生身を出すVTuberってアリ!? キズナアイで力を合わせた男たちが、新グループ・SHOWCASEで再び合流したワケ

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Activ8といえば、「バーチャルYouTuber」を名乗り、VTuberのジャンルで草分けとなったキズナアイを生み出した企業だ。その同社が4月12日、新規VTuberグループ「SHOWCASE」の設立を発表した(ニュース記事)。

一番の特徴は、バーチャルの姿だけでなく、リアルの姿でも活動することを明言していることだ。

VTuberといえば生身を出さないことが多く、しかもその業界の慣習はキズナアイから始まったものになる。7年以上というVTuberの歴史の中、ようやくここ1、2年で「中の人」を出すのが禁忌という風潮も薄れてきたものの、Activ8自らが新規軸を打ち出してきたことに大変驚いた。

しかもこのプロジェクトチームは、松田純治氏が運営しているという。彼はActiv8のCEO・大坂武史氏やテクニカルのライブカートゥーンらとキズナアイを立ち上げ、共同プロデューサーを勤めていた人物だ。VTuberというジャンルを生み出した彼は、なぜ今、SHOWCASEを立ち上げるために大坂氏と合流したのか。そして何を成し遂げようとしているのか。おそらく業界初となる2人でのインタビューを敢行した。


高ネットミーム力、癒しの沼、新海誠作品のような青春

──まずは27日に配信デビューするSHOWCASEメンバーの人となりを教えてください。

松田 1期生となるメンバーとしては4人いまして、まず世萌末(よもすえ)らびぃちゃんですが、インターネットミーム力(りょく)の高さが魅力です。今回、ゼロイチで立ち上げるプロジェクトということで、僕的にはトリッキーなミーム力が高い演者さんを切望していたのですが、まさに狙った子が来てくれました。ネットで人気になれるかどうかって、どれくらいはっちゃけられるか、他者にない奇抜さがあるか、タガが外れた行動ができるかどうかだと思っていて、そのパラメーターが振り切れているのがらびぃちゃんです。

大坂さんからすると、ある種の危なっかしさを感じるかもしれないものの、ぜひ生暖かく見守ってほしいと思っています(笑)。オーディションのときには猫をかぶっていたと思うのですが、蓋を開けてみたら下ネタ大好きキャラだったので、その点も魅力になりえるはずです。なんでもさらけ出しちゃいそうな危うさがあるので、ファンのみなさんもぜひ注視してください。

──インターネットの男子ならまず間違いなく好きになっちゃう「おもしれー女」ですね(笑)

松田 夢叶(ゆめかな)えるるちゃんは、直感的に「あっ、この子は沼らせるな」と思った子でした。高いバブみ、包容力が魅力で、ファンにすごく寄り添い、自然体で気持ちのいいファンサができる。人間、誰しも承認欲求があって、ファンなら「推し」に認知されたい思いを持つと思うのですが、そういう気持ちもきちんと汲んでくれる。それにすごくフレンドリーな性格なので、コミュ障のみなさんにも安心して接していただけるんじゃないかと思っています(笑)。強引に距離感を詰めるのではなく、ちゃんと相手の気持ちに向き合って接してくれるところが本当に素敵です。

1人1人の気持ちに寄り添い、大切にコミュニケーションしてくれる丁寧さ。推した分だけ反応が返ってきて、それがファンのみなさんの日常の癒しになってくれるといいなと思います。

──今のVTuberファンなら、普通にハマる人も多いと思います!

松田 葵依(あおい)はるちゃんは、生身を出すからこそ採用した人材でした。なぜかというと、超ナチュラル。VTuberの方って、比較的アニメ声だったり、ちょっとつくってる声の人が多いと思うのですが、はるちゃんはいい意味で自然体。リアルな女の子よりで、インターネットにあまりいないタイプです。そんな子がVTuberをやっているというギャップが魅力ですね。

そして何より、声質がめちゃめちゃよくて、新海誠作品にヒロインとして出てきそうな青春さを感じます。媚びていない、アニメっぽくない感じが逆によくて、「ハムボ」(あざとかわいい声)やアニメ声に忌避感がある人でも、彼女の声やキャラであれば楽しんでもらえるはずです。多分、一般的なキャラのみで運用されるVTuberのオーディションでは通らないタイプだと思うのですが、生身も出すからこそメンバー入りしたSHOWCASEならではのタレントです。

4人目で名称非公開の「メンバーNo.2」ちゃんも6月上旬にデビューを控えていますので、ぜひ合わせてチェックしていただけると嬉しいです!

 
──粒揃いのタレントです。しかし、そもそもどういった経緯から、生身でも活動しようという企画が始まったのでしょうか?

大坂 直接のきっかけとしては弊社とアソビシステムさんで合弁会社のANNINを立ち上げたことです。ANNINとしても、デジタル化が進む時代背景の中でVTuber的な要素は次のカルチャーまでつながるポテンシャルを感じていて、象徴的なプロジェクトをやりたいねとANNINのチーム内でも話していました。唯一、プロジェクトチームをつくるところが課題となっていたところに松田さんから具体的な企画をいただいて、じゃあやりましょうという方向になりました。それはかれこれもう1年前になります。

Activ8の立場としてなぜやるかというと、「生きる世界の選択肢を増やす」という会社のミッションがあって、新しい居場所やカルチャー、そして経済圏を創造していきたいという思いがあります。既に完成している手段や、受け入れられているあり方はそれはそれで大切にしつつも、ここではない世界があったらなぁという感覚を大事にしていて、既成の価値観から一歩踏み出して、主体的に開拓する会社のスタンスなんです。

VTuber市場に当てはめると、現状のいわゆるVTuberは産業として目覚ましく発展してますし、それ以前から生身のタレントの市場も依然としてある中で、二項対立というよりは、その間やそれぞれのいいところを両取りするようなあり方が柔軟に受け入れられていったらいいなとも思っていました。実際にキャストさんの中でもVTuber的な活動はしていきたいけど、生身の自分自身も表に出したいし、受け入れてほしいと欲する方も多く、それは自然なことだし、そういう選択肢があってもいいんじゃないかという思いがずっとあったので。

 
──松田さんもVTuberについて何か思うところがあったという?

松田 そうですね。今のVTuber界隈では生身を出さない活動スタイルがスタンダードだと思いますが、本能的にファンの求めているものは中の人であり、好きな人のことは知りたくなるものだと感じています。あくまで「キャラクター」として世に送り出された仮想な存在だけれど、どうしても貫通したくなる欲求がある。僕は人ならざる存在を世に送り出したかったけれど、人類が普遍的にもつ人への愛や興味関心に飲み込まれた経験がありました。

大坂 松田さんと同じかもですが、僕なりの感覚としては、人が人の影を追い求めるって人間らしい人間ゆえの本能なのではと思ってます。自分自身、映画を見て感動した作品に対してその成果物では満足できず、作品の裏にいる人の影やその人の人となりが気になってしまいます。それって本能というか、人間の性なんじゃないかなと。それもできるだけわかりやすい形で理解したくなるので、監督とか俳優さんとか、特定の象徴的な人にその成果をダブらせて見てしまう。

松田 そこで、2021年にキャラと生身の両方で活動するVTuberグループを立ち上げました。当時も「これはVTuberなのか?」という声はありましたが、結果として今はVTuberとしても受け入れられたと感じています。その活動での印象的な出来事として、生身の姿で出演するイベントを開催した際に熱量が全然違ったんです。キャストもファンも、リアルで直接会えたときの温度感が圧倒的に高かった。やっぱり無理にバーチャルであることを守り抜くよりは、中の人と直接会えた方が喜ばれるなと実感しました。

真にバーチャルな存在の創出には変わらず興味がありますが、今のVTuberファンの多くがキャラクターを貫通して中の人に好意を抱いているのであれば、最初からキャラと中の人をセットで提供してあげた方が、より楽しんでもらえる人が多いのではないかと思っています。

 
──SHOWCASEの前にも、同様のことをやられていたんですね。

松田 そうなんです。実際、今のVTuber業界を見ても、去年でいえば新兎わいさんや天羽しろっぷさんなど、生身も出している個人VTuberが話題になりました。一方で企業ではまだまだ少数なので、もっと盛り上げたいなと!

 
──音楽系では、KAMITSUBAKI STUDIOのVALIS、RIOT MUSICの長瀬有花、avexの七海うらら奏みみなど、生身でライブするバーチャルアーティストも結構増えている印象です。ゲーム実況も割と出てきてますね。

松田 ただ、音楽系ではないバラエティー系かつ企業ではやってるところはまだまだ少ないですね。生身になることで表現の幅もものすごく増えると思うんです。3Dの体を持てない子たちって、現状、Shortsやイベントなども全部Live2Dでやるしかないですが、無理に2Dにしばられる必要ってないと思っていて。ファンは好きになったらどっちも好きでしょ?っていう。

大坂 この話、松田さんは2019年頃から言っていて、彼いわくキャラクターの姿で活動しながら、局所的に中身が出たとしても、最初は世間も抵抗ある反応があるかもだけど、徐々に受け入れられていくだろうって。松田さんは意外とマーケットイン(顧客のニーズから事業を創出すること)志向で、これが将来スタンダード化するみたいなのを見抜く能力が高いなと感じます。

ビジネス的に見ても、VTuberのイベント稼働というのは、場合によっては生身の何倍、何十倍もコストがかかってしまうこともあります。リアルアイドルのように頻繁にイベントを開催してファンとの接点を増やしていくなら、生身でも活動できた方が合理的じゃないかという。今回やっとチャレンジしてもらうに至りました。


7年で変わりゆくVTuber業界

──一方で、キズナアイから始まった「魂」の人を見せない……もちろんアイちゃんは「中の人」はいなくてアイちゃんですが、そうしたActiv8さんから始まった業界慣習が追い風になったからこそ、VTuberブームが起きたという部分もあると思います。

大坂 見せる見せないというか、少なくとも当初キズナアイは、非人間の存在であることを強調していて、AIかもしれないし、人間じゃないけど生きているというSF的な存在が、僕らと同じ世界線にいて、YouTubeという身近なメディアを通じてインテリジェンスなスーパーAIを自称して僕らに語りかけてきてくれるという体験だったと思っています。

そうした存在をこれまではアニメやマンガの中の登場人物に感じていた。でも、アニメはあくまで作品の中で完結していて、僕らと同じ時間軸で生活しているわけではない。そんな時代に本当に生きているかもしれない謎の生命体がいたら、ロマンチックだし、ワクワクするよね、っていうのが「バーチャルYouTuber」としての初期のキズナアイの見られ方だったと思うんです。

その後、初期の「四天王」と言われていた時代に、100歳超えてますとか、あくまでキャラクターとして存在しているという体裁が当たり前だったことは、結果的にリアルの顔出し系の配信者やネットクリエイターが普通だった界隈に差別化が色濃く生まれて、新しいジャンルとして確立するのに一役買ったかもしれないですね。

ただ、次第にVTuberが広まっていく中で、ハイコンテクストな設定よりも、どんどん肩の力が抜けてというか自然になっていって、わかりやすく誰かがアバター着て配信してるんだよね、「いうても中の人いるよね」みたいな理解のされ方がむしろ当たり前になった。配信活動をやりたかった人が、キャラクターの姿をまとってやっているみたいなのが、今のいわゆるVTuberの認識として定着したという流れだと思います。

松田 元々VTuberも、いわゆるロールプレイを楽しむみたいなところがあったと思います。魔法使いだとか、船長ですとか、剣士ですみたいな。ジャンルの呼び方が、バーチャルYouTuberからVTuberに移り変わり始めたときには、まだ「キャラクターであらねばならない」みたいなエッセンスが残っていたのですが、活動者が増えるにつれて、ロールプレイする目新しさも薄れてきて、とりあえずガワをかぶっておけばオッケーみたいな風潮も出てきた。

それはここ数年で、新兎わいさんや天羽しろっぷさんのような、生身も普通に出している方がバズったのが象徴していて、「ロールプレイって究極的には必要ではないよね」というのを市場が受け入れ始めている裏付けだと思います。VTuber文化がコモディティ化したことにより、トレンドがどんどんシフトしていって、「そんな原理主義みたなこと気にしなくてもいいんじゃない」みたいな人たちも流入してきている。

 
──2016年12月のキズナアイデビューから7年以上かけて、時代が変わってきたという感じです。小学6年生が大学生になるぐらいの時間ですしね。

松田 「VTuberなのに中身出すんですか?」という話は、生身を取り扱っていると結構言われるんですよね。やっぱりまだ否定的な意見を投げられることもあるし、どこかで「VTuberはこうじゃなきゃいけない」という気持ちがあるから、みんなあまりやらないのかなと思うんです。特に企業勢は大手を振ってやりにくい状況だと思うので、今、自分たちがあえてアクセルを踏んでやってしまおうという。


新ジャンル「WTuber」(草チューバー)爆誕!?

松田 そもそも現状のVTuberという土台があるから、生身でも活動することが新しいと感じてもらえるわけで、前段がなかったら別に普通のことだと思うんです。

 
──VTuber自体も当初、YouTubeという生身のネットクリエイターの市場があったうえで、そのカウンターとして同じことをアニメの姿でやるキズナアイが出てきたわけですからね。VTuberという市場に向けてのさらにカウンターという。

松田 VTuberの検索候補を見てもわかるように、VTuberの中の人を知りたいニーズって強いと思うんです。もちろんロールプレイが好きな人もいますが、ユーザーによっては、本当に食べたいものはロールではなくて、キャラクターの向こう側にいる中の人なんです。VTuber市場が広がった今、そういうニーズに向き合った表現をしてもいい段階なんじゃないかなと。

 
──わかります。かつて生身のYouTuberを毛嫌いしていた層が、アイちゃんがYouTuberと同じことをやり始めたら手のひらを返したように「面白いじゃん」ってとりこになっていったみたいな。「生主」だと興味が持てなかったけど、ガワがあるVTuberなら受け入れられる。市場が飽和して、さらに拡大させるなら変化球が求められるタイミングなのかもしれません。

松田 あとは食べやすさですね。僕もオタクなので思うところがあるのですが、料理の出され方で拒絶するときってやっぱりあるんです。「YouTuber? いけすかないリア充のやってるヤツね」「いやいや、違うんですよ。こうやって……」って、料理の仕方できっと変わってくる。だからリアルな子にいきなり行くのは苦手な方も、VTuberという接地点があれば美味しくいただいてもらえると思っていて。

僕はVTuberも素晴らしいと思いますが、配信時にパソコンの前でわちゃわちゃしている姿など、そのキャストの機微までをLive2Dや3Dモデルで表現するのは難しい部分がある。その姿を見れたら、みんなもっとその人のことを好きになっちゃうんじゃないかなって。

やっぱりガワをかぶることでその子の魅力の深部に到達できないこともあるんです。もちろんかぶったほうがいいこともありますが、今のVTuber界隈にはそうしたメニューがまだ少ないので、われわれが提供することでイイじゃん!と感じてくれる人がもっと増えるかもしれない。

キャストの中にも、中身を出して活動したいけど、今のVTuber事情では実現できないと考えている人がいるかもしれない。なので、われわれは活動スタイルのモデルケースを増やしたい。今のVTuber文化を壊したいわけではなく、さらに多くの人がVTuberという文化に興味を持って接触してくれるといいなと。「VTuberはちょっと……」と敬遠している層が、キャラだけではない活動者の姿を見ることで、VTuber文化全体のファン層を拡張できたらいいなと思っています。

 
──異なる層へのリーチは重要で、「ぶいすぽっ!」も既存のVTuberとは別のeスポーツファンを取り込んで急成長したイメージがあります。しかし、そうなるとYouTuber/バーチャルYouTuberの関係のように、別のジャンル名が必要ですね(笑)

大坂 「2.5V」とか?

松田 なんだろうね。みんなから募集します?

 
──YouTuber、VTuber、AITuberみたいな語呂合わせで「〜Tuber」がいいと思いますが。

大坂 それでいうと結構、「W」を押してるんですが、言いづらいんですよね……。「2.5」や「半生」というよりは、キャラクターとしても存在しているし、一方で生身でも活動するから実態としてどっちもあるわけで。こっちが自分でアバターは自分ではない、というよりデジタル空間やネット上ではこのキャラのアバターなんだけど、それももちろん自分。でも生身も当然自分だしっていうのがこれからの時代のあり方の選択肢として成立してほしいなと。需要ありそうだなと思って。だからハーフというニュアンスよりはダブル、これは人の受け売りなんですが。2倍楽しめるかも?

 
──「WTuber」(ダブチューバー)的な?

大坂 ダブチューバーか……。

松田 じゃあ読み方は「草チューバー」ですね(編集註:「w」は日本のネットスラングで笑いを表し、その「w」が草に見えるのでさらに笑ったことを「草」と表現する)。

一同 草チューバーwwwww

松田 そんなノリでファンのみんなと一緒につくって親しまれて定着していくといいですよね。


声優がたどった歴史に近いVTuber業界?

──具体的には、どう言った感じでバーチャルと生身の活動を切り分けていくのでしょうか? 生身に会えるのはイベントだけという?

松田 もちろん生身は現実でしか会えないと思うんですけど、ネット上での活動に関してもいわゆる実写は全然出していく予定です。論点になるのは顔出しだと思っていて、そこはタレントに合った出し方を模索していきます。

大坂 繰り返しになるかもしれませんが、選択肢があるというのはActiv8としても共感する話です。キズナアイはキズナアイという生命体ですが、一方でいわゆるVTuberは中の人がいるけど、メタい話をするのはNGだったり、顔を出すのはもってのほかという風潮もあったりする。それも楽しみ方として共感しますが、絶対に中の人を出せないという選択肢しかないのはもったいない。アバターで活動したいけど、ワンチャン顔も出したいという人たちにも、活躍の場が作れたらいいなと思い、このプロジェクトに至ったという感じです。

 
──お話を聞いていて、なんとなく声優の歴史にも近い気がしました。最初は声だけの演技のはずだったのに、業界が注目されてプレイヤーが増えると、ビジュアルだったり、バラエティー力だったりと、別の売り出せる要素がないと差別化して目立てないみたいな。

松田 おっしゃる通りで、まさに僕も声優業界の歴史を繰り返すと考えています。そもそも表に出ることが珍しかったのに、どんどん容姿にも注目が集まったり、グラビアもやったりみたいな、中の人をフィーチャーしていく流れを肌で感じてきました。

VTuber界隈も、さまざまな手で差別化してきたところで飽和して、いよいよ中の人の付加価値によりフォーカスされる流れが出てくるんじゃないかと。キャラクターをかぶるという点では同じなので、ひとつのベンチマークとして声優業界は参考にしています。

大坂 松田さんは大学が同じだったんですが、当時から本当にオタクでしたからね。

 
──なんと!

松田 スタートで言えば中学1年生のときにNHKで放送していた「カードキャプターさくら」で、そこからもう25年ぐらいのオタクですね(笑)。そのせいか、キラキラしたものがあまり好きじゃなくて、実は声優には実直に芝居の練習をしていて欲しい。声優とかアニメは陰キャの宝物なのに、「あー、グラビアとかチャラチャラしたのやっちゃうんだ」みたいに斜に受け取る傾向がありますね。

 
──厄介だ(笑)

松田 もちろん当時も声優のみなさんが努力しているというのは理解していましたが、どうしても心の陰キャが出てきてしまう。

 
──まさに、生身を許せないVTuber原理主義者と同じですね。

大坂 僕からすると、松田さんはめちゃくちゃストイックで、自我を殺してエゴをしまい込むタイプなんです。松田さんとしては声優がキラキラしていくのを許せなかったけど、市場には受け入れられていく。「これが現実か」と、自分を戒めているみたいな。

松田 僕自身は、実はかなりバーチャルYouTuber原理主義者だと自負しています。だからこそ、あえて生身も出すVTuberを自分で仕掛けたい。ただ、送り出す側になり、声優やキャストを近くで見ていると、キラキラしてる裏側で、みんな本当にがんばっているんだと実感しています。

 
──生身を出す前提のVTuberでいえば、ガワだけなら関係なかった体型の維持など、何倍も努力しなければならないですよね。

松田 VTuberにも、生身にもどっちにもチューニングしていかなければいけないわけであって、単純計算でやることが2倍になってしまう。全然チャラついている暇はなくて、よりストイックになっていく必要がありますね。


LEDの壁がないから感じるファンの熱量

──体験として、既存のVTuberと比べてファンが「スゴい!」と飛びついてくれそうなコア体験は、何になるでしょうか?

松田 やっぱり僕はリアルイベントだと思っています。同じ空間で、キャラクターの姿を投影するLEDを挟まないで、全員が一体になって同じ体験をする。オンライン上で日々関係値を構築してから、いよいよ本人に会えますというある種のオフ会のような状況が魅力になると思います。

あとは演者さんのモチベーションが上がるところも結構大きいと思っていて、そうした場を提供できるのもマネージメント側として強い。コロナ禍が明けてリアルに回帰している状況で、リアルで一緒に楽しもうよというエンターテインエントを提案したいです。

 
──大坂さんはどう思われますか?

大坂 ユーザーさんに提供したい体験については松田さんに全面的にお任せしているのですが、タレントさんに活躍の場をというのは共感するところです。やっぱり途中から方針を変えるのは難しくて、最初から中身も出るという前提で運営していく方がキャストさんもモチベーションが高まるでしょうという。ユーザーさんって素直に好きだなって思える「推し」を発見して、その人を応援したいというだけなので、気持ちよく推してもらえる体験を戦略的に設計したいです。

 
──途中から方針を変えられると、何か裏切られてしまったと思うファンの気持ちもわかります。そもそもの話、お二人とも多くの現場を見てきたと思われますが、中身を出したいVTuberって多いのでしょうか?

松田 多い印象があります。もちろん出したくないという方もいて、だからこそVTuberという選択肢があるのですが、一方でVTuberをやっているがゆえに中身を出せなかったから、別名義で配信しているみたいないびつさもあったりして……。本人が問題なければ、同一名義の方がファンも分かりやすいし、応援の気持ちも純粋にその人に直で伝えられると思うんです。名義を分けるのも一つの選択肢ですが、別名義でやるのがまどろっこしいと思う方には、新しい選択肢として同一名義でやっちゃいましょうという。

先ほども少し触れましたが、自分の経験でいえば、生身でのイベントについて特に演者さんが喜んでくれたんです。ネットで配信してると、100人、200人が配信にきてくれても、実際にどれくらいの人数なのかというのが肌感覚としてあまりピンとこないんだと思います。イベントでもLEDを挟んでしまうと、いつもの配信と変わらずにモニターの前でカメラの映像を見ることになってしまう。

でも、リアルで目の前に200人が集まってきてくれて、1人1人の顔が見えて、LEDではなく自分を見てくれているというのは、高揚感というか、実際ににこんなに多くの人たちが自分のこと応援してくれてるんだっていう確証が得られる。そこでもらった活力が、またネットに戻ったときの原動力になんです。同接数がただの数字じゃなくて、ネットの向こう側にいるファンを具体的に想像できるようになるのが大きいです。

その演者の体験価値って全然違って、それによってモチベーションやパフォーマンスが上がることで、ファンの人もより推し甲斐があるWin-Winな関係がつくれると感じています。

 
──タレントビジネスにおいて、本人のやる気って一番重要ですよね。

松田 もちろんVTuberとして生身を隠せるからこそ、黒歴史をさらけ出せたり、普段は絶対見せないことができて、それがコンテンツになってきたというメリットがあるのもわかります。一方で、こうしたファンと直接向き合えるという選択肢があって、納得感やモチベーションを持って活動できることも大事だなと。

 
──こうして色々話を聞くと、色々な意図があるのだと感じました。

大坂 4月12日にSHOWCASEを発表した際、「別にもう同じようなVTuberいるよね?」という反応もあったんですが、確かにそうでありつつも、例えば「Alleles project」については、声優さんがバーチャル世界にDiveしていくというコンセプトだったし、目指している体験が違うんです。でも説明しないと、わからないものだと思っています。

松田 基本はVTuberとして配信やコンテンツ投稿をしていくけれど、その子たちが活動の中で生身も出すよっていうスタンスです。コラボも積極的にやっていきたくて、VTuberさんはもちろんなんですが、生身も出せるからこそ同じような方々とコラボしていきたい。それこそおめシス(おめがシスターズ)さんがやってるロケとかすごく面白いなと思っていて、僕らだけだと色物に見られてしまうかもしれないけど、一緒にチャレンジしたい方々と新しいジャンルを盛り上げていきたいです。

 
──なんだかVTuberのジャンルが、キズナアイからフォロワーが生まれて「四天王」の時代になったことで爆発的に伸びたみたいな、可能性を広げていく流れと同じものを感じます。

松田 まさにそれですね!

 
──そういえば、くしくも12日という同じ日にClaN Entertainmentからリアルとバーチャルの両方で活動するVTuberプロジェクト「ぱらすと!」が発表されましたが、何か示し合わせたのでしょうか?(笑)

大坂 合わせたわけではないです(笑)。でも絶対に比べられますよね。今のSHOWCASEは予算も限られたインディーなプロジェクトですが、競ったり協力したりして界隈を盛り上げられると嬉しいです。

松田 個人的には、同じチャレンジャーとして、ぜひ一緒にこのカルチャーを盛り上げていきたいと思っています! 他にも同じように活動をされているVTuberさんともぜひ積極的にご一緒していきたいですね。「SHOWCASE」はネットでもリアルでも距離感の「近さ」を感じてもらえる方針で活動運営していきますので、ぜひ27日20時からのデビューリレー配信をご覧ください!!


(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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