この6月、ニュージーランド・StretchSenseが開発するモーションキャプチャー用グローブ「Studio Glove」が日本国内で個人向けに発売された。PANORAでもニュースで取り上げたが、Xでの反応なども多くユーザーの関心の高さをうかがえた。
そんな中、実物を触って、来日中の開発元にインタビューできる機会を得た。対応してくれたのは、共同創業者でVPパートナーシップ・ニューマーケットのBen O’Brien氏で、今後VRChatへの対応を予定しているなど、開発の現状や今後、製品の特徴を詳しく解説してくれた。
──まず、モーキャプ用グローブの会社を設立したのはなぜですか?
Ben氏 私たちは事業をスタートした当初から、人々がバーチャルで交流して、自己表現できる世界を目指すというビジョンを掲げ、人々がバーチャルワールドに触れる手助けができるように努力してきました。その中で特にVTuberはバーチャルワールドをリードする存在で、特に日本は市場や技術、文化などの成熟度において他の国を5年リードしていると感じています。
日本のVTuberは技術に精通していて、新しいことを試したり、自己表現が好きな人が多いですよね。なので、われわれのミッションはバーチャルワールドで気軽に手でタッチできる環境をつくり出して、よりコンテンツを楽しんだり、コミュニティーの交流を促進することです。VTuberは、そのきっかけをつくる業界としてぴったりだと思います。
──事業としては、最初にプロ用のグローブを作り始めたという流れなのでしょうか?
Ben氏 会社を設立した流れをお話しすると、まずセンサー技術の会社としてスタートしています。この伸縮可能なセンサーが弊社のコア技術で、最初の5、6年はボディースーツやヘッドギア、義肢装具、多くのR&Dプロジェクトなどにセンサーを取り付けてきました。
2012年に創業したときはまだVR市場は存在しておらず、技術も整っていなく、またわれわれのチームも成熟していませんでしたが、2019年頃になって、ようやくVRやARの市場が拡大し、我々の新しい技術で新しいことに取り組む準備も整ってきた。当時、モーションキャプチャーは映画やゲームのコンテンツ制作において主流になっていたので、新たな表現を追求して文化をリードしているトップ企業と組んで、プレミアムで高品質なプロ向けグローブを発売しました。そして今、ようやくコンシューマー向けにも提供できる準備が整ったわけです。
──コンシューマー向けを出そうと思った背景には、世の中に個人のVTuberが多く存在するといった事情などが影響しているのでしょうか?
Ben氏 われわれの野望は、1億人の人々にグローブをはめてもらうことです。とても大きな夢で、10年かかるかもしれませんが、遅かれ早かれVRヘッドセットが普及すれば、人々はバーチャルワールドでインタラクションする方法を必要とし、VRグローブはこの問題を解決する優れた手段になります。
では10年後ではなく今、バーチャルワールドで仕事をしているのはどんなひとたちでしょうか? VTuberがまさにそれに該当する人々で、コンテンツやコミュニティーをつくり、ツールを構築しています。バーチャルワールドのパイオニア、アーリーアダプターとして、VTuberに注目したのです。
そのVTuberはステップ1で、ステップ2としてVRChatやその他のVRアプリケーション、ステップ3には企業向けのトレーニングや生産性向上のためのXRアプリへの活用を考えています。
──VRChatの話が出ましたが、対応を望んでいるユーザーも多いと思います。いつ頃にになりそうでしょうか?
Ben氏 もうすぐです。私たちはツールは信頼できる状態で出すべきと考えています。そのため、最初のステップではVTuberにフォーカスして、バーチャルモーションキャプチャーやWarudo、Unity、Unreal Engineで動作するようにして、しっかりサポートしていきます。ステップ2では、VRChatでもグローブを使えるようにする追加機能を用意します。
──競合となるモーキャプ用グローブがいくつかありますが、それらに比べてStretchSense Studio Gloveが優れた点はどこにあると思いますか?
Ben氏 3つありまして、1つ目は現実世界での使い勝手も重視しているという点です。ユーザーは手袋をはめた状態でも、頭をかいたり、メッセージを入力したり、マウスや携帯電話を使ったり、ピザやカスタードパイを食べたいですよね? 他の手袋は、指にプラスチックのゴツゴツしたものがついていたり、ケーブルが硬くて重かったりして現実世界の邪魔になりますし、タイピングもしにくい。われわれのグローブはウェアラブルで、最も薄く、快適なグローブだと思います。
2つ目は価格です。高級なモーションキャプチャーグローブは、以前は5000〜7000ドルしていましたが、われわれは795ドル(12万6500円)、10分の1に近い価格でプレミアムな体験を提供しています。そして3つ目は頑丈さと安定性です。他の手袋でこんなことをしたら、壊れるだけです(と、テーブルに置いた手袋を拳で叩く)。
──すごい(笑)。先行してプロ向け市場でリリースしていましたが、ユーザーからどんな意見をもらっていますか?
Ben氏 バッテリーが一日中持つ、通信範囲も非常に広い、接続が切れることもない。叩かれても、ぶつかっても、怪我をしても、気にならない、手袋をはずしてまたはめてもそのまま使い続けられる……などです。信頼性が高いので、映画やゲーム、ライブ中継など、大きなプレッシャーがかかる場面でも安心して使えて、コストの節約にもつながるし、最終的に高品質なゲームやショー、プレゼンテーションにつながります。。
「信頼できる」「機能する」というのがとても重要で、われわれはこのことを正しく理解するのが大変でした。課題を抱えた顧客と何年も一緒に仕事をし、「これを直して」「これを直して」「これを直して」という注文を実直にやってきました。その結果、本当に堅牢で信頼できる製品が生まれた形です。
──今後、どんな機能向上を予定していますか?
Ben氏 今のVTuber向けに加えて、VRChat用のソリューションを提供したあとは、現状動作にはPCが必要なので、一体型VRヘッドセット向けの対応を検討しています。あとは1億人に普及させるためにも今後数年間、コストを下げることを計画しています。より快適で、より装着しやすく、より薄く、より安価になるように、努力し続けます。
(TEXT by Minoru Hirota)
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