1月21〜22日の2日間、サンリオによるVR音楽フェス「SANRIO Virtual Festival 2023 in Sanrio Puroland」(以下、サンリオVfes)で行われた。そのライブのうち、主にリアルアーティストが出演した「B2F:LUNA PARK」(ルナパーク)と、バーチャルアーティストが登場した「B3F:FUTURE STAGE」(フューチャーステージ)から、リアルアーティストを中心にレポートする。
2021年12月の初回開催が大成功に終わり、前回を体験したオーディエンスから大きな期待を寄せられて始まった本イベント。さらに先行体験会のレポートでもお伝えしたサンリオバーチャルパレード「Musical Treasure Hunt」が、クオリティーの高いパフォーマンスとサンリオのイメージをいい意味で覆す展開だったこともあり、瞬く間にVRChatユーザーの間で話題となり、初めから高かった期待値がさらに高まった中で21、22日のライブ本番を迎えた。
なお、B2F、B3Fはチケットが必要な有料パートとなる。無料のB4F・B5Fについてのレポートは以下をチェックしてほしい。
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朗報なのが、1月29、30日にはタイムシフト再上演が決定しているということ。見逃してしまった人はもちろん、既存の参加者も時間帯がかぶって見られなかった公演を体験できることになる。
チケットは、スマホやPCの画面で見られるSPWN版と、PCとVRゴーグルで参加するVRChat版を用意。SPWN版は、購入後すべてのアーカイブを視聴可能。VRChat版は、1月25日の23時59分までの期間限定となる。チケットを購入しなかったけどやっぱり見たくなったという人や、販売期間に間に合わなくて買えなかった人も、VRで体験するチャンスはまだあるので、PC VR環境がある方はぜひVRChat上で体験して欲しい。
*本記事では、各パフォーマンスの内容に触れる記述があります。特にタイムシフトを見る予定があり、事前情報を目にするのが気になる人はご注意ください
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B3「FUTURE STAGE」VTuberと同じ空間に存在する喜びを
B3は、VTuberなどのバーチャルアーティストがライブを行うステージで、メインインスタンスである「自由インスタンス1」はすぐに埋まる人気ぶりだった。絶対に自由インスタンスで参加したいアーティストのライブの場合は、何分か前に自由インスタンスに入っておいて待機する必要がある。これは、リアルのフェスでいいポジションを取るために早めに移動するのと似ている。
*補足:VRChatには、CGの空間である「ワールド」と、そのワールドを必要な分だけ複製して実際にユーザーが入る「インスタンス」という概念がある。VRChatでは多くても数十人程度しかひとつのインスタンスに入れないため、人気のイベントなどではインスタンスを複数立てて、多くの人が参加できるようにしている。B2F、B3Fではどのインスタンスのステージにも出演者は登場するが、メインのインスタンスへの参加はより多くの参加者が集まり、盛り上がりが実感できるのがメリットだ。
とはいえ、移動時間はかぎりなくゼロなのがバーチャル音楽フェスのいい点だ。リアルのフェスでステージ間の移動で大変な思いをしたり、混雑に巻き込まれてライブに間に合わなかった経験がある方なら賛同いただけるはず。ただし、体感でいえば、昨年の感覚で1、2分前に行くと入りたいインスタンスからあぶれてしまっていたので、特に見たい公演はより早めの行動が求められるだろう。
なお、チケット購入時に自動的に割り当てられる指定インスタンスに入ったり、「自由インスタンス2」以降に入ることで少人数で楽しむことも可能。例えば「推しのスクショを大量に撮影したい」といった場合には、観客がたくさんいるインスタンスよりも、少人数のインスタンスの方が他人を気にせず撮影できるため良いだろう。
個人的には、まわりにたくさん人がいる方が熱気を感じて楽しいので、なるべく自由インスタンス1で観たいと感じた。
B3に出演するバーチャルアーティストは、VTuberのファンやVRChatに慣れている方にとってはそれぞれが人気・実力ともに優れたアーティストぞろいなので、今回はあらためて取り上げない。しかし、「原因は自分にある。」についてはよく知らない方もいるのではないだろうか? かなり面白いライブだったので取り上げたい。
●原因は自分にある。– げんじぶが問いかける「バーチャルライブ」
タイムテーブルが発表された際、VTuberであるピーナッツくんがB2に出演するのと同様に、リアルアーティストである彼らがB3に出演することも気になった方もいるはず。
ライブが始まり、メンバーの特徴を反映してかわいくデフォルメされた二頭身アバターで登場すると、かわいい見た目とは裏腹に、キレのあるダンスを披露して圧倒する。
アバターが二頭身であっても、動ける人が動かすとこんなにキレのある動きができるのだと驚かされる。
かわいいのにかっこいいというギャップが面白い一方で、せっかくイケメン7人組のボーイズグループなのに、かわいさに振ってしまってもったいないと感じたのも事実だった。
しかし、一度暗転してからラストの曲「原因は君にもある。」が始まって明るくなると、リアル頭身のアバターに変身を遂げ、かっこよさに全振りしていた。先ほどまでと同じ人によるパフォーマンスなはずだが、リアル頭身になるだけでイケメン度が急激に上がってしまって大変心臓に悪い。こんなことなら二頭身のままでよかったのに。
曲のクライマックスである、原因を突き詰めるように「やっぱり君のせいだろ」「それとも僕のせいなのかい?」と畳みかけるパートでは歌詞もサンリオVfes仕様になり、ラストは「明らかにサンリオ、君たちのせいだ」で締められているという、彼らがそこにいる「原因」を示唆するようなライブ演出になっていたのが彼ららしい。
当日は、同じ時間にB4でmemexがライブをしていたこともあり、多くの観客はB4に行っていた事と思うが、ぜひタイムシフトでは見て欲しい。
B2「LUNA STAGE」に起きた異変 VR時代のライブがここに
サンリオVfesをVRChat会場に見に来る方はVRに親和性の高いVTuberファンの方が多いからか、B2では「自由インスタンス1」が基本的に空いていた。もしもタイムシフトでもう一度サンリオVfesを見ようと考えている方は、ぜひB2も体験して欲しい。リアルアーティストにはあまり興味がないという方にとっても、想像を超える「破壊」がそこにはあるはずだ。
リアルアーティストがライブをするB2は「サンリオピューロランドの地下に突如誕生したバーチャル空間」でありながら、空を見上げると星がまたたく幻想的で開放的な野外フェス会場のようにできていた。
ステージは実際にサンリオピューロランドにある「フェアリーランドシアター」と同じように作られているところが、サンリオファンには嬉しい演出と言える。
サンリオVfesの第二回となる今回は、エントランスが拡張されヴァーチャルピューロヴィレッジへ降りることができるようになったが、フェアリーランドシアターは実際のピューロランドではピューロヴィレッジにあるため、今回の拡張でステージとして現れたということだろうか。リアルとバーチャルの連続した関係性にワクワクしてしまう。
ここからは、いくつかのライブをピックアップして紹介する。
●MIKU BREAK – バーチャルとリアルの境界線をBREAKするユニット
B2のオープニングアクトは「MIKU BREAK」。「リアルとバーチャルの境界を”BREAK”する」というテーマのもと、「初音ミク」とテックダンスフュージョン集団「CONDENSE」が先端映像演出でコラボレーションしたユニットだ。公式サイトにある「※パフォーマンスは、アバターでの出演となります」という注意書きが気になったが、始まってみると想像を超えるパフォーマンスが繰り広げられていた。
単にアバターでダンスパフォーマンスをするだけでなく、現実では難しいようなスライド移動とダンスを組み合わせたパフォーマンスは圧巻。目まぐるしく変化するスピーディーな演出は、アニメや映画のバーチャルライブのようだ。
視界ジャックなど、VRらしい演出を使いこなしているので観ているだけで楽しく、ノリやすい音楽なので自然と踊っているうちに、あっという間にライブが終わってしまった。さすが、ストリートカルチャーと映像演出の融合を日頃追求しているグループである。
初音ミクは前回も出演しており、B3ではVTuberの「東雲めぐ」とも共演していたが、B2ではボカロP出身のアーティスト「キノピオピー」が本人の姿のまま共演するというリアルとバーチャルの懸け橋となるようなパフォーマンスを見せている。そして、今回はついにリアルアーティストをバーチャル空間に召喚してしまった。こんな芸当はきっと初音ミクにしかできないだろう。
「2次元や3次元などの様々な境界線を壊して(BREAK)」というコンセプトの彼ららしい、まさにオープニングアクトに相応しい素晴しいパフォーマンスだった。
思えば、この時からB4が「破壊」しつくされるのは予見されていたのかもしれない。
●Night Tempo (with FANCYLABO) – シティ・ポップのキーパーソンが見せる心地の良い破壊
世界的なムーヴメントになっている70~80年代の日本のシティ・ポップ・ブームを牽引しているキーパーソンの「Night Tempo」。そのNight Tempoと矢川葵による新ユニット「FANCYLABO」は、ついにリアルアーティストがリアルアーティストとしてパフォーマンスを行う。
驚いてしまったのが、昨年はパフォーマンスしている人物だけがステージ上に合成される形でバーチャル空間に出現していたところ、今回は実際にピューロランドのフェアリーランドシアターで撮影された映像がステージにうまく合成され、自然と馴染んでいた点だ。
これは、昨年のB2ステージ演出から変わった点であり、リアルアーティストが空間ごとバーチャル空間に接続される演出意図が心憎い。実際にリアルな場を持っているサンリオだからこそ実現できたリアルとバーチャルの垣根の「破壊」だろう。
心地の良いノスタルジックな音楽はどこか浮世離れしており、リアルとバーチャルの垣根を曖昧にするようだ。
●ピーナッツくん – 「そういうことだったのか!」納得のブッキング
VTuberとして活動する「ピーナッツくん」が、なぜかリアルアーティストのステージであるB2初日のオープニングアクトに選ばれていることは、多くのVTuberファンが驚いたはず。
とはいえ、ピーナッツくんがぽんぽこと共に活動する「ぽこピー」では着ぐるみを活用した活動もしているため、おそらくきぐるみでパフォーマンスをするのだろうとは思っていた……のだが、なんとゲストとしてサンリオキャラクターの「ぐでたま」が登場!
ぐでたまと並ぶピーナッツくんのまるで兄弟のようなシルエットには正直、そう来たかあー!と意表を付かれ、そういうことだったのかと納得させられた。
さらに特別ゲスト! サンリオキャラクターの「ぽこぽん」と、ピーナッツくんと共に活動する「ぽんぽこ」が登場。2人ともたぬきのキャラクターなので、一緒にいて当たり前のようなオーラすらある。
ピーナッツくんが「Dance on the table」を歌うのに合わせて4人(4匹?)みんなでリズムを取ったりする姿はかわいらしいのだが、予想以上にぽこぽんの動きのキレが良いのが面白く、サンリオキャラクターの幅の広さを感じて楽しいパフォーマンスだった。
●ザ・リーサルウェポンズ – 炸裂する80年代カルチャー
長い人生の中で「アニキ アニキ」と表示されるリリックを見ることになるとは思わなかった。始まって2秒でVRであることを忘れさせるような暑苦しさ全開のパフォーマンスで観客を盛り上げていた「ザ・リーサルウェポンズ」も取り上げたい。
80年代の映画やゲームなどが題材の楽曲はワードセンスがキャッチ―なため、全く初見でも盛り上がれてしまうという、フェスにうってつけのバンドだ。
B2エリアのおもしろい点に、普段のライブではリリックビデオのように歌詞が表示されることはあまりないリアルアーティストのライブに、演出としてリリックが表示されるライブもあることが挙げられる。
ザ・リーサルウェポンズもずっと歌詞が表示されていたのだが、一般的なリリックビデオにあるようなクールでスタイリッシュな表現ではなく、すべての歌詞のフォントが男らしい明朝体だったり、「ヘイ」などの合いの手がわかりやすく表示されていたのが楽しかった。
また、リアルだからこそできることとして、演者同士がハイタッチしたり、上着を脱いだりといった、身体性を伴ったパフォーマンスを容易にできることがある。ザ・リーサルウェポンズのボーカルのサイボーグジョーが上着を脱いだり(脱いだがすぐ着た)、プロデューサー兼作曲家のアイキッドにマイクを押し付けたりとやりたい放題。ここまで人間臭いパフォーマンスをVR上で見るのはなかなかない体験だと感じた。
彼らは「狂気の発明家アイキッドと最終兵器サイボーグジョー」という二人組なのだが、ほとんどVTuberなのではないだろうか?
当日はB3のKMNZとB4のmemexと時間が被っていたため観ていない方も多いかもしれないが、タイムシフトでもう一度観るという方にはおすすめだ。
●スチャダラパー – 「あっという間に30年以上経ってしまいました」
ヘッドライナー的な立ち位置で出演したのが、「スチャダラパー」。小沢健二とコラボレーションした楽曲「今夜はブギーバック」が時代が変わっても歌われ続けているのはもちろん、数々のフェスに出演したり自らもフェスを開催している重鎮だ。
そんな彼らでも自由インスタンスは空いていたのが印象的だった。リアルの場の人気や知名度が全く反映されないのがVRの面白い所でもある。
そんな中で「スチャダラパーという名前だけでも覚えて帰っていって欲しい」と言えるBOSEの謙虚さがかっこいい。
2曲目から盟友のロボ宙が登場し、3MCでライブが行われる。スチャダラパー3本目のマイクとも言われるロボ宙をサンリオVfesでも観られて嬉しかった観客も多いのではないだろうか。
安定した緩いテンションのトークに、いい具合に脱力したラップ、テンポ良く表示されるリリックを楽しめたが、なんと言ってもラスト3曲が良かった。
「ヨン・ザ・マイク」ではラップの合間にBOSEが「辞めずに懲りずにやっているうちに、あっという間に30年以上経ってしまいました」と言って、ANIにつなぐ。
VTuberは5周年を迎えるだけでも芸歴が長いとされたり、諸事情から引退していく方が多い。「推せるうちに推そう」と推し活を頑張っているVTuberファンも多い中、30年という信じられないような長い経歴を見せつけられるのは、歴史そのもののような途方もないものを感じさせられた。
そこから完璧なつなぎで「ポンキッキーズ」のOP「GET UP AND DANCE」に。一定の年齢の方なら、毎朝8時に学校の支度をしながらポンキッキーズを見ていた幼少期の思い出が一瞬でよみがえることだろう。
そしてラストはポムポムプリンをゲストに迎え「今夜はブギーバック」を歌い、B2エリアのライブは全行程を終了する。
かつて、90年代に日本のカルチャーを代表する「渋谷系」としてカテゴライズされたスチャダラパー。そして、渋谷系が再評価されるたびにその元祖とも言える「今夜はブギーバック」もまた、名曲として注目を浴びては時代のアーティストたちに歌われ続けている。
VTuberや、VRという場がまだ生まれたばかりの新しいカルチャーであり、まだどういうものなのかがはっきりと定まっていないようなVRカルチャーと、30年以上活動しているスチャダラパーの出会いは幸福な接近が感じられる。
もしかしたら30年後、今日出演したVTuberの誰かが未来に生まれる新しいカルチャーの場でパフォーマンスをして、右も左も分からないでいる演者に対して同じようなことを言っているかもしれない。
なぜサンリオはVRChat上で音楽フェスを行うのか?
以上、サンリオVfesのB2、B3のリアルアーティスト寄りのレポートをお送りした。タイムシフト再上演に参加する方の参考になれば嬉しい。
フェスという場や、現代のムードに合ったアーティストがサンリオピューロランドという場の力を用いてミックスされることで、リアルとバーチャルという垣根が完全に破壊されてしまった。もう、ここから先のバーチャルライブイベントは「これ以上」にめちゃくちゃになる必要があるというわけで、クリエイターにとっても、いち観客にとっても楽しみで、今から次回の開催が待ち遠しい。
すでに体験された方は、無料エリアのステージのクオリティが物凄いことになっているのをご存じだと思うが、なぜ有料のチケットがありながら、無料でも同等か、人によってはそれ以上の感動を得られるようなパフォーマンスが行われていたのだろうか?
サンリオピューロランドへの事前取材時に、プロデューサーの町田氏に話を伺う機会があったが、「現実では知らない人同士が仲良くなることはあまりないが、VRChatではそうしたことが実際に起きている。それは本当に凄いことだと思います」と語っていた。
つまりサンリオピューロランドという場はパレードやショーという「音楽」を基点に集まる人々が笑顔になっていく場であり、VRChat上でも「音楽」を基点とした音楽フェスイベントを行うことで、VRChatに親しんでいるユーザーは無料のライブを目的に集まり、音楽フェスをきっかけに集まってきた演者のファンもSPWN配信での視聴がベースかもしれないが、なにやら楽しそうな場所があるから行ってみようというVRChatにログインするきっかけになればという願いを込めて、両者が交差する場は無料で開放されているのではないだろうか。ライブ演出でリアルとバーチャルの垣根を破壊したサンリオが最後に壊そうとしているのは、きっとここだ。
(TEXT by ササニシキ)
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