HIMEHINA、ワンマン「LIFETIME is BUBBLIN」1万字レポート 築きあげてきたみんなで歌うライブ文化に涙

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田中ヒメと鈴木ヒナによるバーチャルアーティストユニット「HIMEHINA」は11月22、23日、パシフィコ横浜国立大ホールにて音楽ライブ「LIFETIME is BUBBLIN」を開催。今年7月にリリースした4thアルバム「Bubblin」の楽曲を中心に約2時間半で41演目(!!)を披露し、集まった5000人近くの「JOJI」(ファン)を終始沸かせていた。

2019年よりだいたい年1回ペースで実施してきて、7回目となる今年は過去最大のキャパ5000席という会場、かつ前回ソウルと台北だったライブビューイングもソウル/上海/台北/台中/高雄の5ヵ所で展開するほど規模が大きくなった彼女たちのステージ。内容も過去最高の密度で、一瞬たりとも目が離せず、2時間半があっという間に経ってしまった。

特にファンを積極的に歌わせていたことは、ほかのVTuberのライブと比べてもHIMEHINAならではのことだと感じた。それも合いの手レベルではなく、スクリーンに表示された歌詞を全員で大合唱するという、とてつもなく一体感のある現場だった。

そして、演出や構成の随所から、HIMEHINAとそのクリエイティブチームであるStudio LaRaが、ファンの気持ちに本当に寄り添ってくれることが伝わってきて目頭が熱くなった。2日間現地で取材したその魅力をレポートしていこう(なお、ネタバレになるかもしれないので、アジアツアーで初めて見るという方は後で読んだ方がいいかもしれない)。


【アジアツアー開催決定🌍️】HIMEHINA LIVE 2025『LIFETIME is BUBBLIN』ライブダイジェストhttps://www.youtube.com/watch?v=oWXRO3SE2EY


アーティストとしての認知が進んだ2025年

2025年のHIMEHINAといえば、特に音楽方面で精力的に活動してきた印象だ。

ライブでいえば、2024年12月の福岡から続いて、1月に大阪、2月に名古屋と回った「涙の薫りがする」全国ツアー(西)から始まり、3月にはTOKYO DOME CITY HALL(現Kanadevia Hall)にてデビュー7周年記念ライブとなる「田中音楽堂 RealLive ~姫雛合唱宴~」と「ザ・ベストニジュー」を開催。

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楽曲で見ると、2024年11月の「LADY CRAZY」、2025年2月の「キスキツネ」、2025年6月の「V」とそれぞれMVをYouTubeで公開してきて、いずれも執筆時点で700万再生を超えるほどの人気を集めてきた。7月には、これらの楽曲にさらに2023年12月にリリースしてMVが4600万超の再生と圧倒的に認知されている「愛包ダンスホール」などが加わった4thアルバム「Bubblin」をリリースした。

このアルバムの出来がとてもいい。意味が深いだけでなく、口にすること自体が気持ちいい歌詞。前半は親しみやすいダンスミュージック中心で、後半はハモリなどで聴かせるエモな音楽。そして早口のラップは歯切れよく、バラードはじっくり聴かせてくれる、息ぴったりのダブルボーカル。

音楽面だけでなく、MVでは見ているだけで真似して体を動かしたくなるキレのいいダンスに、カッコいい衣装、CGの舞台装置やカメラワークなどに引き込まれる映像を見せつけてくれる──。

実はHIMEHINAは2023年のライブでアーティスト宣言をしており、バラエティー路線の動画や生配信はメンバー限定コンテンツに回すという方針転換を行っていた。

その効果もあってか、アーティストとしてのカッコいい側面が強調され、「愛包」のダンスがTikTokでバズったようにひとつの「真似したい」ファッションアイコンとして親しまれるようになった。今回の客席に女性や10代が相当増えたように見受けられたのは、ここ1、2年で彼女たちの作品にYouTubeやTikTokなどで触れて興味を持ち、「ライブに行ってみたい!」とチケットを購入した方々が多かったからではないだろうか。


一方で、もちろんずっと応援してきた猛者「JOJI」の方々も多くいた。というのも、前述した音楽がいいのはもちろん、HIMEHINAのライブは、いつも自分たちを大切にしてくれる彼女たちの気持ちが一番伝わってくる場だからだ。

それはライブ構成だけでなく、今回でいえば会場にパシフィコ横浜を選んだことからも伝わってくる。

HIMEHINAは2023年、「5年以内の武道館ライブ」を目指すことを宣言しており、実際、今の彼女たちの人気なら普通にキャパ8000〜1万の武道館を埋められる実力があるはず。ではなぜ武道館ではなく、パシフィコ横浜なのかといえば、2021年、コロナ禍により中止になったライブ「希織歌と時鐘」の開催地だったからだろう。

あの時にぽっかり空いてしまった穴をみんなで埋めて、未来へ進もう。

そもそもバーチャルの存在が、現実の出来事を受けてファンとリアルタイムの物語を紡ぐということ自体がVTuber独自の現象なのだが、場所がパシフィコということは、きっとステージでもあのとき現地に行けなかったくやしさを発散させてくれるのではないか。HIMEHINAのライブは、自分の人生の一部だから当然会場に来たという方々も多かったはず。

そうした具合に「LIFETIME is BUBBLIN」は、ご新規&おなじみのどっちの「JOJI」にとっても、「ようやくあの場に行ける」と大きく期待を募らせた希望の地だった(だからこそ2日目の機材トラブルで開演が遅れ、移動の関係で泣く泣く帰らなければいけなかった方がいたのが、とても難しいと感じた)。

開演前に3階席までいっぱいになった会場を見渡し、ニンライト、提灯、バブライト……と歴代のライブで販売してきたペンライトを持って楽しそうに待つ「JOJI」たちを目にして、積み重ねてきた歴史の重みを実感した。


左右に開くLEDなど、圧倒されたステージ設備

さて、ライブ本編だが、一言でまとめると「なんだかわからないけどすごいものを見てしまった」という感じだった(まとめられてない)。

HIMEHINAを含むこのステージを作り上げた人々の熱意と、それに負けないぐらいの熱量で歌ったり応援したりするファンの両方に感銘を受けた。そしてライブ後にアーカイブも両日5回以上見ているが、配信に乗らない価値が多すぎてぜひアジアツアーの現地で受け取ってほしいと強く願っている。

めちゃくちゃ長くなるが、セットリストの順に語っていこう。スポンサーやグッズを紹介する前説が終わり、ステージが暗くなり始まったのは、荘厳な儀式のような導入だった。ステージに垂らされた白幕に映し出される19人のシルエット。

「エーーーエッ」

力強く響く太鼓に、小気味いい発声。

「シャボン玉〜飛んだ〜壊れて消えた〜」

光が当たり、よく見ると19人は「V」のMVに出演していたお面のバックダンサーということがわかる。下から浮かび上がり、フェードアウトして消えるシャボン玉。

「生まれ
やがて
別れの
さだめ
時は
泡沫(うたかた)
命泡(バブル)の

始まり」

二人のつぶやきに続けて、音楽がテンポの速いものに切り替わり、オープニングとしてヒメヒナが畳み掛けるようにラップを歌い出す。

さらに巨大ヒメヒナが下から現れ、上から出てきた吊り革を「ていっ!」と引っ張るのに連動してリアルの白幕が落ちて、真のステージが現れるという派手な演出が入る。そして彼女たちの「ハオ〜」の挨拶にちなんだライブ恒例の80カウントダウンがスタート。大音量の音楽に煽られて、客席のみんなと一緒にペンライトを振りながら数字を口にしていると、「ああ、やっとこの場に来れたんだ」と自然と満面の笑みがこぼれる。

筆者的には、この白幕が下がって明らかになった舞台装置だけでも、「ヤベー! 気合い入ってる!」とテンションが上がった。ぱっと見で判明したのは、ステージ中央の半円形の巨大LED。その左右には生バンドを配置し、ステージに組まれたトラスの上部にはヒメ、ヒナそれぞれと、シャボン玉をモチーフにしたバルーンアートをあしらっていた。映像だけでなく、リアルの造作でもその世界観を体現してきたのだ。

カウントダウンが終わって1曲目となる「V」のイントロが流れ出すと、半円の巨大LEDはヒメとヒナが向かい合ったステンドグラスに切り替わる。さらに2人が歌い始めると、この反縁LEDが鈍い音を軋ませながら左右にスライドして開き、後ろに一回り大きいメインLEDが出現した。白幕だけでなく「えっ、そこも開くんだ!」というクソデカ仕掛けに不意打ちをくらい、会場からは大歓声が上がった。

さらに度肝を抜かれたのはHIMEHINAの髪色。いつもはヒメがピンク、ヒナがゴールドなところ、ヒメがローズレッド、ヒナが水色とかなり攻めたイメチェンで、ふわふわシースルーな「V」衣装と相まって「うぉぉぉぉ! めちゃくちゃかわいい!」と感情が飽和する。会場からも、二人が現れた瞬間、先ほどのLEDが動いたときよりも一回り大きい悲鳴が上がっていたくらいだ。ほかにも、「ヒメダヨー」「ヒナダヨー」(であってます?)と呼べそうな二頭身着ぐるみがバックダンサーで現れたときにも大声が上がっていた。

もうひとつ「V」で気づいたのが、照明とレーザーが高い精度で音ハメされていて、ライブ体験としてとても気持ちよかったこと。ただでさえノリやすい四つ打ちのダンスミュージックに、目まぐるしく切り替わるステージ映像を加えて、ここぞというタイミングで照明やレーザーを暴れさせるわけで、これだけ興奮を煽りまくって体が動かないわけがない。長年、同じチームでライブを積み重ねてきた円熟の技が極まった領域だ。

さらに「V」といえば、MVで事務所の垣根を超えた数十人のVTuberが友情出演していることでも知られているが、今回のライブでもそのVTuberのみんなが壁面に立って踊るという派手な演出を入れていた。

装置、衣装、映像、照明。これにヒメヒナの歌声とバックバンドの音楽が加わり、「惚れたら死ぬぞ?」のセリフでトドメを刺されたりと、ド頭1発目から見どころ満載すぎて、一気にテンションがMAXになってしまった。

……からの曲間なしでヒメヒナが歌い出し、「LIFETIME is BUBBLIN。ほら、ライブに来たなら声出してけ。Eh Oh Eh Eh Eh Oh」と観客にコール&レスポンスを要求。すかさず会場が「Eh Oh Eh Eh Eh Oh」と答え、その流れで「LADY CRAZY」に突入するのだが、この入りも印象的だった。

具体的には、中央の巨大LED、左右のサービス映像用のLED、バンドメンバー後ろのLEDすべてが真っ赤に染まり、手を上にあげてクラップする黒いバックダンサーとバンドのシルエットが映し出されるという、力強い色で圧倒してきたのだ。「V」で十分に温められた気持ちに、この挑発的な赤黒のコントラストと鳴り響くドラムをぶつけられて「ウワァー、カッコよすぎる」と打ちのめされたわけだ。

途中のラップパートで、歌詞をライブアレンジしてきたのも心に響いた。

「今日本当に待ちわびた
2019から閉ざされた口のドア
もうOPENして興奮して呼吸するのも
忘れちゃうぐらいバンバカバンだ!
万歳だ!この一夜の中毒性はまるで犯罪だ!
(中略)
とか言ってたあの頃
MustのMaskのPastは今ではRun for the Futureだそうだ
それなら言うぜ
さよならコロナこの野郎!
人類にとってみりゃ小さな試練だったろうが
僕らにとっちゃこうやってみんなの前に立つのが
死んでも続けたい希望(ねがい)だった
おねがいちょうだい狂乱今日はそんな
あの頃バブルみたいに失ったしゃぼん玉のようなこの空間に
漂う熱気叫び声笑い顔と光とときどき涙
まるで昔の時代の花園
過去イチもっと声出していけるよな?」

このためのパシフィコ横浜だ。会場にも来れず、来れても黙っての鑑賞だったあのときの悔しさを完全に過去のものにして、普通に声を出せるようになった今をみんなで喜ぼう。そんな二人の気持ちに客席は「ワーーー!!!!」という力強い歓声で応えていた。

これで全員の気持ちが一つになり、曲が途切れずに「ヒトガタ」「WWW」とダンサブルなパートは続いていく。「ヒトガタ」では、1日目は赤見かるび、2日目はホロライブDEV_ISの儒烏風亭らでんが唐突に現れて挨拶して一瞬で去っていく謎サプライズを入れつつ、VTuberの転生についてのオリジナル歌詞をラップして心を掴む。

「WWW」では、ひな壇で踊る30人超のダンサーが圧巻だった。正直、この冒頭4曲だけでも興奮しっぱなしで、「ここだけで体力尽きちゃわない?」と客席のファンを心配するぐらいの異常な密度だった。


過去から今につながるカバーパート

バンドメンバー紹介など、わずか10分(2日目は5分!)ほどのMCを挟んで、続けては恒例のカバーメドレーだ。

毎回そうなのだが、カバーメドレーは選曲の幅広さに驚かされる。今回は「ECHO」「ヒビカセ」と往年のボカロ曲のあとに、YOASOBIの「UNDEAD」、ボカロ曲「神っぽいな」、「神様、僕は気づいてしまった」の「CQCQ」、さらに星街すいせい「灼熱にて純情」、花譜「過去を喰らう」とVTuber業界まで対象にしていた。

まず筆者に響いたのは、「ECHO」と「ヒビカセ」だ。ECHOではまずヒメとヒナが画面の向こうに閉じ込められており、二人がハンマーを手にして割って飛び出してくるという演出があるのだが、これは10年前、「ニコニコ超パーティー2015」のVOCALOID/UTAUパートで初音ミクとGUMIが「ヒビカセ」+「ECHO」を歌ったパートのオマージュになる。

バーチャルライブの大先輩である舞台をリスペクトし、歌詞のモーションタイポグラフィーまで含めて再現したところに、筆者のようなかつての「ニコ厨」なら「マジかよ!?」と沸き上がったのではないだろうか。そこから最後は星街すいせい/花譜と、同じバーチャルアーティストの最前線を攻めてる2人のカバーで締めると言う流れにまた「マジかよ!?」と驚き、同時にこの業界への強い愛を感じた。

このカバーメドレーは、DJのように2分前後のワンコーラスでつないでいくので、まるでショート動画を次々と見ているようで息つく間もない。しかしその一つ一つを見るとまったく手を抜いておらず、例えば、「灼熱にて純情」では赤黒、「過去を喰らう」では白黒と、それぞれで背景やモーションタイポ、衣装、照明などのトンマナを丁寧に合わせてきている。

普通に考えれば、CGでつくったステージをLEDに映して、そこに二人が立って歌ってるだけでもファンは満足できるはず。しかし、どんなに短い曲でもその世界観をステージで伝えるために、自分たちのクオリティーラインは決して下げずに作り込む。そんな愚直さに頭が上がらないし、だから彼女たちのライブに何度もライブに足を運びたくなるのだ。


「遺言」の美しさに自然と涙

まだ始まってから30分ぐらいしか経っていない(!?)という信じられない事実を認識しつつ、カバーメドレーの流れからそのまま二人の対話が挟まる。

ヒメ 誰かが捨てた想いを、誰かがかなえる未来につなぐ。

ヒナ 過去を無駄にしたくないから、誰かがかなえる未来に託す。

ヒメ 指切りをしよう。未来への希望を守るために。

ヒナ 指切りをしよう。この世界に後悔を残さないために。

ポジティブな言葉をつむぎ、ピアノに合わせて「指切った、約束の未来を〜」と歌い始めたのが「密命」だ。

ライブは今までのアッパー系の曲から、じっくり聴かせる系に突入し、この後「琥珀の身体」「棄てられた鉄の王国」「魂にひそむ」と歌っていく。このパートでは、2人に注目が集まるようにか、映像が主にバックダンサーとモーションタイポぐらいに抑えられていた。先ほどのアッパーなパートと対比して、緩急付けられた演出が見事だ。

さらに秋晴れの縁側に座って語る二人の映像が挟まって、中盤のハイライトといえる「遺言」へと続く。

ヒメ ねぇ、ヒナ。

ヒナ ん?

ヒメ 明日、この世界からお別れするとしたら、何をお願いする?

ヒナ んー? もう一度、ヒメと一緒になれるようにお願いするかな。

ヒメ ヒメもだよ。……でも、もうひとつだけお願いしたいな。

ヒナ なぁに?

ヒメ ヒメたちを愛してくれた、みんなの未来が幸せであってほしい。

ヒナ そうだね。それから、世界一愛してくれてありがとうって伝えようって。

ヒメ うん、そうだね、ありがとう。

「遺言」は、立ち去る側が感謝を伝え、自分のことを忘れないでほしい、でも君の未来はより幸せであってほしい……と願う歌詞になる。文字だけ見ていると「HIMEHINA引退!?」と勘違いしそうだが、ライブでは「JOJI」のみんなに感謝を伝える文脈で歌われた。ワンコーラスを歌い、「愛してる」の言葉を発したあとに、LEDには二人が直筆で書いたという手紙が映し出される。

あなたが支えてきてくれたから、このパシフィコのライブをやり直せたんだよ。この想いは、どんなに時が経っても忘れない──。

ファンのみんなの「ヒメヒナに会いたかった」という気持ちに寄り添い、自分たちもみんなに会いたかったんだよと常に返してくれる。文面から彼女たちの純真な気持ちが伝わってきて、ミラーボールに当たった光が反射するシンプルで美しい演出も相まって、自然と視界が滲んでしまう。曲が終わると、客席のあちこちから「ありがとうー!」という心の叫びが上がった。

再びステージに現れた二人も感極まっていて涙声だった。「コロナで中止になったことがあったじゃない。でも、今日、ここはどこですか?」「パシフィコ横浜!」「今日ここはどこですか!?」「パシフィコ横浜!!」「今日ここにみんなと立てて最高だー!!!!」と客席とやり取りした上で、

ヒメ みんなが連れてきてくれたんだよな、ここまでな。

ヒナ みんなで一緒に来れたね。

ヒメ よかったずっと一緒だぞ。

と全員で喜びを噛み締めていた。


過去イチ長いみんなで歌うパートで一体感MAXに

ここまででも濃い内容なのに、信じられないことになんとライブはまだ半分(!?)。後半は来場者を積極的に歌わせる仕掛けがいつもよりマシマシだった。

HIMEHINAのライブといえば、2019年のファーストワンマン「心を叫べ」から、観客に歌ってもらうことを前提にスクリーンに歌詞を表示するという仕掛けを続けてきた。

運悪くコロナ禍が直撃し、無観客のオンラインのみとなった2021年の「藍の華」でもファンから合唱ボイスを募って会場で流すなど、みんなで歌うことをとても大切にしてきた。その後、声が出せるようになってからアンコール前にみんなで「うたかたよいかないで」を大合唱するなど、お決まりの流れが生まれて行ったのだ。

その文化を加速させたのが「LIFETIME is BUBBLIN」の後半パートだった。

「マザードラッグ」冒頭では、321のカウントダウンとともに左右のサービス映像用LEDに歌詞を表示し、ヒメヒナとともに「カカカ ココケカ……」という例の呪文(?)をみんなで歌い上げる。その後、「相思相愛リフレクション」「アダムとマダム」「絶望を翔る恒星」とロックナンバーを駆け抜け……

……再び客席に歌ってもらうパート「試される合唱の大地」に入る。

今度は両サイドだけでなくメインスクリーンにも歌詞を表示し、例えば、ヒメヒナが「簡単サクッとパッとパッとです」と歌った後に客席が「辛い痛いは無い無い心配無いネ」と応えるように、交互に歌っていく仕掛けだった。ワンフレーズを抜き出したメドレーになっており、次々と曲が切り替わるので、名前の通り彼女たちの曲をどれだけ覚えているか試されている状況だった。

この「試され」パートは5分ほど続くのだが、リズムゲームのような感覚で発声しているうちにだんだん楽しくなってきたという人も多かったはず。そもそも突然歌えといわれても、全員が心を入れて参加するのはなかなかできるものではなく、またアーティストの歌を聴きにきているのに昂った観客が勝手に大声で歌われても周りの人が困るはず。HIMEHINAチームが「ここで歌ってね」と繰り返し続けてきたからこそ根付いた治安のよさと文化なのだろう。

筆者が過去に見てきたVTuberのライブでは、映像を見させられてる感覚だったり、現地より配信のほうが見ていて楽しかったりするものも正直あった。現地でしか得難いVTuberのライブ体験とは何か? そのひとつの答えが、HIMEHINAのライブにはあると感じる。これは運営側がどんなにお金を積んでも演出できない、彼女たちが積み上げてきた宝物だ(だからなおさら現地に行ってもらって、この一体感を味わってほしいのだ)。

さて、「試される」パートの最後は「バブリン! バブリン! それではいきますよ」と2人が歌って「バブリン」に突入。ここでもワンコーラス後に「ヒメ! ヒナ! ジョジ相愛 生まれて死ぬまでバブりゃんせ!」とコールを入れさせた上で、観客の「接吻!接吻!」、ヒメヒナの「Chu!Chu!」と掛け合いを行っていた。

その後、やたら可愛いケモミミ&パーカーに着替えた上で、「キスキツネ」を歌い出す。先ほどからの流れで「Chin!! Chin!!」「Kon Kon」コールを完璧にこなした上、「止められねぇ!」の歌詞で少女漫画風イラストを背景に高速回転する舞台にしがみつくヒメヒナという謎シチュエーションに大歓声を上げるなど、さらに興奮が高まった。

さらに曲間0秒で代表曲の「愛包ダンスホール」に移行。左右のサービス映像に歌詞を表示させてみんなで一緒に歌い、サビでは「オイ!オイ!」と合いの手を入れるなど、さらに客席が昂っていた。途中スクリーンに「Thanks 60,000 over covers!」との文字とともに、数々の踊ってみたを並べた映像が挟み込み、広めてくれた方々への感謝を伝えていたのも印象的だった。

ここから始まったエモパートが本編ラストに向かっての怒涛の流れだった。「Lemonade」で高音の伸びとサビの2人のハモりの美しさに聞き惚れ、みんなの課題曲の「うたかたよいかないで」では途中「涙の薫りがする」のフレーズを一瞬はさみ、ヒメヒナの「みんなの声聞かせて!」の呼びかけにやっぱり大合唱になる。

間髪入れずに「涙の薫りがする」。こちらも「うたかたよいかないで」のフレーズを入れ込むライブアレンジが入り、最後は「泣いたって 泣いたって さよならなんだよ 黄昏の過去に告げる『ありがとう』」と全員で大声を張り上げる。「愛してるよ、愛してるって! 涙の薫り、嗚呼」の後に銀テープが会場に放たれて、この日何度目かの最高潮が訪れた。

続けて、空き地でシャボン玉を飛ばしながらしゃべる2人の映像が流れた上で、「Bubblin」つながりの童謡「しゃぼんだま」アレンジを歌う。激しくみんなで歌ってきた末にたどり着いた、純白のドレスに白い照明、月と宇宙を背景にハーモニーを響かせる二人という空間は、言葉では表現できない美しさだった。

ステージに浮き上がる映像のシャボン玉。

「大好き」

光り輝くシルエットの2人が現れ、「Produced by Studio LaRa」「Performed by HIMEHINA」の文字が映し出される。さながらエンディングのようなクレジットとともに始まったのが本編ラストの「生と詩」だ。

「Lifetime is Bubbling. 弾けぬ様に
 小さな命を膨らませて
 White dwarfみたいに弾ける夜に
 死の代わりに詩を残せるように」

目まぐるしく入れ替わるエンタメ業界のさらに最先端。泡のように次々と弾けてタレントが消えていくVTuber業界において、大切に育み、誰かに届く価値を残したかったヒメヒナという存在を歌ったような歌詞だ。

メインスクリーンに白バックの黒明朝体で次々と現れるテロップ。

「変化と覚悟」

「いつだって足がすくんだ」

「去る人、去る景色」

苦難と葛藤も多かったこの7年間。

「生きてるだけで幸せだよ
 そう思わせてくれてありがとう」

でも、みんながいてくれたから続けてこれた。

ヒメ 愛を包んだ、小さな命。息と膨らみ、泡となり、玉の様に愛らしい。

ヒナ 風に浮かんだ、小さな命。空に浮かんだ泡となり、虹の様に美しい。

ヒメ 割れないように、大切に。

ヒナ 割れるときまで、懸命に。

ヒメ 僕ら、泡のように生きていく。

2人 Life is Bubbling。徒党を組んだシャボン玉のように。

2人 命が、弾ける。

「ラ、ラ、ラ」と歌う中、今までの40人ほどのバックダンサーが現れ手を振り、壮大なミュージカルのハッピーエンドのような雰囲気に包まれる。そしてステンドグラスを映し出した半円形のLEDが左右から迫って閉じ、本編は終了となった。幕の裏で「ありがと」とつぶやく二人に、「ありがとー!!!」という絶叫と鳴り止まない拍手が送られた。


全員が大歓声をあげたアジアツアーの発表

今回のアンコール前の大合唱は「涙の薫りがする」。

「思い出よりも未来の約束を
 過去は駆けてきてくれない
 そう、分かったの
 生きるって進むこと」

オルゴールの主旋律が流れ、中央のLEDに表示される歌詞をみんなで歌っていくと、自然とその意味を噛み締めてじんわりと感動が起こっていく。

アンコール1曲目は、1日目が100万人登録記念でヒメヒナ、Goghoで作詞したと言う「I Love You」、2日目が「フランケンシュタインの怪物」とどちらも新曲をチョイス。

その後のMCでは、1日目は2人のソロ曲を収録したアルバム「ふたり紡ぎうた」の2月25日リリース、2日目はアジアツアー「LIFETIME is BUBBLIN」を1月より展開することを明らかにした。特に2日目のツアーを発表したときの歓声が非常に大きく、福岡、大阪、仙台、名古屋、札幌、台北、上海と7都市を読み上げていくたびに絶叫が上がっておりファンの嬉しさが伝わってきた。

ラストスパートは、1日目がヒナソロの「Raise your voice!」、ヒメソロの「花れ話れ」を2人で歌って「ハレ」につなぐ。2日目は「真夏の夢の提灯暗航」、「アダムとマダムと藍の歌」、「希織歌と時鐘」という流れだったのだが、歌詞のオリジナルアレンジだけでなく、後ろ2曲は実質HIMEHINAメドレーになっているというサプライズだった。

「ライブでやりたい曲が多すぎるな……。せや! メドレーにして圧縮したれ!」という意図があったかはわからないが、ただでさえ今まで曲間0秒でつなぎ、MCいつもより少なめにしてずっと歌ってきたのに、ここにきてさらに圧縮率を高めるとは。こんな脳筋ソリューションありなんだと客席で驚き、それを声が枯れるどころか逆に生き生きと歌いこなしていく2人と、変則的な演奏に曲進行に難なく合わせていくバックバンドの円熟の技に改めて「よくやる!」と恐れ慄いた。

ラストは「風編み鳥」。

「この旅の果てにあるものが見たいから
 肩を組んで 風を編んで ゆくんだぜ
 日の旗の悠空へ」

ポジティブな歌詞の最後にまさにアジアツアーを想起させるような文言が入り、次の宴の始まりを感じさせる。最後に2人が会場に感謝を伝えてライブは終演を迎えた。

感情が常に飽和している怒涛の物量、それを決して妥協しないクオリティーで創り上げる狂気、ファンに寄り添ってくれるストーリー、そしてみんなが歌ってくれるからこそ実現できる一体感など、唯一無二の体験を実現した今回のライブ。

VTuberに限らず、キャラクターライブとしても異次元な領域で、一度体験したらHIMEHINAをもっと好きになるはず。ぜひアジアツアーに応募して現地を訪れてほしい。


(TEXT by Minoru Hirota

●セットリスト
01 Introduction:楽園
02 Opening:80Bubbles
03 V
04 LADY CRAZY
05 ヒトガタ
06 WWW
07 ECHO
08 ヒビカセ
09 UNDEAD
10 神っぽいな
11 CQCQ
12 灼熱にて純情
13 過去を喰らう
14 Int: The Past and God
15 密命
16 Int: Electron Ⅲ
17 琥珀の身体
18 棄てられた鉄の王国
19 魂にひそむ
20 Int:わかれのうた
21 遺言
22 マザードラッグ
23 相思相愛リフレクション
24 アダムとマダム
25 絶望を翔る恒星
26 Int:試される合唱の大地
27 バブリン
28 キスキツネ
29 愛包ダンスホール
30 Lemonade
31 うたかたよいかないで
32 涙の薫りがする
33 しゃぼんだま
34 生と詩
35 Encore Calling
36 [新曲]I Love You [Day1]/[新曲]フランケンシュタインの怪物[Day2]
37 Raise your voice! [Day 1]/真夏の夢の提灯暗航 [Day2]
38 花れ話れ [Day1]/アダムとマダムと藍の歌 [Day2]
39 ハレ [Day1]/希織歌と時鐘 [Day2]
40 Int:Flying Bubbles [Day2]
41 風編み鳥


●過去のライブレポート
待ち望まれたVTuber界の「歌姫」が降臨 HIMEHINA初のワンマンライブ「心を叫べ」レポート(2019年)
ヒメヒナ「HIMEHINA LIVE 2021『藍の華』」ライブレポート 「オンラインでも現地」を願った仕掛けと演出に涙(2021年)
ヒメヒナ「希織歌と時鐘」レポート ライブ氷河期に希望の鐘を響かせた名ステージ(2021年)
ヒメヒナ「HIMEHINA Live2Days『アイタイボクラ』」レポート 「やっと会えたね」に涙し、決意の2億円借金に驚く(2022年)
HIMEHINA LIVE 2023「提灯暗航、夏をゆく」レポート 会場を包んだ声援と笑顔、やっとボクらはひとつになれた(2023年)
HIMEHINA、「涙の薫りがする」1万字ライブレポート そして未来は変わり、ボクらは会えるようになった

●関連リンク
LIFETIME is BUBBLIN」公式サイト
X(田中ヒメ)
X(鈴木ヒナ)
YouTube
公式サイト