HIMEHINA、「涙の薫りがする」1万字ライブレポート そして未来は変わり、ボクらは会えるようになった

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田中ヒメ鈴木ヒナによるバーチャルアーティストユニット「HIMEHINA」は8月2、3日、音楽ライブ「HIMEHINA LIVE 2024『涙の薫りがする』 Sponsored by LIVE DAM AiR」を豊洲PITにて開催した。チケットは両日完売。各日2500人のファンを前に、メドレーも含めて2時間半以上、ゲストパートなども含めて40演目以上を完走してイベントを大成功で終わらせた。

有料配信も同時に実施し、日本向けだけでなく、英語圏向けのZAIKO、中国向けのbilibili、インドネシア向けのdetikeventでも展開。さらにソウルと台北ではライブビューイングも開催するなど、そのワールドワイドでの人気を実証した形だ。

2日間、豊洲PITの現地で参加した感想をひとことでまとめると、過去イチ、喜びにあふれていたポジティブなライブだった。誤解を恐れずに言えば、最近「愛包ダンスホール」で知った人にこそ体験してほしい、彼女たちの楽しさを凝縮したステージだった。

最も重要なのは、2020年にコロナ禍が原因でキャンセルとなった全国ツアーを実施するという発表だった(ニュース記事)。「涙の薫りがする」というタイトルも含めて、ライブに込められた想いを紐解きながらレポートしていこう(うっかり1万2000字ぐらいになってしまったので長文を覚悟してほしい)。


「愛包」で追い風が吹きまくるHIMEHINA

……と本編をお伝えする前に、念の為、彼女たちをあまり知らない「初心者マーク」な方々に向けて、いったん背景を整理しておきたい。

VTuberといえば、ここ2、3年において「にじさんじ」や「ホロライブ」といった事務所の存在感が大きいものの、元をたどれば2017年末〜2018年頭に巻き起こったムーブメントで知られるようになったジャンルだ。

HIMEHINAがデビューしたのは、その初期の2018年で、同年8月に投稿した「劣等上等」のカバーでいきなり注目を集めた。2019年1月には、アニメ「バーチャルさんはみている」のEDであるオリジナル曲「ヒトガタ」で人気を博す。

投稿動画では、バラエティータレント的な親しみやすい(ぽんこつ?)面白さなのに、こと歌となると圧倒的な歌唱力で魅了してくれる──。そんなギャップもあって当時からのVTuberファンなら誰でも知っているレベルでの知名度を得て、熱狂的な「JOJI」(ジョジ、HIMEHINAのファンネーム)を増やしてきた。

その後は、リアル・オンラインも含めて年次でライブを開催してきただけでなく、業界に欠かせないアーティストとして多くのバーチャルタレントの音楽フェスにゲストで呼ばれまくっている。直近、数ヵ月を見ただけでも、ロサンゼルス「TUBEOUT! in Los Angeles 2024」Kアリーナ横浜「FUURYUUFES 5.0 2024」に出演。日本人バーチャルタレントの中で一番YouTubeチャンネル登録者数が多いホロライブ・宝鐘マリンの誕生日オンラインライブにも呼ばれていた。要するに、歌で業界を牽引してきた存在の一角というわけだ。

そんな彼女たちを取り巻く環境は、この1年で大きく変わっている。2023年11月には、彼女たちが所属するLaRaが、Brave groupに経営統合(インタビュー記事)。さらに12月にリリースした「愛包ダンスホール」がSNSで爆発的に広まり、VTuberに関心がない層にまで届くまでの知名度を得た(詳細記事)。タレントやアーティストの中には、一度、人気が出てからは落ち着いて活動を続けるパターンも多いが、HIMEHINAに限っては今、再び追い風が吹きまくっている状況だ。

そんな「愛包」で知った方々が初めてリアルタイムで触れるライブが、今回の「涙の薫りがする」になる。

特に前半にあったメドレー×2はわかりやすく、前情報がなくても見ているだけで彼女たちの歌声とライブ演出のよさが伝わってくる「名刺」のようなパートだった。一方で中盤から後半はもうひとつの魅力、文脈を理解することでより深く楽しめる内容になっていた。こちらは過去を共にしてきた「JOJI」の心に響いただろう。


「この列車の終点は、変わる未来です」

さて、ライブ本編だが、両日とも30度を超える激アツな気温の中、会場となった豊洲PITは昼前から物販を求める方々が集まるという、こちらもアツい状況だった。待機列に並んで会場内に入った際、冷房の安心する心地よさに「夏の屋内ライブだなぁー」と感じた(昨年の大宮ソニックシティ「提灯暗航、夏をゆく」を思い出します)。

19時の開演前には、HIMEHINAによる影ナレも実施。客席とコメント欄に呼びかけて交流しながら、スポンサーや物販、有料配信を紹介していく。「とにかくみんな楽しもうね今日は〜! また後でねー」の声とともにいったんはけると、会場には入場BGMが響き渡る。

もうすぐ彼女たちに会えるんだ──。固唾を飲んで見守ったり、ステージ左右に映し出されるコメントに声で反応したりと、抑えきれないドキドキがそこかしこから伝わってきた。


しばらくすると会場全体が暗転。いよいよの幕開けに大歓声が上がる。最初に聞こえたのは、新曲「涙の薫りがする」のインストと踏切の音だ。そしてステージに映し出されたのは、長いエスカレーターを降りるヒメとヒナの2人だった。彼女たちのライブは、いつも丁寧な物語からスタートする。


ヒメ 死んだら、どうなるのかな。

ヒナ えー……。死んだら、泣く。

ヒメ ふふ、そうじゃないよ。生まれて、生きて、年老いて。さよならの日がきっとくるんだよね。

ヒナ そうだよ。


駅のホームにたどり着き、通り過ぎる電車に眼を向ける2人。


ヒナ この列車みたいに、終点でまた折り返せたらいいのにね。


泣きながら「うん」とうなづくヒメ。


ヒメ 涙が、涙がでてくる。失いたくないから、大切なものがあるから、涙がでてくる。

ヒナ 生きることは、終わりとの戦いだね。

ヒメ 行くアテのない片道切符、終点だけが決まってる。終わりは孤独かな? 孤独じゃないのかな。

ヒナ 大丈夫、ひとりじゃない。想い想われ愛が傍にいる。

ヒメ 寂しい時には泣いて思い切り心叫んで嗄らそうよ。流した涙が胸に落ちる理由を知ってるでしょ?


「傷ついた心を枯らさないためだろ」と歌う2人。


ヒメ 涙の薫りが鼻の奥でツンとして漂って、甘酸っぱいレモンみたいに思い出す夏の記憶へ変わっていく。このレールの行き先は誰にも決められない未来なんだよね。終わらない。

ヒナ 終わらない。さよならなんて、怖くない。

ヒメ えー……。まもなく80番線から列車が出発します。

ヒナ どこまでいきますか?

ヒメ この列車の終点は、変わる未来です。

ヒナ 終わらない旅になるんだね。

ヒメ そう、乗る?

ヒナ うん、行こっか!


2人が乗り込んだ電車が出発して、「涙の薫りがする」のタイトルバックが出現すると、客席から大歓声が上がる。次いでスクリーンが映像から現実の舞台に転換し、先ほどの列車がステージに滑り込んできて2人が降車し、「はいどうもー!」「どうもどうもー」と、漫才スタイルで前説を始め出す。

ヒナが「みなさんどうですかー、調子いいですかー」、ヒメが「大声出す準備できてますかー」とそれぞれ煽り、「開幕はみんなの声でお迎えだよ、せーの!」「はおー!」と彼女たちの動画の挨拶をモチーフにした恒例の「80」(はお)カウントダウンが始まった。

この80のカウントダウン、他のアーティストのライブに比べると尋常じゃなく長いのだが、ステージに映し出される過去の映像を見ながら、みんなと一緒に「ニンライト」(人参型のペンライト)を振って声を張り上げて数字を読み上げていると、過去の「推し活」がふと頭に浮かび上がって、不思議と気持ちが盛り上がってくるのだ。さらに、カウント40過ぎにダメ押しの対話が挿入される。


ヒナ 地球ってさ、EARTHって書くでしょ?

ヒメ うん。

ヒナ 蹴っ飛ばしたらどうなるか知ってる?

ヒメ うん、知ってるよ。Hが前に飛んできて、HEARTになるんだよ。

ヒナ 正解。ヒナたちの星はさ、最初はハートの形だったのかもしれないね。

ヒメ そうだね。きっと愛で出来てるのかもしれない。

ヒナ うん。

ヒメ はぁー、愛の海。なんだか……

2人 涙の薫りがする!


後でわかったのだが、新曲「涙の薫りがする」の歌詞をモチーフにした台本だ。再び始まるカウントダウン。もうこの時点で会場の気持ちは完全にひとつになっている。

「にー!」「いちー!」「ゼロー!!!!」

ステージに向かって掲げられるピンク・水色のニンライトと大歓声に包まれて、スクリーン左右から中央に歩いてくる2人のシルエット。そしてシルエットのまま、お互いの気持ちを確認しあうように両手でタッチし合ったあと、何とヒメにヒナが抱きつくというサプライズを見せつける。開幕早々の「尊さ」全開に、客席は「フー!」と大いに盛り上がっていた。


贅沢に1曲ごとに作られたCGの舞台セット

そんな具合にオープニングは感情たっぷりな雰囲気だったが、本編前半は息付く間もないぐらいテンションが上がりっぱなしで、一瞬たりともステージから目が離せなかった。

いきなりの新曲「絶望を翔る恒星」でファンを喜ばせたと思いきや、そのまま「Mr.VIRTUALIZER」→「ヒトガタ」→「閃光花⽕」と人気曲メドレーになだれ込む。いずれも音のアレンジが、パーカッションを強調した夏を想起させるもので、観客のハートは序盤からガンガン鼓動を打っていた。コロナ禍明けでライブでの声の出しかたを忘れていた2023年とは異なり、遠慮なしに全力で声援を送れるようになった2024年の熱気が本当にすごい。

そのまま「ララ」になだれ込むと、客席を巻き込んでの「ララララララ〜ララララ〜」の大合唱になる。ステージに立つ2人が両手を挙げて横に振るのに合わせて、全員が全力でニンライトを左右に振っている「海」は圧巻の一言。仕上がっている「JOJI」の連帯を見せつけられた形だ。

続く「会いたいボクラ」で2人のハーモニーに酔いしれ、メドレー最後「うたかたよいかないで」のイントロが流れると、ヒメが開始から20分も経っていないにも関わらず「みんなー、そろそろお別れの時間だよー」とまさかの宣言。これに客席は「ええ〜!(棒)」と求められたリアクションを返して掛け合いを成立させる。

一方で、その後のサビで「またね うたかた もうお別れだね」という大合唱が客席からも巻き起こり、曲の内容も相まって本当にエンディングを迎えるんじゃないか……と錯覚してしまうほどの一体感が生まれていた。あまりの熱気に1日目にはヒナがMCで「感動しちゃった」と感想を語っていたのを覚えている。

 
この最初のメドレーからMCに続き、さらにカバーメドレーとライブは進行していくのだが、このMCもよかった。1日目は次の曲は何を歌うのかクイズを出して、わざわざ客席にマイクを持って行って観客に答えてもらうなど、ファンがリアルタイムで彼女たちに触れ合える機会を用意してきたのがライブらしい仕掛けだと感じた(ちなみに2日目は、突然電話してきたVTuberの富士葵が曲振りをしていた)。

カバーメドレーのパートも、ネットで知られた名曲の魅力が、2人の歌いこなしで増幅されていくのが実感できてとてもよかった。演出で個人的に印象に残っているのは、まず「人マニア」の天使と悪魔の着ぐるみキャラの可愛さ。「ヒメダヨー」「ヒナダヨー」とも名付けられそうな三頭身……なのだが、本人より2倍ぐらいの高い姿でちょこちょこ踊っている様子に目を奪われた。

「ダーリンダンス」の最後でヒナが「チュッ」とヒメの頬にキスをし、「美少⼥無罪♡パイレーツ」の最後でヒメが「チュッ」っとやり返すという仲良し演出にもニヤリとしてしまう。許容量を超えた「尊さ」に案の定、客席からも大歓声(悲鳴?)が上がっていた。

 
……と、ここまで曲が目まぐるしく切り替わっていくメドレー×2を見ていてふと気づいたのは、CGの舞台セットへの異常なこだわりだった。例えば、

・「閃光花⽕」の櫓と巨大提灯
・「ララ」の雨傘付きメリーゴーラウンド
・「ノンブレス・オブリージュ」の客席をAR合成した巨大な鏡
・「美少⼥無罪♡パイレーツ」の牢屋から海賊船

といった具合で、メドレーなので2分にも満たないような曲にも関わらず、背景の大道具がすべて切り替わっていたのだ。

今回、ステージには物理のセットは組まず、500インチはあろうかというスクリーンにプロジェクターでCGの舞台ごと投影するスタイルだった。他のバーチャルタレントのライブでそうした巨大スクリーンを使う場合は、全面に背景映像やMVなどを流したり、全編で使い回す用の舞台CGを作って一部に映像を入れるという演出が多い印象だ。

一方、「涙の薫りがする」では、1曲ごとに楽曲の世界観を解釈して別の舞台セットをわざわざ作り起こし、惜しげもなく次々と切り替えている。CGではあるものの、オペラやミュージカルで見る大規模な舞台転換を数分ごと、下手すると数十秒ごとに入れていくという贅沢なやり方だ。この速くて大規模な見た目の変更を、同じく展開が速いメドレーの音楽に合わせることで、まるでジェットコースターに乗っているような目まぐるしい感覚を生んでいたのが素晴らしいと感じた。

ファンとしては単にHIMEHINAが歌っている姿が見られるだけでも満足なのかもしれないが、歌の世界観をきちんとビジュアルにも反映して、一生の思い出になるレベルでファンの心にライブ体験を刻み込みたい──。舞台の作り込みから、そんなスタッフの気概が伝わってくるようだった。なんならディレクターや進行、そしてクリエイターの時間と命が削れて、お金も溶けていく音が聞こえてきたし、「そこまでやらんでも……」「いや、そこまでやるからこそ」というせめぎ合いまで耳に入ってきた(全部幻聴ですね)。

アーカイブを購入した人なら、彼女たちの見事な歌いこなしだけでなく、こうした舞台の深みについても何度も見直してみよう。なんなら今年12月からの全国ツアーでもお目にかかれるはずなので、その作り込みを現地で目撃してほしい。


悲願の全国ツアーに「涙の薫り」

舞台セットに加えてもうひとつ大きく心を動かされたのは、全国ツアー発表に合わせたライブ構成だ。

HIMEHINAのライブといえば、ファンの気持ちに寄り添ってくれるストーリーに心を打たれるのも魅力のひとつと言える。その主題は、VTuber業界の色々だったり、コロナ禍だったりと、回によって変わるのだが、「涙の薫りがする」では4年ぶりとなる全国ツアーを大体的に発表するためにフォーカスした構成だったと感じた。


発表は2日目の中盤、特報パートに行われた。

ヒナ ただいま入ってきた情報によりますと、どうやらちょっと、謎なVTRが届いてるみたいなんですよ。

ヒメ 謎なVTR!? ライブ中に今日も届くんですか(笑)

ヒナ どうやら特報らしいんです。

ヒメ と、と、と、とっ、特報ー!

と、茶番を繰り広げる2人。実は会場には両日来ているという「JOJI」も結構多く、1日目の特報パートでは、3月1、2日に「何か」をやるので、そのためのHIMEHINA楽曲ベスト20の投票を受け付けることを明らかにしていた。

さらに、ヒメの「昨日見た人は一回逝ってもらってもいい? 記憶。ポカーンしてもらって」、ヒナの「初見の反応できました?」という煽りもあり、1日目もライブを見たというほとんどの人が「同じ発表なのかな?」とあまり身構えないでいたはずだ。そんな状況で映像が始まって、映し出されたのは「どうしてそんなに頑張るの?」というテロップだった。


ヒメ そうですね、なんていうんですか、挑戦、かな。

ヒナ 一人でも多くのみんなに、会いに行きたいなって。


さらにスクリーンに現れる「会いにいく──」という文字。1日目とは明らかに違う異変を感じ取って、観客席は「ええっ!?」と一気にざわついた。


2人 HIMEHINA……、初の……


追い打ちをかける「その初めてを希い続けている」という文字に、「ああ、もしかして!」という思いが弾けて期待の声が上がる。


2人 全国ツアー開催決定!


2人の高らかな宣言に、「ワァー!!!!」というこのライブで一番の大歓声が豊洲PITと配信のコメント欄を埋め尽くした。

かつての2020年、コロナ禍の始まりで、すべてのライブが中止に追い込まれていく中、HIMEHINAの「藍の華」全国ツアーも例外なく取りやめになった。誰のせいでもない、不条理に突きつけられた「会えない」悲しみに打ちひしがれたのは、ファンだけでなく、HIMEHINAチームも同じだったはずだ。その辛さは、無観客のオンライン開催に切り替えられた「藍の華」でも存分に語られていた

あの失われた過去を、もう一度みんなでやり直そう──。

ここで筆者の脳裏に浮かんだのは、今回のライブ冒頭、ヒメの「この列車の終点は、変わる未来です」という言葉だった。

4年後の今なら、あのどうにもならなかった過去のレールを切り替えて、別の世界線に行けるんじゃないか。あの辛かった数年間を、笑顔と喜びで上書きできるんじゃないか。

発表の瞬間に発せられた客席の声や生放送のコメントの勢いから、世界中のファンがずっと抱えてきた喪失感が一気に消失したような空気が伝わってきた。そしてその喜びに共感して、鼻腔の奥に「涙の薫り」が漂ってきた。


この後のセットリストも神がかっている。ヒメのソロである「Realize Dream」を経て、コロナ禍の絶望の真っ最中の2021年に書かれた「キリカ」、発端となった2020年の「藍の華」、そしてコロナ禍明け2023年の「ハレ」と、HIMEHINAチームと「ボクら」の関係を象徴するような曲を選んできている。どの歌詞も耳にすると当時が思い起こされて、「変わる未来」になれた今と対比して、幸せを噛み締められる仕掛けだ。実は曲順について、1日目はなぜ特報後にこの並びがあるのかわからなかったのだが、2日目の全国ツアー発表を受けて「だからか!」と膝を打ってしまった。見事過ぎる采配だ。

 
ラストに向けての盛り上がりも凄まじかった。1日目はおめがシスターズ、2日目はにじさんじ・星川サラがゲストとして歌った「3分ガール」を挟んで、「カカカ ココケカ ククケカ ケカケカク……」のイントロが印象的な「マザードラッグ」でブチ上げる。さらに「WWW Rock」「フリコドウル」「劣等上等」「ヒトガタRock」とアップテンポな曲を立て続けに披露して、テンションが落ちる隙を一瞬たりとも与えない。曲の切り替えでイントロが流れるたびに、「ウワァァ!!!」という喜びの声が上がっていたのが何よりの証拠だろう。


本編のトリが「愛包ダンスホール」というのも完璧だ。2日目でいえば、

ヒメ みんなー! 2日間本当にありがとうー!

ヒナ ありがとうー!

ヒメ 最高に楽しかったよ!

ヒナ 最後はみんなで歌いたいから……。ぴったりなのはこの曲でしょう!

ヒメ せーの!

2人 「愛包ダンスホール」!

という流れで歌い出したのだが、客席のシンクロ具合がすごかった。事前にコール動画をネットで公開していたせいもあってか、客席から上がる声のボリュームが一段階大きくなり、ピッタリのタイミングで全員が大声を張り上げていたことに驚いた。この黄色のニンライトが揺れる「愛包」の一体感も、オンラインやBlu-rayには詰め込めないレベルなのでぜひ現地で味わってほしい。


「涙が込み上げた、ツンとした薫りが蘇るライブに」

ラストも濃密な時間だった。

大興奮の本編が終わってから即、巻き起こったのがアンコールのかけ声だ。「アンコール! アンコール!」と繰り返すうちにバラバラだったタイミングが次第に合っていき、そこに「うたかたよいかないで」のオルゴール版インストが流れ出すと、その場にいた全員が自然と歌い出す。HIMEHINAライブで恒例、アンコール前「うたかた大合唱」になる。客席で参加していた人の中には、2人を想い、心をひとつにしてみんなで歌うというこの場にいられる幸せを噛み締めて、自然と「涙の薫り」を感じた方も多かったのではないだろうか。

そんな客席からのラブコールに応えて、再びステージに姿を現した2人は、音楽ライブのお約束ともいえるライブTシャツに身を包んでいた。歌ったのは「Hello, Parasomnia」「ナンダロウナ・ワンウェイ・ロード」「真夏の夢の提灯暗航」と、3rdアルバム「提灯暗航」収録曲を大胆にアレンジした楽曲たちだ。ちなみにこの時点で公演時間が2時間突破しているにも関わらず、まったく衰えのないパワフルな美声を響き渡らせている2人が本当にスゴい(そして、それに全力でついていく客席もスゴい)。


この後、1日目は「夢景⾊」、2日目は「こだましがみ」と日替わりパートで歌われたバラードもとても沁みた。どちらの日も、まるで「JOJI」を想うHIMEHINAの心の中をのぞいたように、スクリーン内に客席のカメラ映像を合成して映していたのが印象に残った。

 

じーんとした気持ちのまま聞く、2日目ラストのMCも心に響いた。

ヒメが声を詰まらせながら伝えた、「やっぱりさ、ツアーの発表もできて、1回、すごく叶わなかった……悔しかったことが……一個ずつこうやって、時間が少しずつ経って戻ってきてるから、みんなに会えなかったりした期間、ヒメたちはこうやって恩返ししていきたいと思っているから、これからもがんばるから、がんばろー! これからもついてきてくれ!」という言葉に、全「JOJI」が涙しただろう。

その後のヒナの「感動的な話をしたかったんですけど、ひとつ心に残っていることがあって、カバーコーナーの『ダーリンダンス』のときに『チュッ』ってしたら、自分からやったのにちょっとテンパってしまって、その後の『びしょパイ』(『美少⼥無罪♡パイレーツ』)に入れなかったんですよね。今日、Blu-rayになるって発表しましたよね。これ昨日は成功しているので、昨日のと差し替えることは可能でしょうか」と業務連絡のような話をし出したことにも、全員が笑顔になったはずだ。

 
最後に明かされたのが、ライブタイトルであり、新曲でもある「涙の薫りがする」への想いだった。


ヒナ 過去の思い出が、そのときの涙が込み上げた、ツンとした薫りが蘇るとか、そういう心に残るライブにしたいねーって。そういう意味で、このライブタイトルになりました。今日そしてこの2Daysがみんなの心に残るライブになっていたら嬉しいです。

ヒメ この曲はね「うたかたよいかないで」に続く、別れと未来を想う曲です。みんなにもさ、人生の中でたくさん別れとかそういう瞬間があると思うけど、涙の甘酸っぱい薫りを背負いながら、僕たちは未来へ進むんだって、そんな気持ちを込めて歌います。


そうして歌われた「涙の薫りがする」が、実に素晴らしかった。HIMEHINAの楽曲の多くで作詞を担当するGohgoがしたためた言葉が、2人のハーモニーによって増幅されて、ハートの大切な部分に届いて魔法のように火をつけてくれる。


「泣いたって 泣いたって さよならなんだよ
 黄昏の過去に告げる『ありがとう』
 永遠に思い出すよ
 指切りしたんだ 誓っていいさ
 必ず僕ら

 会いたいね 会いたいね 生きてていてね
 天霧らす靉靆(あいたい)の空に茜を
 孤独の月の側
 見上げる天に滲む星
 泣き叫んだ
 愛してるよ 愛してるって!
 涙の薫り 嗚呼」


途中、感情を募らせて「ねぇ、みんな、ずっと、ずっとそばにいてね! なんだか涙の薫りがする!」というヒメに再び心を動かされる。そしてラスサビ後に全員で「ララララー!」と合唱しながら、「また会いに行けるんだ」と変わった未来の喜びを噛み締めた。


「みんな、この2日間のライブの薫り、いつまでも、いつまでも忘れないでいてくれる? 絶対だよ。約束!」


2日目、この盛大な祭を締めるヒメの言葉に大歓声で応えて、全員でジャンプして大団円……と思いきや、ここから映像が始まり、さらに新曲「LADY CRAZY」披露、しかも撮影OKというサプライズを持ってきたことに「まだあるの!?」とまたしても驚かされる(余談だが「LADY CRAZY」は昨年のライブ「提灯暗航、夏をゆく」のOP曲でもある)。

泣いて、笑って、最後の最後まで存分に心を動かされっぱなしだった「涙の薫りがする」。一方でこうして言葉を重ねても伝えられるのはごく一部で、繰り返しになるが、この興奮は現地で体験してもらうのが一番になる。HIMEHINAのライブが初めてという方でも、ぜひ12月からの全国ツアー(西)に参加してほしい。


●セットリスト
01.Introduction:終点は変わる未来
02.Opening:Remember the Tears
03.絶望を翔る恒星(新曲)
04.Mr.VIRTUALIZER ~Electro ver.~
05.ヒトガタ ~Electro Samba ver.~
06.閃光花⽕ 〜Latin House ver.〜
07.ララ
08.会いたいボクラ
09.うたかたよいかないで
10.ノンブレス‧オブリージュ
11.⼈マニア
12.デビルじゃないもん
13.ダーリンダンス
14.美少⼥無罪♡パイレーツ
15.ラビットホール
16.フォニイ
17.幕間映像:本⽇のスリーカード
18.アダムとマダム(Day1)
  相思相愛リフレクション(Day2)
19.神喰姫(Day1)
  Hello, Hologram(Day2)
20.Int:眠りの刻
21.黙劇
22.GOLDEN ~Chillout ver.~
23.Int:あの陽を⽬指して
24.⾵編み⿃(新曲)
25.Realize Dream(新曲)
26.キリカ
27.藍の華
28.ハレ
29.流星パーティーライド(新曲)
30.Today’s 3分ガール is
  おめがシスターズ(Day1)
  星川サラ(Day2)
31.マザードラッグ
32.WWW Rock
33.フリコドウル
34.劣等上等
35.ヒトガタRock
36.愛包ダンスホール

*アンコール
37.Encore Calling:うたかたよいかないで
38.Hello, Parasomnia
39.ナンダロウナ・ワンウェイ・ロード
40.真夏の夢の提灯暗航
41.夢景⾊(Day1)
  こだましがみ(Day2)
42.涙の薫りがする(新曲)
43.Bubblin’ News(Day2 only)
44.LADY CRAZY(新曲、Day2 only)

 
(TEXT by Minoru Hirota


●過去のライブレポート
待ち望まれたVTuber界の「歌姫」が降臨 HIMEHINA初のワンマンライブ「心を叫べ」レポート(2019年)
ヒメヒナ「HIMEHINA LIVE 2021『藍の華』」ライブレポート 「オンラインでも現地」を願った仕掛けと演出に涙(2021年)
ヒメヒナ「希織歌と時鐘」レポート ライブ氷河期に希望の鐘を響かせた名ステージ(2021年)
ヒメヒナ「HIMEHINA Live2Days『アイタイボクラ』」レポート 「やっと会えたね」に涙し、決意の2億円借金に驚く(2022年)
HIMEHINA LIVE 2023「提灯暗航、夏をゆく」レポート 会場を包んだ声援と笑顔、やっとボクらはひとつになれた(2023年)

●関連リンク
「涙の薫りがする」公式サイト
X(田中ヒメ)
X(鈴木ヒナ)
YouTube
公式サイト