「XR Fashion Exhibition」レポート KDDIが提唱するXRとアパレル業界の幸福な関係

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KDDIは2022年2月22日から2022年3月31日まで、「GINZA 456 Created by KDDI」(以下、GINZA 456)にて学生がデザインした作品の3DCGモデルをデジタル展示する「XR Fashion Exhibition」を開催している。

本記事では、GINZA 456にて行われている「XR Fashion Exhibition」の紹介とともに、前半でXRとアパレルを組み合わせたサステナブルなものづくりについてのKDDIとしての取り組みや展望についてのインタビューを掲載。後半で「XR Fashion Exhibition」のイベント内容のレポートを掲載している。

本イベントは2021年11月から開始したプロジェクト「Fashion meets Technology in SHIBUYA」の第1弾として、渋谷にあるベルエポック美容専門学校(以下、ベルエポック)の学生が制作したデザインを東京ファッションテクノロジーラボ(以後、TFL)とのコラボレーションにより3DCGでデジタル化し、展示したものだ。

KDDI担当者インタビュー「アパレル業界の課題解決のためのXR技術」

今回は取材にあたり、KDDI 5G・xRサービス企画開発部の藤倉さんKDDI 広報部の中尾さんに、アパレル業界とXR技術を組み合わせることによる環境保護の可能性や、今後の展望を聞いた。

──アパレル業界とXR技術の組み合わせで、環境保護の観点で現在効果が出ていますか? また、今後どういう可能性を感じていらっしゃいますか?

藤倉 実はアパレル業界は、サプライチェーン全体を通してCO2排出量が非常に多く、環境への負荷が大きい産業です。一部のデータによれば、作ったものの半分ぐらいが焼却処分され、CO2を排出していると言われています。まず商品を供給する前にデジタル化することで、買う前に商品を確認してから生産されるような流れにすれば、今までの大量生産ありきという無駄をなくせるのではないかというのが、XRでアプローチしている理由です。

商品の企画段階で、XR技術を使って実物の商品のように確認することで、無駄にサンプル品を作っている部分を減らしていきましょうというのが今回の取り組みです。昨年9月にプロジェクトを開始し、まずはサンプル制作の過程で廃棄される資源の削減を推進しています。一般的に4回ほど制作するサンプルを納品前の最終確認以外をデジタル化することで、無駄になる生地の量を1/4にできます。

──服を作る過程に3DモデリングやCADの技術などはすでに使われていると思うんですが、それを一歩進めて、試作段階をCGで表示するという流れはすごくわかりやすいなと思いました。

藤倉 ファッション業界で3Dモデリングなどの利用が進み始めたのは、実は最近のことです。ITに詳しい人だと、バーチャルSNSのアバターや服を作れる方が増えてきたと感じていますが、アパレル業界で3Dモデリングはまだ全然浸透してなくて、実物の服はアナログの型紙で作っているケースが多いです。

理由のひとつとしては、扱う布地は柔らかい素材ですし、本物のような質感を再現するとなると高負荷なシミュレーションが必要だったりするので、自動車産業とか、家電産業などと比べると制作過程のデジタル化は進んでいないです。そういった中で、いかにアパレル業界の環境負荷を下げる方向につなげるかを模索しながら進めています。

──逆に、今まさに学んでいる学生さんのほうが、今業界で働いている人たちよりもデジタル技術に詳しくなるかもしれませんね。

藤倉 いわゆる服を作るソフトウェアとしては「Marvelous Designer 」や「CLO」などがあるのですが、 最近はそのあたりが専門学校に導入されています。ただ、それも始まったのが最近のことで、これから進んでいく分野です。

──アパレル業界内では導入が進んでいない技術だから、その方面からアプローチしようと。

藤倉 そうです。デジタル化することでポイントになるのが、デジタル型紙を使えばそのまま生産に持っていけますし、販売前に需要予測として出して、どの商品がどの程度の需要があるのかといった調査・マーケティングにも使えます。さらにXRを使えば、現実さながらで確認作業もできます。そうしたところを提案していきたいと考えています。

中尾 XRには場所の制約がないというのもありますね。

藤倉 今までアパレル業界は、展示会場などを貸し切ったり、自分のショールームに顧客を招いて体験してもらう必要があったところを、スマートグラスやスマートフォンを使えば、日本と海外を直接つないでやり取りすることもできます。これは将来的にですが、スマートグラスをかけながらお互いデータを共有して「ここをこう直してください」といった確認作業なども実現可能です。

中尾 空間を共有できるというのがXRの特徴のひとつですね。今までだとオンラインでも画面越しだったりテキストベースのコミュニケーションなどが主流でしたが、同じ空間にいるような感覚でコミュニケーションを取れるのが可能性として面白い点だと思います。

──今回のデジタルの取り組みによって、 学生さんが得たポジティブな変化はあったんでしょうか?

藤倉 今回、デザインを提供してくださったベルエポックさんはファッション販売員さんを育成する教育機関なのですが、アパレルの売り方も変わってきていて、もはやお店で接客するだけはなくなってきている状況があります。ECやライブコマース、SNSでの発信など色々とあるわけです。今回の展示とは違うのですが、将来的に取り入れたいものとして「これは消費者目線でも良い」と、バーチャルフィッティングに関心を持たれていました。

今回ベルエポックさんとコラボレーションしているTFLさんはバーチャルのファッションを制作する人材を育成している学校なのですが、カリキュラムとしてTFLさんの講師がベルエポックの学生さんにバーチャルでのものづくりを教えていて、その授業の中で今回の作品が作られました。

──学生さん側からも新しい販売の方法としてXR技術を組み合わせて何かできないか、といった希望が出たりしたんでしょうか?

藤倉 はい。学校側から、未来の販売のあり方としてワークショップを実施させていただいて、これからのファッションについていろいろディスカッションした上で、今回の話につながりました。

──コンテンツにあった、原宿や銀座の街並みに服を展示するというのは、どちらサイドから出た案ですか?

藤倉 こちらからご提案させていただきました。ベルエポックさんにXRのデモをご覧いただきどんなことができるのかをお伝えしながら、実際の街なかで展示することを提案したところ、採用されました。銀座はハイブランドのお店が多い街であり、原宿は若者のアパレルの街です。そういったところで自分の作品を発信できることに意味があるんじゃないかと。

──この取り組みは、今後はどういう展開になりますか?

藤倉 この取り組みは昨年の11月に「渋谷未来デザイン」さんと立ち上げた「Fashion meets Technology in SHIBUYA」というプロジェクトから始まりました。先ほど申したようにファッション業界にいろいろな課題があり、今アパレル業界は業績が良くない中で、学生さんにとってもファッションの道を進むことに対しての不安が多い状況です。そういったところをテクノロジーの力を使って解決していき、渋谷区という日本国内のアパレルの聖地から発信していきましょうというコンセプトです。その第1弾としてベルエポックさんと組ませていただきましたが、今後も他の学校とこうした取り組みをさせていただいたり、学校だけじゃなくアパレルブランドにも取り入れて、実際のビジネスにつなげていくようなところも視野に入れて、いろいろ展開していきます。

XR Fashion Exhibitionの見どころ

ここからは、GINZA 456と、KDDIによるXRサービス「au XR Door」で体験できる「XR Fashion Exhibition」について紹介する。

GINZA 456 でXR Fashion Exhibitionを体験する

GINZA 456ではスマートグラス「NrealLight」を用いて、ベルエポックの学生が制作した服を鑑賞できる。

NrealLightで体験する様子(こちらはイメージ図であり、実際の見え方とは異なります)

NrealLightの6DoF性能と、KDDI総合研究所が開発したVPS(※向きを含む位置情報を特定するサービス)を用いて、制作側が意図した位置に服が現れる様になっている。今回体験できるのは衣服の鑑賞のみだが、NrealLightの使用例としての可能性を感じた。

WebAR版のXR Fashion Exhibition

また、現地に行かなくてもKDDIのXRサービス「au XR Door」でも体験できるようになっている。アプリ版では、スマートフォン上にAR表示される「ドア」の中に入り、衣服に近付いたり回り込んだりしながら鑑賞できる。Web版でも簡易的に360度VR空間の中で衣服を確認できるので、ご自身に合った環境で閲覧していただきたい。

3/3より開始 つなぐプロジェクト「願いツナグサクラ」

もしXR Fashion Exhibitionを体験しにGINZA 456へ行くのなら、KDDIがGINZA 456を舞台に「つなぐプロジェクト」として開催してきて「捕まえて集める境界のない群蝶」「HOKUSAI REMIX」などに続く新プロジェクト「願いツナグサクラ」も合わせて体験してみてはいかがだろうか。

願いツナグサクラ

こちらは、GINZA 456の地下一階、背後以外の3面の壁面が全面モニターになっており、満開の桜が咲き乱れる演出を体験できる。視覚や聴覚で楽しめるのはもちろん、嗅覚や味覚で楽しむために、お香が焚かれていたりキットカットのお土産も用意されている。

脳波によってカスタマイズされた桜が咲く

また、参加者の脳波を分析してカスタマイズされた桜の花が咲くという、ブレインテックと花見を組み合わせた試みも。

予約制になっているので、ぜひWEBサイトから予約して遊びに行ってみよう。

●XR Fashion Exhibition
日程:2022年2月22日(火)~3月31日(木)
WEBサイト:https://ginza456.kddi.com/contents/appareldx/
AR版サイト:https://www.xrdoor.xreality.au.com/top/#/detail/VirtualFashion/Belle_2022

●願いツナグサクラ
日程:2022年3月3日(木)~5月未定
WEBサイト:https://ginza456.kddi.com/contents/sakura/

(TEXT by ササニシキ