バーチャルタレント・巻乃もなかインタビュー 本当の自分を出す葛藤、その先にあったカメラやVRChatを語る楽しさ

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AVATAR2.0 Project」(A2P)といえば、2018年にスタートし、現在18名所属の大所帯にまで成長したバーチャルタレントプロジェクトだ。

そのA2Pに所属する巻乃もなかさんは、熾烈なオーディションを勝ち抜き、見事1期生として「フカヒレ」さんが手掛けた姿で2018年12月にデビューしたバーチャルタレントになる。おっとりした癒される話し方に加えて、天体観測やカメラ、バイクといった「男のロマン」な趣味を持つことでも共感を集めてファンを増やしてきた。

2019年12月には、同じフカヒレさんから生まれた、泡沫調さん、幸糖ミュウミュウさん、青咲ローズさんとともにグループ内ユニット「フカヒレシスターズ」を結成。今年6月からは東京秋葉原にあるオムライス専門店「神田たまごけん」秋葉原店でイメージガールを務めるなど、活動の場をぐいっと広げている。

栄枯盛衰の激しいVTuber業界において安定してファンを増やし、1年半以上も活動を続けてきている彼女の素顔はどんなものなのか。その魅力にインタビューで迫ると、バーチャルタレントとして活動する葛藤、元々備えていた新しいものへの好奇心旺盛な姿勢、ひたむきに努力する性格などが浮き彫りにされた。

 
*本インタビューは、PANORA主催のオンラインイベント「ネットおしゃべりフェス AVATAR2.0 Project編」において、ファンより贈られた「進化ギフト」の報酬となります。


「自分の声が好きじゃなかった」

──A2Pというと、最初に「最強バーチャルタレントオーディション~極~」がありました。もなかさんが応募されたきっかけは?

もなか 元々、あまり自分の声が好きじゃなくて……。

 
──えっ、そのふわっとした声が魅力のひとつじゃないですか!

もなか 昔、同じクラスの女の子から「ぶりっこしてる」って言われることがあったんです。でも、いつまでも自分の声を嫌いでいるより、好きになったほうが多分、人生楽しくなるなって。ほめてくれてた人もいたので、自分を変えたいって思っていたんです。ちょうどそのときに、SHOWROOMの社長の前田祐二さんをTwitterでフォローしていて、こんなオーディションをやるよと「極」のことをつぶやいていたので、見た瞬間にこれだと思って応募しました。

 
──すごく運命的で、なるべくしてデビューしたんですね。

もなか そこはわからないですが、でも「もうこれしかない」と思って応募しました。オーディション中は、「自分は巻乃もなかだ」と思って過ごしていたのですが、いざ選ばれてみると、嬉しさの反面、漠然とした不安もありました。当時は、他の12人の何かを背負わなきゃ、がんばらなきゃっていう、焦燥感っていうんですかね、何か結果を出さなきゃという気持ちと悶々と戦っていました。

 
──全然表に出されてなかったですが、そんな葛藤があったんですね……。

もなか それはみんな表に出さないだけで、多分色々あるかと思います。

 
──バーチャルタレントは、まだ業界が立ち上がってから数年なので、そんな当事者にしか見えない苦労や葛藤も多いと思います。

もなか 活動を始めてからは、素の自分を出していいのかという悩みもありました。「巻乃もなか」は、オーディションの時点で「ウィスパーボイスでテンションが上がると方言が出る、少し変わったおっとり系女子。好きなものはコンビニスイーツ」という設定がありました。

でも素の私はカメラやFPSが元々好きで、それはどちらかというと可愛らしい趣味じゃないですよね。カメラでも「お花を撮ってます」とかならまだかわいいと思うんですけど、「廃墟を撮るのが好き」だと、「おっとり!?」みたいな感じに思われてしまわないかなって……。本当に好きなものをどこまで伝えていいのか、自分を出さない方がいいのかなと考えながら活動を始めました。

 
──一方で、VTuberさんは元の設定と素のギャップの魅力が受けて、ファンが急増するということがよくあります。もなかさんがカメラ好きを表に出すきっかけはあったのでしょうか。

もなか 2019年の3月に古い中判カメラのファインダーに自分と桜が写っている写真をTwitterで公開したら、カメクラさんたち(カメラクラスター、カメラ好き)が反応してくれたんです。

さらに匿名で質問を送れる「マシュマロ」に答える配信をやっていたときに、何かの拍子にカメラの話になって、そこでタガが外れたように語ってしまったことがありました。そのときは「やってしまった、これはいかん」と思っていたのですが、後日、リスナーさんがその配信を切り抜いてくれた動画を、Twitterに投稿してくれたんです。

そのツイートを、桜の写真の直後にリツイートしたら、「カメラ好きだったんだ!いいじゃん」ってほめてくれる人がいて、誰も設定と違うことを責めなかったんです。そこで意外と自分の好きなものを出してもいいんだ、怒られないんだと思って。

 
──ギャップを意図的に活用して印象付ける方もいますが、もなかさんはそうではなく、葛藤があった上でファンをきっかけに表に出せるようになったという。

もなか そうですね。


天体観測きっかけでハマったカメラ

──もう少しカメラの話を深掘りしたいです。興味を持つきっかけは何だったのでしょうか?

もなか 最初は星を撮りたいと思って、普通よりセンサーサイズが大きくてレンズもF1.8で明るいコンパクトデジタルカメラを買ったんです。

 
──といわれるとどの機種でしょうか。

もなか キヤノンの「PowerShot S120」です。同時期にソニーの「RX100」(DSC-RX100)も出ていて……。

 
──RX100もコンデジの名機ですよね。PowerShotを選んだ理由は?

もなか 何か、パワーがありそうだなって。でも撮り続けているうちにコンデジでは使いにくいと思うシチュエーションが増えていって、その後、ソニーのミラーレスを買って、さらに一眼レフに乗り越えて沼にはまっていきました。

 
──1回買うとまず「レンズ沼」にはまりますよね。

もなか そうなんですよ。一眼レフも付属の標準ズームのほかに50mmの単焦点レンズを買い足してしまいました。

 
──今のお気に入りのレンズは?

もなか 前の「ネットおしゃべりフェス」でファンのみなさんに送っていただいた「50mm F1.4」です。この前、ファンのみなさんから送っていただいた「バター味のフライドにんにく」もこのレンズで撮りました。

 
──すごくいいエピソード!ギフトをお供えしたファンのみなさんもむせび泣いてると思います……。

もなか 泣いてくれ! でも、周りにカメラの話をできる人が中々いないのでTwitterなどでお話できるのは嬉しいです。


VRoidの着替えに魅了されてゼロからUnityを覚える

──もなかさんといえば、VRChatにも出没されてますよね。

もなか デビュー後、ピクシブさんの3Dアバター作成ツールの「VRoid Studio」を使って衣装を「お着替え」していました。VRoidは、お洋服のテクスチャーを描き換えるだけで服を着替えられるというのが素敵で、表現方法も豊富なんです。A2PはもともとピクシブさんとSHOWROOMさん、ツインプラネットさん(編集註:現在運営は「いろはにぽぺと・異世界系譜のvGarden」に移管)の3社で始まった企画ということもあって、もっとそのよさを伝えたいという使命感を感じていたんです。

着替えだけでなく、VRoid Studioでツインテ、ポニテ、二つ結びなどのヘアアレンジにも挑戦しています。私は髪型をちょっとくらい変えても巻乃もなか感があるので、ヘアアレンジも満喫しています。 この夏はポニテが多いです!

さらに浴衣や、揺れ物調整など、VRoid Studioだけでは実現できない服を着るために、Unity(ソフトをつくるための開発環境)も覚えるようになったんです。

 
──えっ、いきなりUnity!? 過去にゲームやアプリをつくる仕事に就いていたとか?

もなか バーチャルタレントを始めるまでは、Unityを1回も触ったことがなかったです。お洋服を着替えるようになり、もっとできることを増やしたいという思いで触り始めたんです。当時、本当に技術が何もわからなくて運営さんに頼りっぱなしで、たびたび「これをこうしてくれませんか」とお願いしていたのですが、その都度、運営さんの負担になってしまうじゃないですか。

 
──まぁ、でも仕事ですからね……。

もなか でも、できない自分も嫌でしたし、それなら自分でやったほうが速いなってUnityを触り始めました。

 
──元々パソコンが詳しかったり?

もなか 全然! 本当に何も知らないところから、色々勉強していった感じです。過去に着替えたお洋服の写真はforiioにまとめています。

 
──スゴい。「アイドルとは」という印象です。そんな着替えた衣装の中で、一番のお気に入りを聞きたいです。

もなか 浴衣かな。メイド服も好きです。私はママに「服とか着替えて遊んでオッケー!」と許可をもらっているので、その日の気分、時間で着替えています。23時以降の配信だと大体パジャマです!

VTuberさんというと新衣装のお披露目がひとつの大きなニュースですが、私はあまりに毎日服が変わったりするので、衣装系のイベントがまったく存在しなくなっているのが悩みの種です……。ファンのみんなは新しい服に気づいてほめてくれるので、そこは嬉しいです!

浴衣
晴れ着
水着
セーラーワンピ

 
──あっ、お着替えをまとめたページに、zenさんの「ワニでもできる!モデリング for VRChat」に出てくるカボチャのアバターもありますね。

もなか そうなんです! zenさんのBlender(3D制作ソフト)講座の動画を見てつくったので、ここに載せておこうと思って。

 
──こうした動画の講座って、見ても実際につくろうとする人はそんなに多くないと思うんです。それをきちんとつくって、しかも他人に見せるところまでやるという姿勢は、本当に真摯だと思います。

もなか 興味を持ったら、まず手をつけたいタイプなんです。


「VRの世界はもっともっと大きくなる」

 
──そうした技術を身につけた上での、VRChat入りという。

もなか VRChatを始めたきっかけは、年に2回ほど実施している「バーチャルマーケット」というイベントに行きたかったからで、「2」から現地を訪れています。そんな「VRChatに行けるよ」という話をTwitterでしていたら、天体好きな方が集うユーザーグループからお声がけいただいて、今年3月に天文仮想研究所さんのグランドツアーにお招きいただいたこともありました。

ファンの方々もVRゴーグルをかぶってVRの世界に来れば、どんなに距離が離れていても、本当の顔や名前を知らなくても、実際に体を目の前にして声も聞こえて……。映画「レディ・プレイヤー1」じゃないですが、私たちは新しい世界にいると思って。もしかしてリアルでは重いものや、しがらみがいっぱいあるかもしれないけれど、その重力から解き放たれたここは楽しいだけの空間なんだなと。VRChat最高じゃんっていう。

 
──(涙)。Oculus RiftのDK1に喚起されてVR業界に飛び込んだ関係者の涙が止まらないような話です。

もなか 色々な人がいて、出入りも結構自由で、素敵なワールドとかに出会ったときには未来を感じてしまって。もちろん技術もすごいですが、「これも表現できるのか」というものに出会うとワクワクしてしまうんです。

 
──今、全俺がはらはらと泣いてます。新技術に興味があるのは男性が中心で、現状、それに共感していただける女性タレントはかなりレアな状況で……。

もなか VRChatって、XR関係者だけがつくっているわけではなく、そんなに技術的には詳しくなかったけど、興味を持って動いた普通の人が積み重ねてきたところがありますよね。その熱量を考えると「つえぇ~」と思って、私もやりたいと共感してしまったのです。VRChatを訪れるたびに、VRの世界はもっともっと大きくなるというのをいつも実感します。

 
──われわれVR業界の人々が言いたいことを全部代弁してくれました。

もなか いやいや、私、語彙力がないのでうまく伝えられなくて……。VRについて体験せずに「ただの映像じゃん」みたいなことをいう方もいるかもしれないですが、ゴーグルの中には見たことがない世界が広がっているし、もしかしたら自分の新しい人生がそこにつまっているかもしれない。だからもっと色な人に体験してほしい!

私が「めっちゃ楽しかった」と話したことをきっかけに、初めてVRChatを訪れてくれた人もいました。決して多くない人数ですが、それでも安くないVRゴーグルを買ってくれて、実際にVRChatにログインして楽しかったと言ってくれたのが本当に嬉しかった。VRで新しい楽しさや、新しい人生を見つけてくれたらいいなぁって。

VRChat上でのイベント出演については、事務所にも許可をもらっているので、フットワーク軽く参加できます。VRChatのイベントのゲストに巻乃もなかを! ぜひ呼んでください!

 
──「語彙力がない」と謙遜されてますけど、VRのコア体験をきちんと言語化されているのが素晴らしいです。最後に、これから挑戦したいことはありますか?

もなか オーディションを受けたのが、自分を変えたい、自分の声を好きになりたいという理由だったので、声のお仕事に挑戦したいです。ナレーションであったり、歌であったり、自分の声を使ってもらえることがあれば運営さんと相談してやらせていただきたいです。お仕事のご依頼はA2Pの公式サイトより承ってます。

ほかにももっと技術つよつよになって、自分のVRで表現したいものをつくっていけたらなって。オーディションの前から、天体を撮影するためにリコーの360度カメラの「THETA」(シータ)を使っていて、自分が見て360度写真で撮った景色をバーチャル空間に持って行ってみんなに味わってもらいたいなという思いもあります。もっともっとできることを増やしたいです。これからも巻乃もなかをよろしくお願いします。

 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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