グリー傘下のREALITY Studiosは25日、VTuber事務所の「Vebop Project」(ビバプロ)を設立すると発表。10月31日まで所属VTuberのオーディションを実施中だ。
VTuber業界の拡大に合わせて、企業・個人を問わず事務所が立ち上げられ、随所でオーディションが開催されている現在だが、「ビバプロ」はどんな特色があるのか。同事務所の運営長に話を聞くと、「型通りより、型破り。」というキャッチコピーに集約された思いを紐解いてくれた。
ユニットで毎週リアイベ! ファンの笑顔がやる気に
──グリーのVTuber事業というと、「FIRST STAGE PRODUCTION」(いちプロ)や「すぺしゃりて」を立ち上げるなど、今年に入って大きな動きがありました。
運営長 まず、グリーの100%子会社として今年3月にREALITY Studios株式会社を立ち上げました。REALITYというと、配信プラットフォームのイメージを持っている方も多いと思いますが、REALITY Studiosは100%VTuberの運営に特化した会社です。
その中に、「いちプロ」や「すぺしゃりて」、「RK Music」があり、それぞれで所属タレントが活動していたり、オーディションを開催しています。今回、そこからさらに「ビバプロ」を立ち上げてオーディションを実施します。
──会社設立から半年も経っていないのに、かなり急ピッチで事業を拡大していっていますね。その背景を教えてください。
運営長 REALITY Studiosとしては、多様性をすごく意識しています。例えば「すぺしゃりて」で言えばゲーム、「RK Music」は音楽だったりと、それぞれの運営の下で特色を伸ばしていくことで会社としての多様性を担保している状況です。
もうひとつ特徴を挙げるとすれば、日本だけでなく、グローバル展開を常に意識しているところです。今で言うと、「いちプロ」のイングリッシュもありますし、「すぺしゃりて」に関しても日本とグローバル双方でタレントを抱えようとしていっています。
──すでに3つの事務所があった上で、「ビバプロ」はどんな色を持っていますか?
運営長 VTuberユニットを複数プロデュースしていくのが大きな特徴です。もちろん個別で配信もしていただきますが、メンバー全員でのコラボ配信やリアルイベントなど、ユニットとして定期的に活動していくことを強く意識しています。
──ユニットにこだわった理由は?
運営長 誰かが笑っていれば、人は安心して笑えるという考えがあります。VTuberでなくても、例えば芸人の粗品さんがYouTubeで投稿されているチンチロの動画など、複数人が楽しそうに何かをしている動画を見ていると安心して笑えるのを実感します。
メンバー全員が集まって定期的に何かをやるからこそ、そこから生まれてくるドラマも当然あって、それぞれのキャラクターが立っていって、ユニットの色にもつながっていく。幅広い選択肢がある中、VTuberというフォーマットに何を載せるかを模索したときに、ユニットという考え方はすごく合っているのかなと思いました。
──ちょっと意地悪な質問ですが、それはあえてVTuberでやらずに生身の人間でも成立するのでは?
運営長 そこでいうと、VTuberだからこそのよさは当然あって、まず見た目が「かわいい」というのが大きいですよね。ただ、VTuberになった時点で全員が底上げされているわけで、その先にどんな価値を提供できるかを考えていくことが重要です。
私たちが競争していかなければいけない相手は、芸人や生身のアイドルやYouTuberで、その一方で既存の芸能界にはまらないタレントやVTuberだから興味を持ってくれるファンがいるのも実情だと思います。VTuber業界はまだ立ち上がって5、6年で、他のカルチャーに比べてまだ歴史が短く、まだまだやれることがあると感じています。
アニメやゲームなど、他のエンターテインメントを見ても覇権タイトルがどんどん変わっていっている様に、わずか5、6年のVTuber業界でも動画勢から配信勢が中心になったり、ゲーム実況が増えたりとトレンドが変わっていっている。なので新しい可能性を模索して、業界の次の5年、ひいては10年をつくっていくということにREALITY Studiosとしては挑戦していきたい思いです。
──いい話です。今の話に関連して、ここ数年のVTuber業界の流れをどう捉えているか、もう少し詳しく教えてください。
運営長 リアルへどうアプローチするか、ということの重要度が高くなると思います。VTuber業界に限った話ではないのですが、個人的に「失われた3年間」と呼んでいるコロナ禍で、本来あるべきだったリアルでのファンとのコミュニケーションがすっかり抜け落ちてしまって、オンラインのみになってしまった現状があると思います。2023年となり、今もコロナウイルスが猛威を奮っているので注意していかなければならない状況ではあるものの、それでもすべてのエンターテインメントが「失われた3年間」を取り戻そうと努力している。そんな流れにおいて、ビバプロはデビュー後間もないタイミングから、毎週リアルイベントをやろうと計画しています。すでに秋葉原のエンタスさんにご相談をしていて、否が応でもリアルに殴り込みをかけていきます。
──毎週リアイベ! それはすごい!
運営長 私もこれまでVTuber事務所やプラットフォームの担当者としてリアイベに携わってきましたが、そこで見かけたお客様の笑顔がエンターテインメント業界をつくる基礎だなと。みんなが笑っている姿をリアル空間につくることが重要。VTuberはオンラインの配信主体で伸びてきた業界ではありますが、タレントのモチベーションアップやファン同士のつながりなどを考えても、リアルでも楽しめる場所を設定して、定期的にイベントを開催していくことが大切だと思っています。ドラマは現場で起こると思っているので、お客様との距離はどこよりも近くありたい。
──過去にVTuberの運営にも関わっているとの話でしたが、PANORAでもリアイベ(おしゃべりフェス)をずっと開催しているので、実施できなかった辛さはよくわかります。
運営長 VTuberのリアルイベントというと、ある程度絵が見えているのは音楽ライブなんですけど、逆にそれ以外が目立っていないのが一つの課題かなと思っています。歌や踊りだけでなく、トークスキルに秀でていたり、何かの知識に特化したVTuberさんがきちんと目立てる舞台をつくること。そこに私たちとしてはまだまだ可能性を感じています。これまでのVTuber業界じゃあり得ない頻度でリアイベをやっていく覚悟です。
──オフラインが主体のVTuberというのは珍しいです。
運営長 いや、オフラインだけでなく両軸です。個々の活動においてはオンラインに分があると思っていて、一方でユニットの関係性を見てもらうためにリアイベも実施していきます。逆にユニットの関係性を補足するものとして日々の配信があって、それぞれのキャラクターが見えてきた上でまた一堂に会するリアイベがある。そんなリアルとオンラインの両軸で展開していきたいです。
少人数制マネージャーやスタジオで活動を強力サポート
──オーディションですが、どんなタイプに来てほしいですか?
運営長 オーディションのキャッチコピーが「型通りより、型破り。」なのですが、VTuberをやっていたことがあるにせよ、ないにせよ、何かしら人を楽しませたかったり、これが好きで好きでたまらないという強い思いを抱えている人を募集しています。ある種、今のVTuber業界にちょっとした息苦しさを感じていたり、逆に特にVTuberには興味がなかったけど破天荒な人みたいな。文字通り肩破りな何かを持っている。それはモチベーションでもいいですし、思いでもいいですし、スキルでもいい。そんな方とぜひ一緒にやっていきたいです。
──スキルに関しては?
運営長 スキルで言うと、私たちからこの能力があるのが望ましいというのは特にないんです。逆にどんな人が応募してくるかによってユニットの色を変えていきます。例えば、ダンスがすごく得意な方が複数人集まるなら、ダンスパフォーマンスを早期からどんどん出していくような戦略にしますし、それがトークならトークショーを主体にしましょうという話になります。エントリー期間を2ヵ月と少し長くしているのも、柔軟に対応していくためです。
──ちょっといやらしい話ですが、「ビバプロ」、ひいてはREALITY Studiosとして活動するメリットは何になりますか?
運営長 ある程度長い期間、この業界に身を置いている私がREALITY Studiosの姿勢としていいなと感じたのは、キャラクターコンテンツをつくることに時間をかけるという考え方と金銭的な体力があることです。
──お金がなくなるとすぐ撤退、というのもよくありますからね……。
運営長 初期から利益を出すという話になると、制約がだいぶ増えてしまいます。その点弊社では、ある程度長い期間、タレントのやりたいこと、挑戦したいことを支えていける体制やカルチャーが整っていると思います。また、リッチな3Dライブや配信ができるスタジオがあったり、様々なバックボーンを持ったスタッフが多い。そうしたところが大きな強みだと思います。あとはきちんとマネージャーもつけます。
──タレントの数に対してマネージャーが少ないという事務所も多いですからね……。
運営長 当たり前の話にはなってしまいますが、企業だからこそしっかりサポートしなければ意味がありません。場当たり的にサポートするのではなく、一人ひとりのタレントに対して常に向き合い成長を見守っていき、二人三脚で走り続けれらる体制を作ることを意識しています。
──現在、個人VTuberとして活動している人も受け付けている?
運営長 現在活動している姿のまま、というわけではありませんがもちろんエントリー対象です。実は私も個人でVTuberとして活動していた経験がありますが、自由ではあるけれど、やっぱり壁打ち相手がいないことで、どこかで気持ち的に限界が来たり、挫折してしまうところがあると思うんです。個人勢、企業勢という区分も私は正直好きではないですが、企業であるからこその強みというのは、一緒に考えてくれたり、仕事としてタレントのことをみてくれる存在がいるところだと思います。
──今まで芸能人として活動してて、30、40代になってある程度やり尽くしたからセカンドキャリアとしてネットでも活動したい……という方に向きますかね?
運営長 合うと思いますし、まだ世の中に才能を発見されていない方にキャラクターと私たちからの知見という新しい武器を与えることができると思います。事務所としての具体的な色やスキルを打ち出さないのは、どんな方が来ても何らかのユニットになる可能性があるからですね。ユニットとしてプロデュースする強みがここにあると思います。
──最低でも何年は続けるみたいな話はありますか?
運営長 先ほども申し上げたように、私たちは1年とか2年みたいなスパンでは考えてないです。1年、2年って短くて、そこで損得を判断するのはナンセンスで、3〜5年先ぐらいのレベルで見てはいるのですぐに撤退するのはありえないです。
──そういえば、ビバプロの名前の由来ってなんでしょうか?
運営長 音楽用語のビバップ(bebop)をモチーフにしています。ジャズの演奏形態の1つで、ジャズミュージシャンが即興で腕比べしていたことがきっかけで生まれたとされる演奏スタイル、ジャンルなのですが、このビバップというジャンルができたことによって、音楽界に大きな革命をもたらしました。それをモチーフに「b」を「v」に変えて、業界の殻を破っていこうという思いを込めています。
あとはそれぞれの即興演奏、個々の配信をアドリブと捉えて、主題としてのテーマ、みんなで同じことを演奏する、みんなで何か作っていこうっていうところを、箱としてのイベントや配信になぞらえています。全然若い業界なんだから、「VTuberならこれをやらないと」という型にはめなくてもいいんじゃないかな、と。
──その通りだと思います。
運営長
これから先、他のエンターテインメントとのぶつかりは避けて通れないと思います。業界自体が成長しているからといって、のほほんとしていると多分、いつの間にか「オワコン」になってしまう。気持ちのいいことだけやっているのではなく、プロとしてのこだわりできちんとぶつかり合い、「あなたのやりたいことってなんですか」と突き詰めていくべき。やりたいことを最大化するための装置がVTuberであり、私たちなんです。
やらなければ、はじまりません。
たくさんのご応募、エントリーを心よりお待ちしています。