HACHI、初めてのライブツアー「Close to heart」東京公演レポート

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Vシンガープロダクション「RK Musicライブユニオン」に所属しているHACHIさんは、初のライブツアー「HACHI東京・台北ツアー『Close to heart』」を開幕。10月9日に、渋谷のSpotify O-EASTで東京公演を開催した。

HACHIさんにとって3度目となるワンマンライブの客席は、フルハウスの状態で、ライブの模様はストリーミングサイト「Z-aN」でも生配信された。バーチャル界の音楽シーンがますます盛り上がりを見せている中、人気と評価が高まり続けている実力派シンガーがファンを熱狂させた約1時間40分、18曲のライブをレポートしていく。


ワンマンライブでは初めての声出しOKに歓喜

開演予定時間の約5分前、HACHIさんの登場を今や遅しと待ちわびているBEES(HACHIさんファンの愛称)に、聴き慣れた明るい声が楽しげに呼びかける。

「BEESのみんなー。こんはちー!」

「こんはちー」という会場からのレスポンスを聞いて、喜びの声を上げたHACHIさんだったが、すぐに「もっと大きな声、出せるよね?」とリクエスト。最初から大きかった客席からの声はさらに大きくなり、HACHIさんの笑い声のテンションもさらに高まる。

「なんと! 今日のライブは声出しがOKなので、たくさん応援してください!」

2021年8月の「HACHI 1st ONE-MAN LIVE『The Beginning ∞』」は、コロナ禍の影響によりオンライン限定のライブとして企画。2022年9月に池袋のライブハウスharevutaiで開催された「HACHI 2nd ONE-MAN LIVE『Midnight blue』」は有観客ではあったが、観客の声出しは禁止となっていた。つまり、HACHIさんがワンマンライブでBEESたちの声を聞くのは、この日が初めて。声出しの練習や注意事項のアナウンスなどの最中も、HACHIさんはBEESに負けないくらい楽しげな様子で、ワクワクしている気持ちが伝わってきた。


影ナレが終わり、会場が静かになってから数分、ステージ上のスクリーンにHACHIさんのロゴマークが映り、歓声が上がった。続いて、あかね雲の映像の中に、8月にリリースされた2ndアルバムのタイトルでツアータイトルでもある「Close to heart」の文字が映った後、謎の空間の一本道を光差す扉に向かって歩くHACHIさんの姿が見える。ストーリーを感じさせるムービーは、最後にはHACHIさんが胸の前でガラスの花を持つツアーのキービジュアルへと変わっていった。

そして、約1年ぶりのワンマンライブが開演。ステージの中央には8月に発表された新衣装姿でHACHIさんが登場し、有観客ライブにぴったりのロックな曲「夜迷い言」で1曲目から会場を熱くさせる。2ndライブで初披露したときには無かったBEESのコールも加わることで、この曲が本来目指していた形が完成したのかもしれない。2曲目の2ndアルバム収録曲「空が待ってる」は、スケール感大きく広がるサビが印象的で、いきなりクライマックス感を漂わせていた。

澄んだ空気の中をHACHIさんの歌声がどこまでも伸びていくような「Twilight Line」を歌い終えると最初のMC。

「みなさま~こんはち~。わーやったー」

ぴょんぴょんとステージ上で跳びはねながら、本当に楽しそうに両手を振るHACHIさん。数秒前まで圧倒的な歌声で会場を包み込み、まるで別の空間に来ているのかと思うほど、その世界観に引き込んでいたボーカリストとは思えない、可愛らしいリアクション。きっと、このギャップに惹かれているBEESも多いのだろう。常に笑いながら話しているくらいの笑い上戸で、聞いている側の広角も自然に緩んでくる。

「こんなにたくさんBEESのみんなが観に来てくれて、なんか緊張しているんですけど。いつも配信で会っているのにね(笑)」

当たり前のようにサラッと語られた「いつも配信で会っている」という言葉に、HACHIさんとBEESが普段のYouTube配信で、どのような関係を築いてきたのか分かった気がした。
1曲目の「夜迷い言」がこのライブのためのスペシャルアレンジバージョンだったことを明かした後の4曲目は2ndアルバムの収録曲「Deep Sleep sheep」。HACHIさんはいつの間にかステージに現れていた椅子に腰をかけ、優しく柔らかな声で語りかけるように歌っていく。不眠症気味の筆者だが、もう少し夜遅い時間だったら安眠していたかもしれない。


クールなはちたやで盛り上がっていきましょう

5曲目のお洒落なシティポップ「Lonely Girl」に続いては、2ndアルバムの収録曲が2曲続いた。6曲目「さよならfrequency」は、シンプルな伴奏でHACHIさんのボーカルの表現力がさらに際立つ。7曲目「Level off」は、透明感と強さを併せもつHACHIさんの歌声にぴったりの楽曲で、綺麗に流れるメロディとデジタル感強めなリズムのバランスも心地良い。間奏では、HACHIさんの左手の動きに合わせて、会場中のBEESが黄色いペンライトを左右に振っていた。

8曲目は、HACHIさんの代表曲の一つ「バスタイムプラネタリウム」。何度も聴いたことがある楽曲なのに、新鮮さもあり不思議な感覚で聴いていたが、その理由は続くMCで明かされた。3月にリリースされたコンピレーションCD「HARMONICS」に収録されたリミックスバージョンだったのだ。

「私が歌わせていただいている曲は、こういうお洒落な曲やしっとりした曲が多いイメージだと思うんですけど。せっかく、今日は声を出せるから、みんな盛り上がりたいじゃん? 盛り上がってもらえる曲をたくさん歌っていこうかなと思うんですけど。みんな、まだまだ行ける?」

HACHIさんの問いかけに、大きな歓声を上げるBEES。「クールなはちたやで盛り上がっていきましょう」という言葉の後の9曲目は、イントロからクールかつアダルトな雰囲気も漂う「Greyword」。ステージのライティングも真っ赤になって、スクリーンの中では赤い花びらも舞う。間奏では、客席からのコールが自然発生するなど、大いに盛り上がっていた。

続けて披露された10曲目の「涙することは疎か、息もできない」と、11曲目の「Rainy proof」は、どちらもHACHIさんの真骨頂のような楽曲だ。「涙することは疎か、息もできない」の大サビのロングトーンは、会場中の空気を震わせているように響き、このライブを会場で聴けている幸運に感謝した。

一旦、静かになった会場に雨音が聴こえてきて、スクリーンに「Rainy proof」のタイトルが映った瞬間、客席から何人かの歓喜の声が洩れてきた。この2ndシングルに特別な思いを持っているBEESも多かったのだろう。筆者の中でも、HACHIさんのイメージのベースにあるのは、この楽曲を歌い上げる姿だ。ステージ奥のスクリーンには、初期衣装姿のHACHIさんが出演しているMVの映像が流れていることも、懐かしい思いをさらに呼び起こす。


最新シングル「まなざし」を最後に披露

一つ一つの言葉を心に語りかけるような歌い方が印象的な2ndアルバム収録曲「いつまでも」と、どこまでも広がり続けるサビのスケール感に何度聴いても驚かされる1stシングル「光の向こうへ」の後は、この日、3度目のMC。

「今日という日をみんなにとっても、絶対に忘れられない日にするために。みんなの記憶の中で、何度も何度もよぎる思い出にできるように。夏はもう終わってしまったけれど、それでもみんなの心の中にあり続けられるように、この曲を歌わせてください。『八月の蛍』

曲名を聴いた瞬間、客席から拍手が響く。HACHIさんは、緑色の照明とペンライトの光に照らされる中、代表曲の一つである王道のバラードを静かに熱唱した。周囲には、蛍のようなかすかな光も舞っている。その後も温かみと懐かしさを感じさせる「夏灯篭」、ステージ演出も相まって歌声の透明感がさらに増していた「ビー玉」と、夏をテーマにした曲が続いた。

MCでは、夏をモチーフにした3曲は曲のコンセプトも別々なので歌い方も変えてみたと解説。「次の曲が最後の曲です」という残念なお知らせをした後、BEESへの思いを改めて言葉にする。

「こうやって、みんなと同じ場所にいることができて、本当に幸せものだと思っています。みんながいつもいつも、私のことを見てくれていて。心の耳をすませれば、みんなの声を、そして、みんなの眼差しを感じることができる。そんな宇宙一大好きなみんなの前で、この曲を歌わせてください。『まなざし』

ステージの照明はこの日一番と思えるくらい派手に輝いてHACHIさんを照らし、客席もペンライトの光で真っ黄色に染まっている。2ndアルバムにも収録されている最新シングルは、ぶ厚いバンドサウンドと、HACHIさんの伸びやかなボーカルの重なりが印象的な楽曲。会場で聴くHACHIさんの歌声は、広い会場の隅々まで響いていき、CDや配信の音源とはまた異なる広がりを感じられた。

「ありがとうございました。HACHIでした」というシンプルな挨拶と同時に、HACHIさんの姿は金色の光となって消えてしまった。BEESの感動の拍手は、やがて、アンコールの声と拍手に変わる。

アンコールに応えて、HACHIさんが光とともに再登場。初期衣装にショートカットという姿は、8月にYouTubeで配信された「新衣装お披露目ライブ」のアンコールと同じだ。

3回目のワンマンライブで初めて、クラウドファンディングをせず自分の力でライブを開催できたこと。しかも、東京と台北の2カ国で開催されるツアーとなり、会場も大きくなったことなどの喜びと、支えてくれる人々への感謝を語るHACHIさん。以前から目標に挙げている「日本武道館でのライブ開催」に関する思いも改めて話した後、BEESと一緒に歌いたいという最後の曲を紹介。

「HACHIとBEESのみんなで、どんなに辛い夜も、どんなに悲しい夜も、私たちの歌で消し飛ばせるように。みんなで一つになって歌を作りましょう。『HONEY BEES』

アコースティックギターの音色も印象的なカントリーソングは、一緒に声を出して歌いたくなるような楽曲。真っ黄色に染まったライブ会場で、HACHIさんとBEESはまさに一つの歌になっていた。

「今日は本当に、本当に本当にありがとうございました。バイバーイ!」

手を振りながらHACHIさんが退場。スクリーンにスタッフクレジットが流れる間もBEESの拍手は鳴り止まない。最後、「Thanks BEES」の文字に歓声が上がる。そして、スクリーンには、HACHIさんの直筆のメッセージが大きく映されて、「Close to heart」 東京公演は終了した。

3度目のワンマンライブを大成功させたばかりの今、このような感想を記すことが正しいのかは分からないが、HACHIさんのどこまでも伸びていく歌声を、もっともっと大きな会場でも聴いてみたい。そういう思いをより強くさせるようなライブだった。

●セットリスト
1.夜迷い言
2.空が待ってる
3.Twilight Line
4.Deep Sleep sheep
5.Lonely Girl
6.さよならfrequency
7.Level off
8.バスタイムプラネタリウム Remix
9.Greyword
10.涙することは疎か、息もできない
11.Rainy proof
12.いつまでも
13.光の向こうへ
14.八月の蛍
15.夏灯篭
16.ビー玉
17.まなざし
EN.HONEY BEES

(Text by Daisuke Marumoto


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