ヒロインは配信事故したVTuber!「VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた」が始まった

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突然だが、インターネットカルチャーのなかで長い間支持をうけているコンテンツといえば、野球、マンガ、ゲーム、そしてアニメではないかと思う。

別にこれといった調査があったうえでの話ではなく、長くネットをやっている筆者の体感ででしかなく、ほかにも「これ!」と言われるものもあるだろう。

とはいえ、これらのコンテンツからは様々なネットミームが生まれたり、専門のネット掲示板が時代とともにいくつも生まれ続けているという点で、筆者としては上げざるを得ない。そういったネットカルチャーのなかで新たに台頭しているのが、配信者・ストリーマーであり、VTuberと言っても過言ではないはず。

また、インターネットでの流行・ミームを取り入れた作品が生まれることも多い。マンガ内のとある1話分・とある時期として取り上げるだけではなく、作品まるごとのコンセプトとして打ち出して時流に乗った挑戦的な作品たちを、パっと思い出す読者もいるだろう。そういった挑戦的な作品に人気が集まり、みごとアニメ化まで至ったというなら、元々の流行・ミームを知っていた身としてはチェックせずにはいられない。

ということで、2024年夏アニメとして話題を集める「VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた」について、今回はフォーカスしていこうと思う。なお、本原稿は1話を視聴後の執筆となる。

「ぶいでん」を簡単にまとめてみた

「VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた」は、2020年6月22日から小説投稿サイト・ハーメルンにて連載がスタートしたウェブ小説であり、2ヵ月後の8月4日からはおなじく小説投稿サイト・カクヨムでも小説が投稿されるようになった。

2021年5月20日にファンタジア文庫から第1巻が発売され、前日19日には佐倉綾音が主人公の心音淡雪を演じたPVが公開された。

「配信を切り忘れてしまって素の性格をさらしてしまう」という作中に起こってしまった事故をそのまま模したPVは、「VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた」というタイトルの伏線回収でもあり、あまりにも”VTuberそのまんま”過ぎる理解度高い内容ということもあり、かなりの話題を呼ぶことになった。

2021年9月17日にはホロライブ・宝鐘マリンとのコラボ動画も投稿され、VTuberファンのなかでも同作品がより知られるようになった。

著者・七斗七(ななと なな)の超高解像度なVTuber理解による細々とした描写、コメディタッチなストーリーラインも相まって人気を獲得していった同作。その後はYouTube公式チャンネル・KADOKAWAanime、今年に入っては劇中に登場する事務所・ライブオンに倣った公式チャンネルから動画投稿するようになり、2024年7月から晴れてアニメ作品が放映されることとなったのだ。もちろんその内容も、どこかVTuber的な内容となったものが多い。


放映された第1話を振り返ってみた

こうして原作ファンおよびVTuberファンからの注目があつまるなかで放映されたアニメ第1話は、VTuberのあるあるネタ、そしてネットミームがさまざまに盛り込まれ、SNSで話題を呼ぶことになった。

オープニング映像では、くしゃみをする淡雪に「助かる」「これも清楚」とコメントが打たれ、ライブオン所属のVTuberがパッと衣装を変えるシーン、YouTube用のサムネイルがいくつも並び、「心音淡雪 1stソロイベント開催決定!」の文字。じつはここまではオープニング映像のほんの20秒ほどの間なのだが、矢継ぎ早に現れるさまざまな情報はまさにVTuberならではなものばかりだ。

これだけではない。酒に酔いつぶれて仲間に介抱されているシーンを撮った写真は「#SHIBUYAMELTDOWN」というハッシュタグとともに投稿、グッドポーズにハートを合わせる片思いハートポーズを決める2人、画面の向こうから降り立った淡雪が突然現れたドラゴンをやっつけるシーンはまさに”異世界転生”モノなど、ネットカルチャーを知る人ならば「アレか!」と感づくようなミームが差し込まれているのだ。

ちなみにオープニング映像が始まる直前に、淡雪が配信をスタートするシーンが流れるのだが、配信タイトルは「雪、雑談、配信にて。」先にあげたケースも含めれば、今作が”ネットカルチャー”や”ネットミーム”に遊び心を持っているのは明白で、VTuberがネットカルチャーの一部であり、ネットミーム化しやすい(リスナーのオモチャになりやすい)という一面を静かに描いているともいえよう。

“VTuberらしさ”を演出・表現するためにさまざまな方々・企業が協力をしている。

VTuberに必要なアプリであるOBS STUDIOやLive2Dなどが画面に表示され、デスクの上にはマイクが、そして表情をキャプチャーするためのスマートフォンも置かれている。顔絵を動かすアプリはLive2D社公式アプリ・nizima LIVEであり、本作で使われているLive2Dは同社によるもの。実際の使用環境もかなり現実に近いのは、実際の使用者・関係者から調査したからだろう。

劇中のSNSに投稿されるコメントや配信中に流れるコメントにも協力者がおり、エンディングロールを見る限り春日部つくし、猫宮ひなた、東雲めぐ、DeepWebUndergroundなど長く活動してきたVTuberが協力したようだ。

それだけではなく、昔に人気を博した対戦ゲーム「ソーセージレジェンド」も第1話に登場。同作を配信している際にコメントされるいかがわしい部分すらもアニメ化し、ピー音を発しながら熱く見ている淡雪が描かれている(その姿すら切り忘れた配信にのっているのだ)。

もちろんアニメ内で使用している点は公式からオッケーをもらっているようで、「VTuberがゲーム配信をしている」描写で同作を選ぶセンス、それをオッケーしたゲーム側とアニメ化したスタッフ側の、VTuberの配信を忠実に再現しよう!とする本気度が伝わってくるはず。

この作品はネット配信がABEMA、Hulu、DMM TV、そしてAmazon Prime(dアニメストア for Prime Video)などで見れる。今後どのようなゲーム作品が登場するか? あのFPSや死にゲー、パーティゲームは出てくるのか? それもひとつの見所だろう。


心音淡雪を演じる佐倉綾音がぶっ刺さる

そんなヒロイン・心音淡雪を演じるのは、以前からPVや動画で声を務めた佐倉綾音。佐倉といえばVTuberとの繋がりがとても濃い声優の1人である。

KAMITSUBAKI STUDIOに所属するバーチャルシンガー・花譜とのコラボ楽曲「あさひ」を2021年12月にリリースし、5周年を記念したライブ公演「花譜 4th ONE-MAN LIVE 怪歌」にもゲストとして出演した(ライブレポート)。

ホロライブ・宝鐘マリンによる自作ゲーム「The Second World~世界のつくりかた~」の声優オーディションにも参加、みごとティーナ役を演じることになった。

またにじさんじ・月ノ美兎は佐倉の推しVTuberであり、スタッフを通じて知り合ってLINEを交換。「今度ご飯にいきましょう!」という月ノからの返信にかなり食いついた結果、スケジュールを合わせて食事会を催して楽しんだという。その後、スカイダイビングを2人で楽しんだり、月ノの逆凸配信にも登場するなど、親交が徐々に深まっているようだ。

少し時系列が前後して記してしまったが、女性声優として素晴らしいキャリアを築いている佐倉は、VTuberを主にしたヒロインをお仕事として演じているだけでなく、彼女自身がVTuberとも親しい関係ともあれば、もはや彼女以外に適任者がいないと感じてしまう。

さて先にも書いたように、配信中の淡雪はかなり清楚なキャラクターなのだが、配信がおわるとかなりお酒好きな人物であり、口調がガラっと変わるレベルの人物として描かれている。こういった二面性を表現する点でも、佐倉綾音の演技ならば安心してみていられる。

アップテンポな1話が終わった直後には、心音淡雪が歌う星街すいせいの「Stellar Stellar」が投稿されており、こちらもSNSを中心に盛り上がりを見せた。いってしまえば「佐倉綾音が星街すいせいを歌った」というわけで、原作ファンやVTuberファン、ならびに声優ファンからも多大な視線を集めることになった。

「Stellar Stellar」といえば、星街すいせいのキャリアにとっても重要な1曲である。かなりパーソナルな心情を含ませつつも、受動的ではなく能動的に、シンデレラ役じゃなく王子様のようにアクティブに生きていきたいというメッセージを込めたこの曲。

配信を切り忘れてオフの顔・裏の顔がバレてしまった淡雪は、ギャップ・二面性をもった配信者として活動していくことになるわけだが、慌ただしい1話のなかで淡雪が思い立った境地にこの曲はなかなかにマッチしているように思う。

もしかすれば、このあともその話数に合わせた歌ってみた動画が投稿されたり、そうでなくともタイミングをみてメッセージ性ある歌ってみた動画が投稿されるのではないか?そんな淡い期待や勘ぐりを抱いてしまった。

今作は心音淡雪と彼女が所属するライブオンの先輩・後輩らとが織りなす、ハートフルコメディストーリーとして仕上がっている。今後もどのようにストーリーが進展していくのか注目してみていきたい。


(TEXT by 草野虹

© 七斗七・塩かずのこ/KADOKAWA/「ぶいでん」製作委員会

 
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