花譜、5thワンマンライブ「宿声 / 深愛」1万字レポート 原点回帰の「愛しています!」に感涙

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バーチャルシンガー・花譜は1日、神奈川県横浜市のぴあアリーナMMにて5thワンマンライブ「宿声 / 深愛」を開催した。2024年11月の「怪歌(再)」以来、約1年4ヵ月ぶりとなるワンマンで、約3時間(!)で29曲(!!!)を駆け抜けるという超濃密なステージを展開して、集まった「観測者」(彼女のファン)たちを熱狂させていた。

今回は、前半が彼女の原点から今を振り返るようなセットリストの「宿声」パートで、後半は小説「カミュの歌鳥 花譜小説集」と連動した5thアルバム「深愛」(ともに5月27日に発売予定)からセレクトした彼女の未来を示す「深愛」という構成だった。

一言でまとめると陳腐になるが、「花譜として、歌の力で愛を伝える」という彼女の意志を感じたライブだった。その魅力を余すことなくまとめていこう(1万1000字ぐらいあります)。


待ち望まれた(?)真のワンマンライブ

まず驚いたのは、「宿声 / 深愛」がサプライズの1曲を除いて、全編彼女のソロのオリジナル曲で構成されていたということ。

「え、ワンマンなら自分の曲だけ歌うの普通ですやん」というツッコミも出そうだが、「いやいや、実は……」とそれだけで2時間ぐらい話せるテーマだ。

というのも、過去の花譜のワンマンは、歌ってみたあり、劇もあり、KAMITSUBAKI STUDIO内や他社VTuberとのコラボあり、「組曲」シリーズの生身のアーティストとの共演あり、人工歌唱ソフト「可不」との出演あり……と、いい意味で「ワンマン詐欺」といえるほど多様なゲストが出演してきた。内容についても誤解を恐れずに言うなら、彼女が所属するKAMITSUBAKI STUDIOとその運営であるTHINKRの可能性を示すショーケースのような側面も持っていた。

それが今回は、理芽(りめ)以外はゲストなしで、ダンサーも未登場。いつもの花譜のライブの感覚で「そろそろゲストかなー」と見ていたもののいつまで経っても姿を見せず、花譜と5人のバンドメンバーがとにかく彼女の曲を届けるという怒涛の展開を見せていた(ちなみに曲間も演奏を切らずにつないでいたので、本当に勢いがスゴかった)。

しかも、ライブといえば直近の曲を選びがちだが、今回は初期から現在、そして未発売のアルバムから8曲(!!)と満遍なくセレクトしてきた。そして曲数が2022年の武道館と同じ過去最多タイの29曲だ。ステージを見ながら、「あれも歌ってくれるの!?」「えっ、まだ?」「ええええ!」と、あまりの過剰供給っぷりに心がオーバーフローした「観測者」も多かったのではないだろうか(少なくとも筆者はそうだった)。

特に冒頭4曲の「糸」「過去を喰らう」「雛鳥」「心臓と絡繰」という流れが、2019年に恵比寿のLIQUIDROOMで実施した1stワンマン「不可解」の「糸」「忘れてしまえ」「雛鳥」「心臓と絡繰」にかぶせていて、初期から花譜を追ってきた人ならいきなりのフルパワーで脳を焼かれたはずだ。


まず定刻になって、暗転して始まったのはオープニングムービーだった。

映し出される夜の横浜。ぴあアリーナMMの階段に立ち、目を開ける花譜。まるでライブの始まりのドキドキを表すように、不協和音気味で煽るBGMに合わせて、実写やCGが矢継ぎ早に切り替わっていく。最後にもう一度目を見開いて、両手で天を仰ぐ花譜が登場。クライマックスで「KAF 5th ONEMAN LINE 宿声/深愛」のロゴがデカデカと表示されると、抑えきれない「いよいよだ」の気持ちとして拍手が鳴り、歓声が上がった。

「うみ、そら、かぜ、あさ、よる、あめ」

最初に聞こえたのは、1stワンマン「不可解」より何度か語ってきたいつものポエトリー。

「何十年経っても、全部、全部、忘れないようにって
声の途切れる瞬間、舌にひっつく懐かしさ
どんな言葉を飲み干しても、始まりは涙の色
誰にも触らせない代わりに、透き通ったまま
忘れてしまったことは、確かめようがないから
一瞬とか、永遠とか、僕らは信じられるんだね
世界の秒針 君と交信
何度だってさ、ここで会えるよ」

なんだか懐かしい「呪文詠唱」に続いて、スタートしたのは「」だった。2018年12月に公開したデビュー曲であり、1stアルバム「観測」でも1曲目に収録し、前述のように1stワンマンのド頭でも歌った、様々な意味で「始まりの曲」である。

「花譜です! 始めます」

彼女がイントロの冒頭でそう宣言すると、客席は「ウワァー!!!」と瞬時に沸騰。その気持ちをステージが受け止めたように、12ヵ所から白と赤のレーザーが解き放たれて、ぴあアリーナの空間を暴れ狂っていた。そうして「間違いなら見ないふりばかりして……」と歌い始めた声を耳にして、観客は「これだよ!」と満たされていったのだ。

その勢いのまま、2曲目「過去を喰らう」に突入。「過去を喰らうー!」と高らかに宣言し、攻めに攻めまくるギターリフに合わせて、両手をハの字に広げて顔を左右に振るいつもの特徴的なダンスを見せて、会場をさらに盛り上げていく。

アップテンポな2曲を経て、3曲目はじっくり聴かせる「雛鳥」。2019年3月、花譜が高校受験(当時は中学生だったのだ)のために1ヵ月ほど活動休止し、その復帰のタイミングで披露したオリジナル曲だ。透き通るピアノの音に合わせて「あなたの温もりを覚えている」と歌い出した声に、筆者は「ああ、この震えているのに芯がある不思議な声に魅了されたんだよなぁ」と当時を思い出して胸が詰まってしまった。

4曲目は2ndシングルの「心臓と絡繰」。イントロのピアノで曲がわかると、ため息のような歓声が聞こえる。「雛鳥」も含めて、ワンマンでいえば2021年6月「不可解弐 REBUILDING Q3」以来の4年半ぶりといえば、その重さが伝わるだろうか。十分に飽和している感情に追い討ちをかけられた雰囲気だった。可憐かつ凛々しい、矛盾を孕んだような歌い方にとにかく引き込まれっぱなしで、冒頭からここまでステージからずっと眼が離せない。


ちなみにステージといえば、舞台装置が初めて見る人には不思議な光景だったかもしれない。花譜の体はバーチャルなのに、リアルでステージの上に実際に立っているように見える──。実はこれはTHINKRののチームが積み重ねてきたライブ技法のひとつで、巨大なLEDに描画している舞台背景にパースをつけて地面も描き、その中央にバーチャルタレントを立たせることで、その場にいるように錯視させているのだ。

その舞台装置に映される背景では、ページを開いた巨大な本がそそり立ち、くり抜いた2ヵ所に過去のMVと今のライブ中の表情を対比して表示させていたのが印象に残った。その手前には、いつものモーションタイポグラフィーが踊りまくっており、オープニング前に使っていた左右のサービススクリーンはあえてオフにしていたようだ。「なんだかステージが三層構造だった1stライブのようだ」と、ここにも名残を見て取ってしまった。


歴史を振り返るセットリストに興奮が止まらない

怒涛の冒頭4曲が終わり、

「私もあなたも、これまで当たり前のように乗り越えられる1日ばかりではないと思います。だけど、生きてて、よかったー!って思える日が、全部その想いにかき消してもらえる日が、私にとってこのライブの時間で、みんなで同じ時間を共有して、大好きな曲を歌える瞬間で、今日はぴあアリーナから世界中の、日本中の方と繋がってて、またライブとみなさんとこういう風に会えて、同じ時を過ごせて、とっても嬉しいです。今日は本当に遊びにきてくれてありがとう!」

……というMCに続いて、披露していったのが「畢生よ」「景色」「戸惑いテレパシー」「私論理」と、2020年リリースの2ndアルバム「魔法」に収録された4曲だ。ちなみに本ライブでは4曲をひとつのブロックとして、間にMCを挟んで進行していく流れだった。

この時期の花譜チームは、「畢生よ」が「俺の残機を投下します」、「景色」が「日本沈没2020」、「戸惑いテレパシー」が「HAYABUSA EXPERIENCE by 3.5D × docomo」と、楽曲タイアップを押し進めてアーティストとしての認知を広げようとしていた。

一方でちょうどコロナ禍が始まり、「不可解(再)」「不可解弐Q1」「不可解弐 Q2」と、ライブを無観客化やオンライン開催せざるを得ないという大逆風も吹いたタイミングでもあった。今となっては風化しつつあるコロナ禍だが、当時の曲を耳にした上で先ほどのMCの「会えて、同じ時を過ごせて、とっても嬉しいです」という言葉を聞くと、改めてその重さが響いてくる。

「見失ったものばかりで」と激情をぶつける「畢生よ」、「僕らはどこにだっていける」の歌い上げ方が神々しい「景色」、リズミカルに「愛を哀を逢を藍に今は染まっていく」と刻む「戸惑いテレパシー」、2つのミラーボールが反射する中「ワン、ツー、スリー、カモン!」の掛け声に自然と体が踊り出してしまう「戸惑いテレパシー」。

その歌声は、武道館や代々木第一体育館のような大箱、そしてアメリカやインドネシアでの海外公演を経て磨かれてきた堂々たるものだった。この後のMCで、「歌い方とか声が変わってるってライブの曲を練習していたときに思っていたのですが、どうですか?」と会場に呼びかけていたが、実際、過去に収録したアルバムと聴き比べると、今のライブの方が誰かにディレクションされたのではなく、自分ならこうやりたいと意思を持って表現しているように感じられた。

ちなみにこのパートの舞台は、先ほどとはガラリと変わって、背景の土台が交差点のようなものに切り替わり、上部には縦長のスクリーンをいくつも並べて映像を流し、その前でモーションタイポグラフィックスが踊るという構成だった。そこにモリモリの照明とレーザーが華を添えており、「なんだか夢みたいな光景だ」とひたすら圧倒されていた。


続く3ブロック目は、2023年3月リリースの3rdアルバム「狂想」から、「それを世界と言うんだね」「海に化ける」「人を気取る」「邂逅」の4曲。2022年8月に「不可解参(狂)」でVTuberとしては初めて武道館ライブを実現し、2023年3月に「不可解参(想)」でメインコンポーザーとして初期からずっと楽曲を提供してきたカンザキイオリが卒業したという、飛躍と離別が一緒に来た時期の曲たちだ。

「ラララララララ」とみんなで手を振って気持ちを一体にした「それを世界と言うんだね」。「過去を喰らう」に連なる三部作で、前回のワンマンから1年4ヵ月でためた感情を堰を切ったように溢れ出させていた「海に化ける」と「人を気取る」。

そして、最後のカンザキイオリ曲である「邂逅」の激情だ。

「なぁ! この世の全てを救えないのなら
 せめて青くどこかで君が生きられるように歌うから
 傷つけあって 慰め合って
 せめて僕らだけは優しくなろうよ」

歌詞を十二分に解釈した緩急をつけた歌い方、特に「なぁ!」の叫びにに心が打ち付けられて、言葉を失って自然と眼が潤んでしまう。

 
激しさを見せた直後のMCでは、「今回のライブは原点回帰」と紹介して、歌に対する心境の変化を語っていた。

「私は歌うときに、その曲を聴いて思い描いた景色を声に乗せ切るということを目標にしていたのですが、最近になってそれだけがいい歌の定義じゃないかもって思うようになったんですよ。

ライブだったりとか、レコーディングだったりを通して、その時の自分の見た景色だったり、自分自身の残像だったりが残って、重なって、気づいたら本当にたくさんの思い出が歌に宿ってて。なんというか、自分がこうしたいって意図的に思い描いて声に乗せた景色と、本当にこうやって今日みたいに体験した日の光景の様子が混ざり合ってるんですね。

で、初めて私だけの歌ができた日のこととか。無印『不可解』で観測者のみんなの声を初めて聴いて、初めて姿を見た時のこととか。『魔女』をV.W.Pの5人で歌った日のことだったりとか。カンザキさんが神椿卒業前に最後に立ち会ってくれた『邂逅』のレコーディングのことだったりとか。この前、廻花として初めて舞台に立った日のこととか。上海のホテルのベッドで寝そべっていた私のこととか。そこから見た、みんなからの温かいメッセージや、応援のこととか。そして、今日みたいにいつも歌の下に集った私たちのことだったりとか。

声にはたくさんの月日が宿ってると思います。変化とか、成長とか、記憶とかが移って、こんな風に歌はみんなと一緒に育っていくんだなと思う。みんなが一緒に積み上げてきてくれた時間が、もう私の声にも編み込まれているってことなんですよ。ってなったらもう、無敵!(笑) 年々、光を増していく私だけの歌たち。どれもが私の宝物です。まだここで歌い続けていたいって強く思います」


4ブロック目は、2024年12月リリースの4thアルバム「寓話」から、「ダンダラボッチ」「ゲシュタルト」「カルペ・ディエム」「代替嬉々」の4曲。カンザキイオリ卒業後の「怪歌」や「怪歌(再)」の頃に生まれた楽曲になる。

「ダンダラッタダッダダンダラ」のコールが楽しい「ダンダラボッチ」、ダンスの可愛さと音の重さのギャップにやられっぱなしだった「ゲシュタルト」、バーチャル舞台劇「御伽噺」などで鍛え上げられた語りパートの切れ味にもうなった「カルペ・ディエム」、七色に暴れるレーザーの中、大森靖子のポップな暴力性を余すことなく表現し切った「代替嬉々」。

「上手い」や「ユニークな声質」だけでは説明しにくい、自然と引き込まれて夢中になって心を揺さぶられてしまう彼女の歌に、改めてシンガーとしての大成を確認したのだ。


「花譜という存在を起点に、音楽と物語を、もう一度結び直す試み」

ここまででの16曲で約1時間半、普通のライブなら(普通のライブレポートも)終わってもおかしくないぐらいのボリュームなのだが……、なんとここでちょうど半分! 休憩なしに5分ほどのDJタイム「KAF DISCOTHEQUE」を挟んで、後半戦へと突入していく。

最初にムービーが流れて、彼女のライブの定番である新衣装をお披露目するパートが始まった。いつも鳥類をモチーフにしたネーミングなのだが、今回は「第六形態『梟(黒)』」と名付けられた姿で登場。2025年6月に唐突にYouTubeでお披露目した「梟」のカラーバリエーションで、やたら可愛いツインお団子ヘアが見逃せない(ライブのパンフレットによれば、花譜の提案でお団子になったとのこと)。

そこからは5月に小説「カミュの歌鳥 花譜小説集」とともに発売予定の5thアルバム「深愛」からピックアップした新曲ラッシュだった。

ポエトリーから始まる「私の在処」、ゲーム「ゼンレスゾーンゼロ」に登場するキャラクター「トリガー」のイメージソングで激しく攻めるロックナンバーの「明滅」、ミラーボールに反射する光の中で回って踊る花譜が夢みたいに美しかったピアノバラード「君は水、私は魚」。いずれも「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」や「ゲシュタルト」なポップ路線とは異なる、暗めや静かだったりする曲調に原点回帰を感じた。

楽曲の制作陣にもこだわりが伝わってくる。続く「エラーソング」は、数々のVTuberに楽曲を提供してきたTAKU INOUEによる楽曲で、今回、専門学校HALのCMタイアップソングに採用されたことを明らかにした。

学園戦線」は、AiScReam「愛♡スクリ~ム!」作曲の大ヒットでも注目を集め、本アルバムでもKanata Okajimaとともに先の「明滅」も手がけているHayato Yamamotoによるもの。一度聞いただけで多用されるオケヒ(「ジャン!」のような音)や、間奏のベースからの花譜のセリフ「はぁ?」が印象に残った。

宇宙を浮遊するような甘い気だるさが美しい「乳白の宇宙」は、「アポカリプスより」や「ホワイトブーケ」を手がけてきた「Empty old City」のNeuronが担当。

ライブに先駆けて2月25日に公開していた「周波数0の合言葉」は、先の「私の在処」や「カルペ・ディエム」と同じ作詞・AMAMOGU、作曲・Mr.Adventure/MILKEY、編曲・松田純一の組み合わせだ。小説発の曲と頭にはあっても、ラスサビ前の1分という長い語りも含めて今の花譜の心情を綴ったようにも取れる歌詞が心に突き刺さってしまう。

本編ラストは、締めにふさわしい爽やかさの「オーギュメント」。

「可能性が拡張するんだ
 重なった心で起こす奇跡
 これが僕らの愛の存在の証明」

KAMITSUBAKI STUDIOの統括プロデューサーであるPIEDPIPERは、「深愛」について「花譜という存在を起点に、音楽と物語を、もう一度結び直す試みです」と語っている。アルバムと合わせて一つの物語になるという小説「カミュの歌鳥 花譜小説集」がどんな内容なのか、ライブの本パートを繰り返し見るたびに気になって仕方ない。


仲間、廻花、花譜 それぞれの原点を振り返ったアンコール

本編が終わると、即座にアンコールの声が客席から上がる。この時点で約2時間20分(長いと言われる映画「超かぐや姫!」と大体同じ!)。しかし、花譜のライブといえばアンコールが追加でちょっとやる演目ではない、最後の最後までいい意味で裏切ってくれる見所なので気を抜けない。

ムーディーなピアノの演奏が始まると、観客は即座に「アンコール!」をやめて大歓声を上げる。ステージ中央に花譜が現れて歌い始めたのが「魔法」だ。

「希望論を言ってみたいの それが本当の音楽と言えるなんて」

サービススクリーンに映し出された花譜の姿は、なんと「特殊歌唱用形態『星鴉』」のアップデート版。1stワンマンの際、クラウドファンディングで4000万円超を集めてお披露目された衣装で、客席からは当時の記憶が一瞬で蘇ったのか感嘆が漏れる。さらに

「呼吸や鼓動や景色のすべてを拾い集めて」

と歌いながら、この日初めてのゲスト・理芽がステージに歩いて登場すると「ウワァーーーッ!」と悲鳴が上がった。

「魔法」は2020年のコロナ禍に生み出された曲で、理芽は2019年10月に2人目としてデビューしたバーチャルシンガーになる。本ライブの前日に充電期間前のラストライブ「現象Ⅳ-反転運命-」を実施したバーチャルアーティストグループ「V.W.P」の立ち上げ前で、それまでソロで活動していた2人が一緒に歌ってリリースしたシングルになる。

「言いたいことが 沢山あるのに 焦って言葉が詰まるんだ」と2人の歌声が溶け合っていくのを耳にすると、目を細めてしまった。2024年のツーマンライブで披露したポップな「キャンディーゲリラ」路線もいいが、やはりこのハーモニーは別格。直後のMCで、花譜が「仲間が増えたあの日、一緒に歌えたあの日がすでに原点なんですよね」と語ると、会場から大きな拍手が巻き起こったのがその証明にもなっているはずだ。


続く曲は「マイディア」。2022年の武道館ラストで、初めて彼女が作詞・作曲した楽曲として披露して以来、3年半ぶりに歌うレアな演目だ(……ってそんな曲ばかりなのが本当にスゴいライブだったんです)。花譜が「私の原点と言ってもいいかもしれない、ターニングポイントになった曲だと思います」と紹介するように、ここが原点となり花譜のもう一つの姿・バーチャルシンガーソングライター「廻花」(かいか)に分化していく未来が生まれた。

「oh ,my dear 君がどこかで 聴いていてくれる
 oh ,my dear my dear またね ここから先は僕らのものだ
 から今度は飛べるさ」

様々なクリエイターの才能が集結して始まった「花譜」。その中心にいるシンガーとして長年磨かれて、周囲のクリエイターの刺激を受けてアーティストとしての才能を開花させ、初めて自分の言葉と音楽でファンへの愛を叫んだ本曲は、この後出てくる「愛してます!」の原点とも言える。長いアウトロでステージの花譜と一緒にゆっくりと手を左右に振っていると、とても温かい気持ちになるのだ。


さらに歌われたのが「祭壇」になる。初出は花譜の1stライブ「不可解」だったが、のちに「魔女」に連なる系譜曲としてV.W.Pの5人で歌うようになった楽曲だ。

本曲が作られた2019年といえば、2017年末〜2018年頭にVTuberが爆発的に注目されたことを足がかりに、業界がいけいけドンドンで様々なことにチャレンジしていた時代だ。当時、VTuberがネット芸人のような面白さ主導で受け入れられていく中、花譜はシリアス&クリエイティブという異色の路線で切り込み、同業者から一目置かれて、自分の苦しみをわかってほしかったファンから絶大な支持を得た。

バーチャルの存在と言われる私たちだけど、そんなの関係なく歌でみんなとつながれる。私がいるから、あなたにはちゃんと意味があるんだよ──。静謐なピアノとシンセサイザーが鳴り響き、スモークが漂い、ホワイトの照明が差すステージでそう訴えかける彼女に、神性を感じずにはいられなかった。

 
ラスト前、最後のMCもとてもよかった。

「まだ終わりたくなーい!(中略)まだまだこれから何回も何回ももう一回歌いたい曲が沢山あります。だから、私は、まだここで、沢山歌って、歌って、歌って! これからも音楽でみんなとつながっていたいです。今日はこんな素敵な景色を一緒に作ってくれて、本当にありがとうございます!」

花譜のいつものワンマンで最後のMCといえば、常にシリアスな話をしてきたのだが、こんなに等身大でストレートな気持ちを伝えてきたことの変化に驚いた。まるで彼女がアーティストとして十分に成長した、雛鳥から成鳥に歩みを進めたことを踏まえて、チームがもう「花譜」をオリジンに預けようとしているように感じられた。

「まだ終わりたくないよー! だけど、きっと、絶対、生きてたら、またどこかで会える。歌を届けられるので、今日はその思いを込めて今から歌います。聴いてください」


長いイントロの末、舞台背景に浮かび上がったのが「魔女」の文字。客席からは大きな拍手が巻き起こる。

「魔女」は、2019年1月、初投稿から2ヵ月ちょっとで公開した3曲目のオリジナル曲。のちにV.W.Pにもつながってくる原点でもあり、前日のV.W.Pの充電前ラストライブが「魔女(真)」で始まったことを考えると、最後はこれ以外はあり得ないチョイスだろう。

「これは魔法だ 生きた日々を忘れた私の奇跡だ」

ピアノソロに合わせて、中学生から「花譜」になって活動してきた彼女が歌うこの言葉の重みのスゴさ。

「届いて なぞって 意味を確かめるように
 この世界は私のものだ 月が鳴り響くまで!」

2番の頭で全てのバンドメンバーが加勢。雰囲気がロックに一転して、客席も「ハイ! ハイ!」と大声をあげてペンライトを振って応える。

「今 己を証明する言葉に魂はあるか?」

鬼気迫る、絞りきったような絶叫が心を震わせる。

「答えて 歌って 電子の海を舞い踊って
 この世界は私たちの証明を探してる」

照明とペンライトのピンクの光が会場を覆い尽くす中、ステージの背景に大輪のピンクの薔薇が咲き、銀テープが「パーン!」と射出されて、3時間の饗宴が大団円を迎えた。


最後に花譜は会場に向かって何度もありがとうを伝えた上で、一切迷いなく、ネガティブな感情もない語調でこうまとめた。

愛してます!
 花譜でした
 またね


2016年12月、ファンと一緒の時間を生きて、リアルタイムで関わることができる「バーチャルYouTuber」という新しいキャラクター形態が生まれて今年で10年。VTuberといえば、ファンに受け入れられた固まった芸風の上にキャリアを積み重ねていくことも多い中、「花譜」はチームとしてその存在を試行錯誤して、常にバーチャルシンガーの可能性を拡張してきた。最初から本人主導ではなかったからこそ、成長や変化が彼女の武器でもあり、逆にファンの「このままでいてほしい」という不安要素にもなってきたわけだ。

そしてここ数年、カンザキイオリの卒業、廻花としての分化など、彼女を取り巻く環境は大きく変わってきた。「花譜」がどうあるべきか迷うことも多かっただろう。その中で改めて「花譜」を再定義し、それでもみんなに歌を届けたいと原点を思い直して、最後に「愛してます!」と力強く宣言する──。

以前の4thワンマンのときにも書いたように、花譜は1stワンマン「不可解」で初披露した「そして花になる」でカンザキイオリに「あなたがいるから 私は私になれる」と詩を書いてもらった。その4年半後の4thワンマンで、自分で選んだ廻花として「ぼくはぼくだ まわりだした花」と自分自身を力強く訴えた。その先に今の「花譜」があり、核としてのオリジンが覚醒しての湿っぽさゼロの「愛してます!」だからこそ、これからの希望が信じられてとても心が温まったのだ。

 
ライブを見終えて感じたのは、われわれを動かし続けてきたこの愛の歌声が、今、KAMITSUBAKI STUDIOが挑戦しているようにぜひ世界に届いてほしいということだ。

キャラクター姿のVTuberには、人種に関係なくアニメやゲームなどに抵抗がない人に、その本質を届けられるという特性がある。前日となる2月28日には、イスラエル/アメリカがイランを攻撃するなど、昨今は世界情勢の不安定さが目立っている。国の疲弊や混乱は、より小さな単位のコミュニティーに皺寄せが行き、何かに傷つけられて、行き場のない怒りを抱える人々が増えていくことにもつながる。残念ながら、世界から永遠になくならないであろうネガティブな感情。そのモヤモヤに優しく寄り添ってくれるひとつが、物語や音楽なのだろう。

「世界平和なんて嘘だ、みんなひとりぼっちだ」

「生きて生きて生きて生きて」

「音楽は魔法」

花譜という存在が、今後誰に受け入れられて、どう変わっていくのか。われわれの心を動かしてくれたからこそ、これからもやっぱり「観測」し続けたいと切望した。改めてそう感じさせたのが「宿声 / 深愛」だったのだ。アーカイブが4月6日の23時59分まで視聴可能で、これを機に花譜の音楽を一気に知りたいという初心者にもぴったりなセットリストなので、ぜひ何度も見てほしい。


●セットリスト
1.糸
2.過去を喰らう
3.雛鳥
4.心臓と絡繰
5.畢生よ
6.景色
7.戸惑いテレパシー
8.私論理
9.それを世界と言うんだね
10.海に化ける
11.人を気取る
12.邂逅
13.ダンダラボッチ
14.ゲシュタルト
15.カルペ・ディエム
16.代替嬉々
17.KAF DISCOTHEQUE
18.私の在処
19.明滅
20.君は水、私は魚
21.エラーソング
22.学園戦線
23.乳白の宇宙
24.周波数0の合言葉
25.オーギュメント

*アンコール
26.魔法
27.マイディア
28.祭壇
29.魔女

 
(TEXT by Minoru Hirota、Photo by Sotaro Goto)

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