ライブ配信プラットフォーム「17LIVE」(イチナナ)を提供する17LIVE Group Limitedは11月末、VTuber事務所「Re:AcT」運営のmikaiをグループ化したことを発表した。
Re:AcTといえば、2018年から続く業界としては古株の存在。一方の17LIVEも初期からVTuber業界と関わり合いがあり、2018年8月からVライバー配信ジャンルを立ち上げ、最近ではVTuber事務所「NexuStella」(ネクサステラ)を立ち上げたり、Vライバー事務所「V-iii」をグループ化するなど、盛んな動きを見せている。
両社が一体となったことは、どんなシナジーを生み出すのか。mikaiの代表取締役CEO、上村隆博(うえむらたかひろ)氏と、17LIVEのVライバー事業部責任者、柳里沙(やなぎりさ)さんにインタビューした。
グローバル進出への話がきっかけ
──今回、グループ化のきっかけは何だったのでしょうか?
柳 お声がけさせていただいたのは弊社からでした。元々は今年の初めに何かビジネス、17LIVEは台湾発の企業ということもあって海外進出などでご一緒できませんかねーというゆるっとした話から始まったんですよね。そこでご飯でも行きますかって会食したことから話が加速しました。
上村 そうですね。
柳 こういう話もありえるかもねという可能性の話をしている中、不思議とご縁を感じたんです。それこそ私自身も2018年に17LIVEでVライバージャンルをつくったときから業界を見ていて、当時から上村さんも存じ上げていましたし、Re:AcTさんでいえば獅子神レオナさんのデビューを鮮烈に覚えています。そんな中で「うちでも配信してほしいなぁ」って思って、当時もお声がけさせていただきましたね。
──最初からグループ化ありきの話じゃなかったんですね。
上村 そうですね。日本向けだけですとやはりビジネス的な天井があって、次の展開として海外に広げていきたいというのがありました。今、アニメが世界的に広がっている状況を見ても、ポテンシャルはあるなと。Re:AcTも特にプロモーションはしてないのですが、海外でも見られていて、一番多いのが台湾で、その次が韓国です。そんなグローバル展開への思いをきっかけにお話を始めたところ、結構一緒だなと思うところが多かったんです。
──といわれると?
上村 スタートアップ的なノリが通じたんです。過去に提携先として色々な企業さんとお話ししてきましたが、やっぱり大企業ともなると企画を進めるのに時間がかかってしまいがちですよね。実際、中に入って思ったのですが、17LIVEさんならCEOのジャックさんに話を振ってそこでパパっと話が決まってすぐ実行できる。その辺がすごくやりやすいんです。
──今回に限らず、17LIVEは2023年にVライバープロダクション「NexuStella」を立ち上げたり、今年11月にVライバー事務所「V-iii」をグループしたりと、プラットフォーマーがタレント事務所を抱える珍しい動きをしています。背景に何か思いがあったりするのでしょうか。
柳 ありますね。一般的にライブ配信アプリってコミュニティーアプリになりがちなのですが、17LIVEはサービスができた当初から今に至るま有名になりたいという思いを抱えてきた表現者を応援してきたことがベースにあります。
例えば、今、YouTubeで活躍されている女性ピアニストのハラミちゃんも17LIVEで配信していたのですが、このサービスからスターを出していきたいという思いがすごく強いんです。その話を前提とすると、やはりアプリの運営だけでは後押しできないところもあって、アプリ外の活動もサポートさせていただいて、タレントとして世の中に出ていくきっかけをつくれるなら素敵なプラットフォームになれるんじゃないかと。そんな思いで配信だけでなく、プロダクション事業もやっております。
──プラットフォームとしてタレントを抱えると、どこかで配信を17LIVEで独占できないタイミングが出てきそうですが、それでも大丈夫なのでしょうか?
柳 それでもいいのかなと思っている節はあります。才能がある方が有名になったときに「昔、17LIVEでこういうふうに活動していたんだよね」と伝えてくれるだけで、後進の方々が「じゃあ使ってみようかな」と思ってくれることにつながるので。ここがスタート地点で、居場所としてまたふらっと戻ってきてくれればよくて、わざわざ囲い込むことはしていないんです。
両社とも長いVTuber業界との関わり
──両社のVTuber/Vライバーにおける歴史を改めて振り返りたいのですが、17LIVEさんはかなり初期からVTuber業界に参入していますよね。
柳 そうですね。意外と知られていないのですが、REALITYさんやIRIAMさんよりもジャンルとしては先に始めさせていただいていて、当初からグローバルを意識していたので、2019年の時点で日本のVライバーさんを台湾のイベントに連れて行ったりしていたんです。
──めちゃくちゃ早い!
柳 まだまだ台湾では「VTuberって何?」という時代で、当時取材されたときは「どういう風に動いてるの?」とめちゃくちゃ聞かれたりました(笑)。アプリとしては、もう少しあとのコロナ禍に入ったあたりから世の中にバーチャルもリアルも配信社が溢れかえった時代になり、その流れにそってやってきた中で、Vライバーというジャンル自体が世の中でもっと伸びていくだろうと。
それこそ17LIVEなら日本だけじゃなくて海外でも全然届けられるし、もっと夢が見られるようなプラットフォームとしてこの先伸ばしていくためにもプロダクション事業をやるのもありかもね、という話を2022年頃に当時の社長と壁打ちしていたところ、気づいたら「やるぞ」と2023年の年初からVライバーユニット「武士来舞(BUSHILIVE)」の話が出ていました。
──「武士来舞」は、確か6月末のスタートアップカンファレンス「IVS」で発表して7月にデビューしたんですよね?
柳 そうですね。そこからVTubre業界に詳しい方にもきていただいて一気に採用かけて、12月にはもうプロダクション事業の「NexuStella」を始めているという。
──速い(笑)。
柳 Vライバーになれるハードルも下げられるようにアプリを拡充してきています。一般的にはまずイラストを用意してモデリングをしてと色々と初期投資がかかってしまうところ、今年4月にはイラストを読み込ませて目や口、頭の動かせる範囲をしていしてアバターとして使える「イラストVモード」、直近12月には表情や髪型、衣装などのパーツを選ぶだけで自分だけのアバターをつくれる「Vクリエイトモード」などをリリースしてきました。
ほかにもLive2Dがあればそのデータをスマホに読み込ませるだけでパソコンなしで配信できますし、3Dモデルも「VRoid Hub」経由で連携できたりします。とにかくハードルをうんと下げるということをやり続けてきていて実は土壌は整ってきているので、これから配信者の方を増やしてもっと知っていただくためのプロモーションを加速させていきたい。実際、東京ゲームショウやコミケに出展していたり、秋葉原で定期的にイベントをしたりと、Vライバーを盛り上げるためにひたすらやってきています。
──すごい。一方でmikaiも歴史があります。創業時からRe:AcTではなかったですよね。
上村 そうですね。創業時はVRゲームをつくっていて、2017年5月に「VR SUSHI BAR」という寿司職人シミュレーターをリリースしました。当時Steamで一瞬世界ランキング2位になったこともあったのですが、売り上げとしては難しかった。そこからVR向けのインキュベーションプログラム「Tokyo VR Startups」(現Tokyo XR Startups)に応募して、第3期として受かったんです。
──Tokyo VR Startups第2期のカバーが卓球ゲームをつくっていたことを彷彿とさせるエピソードです
上村 3期の同期には、キズナアイのActiv8さんや、VRゲームスタジオとして有名になったMyDearestもいました。そこから実はアップルのiOS向けのAR機能「ARKit」が使えるようになったタイミングだったので、「MARGIC」というARでアニメっぽいエフェクトが出るコスプレイヤーさん向けのサービスをつくっていたのですが、やりたいことを実現するためには資金的に難しかった。
そのときに「にじさんじ」さんが大きく伸びていくのを見て、ARKitの技術が転用できるということでうちもVTuber事業に参入したんです。元々音楽が好きだったのと、VTuberの周辺領域としてボーカロイドの流れもあったりして、音楽系のVTuber事務所がいいんじゃないかと始めました。
──2018年7月の「KAGAYAKI STARS」ですね。ちょうど2018年6月にバーチャルシンガーとしてYuNiさんが動画投稿をスタートした時期でしたが、音楽専門の事務所はまだなかった気がします。
上村 そうですね。裏話として、Re:AcTのXアカウントは、KAGAYAKI STARS時代のメールでログインしていたりします(笑)。本当に5月ぐらいにやるぞって決めて、とにかくスピード重視で7月にリリースしましたからね。さらに2ヵ月後には2期生をデビューさせて、4ヵ月で20人ぐらいに増やして行った。そんなスタートでした。
──驚きのスピード感です。一般論として人が増えると調整が大変そうです……というか人間関係が大変じゃないスタートアップは皆無だと思いますが。
上村 経営自体も、事業も大変です。何重にも大変な感じですが、そういうのを2周、3周とやっているとだんだん楽しくなってきました(笑)
──スゴい。Re:AcTで思い出深いエピソードはありますか?
上村 それこそ2019年7月に開催した花鋏キョウの1stライブ「Blooming」とかは覚えています。「まずどうやってライブするんだ」みたいなところから始めて、技術的な課題にも取り組んで、うまくいくかドキドキしながら本番を迎えて、なんとか無事終えたみたいな。そのライブのときの写真をいまだに自分のFacebookのヘッダーとして使っています。
どうやったらお客さん喜んでくれるかみたいなところは試行錯誤してきていて、タレントの香水をつけたカードとか私物みたいなものを渡したりとか、色々やってきましたね。
──VTuberの事務所をやっていてここがこの仕事の魅力だみたいな話ってありますか?
上村 やっぱりファンの熱量が高いことと、キャラクターを使ってのIP事業展開が面白いですね。
──熱量といえば、2019年に獅子神レオナさんの1stライブ「Brightenin’ Hope」を取材したときに、配信があるにも関わらずシンガポールやオーストラリアなどの海外からもファンが来てたことに驚きました。
上村 オンラインのコメントでもわかりますが、やっぱり現地のライブが一番熱量が伝わってきますよね。今月の27日にも池袋harevutaiにて全体ライブをやりますが、そこがわかりやすく熱量を感じるポイントだと思います。
ノリやテンポ感に「ビビっと来た」
──お互いの会社として「ここが相手の魅力」みたいなお話を聞かせてください。……って、なんだか結婚式のスピーチみたいでちょっと変な質問ですが(笑)
柳 でも、こういう(グループ化の)お話って、結婚に近いところがあると思うんです。仕事上、色々な企業さんとお話しさせていただきますが、mikaiさんはノリや話のテンポ感が近くて、最初に会食に行ったときからビビっとくるものがあったんです。その場にいたメンバーとも帰り道で「なんかあるかもね」という話をしていたぐらいで、言葉にできない空気感、一緒にやっていくイメージが思い浮かべられた。もちろんグループになったらなったで大変なことがはあると思いますが、お互いやっていけそうな直感がありました。
上村 自分もそうで、仕事がしやすそうという感覚はありました。
柳 例えば「Slack」での返信の速度とかが同じで、うちはバンバン返していくんですが、mikaiさんのスタッフからもめちゃくちゃ早くレスポンスがある。そのスピード感が同じだなって。
上村 うちのメンバーはまぁ早くて、多分1番遅い自分が5時間ぐらい放置していると怒られる。その日に全部処理しましょうっていう。
柳 何か問題が起こったとしてもどうにか解決しようっていうスタンスも一緒なんです。「今こういうことが起こっていて」「とりあえずこうしましょう」「OKです」みたいなテンポ感が同じなんです。
──責任をたらい回しにせず、全員がボールを取りにいくのが前向きでいいですね。事業としてのシナジーだけでなく、企業文化が近い。
上村 17LIVEさんでは「OKR」(Objectives and Key Results)で社員の目標を管理しているのですが、その前提にコアバリュー(行動指針)が3つあって、そのうちのひとつが「Break the Norm」、常識をぶち壊せみたいな感じなんです。それがスタートアップのわれわれも共感するものでいいなっていう。うちの社員的にも現場同士の交流会を経て、自然と一緒に仕事をしています。
──Re:AcTの所属タレントはどんな反応でしょうか?
上村 やはり一番心配するのは「17LIVEアプリだけで配信しなきゃいけないのか」みたいなところだと思うのですが、その話は先ほどもあったように最初からクリアできていたので、前向きに話が進められた部分があります。基本的には今まで通りでタレントサイドは現状あまり変わっていないですし、年末のコミケに一緒に出展するのはとてもプラスになる話です。
一方でスタッフサイドは、あまり表に出ない経営の仕組みや仕事の進め方で17LIVEさんから学ばせていただいておりまして、その辺が地固めされて1年後ぐらいに運営体制が安定するなどの結果が出てくることを期待しています。
「リアル×V」が強みになる
──これからやっていきたいこと、「次の一手」をお聞かせください。やはり海外進出でしょうか?
柳 台湾のチームとこっちのタレントさんを台湾のメディアに紹介して広げていきたいよねという話はしていて、その反応を見てステップアップしていければとは思っています。今、台湾でもVTubreが増えていきていて、そういう意味では進出するのに面白い時期なんです。
──VTuberは英語圏も盛り上がっていますが、東アジアや東南アジアでも注目されていますよね。
上村 今年9月に韓国向けの「Re:AcT KR」を発表して、11月にNAVERのライブ配信プラットフォーム「CHZZK」でデビュー配信したのですが大体1000人集まって……。
──スゴい!
上村 担当者に理由を聞くと、韓国でのVTuber事務所はまだまだ珍しいそうで、台湾でもこれからの部分があるんじゃないかという。
柳 台湾のチームからも「こことコラボしたらいいんじゃない?」とか「この会社知ってるから協賛つなごうか」みたいな話がめちゃくちゃ出て来てて、すごくやりやすい。
上村 いきなり自社でやろうとしても、どこにコンタクトを取ったらいいかわからないところをスムーズに話が進められるという。
──台湾向けの「Re:AcT TW」みたいなのもあるかもしれないという。
上村 現状ノープランですが、もしかしたらあるかもしれません。
──期待が膨らみます。最後に難しい話ですが、現状のVTuber業界において事業を発展させるために、どんな手が考えられると思いますか?
上村 ひとつ参考になるのは、YouTuberだと思います。YouTuberはhikakinさんのようないわゆる素人から始まって、今となっては芸能人が参入していきている。VTuberも今後、同じように芸能人が入ってくる流れがあるんじゃないかと思っています。
──後藤真希さんの「ぶいごま」なんてまさにそうですよね。
上村 そうですね。うちで言うと、リアルアーティストのバーチャル業界参入を推進させることで、業界にインパクト出せるんじゃないかと思っています。
柳 17LIVEとしても、リアルもバーチャルも両方やっているプラットフォームなので、2.5次元やリアル×バーチャルみたいなところはやっぱり意識しています。リアルのライバーさんが17LIVEで活動を始めてVに興味を持つことが結構あって、例えば、うちのトップライバーでドラマーの鈴木りゅうじさんからも、リアルと並行してVでもやりたいという話が出ています。その流れは今後、加速していくんじゃないでしょうか。
そこからライブ配信だけじゃなくて、YouTubeもやりたいという話があったらmikaiさんに橋渡ししてシナジーを出せるかもしれない。そんな「リアル×V」を、17LIVEとしても盛り上げていきたいです。
(TEXT by Minoru Hirota)