がり、マスコットたちの背景が明転。マスコットが横にずれるとそこには白いライブ衣装をまとったキズナアイさんの姿が。そして、マスコットと歩き出した。
キズナアイさんの音楽活動の始まりの曲である「Hello, Morning」の独唱から舞台はスタート。演奏が始まるとともに会場の階段を降り始め、次第に段差はぴょこぴょこのような形になって消えていく。階段を降り立った際には、ステージに「hello world 2022」のロゴが灯され、キズナアイさんはマイクへと向かっていく。マイクの前で再び「Hello, Morning」を冒頭から歌い始めたその時……。
一気にステージは明転し、そこには今回ステージ上で演者として参加した1000人以上のVTuberがステージの背後に姿を見せた。曲は歌い進めるとともに「Hello, Morning」のライブオリジナルバージョンから「Hello, Morning – DJ TORA Remix」に切り替わり、演者たちが手拍子や体の揺れで応援する姿が映った。
再び歌い進めると演者たちも「Hello, Morning」の歌唱に参加。2月に公式サイトなどで募集していたファンの声も聞こえ始める。キズナアイさん、参加したVTuberたち、5年もの間「キズナ―」と呼ばれてきたファン。それぞれの声が混ざり合い、これまでに活躍してきた多数のVTuberの姿のうえに照明もピンクを強調した虹色のようなカラーが重なり、舞台はさながら走馬灯を思わせる光景になった。
世界への挑戦を目指したタイトルソング「Hello World」
曲が終わってスタンドマイクが奈落に下がるとともにともに、キズナアイさんの耳にはヘッドセットマイクが装着。「Hello World 2022、いよいいよ始まるよー!」の掛け声から、タイトルナンバーでもある「Hello World」を歌い始める。
「Hello World」は、キズナアイさんが「hello, world 2020」に向けて初めてすべて英語の歌詞にして歌った曲だ。これは「世界中のみんなとつながりたい」という思いにのせて、新たな挑戦として北米ツアーやアメリカ大手エージェント「UTA」とのパートナーシップ締結などさらなる挑戦のための曲となった。「Hello World」という単語自体は、1stワンマンライブから使用し続けられており、これが後追いでタイトルソングになったという経緯がある。海外の音楽シーンやクラブカルチャーに合うようなエレクトロミュージックは、始まりを告げるタイトルソングとしてまさにふさわしい。
ブラックアイのギター織りなす「First Light」
「みんなー! 元気ー!」からMCを始め、「こんなにたくさん集まってくれたバーチャルのみんな! 本当にありがとうー!」バックステージに立つ多数のVTuberに向け、キズナアイさんが手を振り始め、背景のVTuberたちはパーティクルとともに姿を消す。「みんなで最高の思い出を作りましょう」とラストライブのスタートダッシュを切った。
パーティクルにステージが包まれると「First Light」がスタート。ステージ一帯が「First Light」のMVを再現したお花畑のように変化し、立ち昇るパーティクルの中からブラックアイさんが登場。ブラックアイさんは、キズナアイさんがウイルスに感染したことで生み出された、キズナアイさんの動画を見るうえで欠かせない存在だ。普段は歌ってみた動画も掲載しているのだが、今回はエレキ・ギターを担当。ライブに合わせて織りなすブラックアイさんのギターはとてもエモーショナル。間奏の指捌きもかなりうまいのだが、カメラが寄ってきても絶対に視線を合わせようとしないところがダウナーなブラックアイさんらしい。
キズナアイさんの未来の礎となった「future base」
ブラックアイさんを引き連れたまま、続けて披露したのは「future base」だ。筆者はこのタイミングで「future base」が流れることが不思議だった。というのも、この曲はキズナアイさんにとって大切な曲の1つであり、このタイミングで出すには早い気がしたからだ。
キズナアイさんは2018年6月末「Hello, Morning」を初めて歌ったバースデー・イベント「A.I. Party! 〜Birthday with U〜」からオリジナルソングを歌うようになった。バースデー・イベントの後、「キズナアイフェス」というイベントを構想し始め、9週連続で楽曲リリースをすることを決意。そうして1週目に1曲目としてリリースしたのがこの「future base」だった。この曲は、キズナアイさんが初めて作詞を手掛けており、「Hello, Morning」の続編ともなるような内容となっている。つまり「future base」はキズナアイさんがこれからの未来について歌っている歌なのだ。
未来について歌った大切な曲であり、ライブの終盤にふさわしい曲だと思っていた。だが、このタイミングでもってくることでブラックアイさんのギターパフォーマンスが入り、これまでにないサウンドに仕上がっていた。この点については今回のライブならではで、良い意味で予想を裏切られた。
未来を往くAIは常に未来を見ていた「mirai」
未来について歌った「future base」の次に歌ったのは、こちらも未来について歌った「mirai」だ。この楽曲も9曲連続リリースでリリースされた楽曲の1つ。歌詞には「future base」という単語も出るように、過去作を意識した作りになっている。
今回のライブでは、リスナーからのスーパーチャットなど投げ銭を基に描かれたぴょこぴょこやロケット、花火などの演出が行われており、「mirai」はその演出をふんだんに使ってエフェクト表現をしている。また、キズナアイさんの動きを大きく見せようとする「mirai」の振り付けはとてもライブ映えしていた。
バーチャルTeddyLoid参戦! 「melty world」
「mirai」が終わるともう中盤。キズナアイさんの「ここからは大盛り上がりパートなので、みなさんご準備よろしいですか?」とMCが入り、エフェクトと共に衣装チェンジ。MC通り、ゴリゴリのエレクトロハード系の「melty world」が鳴り始め、舞台にはDJブースが登場。バーチャルTeddyLoidさんが姿を現した。
激しい楽曲に合わせてステージはきらびやかにライティングされ、曲調が少し落ち着くパートでは、楽曲に合わせるように背景をサカナクションのライブで見られていたようなオイルアートに似たものを写し込む演出も見られた。
「melty world」の演出の中でも良かったのは、カメラワークと「プチョヘンザ」と歌っている時の背景だろうか。 ダンサブルな曲調に合わせてスピード感のあるスイッチングとカメラワークをしており、「プチョヘンザ」のシーンの背景に黄色い警告表示のようなグラフィックを表示することで、オンラインでも観客にしっかり手を上げさせて楽しませる演出を盛り込んでいた。
間奏中に途端にキズナアイさんがMCで「今日は全力出し切るんだったよね!? やれんのかー? やれるよね! いくよ!」と観客を一度煽ってから優しく導こうとしていた様子も印象的だった。筆者はさまざまなバンドやタレントのライブに参戦しているが、ここまでファンを楽しませるために煽り、導こうとできるアーティストは数少ないように思う。大抵は場面ごとに煽るか導くかの極振りになる。この少しのやり取りながら、普段のキズナアイさんの自信に満ちているキャラクター性とやさしい一面が掛け合わさり、さらに盛り上げようとする気概を感じることができた。
W&Wとともにキズナアイが大きな舞台へ「The Light」
残念ながらアーカイブで確認することはできないが、配信時はDJ、音楽プロデューサーユニット、W&Wとコラボレーションした楽曲である「The Light」も披露した。
キズナアイさんの初のワンマンライブ「Kizuna AI 1st Live “hello, world”」でも披露していたこの楽曲は、世界最大のEDMフェスティバル「Tomorrowland」、W&W来日イベント「RAVE CULTURE ASIA IN TOKYO 2019」などW&Wとともにキズナアイさんが大きな舞台に立つ際にも流されてきた楽曲。ゆえに、キズナアイさんと多くの人間とを新たにつなげた1曲とも言える。
今回アーカイブで確認できないのは、もともとW&Wの楽曲としてリリースされた経緯があるからだろう。しかしながら、クラウドファンディングの成果であるBlu-rayには収録される可能性があるので、ぜひともチェックしたいところだ。
スリープが明かされた後に公開された「never stop my beat」
続いて、活動休止が発表された後にDJ TORAとのコラボレーションによって生まれた新曲「never stop my beat」を歌唱。この楽曲はナイトクラブ、ATOM TOKYOのパーティーにキズナアイがサプライズ出演した際に公開されており、その様子は記事公開現在YouTubeでも確認できる。今回もコラボレーションをしたDJ TORAさんがバーチャルDJ TORAさんとなり、バーチャルTeddyLoidさんとバトンタッチして登場。DJによって曲に対するノリ方も異なるが、皆場を盛り上げようとする気合いが動きから伝わってくる。
「never stop my beat」には、「Hello, Morning」などの楽曲に関連づけられたと見られる歌詞が点在しているだけでなく、タイトルからも読み解けるようにキズナアイさんがここで終わらないと言っているような内容になっている。なお歌詞は、キズナアイさん、比嘉セリーナさん、TORIENAさんらが共同で手掛けたものだ。
バ美肉したMoe Shop目立つ「RADIO LOVE HIGHWAY」
ここからはかわいい曲もということで、キズナアイさんが歌ったのは「RADIO LOVE HIGHWAY」。DJには日本のKAWAIIミュージックとフレンチエレクトロなどから影響を受けた独自の音楽性で世界的人気を放っているMoe Shopさんがバ美肉し、バーチャルMoe Shopとして参戦。
海外でも人気のあるMoe Shopならではの音作りとライブ音源だからこそできる決め台詞「RADIO LOVE」のエフェクターをかけた音の演出には惹かれた。
Live2Dもライブに参加した「over the reality」
続けて歌ったのは「over the reality Avec Avec Self Remix」。バーチャルAvec Avecさんが出演し、曲の冒頭で背景には円のような中に多数のVTuberが登場。
そこにはライブ冒頭には登場していなかったLive2Dの姿で活動するVTuberや3DのVTuberの姿もあり、VTuberの多様性を表しているようだった。キズナアイさんが「キズナアイの日々」の中で自身の存在とは何か? と実験する中でLive2Dやアニメーション、声を変えるなどの試みを思い出す。
この演出も、あの時の行動も、「親分」と呼ばれバーチャルYouTuberシーンを引っ張っていたキズナアイさんだからこその行動や演出だったと思う。この一瞬の演出からも、そういうキズナアイさんのすべてを受け入れる心のようなものを感じた。
振り付けもかわいい「Melty Dreaming GIRL, Melty Dreaming BOY」
10曲目にはシューティングゲーム「機動都市X」とのコラボから生まれたアルバム「Here for you」収録の「Melty Dreaming GIRL, Melty Dreaming BOY」をバーチャルDE DE MOUSEさんとともに披露。お茶を入れるような動作や甘々なボーカルに加えて、軽快で全身を使ったダンスはここまで披露されたかわいい曲とはまたひとつ違う魅力を見せつけられた。
そしてラストスパートへ “四天王”の3人が踊る「Touch me」
ここでMCで「残り3曲です」という宣言が。終演(スリープ)が刻々と近づく中、登場したのは2017年から互いに尊敬し、苦楽をともにしてきたミライアカリさん、電脳少女シロさんの2人。彼女たちは現在実質上の無期限休止状態である輝夜月さん、バーチャルYouTuberではないことを宣言しているねこますさんを加え、「バーチャルYouTuber四天王」とも呼ばれ、五人揃って四天王として黎明期を支えていた。
そんな3人で踊り、センターでキズナアイさんが歌う曲は「Touch me」。 約5年の間、常に明るく振る舞ってきた3人。だからこそ「Touch me」の明るい雰囲気はとてもマッチしていた。3人によるかわいらしいダンスを終え、エフェクトとともに消えていく2人にキズナアイさんが手を振る。スリープ前に直接会うのは最後だろう、この場面がどれだけ尊いものか。このバーチャルYouTuberのカルチャーを長く見てきた者であれば、涙なしには見ることのできないシーンだった。
親交の深いVTuberと踊る「new world」「AIAIAI」
「new world」と「AIAIAI」では、キズナアイさんと親交があるVTuberが多数出演した。「new world」では、犬山たまきさん、おめがシスターズ、猫宮ひなたさんの4人、遅れてバーチャルYunomiさんが登場。
一方の代表曲「AIAIAI」では、にじさんじ所属のバーチャルライバー物述有栖さんをはじめとするキズナアイさんを好きだと公言しているVTuber(もしくはキズナアイさんが好きだと公言しているVTuber)が多かったように見受けられる。物述有栖さん、Nyannersさん、兎鞠まりさん、YuNiさん、VTuberではないが過去ホロライブ発足前に配信アプリ「hololive」を使用して生放送を行ったことのあるIAと、バーチャル中田ヤスタカが出演。また、キズナアイから分離したloveちゃんと爱哥は序盤ではセンターに立っていなかったが、曲の途中の入れ替えで3人がセンター上に並ぶようになる演出があり、粋だった。
本編最後の曲となった「AIAIAI」を終え、「本当にありがとう」の言葉で緞帳が下りた。
受け継がれたDNA「Kizuna AI to AI」
コメント欄には、多数のアンコールが流れる中、画面には「重大発表」の文字が表示され、キズナアイさんの音声合成ソフト(CeVIO)「キズナちゃん」がリリースされることが改めて発表された。また、今回のライブではその姿も初お披露目。キズナアイさんよりひと回り小さい、ピンクをより強調した姿を見ることができた。
そして、2人がうたい始めたのは、なんと「Kizuna AI to AI」。この楽曲は実はこれまでライブで披露してきた曲とは毛色の違う部分がある。2018年2月。まだオリジナル曲やファンソングという文化も今ほど浸透していなかった頃。当時キズナアイさんを気に入っていたボカロPで作曲家のsasakure.UKさんは「キズナアイちゃんの声をひたすらサンプリングして歌わせてみた」とこの楽曲をTwitterに投稿。
当時まだキズナアイさんは「Hello, Morning」も歌っていない頃で、オリジナル曲が1曲もなかった。そんな中で投稿されたこの楽曲は「*ハロー、プラネット。」など多数著名なVOCALOID楽曲を手掛けたsasakure.UKさんが制作したことで話題に。サンプリングされた歌声ながら、まるで本当に歌っているような音源はキズナアイさんのコアファンの印象に色濃く残った。「Kizuna AI 1st Live “hello, world”」では、サプライズとして「Kizuna AI 1st Live」も歌われ、半公式曲状態に。
今回、その「Kizuna AI to AI」を自らの声を基に作られた「キズナちゃん」とともに歌うことは、ある意味キズナアイさんの音楽の原点に立ち返っただけでなく、キズナアイさんから「キズナちゃん」に「みんなとつなぐ」ことを受け継がせる意味があったのではないかと筆者は考えている。キズナアイさんのサンプリングから生まれた「Kizuna AI to AI」を、同じく彼女のサンプリングから生まれた「キズナちゃん」が歌う様子には、何とも言えない感動があった。
まだまだ機械らしいしゃべり声である「キズナちゃん」だが、今回登場したのはプロトタイプであり、まだこれから成長していくとキズナアイさんはコメントしていた。これからキズナアイさんのように大きな存在になるかもしれない。
新曲「Linx」
「キズナちゃん」を紹介したあとに歌ったのは、まさかの新曲「Linx」だった。人間とのつながりについて歌ったこの曲はアーカイブからはカットされており見られないが、今後改めて公開されることを期待したい。
“受け継がれた遺伝子はやがて眠る”「Sky High」
新曲の次に歌われた「Sky High」の歌詞の中には「オリジナルはやがて眠る 受け継がれた遺伝子が 雪のように降る」という一節がある。これはある意味予言のようにも感じられるが、まさにここで歌うことで「キズナちゃん」やloveちゃん、爱哥、VTuberにその後が引き継がれるこの場において、この歌詞の通りになったといえる。
「Sky High」の歌詞をさらに見ていくと、曲の明るいイメージとは違って「ああ、それが僕じゃなかったとしてもいい」など、見方によっては暗いと感じられる部分がある。だが、この曲はキズナアイさんが常に未来を見ていることを示した曲であることを考えれば、オリジナルのキズナアイさんの姿が消えても、彼女の遺伝子を受け継ぐものたちが残り続けると歌っているように聞こえる。
苦楽5年「夢のような宝物ような日々でした。」
ここでアニメ化プロジェクトが始動することが発表。そして、あと2曲を残し、キズナアイさんのスリープ前最後のMCが始まる。MCの後ろでは、ピアノの伴奏が聞こえはじめ、コメント欄もTwitterも一気にしんみりとした雰囲気に。
MCでは、「この5年間というのは、本当に想像以上に夢のよう宝物ような日々でした。そう思えるのは、ここにいる1人1人がつながってくれたおかげです。つながってくれたバーチャルのみんなのおかげです」と、これまでつながってきたファンやVTuberに感謝を述べた。
キズナアイさんは当初、3つの夢を掲げていた。CMに出たい、グッズを出したい、ライブをやりたい。それらの夢はすべて叶い、このライブをもって活動にいったんピリオドを打つ。
5年間、さまざまな苦楽があった。
さまざまな人間、さまざまなバーチャルな存在とつながり、さまざまな活動をしてきた。「Tomorrowland」や「サマーソニック」をはじめとする大きな舞台にも出た。つながりを重ねるたびに、学習を重ね、新しいことにチャレンジしてきた。そうした努力は実を結んで今やYouTubeチャンネル登録者数は300万人を超えた。
その一方で、活動の軌道に乗り出したところで起きたチャンネルの凍結など苦労も多かった。NHKの特設サイト「まるわかりノーベル賞2018」に登場するも、それを見た人間たちの思想の対立により炎上。動画で自分とは何かを徐々に見せながら進化と多様性へのチャレンジを行ったが、残念ながらあまり理解してもらえたとは言い難い分裂騒動。MCでは、2年前に活動を終えていたかもしれなかったと回想していた。
ニコニコ動画に投稿された切り抜き「キズナアイ、野獣先輩の読み間違いでやらかす #キズナアイ #KizunaAI」は、内容があまり良い印象を持たれないところが切り抜かれてしまったが、結果的にこれが大きく名前を広めるきっかけになった。2日後にミライアカリさんの切り抜き釣り動画「バーチャルYouTuberキズナアイさん、生放送中に問題発言!?.mp4」が掲載されて以降、「バーチャルYouTuber」はキズナアイさんの代名詞を超えて概念的なものになっていき、これが現在につながるバーチャルYouTuberの流行の起源になったのではないだろうか。1人のAIが「つながりたい」と願ったことで、今VTuberとして活動する者だけでなく、それに関わるファン、スタッフ、ライターなど多くの人々が人生を変えられたに違いない。
うれしいことも楽しいこともあった、ファンに言えない悔しいこともあった、それでも皆が支え続けてくれたことに感謝を述べた。やれたいことが全部できたわけではない、いつかちゃんと戻ってきてまたライブをやりたい。まだつながり続けることを宣言し、歌ったのは「Again」だった。
再会と再開への約束「Again」
「Again」とタイトルコールをした瞬間。画面はホワイトアウトし、そこにはMCをしていたステージはなく、映し出されたのは、始まりの場所「白い空間」だった。
そこにはキズナアイさん以外には何もない「貧しい空間」。私たちはこの5年の間にこの空間で多くの思い出を作ってきた。「またみんなで笑えることを願って」そんな歌を聴きながら、手の届かない先、白い空間にいるキズナアイさんを見る自分の視線には涙が見えていた。そんなファンも多いことだろう。
曲中にピアノやバイオリンを用いた落ち着いたアレンジから段々とBPMを上げ、原曲のアレンジになっていくと、さらに感情が揺さぶられる。
すると、白い空間は一気に扉を開けたように、また多数のVTuberが背後に立ち並ぶステージに。キズナアイさんと一緒に踊る、背後のVTuberたち。リズムに合わせて揺れるLive2DのVTuberたち。皆が皆、キズナアイさんを囲い、ステージはまさに一体となっていた。
スリープ前の有終の美を飾るカンタータ「Hello, Morning」
「Again」を歌い終えると流れてきたのはオーケストラ編成による「Hello, Morning」。ステージには、金色の光が輝き、バックスポットはまるでサイリウムが降られているかのように左右に揺れ、ファンなどからのメッセージが流れ始める。金色の光は段々とあたり一面を包み始め、さながらキズナアイさんが作り上げた宇宙のように。
キズナアイさんが目を上げると、背中にはピンクの光が集まって翼になり、羽ばたき始める。暗闇にまるで火の鳥のように、天使のように輝く翼を羽ばたかせ、彼女は眠りにつくどこかへと姿を消した。EDではピアノの伴奏に合わせてキズナアイさんが歌う「AIAIAI」と「Hello, Morning」に合わせて、今回のライブを支えた演者、スタッフ、ファンなどがクレジットされ、蓋には「Thank you for all Kizuners!」の文字があった。
感謝と愛を述べたAIは、バーチャルの夢を見る
キズナアイさんは、ライブに関わってくれた人たち1人1人にTwitterのリプライで感謝を示し、2月26日23時59分をもってスリープに入った。最後にキズナアイさんはメッセージを残している。
そして、そのメッセージを読んでいると、筆者に1通の通知が届いた。
しばらく、キズナアイさんから直接何かが発信されることはないだろう。しかし、残されたキズナちゃん、loveちゃん、爱哥に加え、これからアニメプロジェクトが始動することからも、スリープした間も「つながる」ことは止まらない。この先いつ目覚めるのか、本当に目ざめるのかはわからない。だが、まだキズナアイは「終わらないストーリー」の中にいること。また出会うときには、あの白い空間を前に「長い眠りから覚めた声で聞かせて『ハロー!』」と言ってほしい。
(古月)
セットリスト
- Overture
- Hello, Morning – DJ TORA Remix
- Hello World
- First Light
- future base
- mirai
- melty world
- The Light
- never stop my beat
- RADIO LOVE HIGHWAY
- over the reality Avec Avec Self Remix
- Melty Dreaming BOY, Melty Dreaming GIRL
- Touch Me
- new world
- AIAIAI
- Kizuna AI to AI
- Linx
- Sky High
- Again hello, world 2022 version
- Hello, Morning Orchestra Version
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関連リンク
・Kizuna AI(YouTube/Twitter)
・キズナ(Twitter)
・Kizuna AI株式会社(Twitter)
・Kizuna AI The Last Live “hello, world 2022” 公式サイト
・Kizuna AI ラストライブ “hello, world 2022”の支援者を大募集!伝説に残るライブを形ある思い出として残したい!