2025年2月1日(土)、フェニーチェ堺 大ホールと、ライブ配信プラットフォームであるASOBI STAGEでのxRライブストリーミング(以下、xRライブ)にて、星井美希、四条貴音、我那覇響が出演するライブ「961 PRODUCTION presents 『Re:FLAME』 追加公演」(以下、 『Re:FLAME』 追加公演)が開催された(xRライブアーカイブ)。
2024年8月のライブ「961 PRODUCTION presents 『Re:FLAME』」(以下、 「Re:FLAME」 )が好評ゆえ、追加公演として実施したものである(レポート記事)。
かつて「プロジェクトフェアリー」と呼ばれた星井、四条、我那覇の3名は本ライブで何者になったのか。本ライブのゲストである奥空心白(おくぞらこはく)と亜夜(あや)のデュオユニット「アルバノクト」との共演は「あってはいけない可能性」なのか、「ありえないと決めつけてた奇跡」なのか。ライブレポートを通じて見ていこう。
「プロジェクトフェアリー」と「アルバノクト」とは
星井、四条、我那覇は、ゲームなど多方面で展開される「アイドルマスター」に登場するアイドルで、芸能事務所「765プロダクション」(以下、765プロ)所属として知られている。
一方で星井、四条、我那覇の3名については、961プロの「プロジェクフェアリー」というユニットを結成していた*記憶を持つ読者もいるだろう。
*プロジェクトフェアリーの活躍は2007年にリリースされたゲーム「アイドルマスター SP」およびその関連作品で描かれている
プロジェクトフェアリーは黒井氏のもとで孤高の王者になるべくアイドル活動を行っていた。昨夏の「Re:FLAME」で披露した楽曲もハードで攻撃的・挑発的のものが多く、961プロらしい圧倒的なパフォーマンスで観客を魅了した。一方で 「Re:FLAME」では961プロのライバル事務所であるはずの765プロの楽曲も披露しており、星井・四条・我那覇の、黒色だけではない様々な可能性を提示していた。
しかしながら、「Re:FLAME」において星井たちは自身らのことをプロジェクトフェアリーとは名乗っていない。観客はプロジェクトフェアリーという名の代わりに、夢以上のマーベラスなライブをプロデュースした黒井氏に「961!961!」というコールで賞賛を送り、それに応える形で黒井氏は 「Re:FLAME」 追加公演の開催を発表した。
今回の「Re:FLAME」追加公演でゲスト出演するアルバノクト*は、961プロからデビューした、奥空心白と亜夜によるデュオユニットである。
しかし、ここでも違和感がある。我々は961プロで活動したアルバノクトをほとんど知らないのである。アルバノクトは事情により解散し、奥空は星井・四条・我那覇を含む765プロアイドルや他の事務所のアイドルとの期間限定プロジェクト「プロジェクトルミナス」*で活動していた。
同時期に亜夜は961プロのアイドル、玲音(れおん)や詩花(しいか)と「ディアマント」*というユニットを結成している。
*アルバノクト、プロジェクトルミナス、ならびにディアマントの活躍は2021年にリリースされたゲーム「アイドルマスター スターリットシーズン」で描かれている。


その後、奥空と亜夜は別の事務所でアルバノクトを再結成し活動を行っている。ゆえに、「961プロのアルバノクト」が登場するとなると驚きを覚えるのである。
こうして、プロジェクトフェアリーとアルバノクトという「あってはいけない可能性」のライブを彩るピースが揃った。
ここからはどのように「ありえないと決めつけてた奇跡」が起きたか、現地会場と配信の様子を踏まえてレポートしていく。次いで、プロデュースを行った黒井氏は何を狙い、星井たちがこのライブで何を獲得したかを考察。最後に、xRライブにおける実在感が不利になろうとも実現したかった奇跡について検討する。なお、本稿で用いるライブ画像は、一部を除きxR配信のものだ。
星井たち3名の強さを改めて示した夜明けのライブ
「Re:FLAME」追加公演、昼公演としてまずは[Re:FRAIN/DAWN]と名付けられたライブが行われた。「Re:FRAIN」はリフレイン、つまり繰り返し句のことを指すのだろうか。「DAWN」は朝焼け、黎明といった意味を持つ。
xRライブ配信では、日が沈む夜空になり、再び空が白むまでの映像が高速で流れた。そして時計を模したスクリーンには朝焼けの空が映し出された。
ポーズをつけた3名の女性のシルエットがリフターと共にせり上がる。そして、「オーバー マスター」という声と共に、ステージ中央に吊るされたモニターに映し出される「9」「6」「1」の文字。この時点で既に観客席からは歓声が沸き起こっていた。
これは彼女ら3名が表舞台に出てきたときに披露された曲であり、そして代表曲でもあるハードナンバー、楽曲「オーバーマスター」の演出。すなわち昨年8月に開催された「Re:FLAME」の第一公演の再現だ。……と思いきや、初手の「オーバーマスター」の声は低音から無機質なものに変わり、3名のシルエットが取るポーズも違う!これは、「オーバーマスター」でも、昨年世に出た「-Rio Hamamoto Rearrange-」の方だ!
原曲よりも低音を効かせることで強気な曲をより「治安の悪い」ものとしたこの楽曲にあわせ、揺れる振りの中にも見得を決めるが如く体を止めるなど、3名は緩急をつけたパフォーマンスを魅せてくれた。
続く曲は「マリオネットの心」。もともとは悲恋をうたうダンサブルなナンバーを星井がソロで歌唱する楽曲だが、本ライブでは四条と我那覇を両サイドに従え、3名で歌唱。「心がこわれそうだよ……」という叫びを三者三様の振りで表現するのも含め、3名の楽曲に仕上げてきた。
3曲目はK-POPのテイストを織り込んだ「FlaME」。こちらは、歌唱中にフォーメーションを変えつつ、Bメロからサビでは動きをきっちり揃えて、見ごたえがあった。
1曲目の「オーバーマスター -Rio Hamamoto Rearrange-」とこの曲は近年リリースされたものだが、観客席のパイプに触ると振動を感じられるほど重低音が効いており、2曲目の「マリオネットの心」と並べてみると、彼女らの楽曲も時代の変遷に合わせて幅を広げていることを実感できる。
3名揃っての強火の3曲の披露が終わった後は、MCパートを挟み各人のソロ歌唱のコーナーとなる。
「美希も貴音も、ここにいるみんなも圧倒的なパフォーマンスでわからせるから、覚悟してよね」と両手の手のひらを上に向けながら力強く宣言する我那覇、「ミキが一番キラッキラで一番カッコイイアイドルだってこと、パフォーマンスで教えてあげるからね」とウインクしながら宣戦布告する星井。それに対し、四条は「個性のぶつかり合いこそが私たちの魅力」と一歩引いた形で3名の魅力を伝えるも、「ゆめゆめ、私の魅力に振り落とされませんよう、お気を付けください」と笑みをこぼしながら強気な発言をしたのである。
そんな、パフォーマンスに妥協しない3名のライバル関係が垣間見えたところで、ソロコーナーの先手は星井から。
「追憶のサンドグラス」は両方とも歌唱だけでなくダンスでも魅せていくのだが、「追憶のサンドグラス」は激しい情念を荒々しさも感じるほどの声と動きが印象的であった。
それに対して「目が逢う瞬間」は内面に閉じ込めた後悔を流れるような歌と舞いで表現していて、同じ失恋をテーマにした歌でも異なる方法で表現していたと筆者は感じた。
ダンスを得意とする我那覇は、「迷走Mind」と「Rebellion」を披露。
「迷走Mind」では、彼女のチャームポイントでもある長いポニーテールを振り乱すほどのパフォーマンスで疾走感あふれる楽曲の世界を体現。
「Rebellion」では、「目覚めゆく真実の赤」という歌詞にあわせて照明が赤く染まり、観客も手持ちのコンサートライトも赤く変えるという定番の風景も含め、彼女の代表曲ならではの盛り上がりを見せた。
たおやかに、それでいて凛とした歌唱のイメージもある四条だが、今回のソロ曲コーナーでは異なるイメージの2曲を歌唱。
ミディアムナンバー「フタリの記憶」では、近いうちに来る別れの刻への切なさをかすかな吐息を交えながら歌う。
と思えば、擬態語を交えた歌詞で恋する乙女心を歌う「フラワーガール」では、「あなたが好き!」という歌詞に重なるように観客からの繰り広げられる「貴音が好き!」というコールにも可愛い微笑みを返していた。
3名それぞれのよさをそれぞれの得意なパフォーマンスで表現したソロコーナーの後は、我那覇の「どっちがかっこよくてかわいいか、勝負するぞ」、四条の「望むところです」という発言から、各人の良さを比較して見ることができるデュオコーナーが始まった。
インモラルな恋愛感情を歌ったミステリアスナンバー「I Want」では、元気でさわやかな笑顔で歌い上げる我那覇と、静かな動きと笑みに奥深さを感じさせる四条の対比が見られた。
2人だけになろうとも禁忌の愛を貫こうとするグルーヴィーなハードチューン「edeN」では、激情的な星井の歌唱には必死に愛を求める姿を、比較すると落ち着いている四条の歌唱には確信をもって危険な愛に飛び込む姿を筆者は感じた。
全てを燃え尽くすような愛を歌う「inferno」は、我那覇のストレートな強さと星井の絡みつくような情念が化学反応を起こし、その火をより強いものにしている。
ここでライブは再びトリオでの歌唱楽曲のコーナーに。
ソロやデュオで三者三様のパフォーマンス、そして三者三様の良さを体感した後に聞く「Fate of the World」は、燃えるような強さの中にも3名の持ち味が組み合わされた味わい深さを見出すことができるだろう。
火花の雨が舞い降る演出の中で歌唱されたのは「1st Call」。最高を更新し続け、相手の一番であり続けると宣言する圧倒的カリスマソングだ。立ち位置を息を揃え巧妙に変えていくダンスの中でも、3名がお互いをライバルとみなし一番であろうと主張する姿が、この曲の強度を高めていく。
紫に照らされるステージの中、腰や指を巧みに動かしながら艶っぽい歌声で誘う「KisS」のパフォーマンスは、(xRライブでは唇にフォーカスするなどのカメラワークもあり)見るものの視線を釘付けにしてしまう。
曲終わりのMCは会場である大阪の食について語られた。健啖家である四条は、会場に来るまで豚まんの誘惑をなんとか振り切ってきたが、帰りにはぜひ食したいという。我那覇は、楽屋に差し入れてあったタコ焼きについて、”いぬ美”(我那覇の家族である飼い犬)たち用に「ネギ抜きタコ抜きソース抜き」のものも用意されていたという気遣いに感激。
そんなご当地トークが繰り広げられる中、舞台袖にはけていた星井が何かを頬張りながら上機嫌で登場。一瞬の隙をついてタコ焼きを食べてきたようだ。
本編最後のナンバーは、今回のライブのために書き下ろされた新曲「REALIZE!!!」。
冒頭の「REALIZE!RE:ARRIVAL」という歌詞の後に、「REAL LIVE!REAL RIVAL」と歌うところがあるのだが、同じユニットでありながら火花を散らすライバルでもあり続けるというのが今回のライブをもって証明された、このことを体現したフレーズであるといえよう。
大サビの前では、(曲前の3名からのリクエスト通り)現地会場の観客が、そしてxR配信の視聴者が「SHINE!SHINE!SHINE!」と叫び/書き込み、それに呼応するように3名が「目覚めなさい」「気づきなさい」「進みなさい」とアジテーションの如く煽る場面もあり、演者と観客が一体になることで完成する一曲であった。
アンコールの声に呼ばれて登場した3名は、星井が「大切な曲をお借りしたの」と言って、「EVER RISING」を歌い始めた。朝と夜も、白と黒も重なり繋がっていると歌うこの曲だが、3名はそこに、月と星と太陽も、光と闇も繋がっているという想いも重ねていく。
見るもの聞くものを導くように強く煽動していた「REALIZE!!!」や、[Re:FRAIN/DAWN]で歌われていたほかの楽曲とは違い、あなたと一緒にいたいと夢を望む「EVER RISING」では、その歌唱に優しさを感じた。
そして、優しさ舞台に映し出される空は朝焼けを迎えていた。
961プロアイドルの心に再度火をつけた黄昏のライブ
続いての公演のタイトルは[Re:FLAME/DUSK]。「ReFLAME」は再燃焼、「DUSK」は夕焼けや日没、黄昏を示す。
xRライブ配信では[Re:FRAIN/DAWN]とは逆に、日が昇り沈むまでの映像が高速で流れた。そして時計を模したスクリーンには、夕焼けのオレンジと夜の群青色から共存する黄昏時の空が映し出された。
それ以外の映像演出は[Re:FRAIN/DAWN]と同じである。となれば、演者の登場演出も[Re:FRAIN/DAWN]と同じように3つのシルエットがステージ下からせりあがってくるのでは……と思いきや、今回現れたのは2つだけ。そう、夜公演[Re:FLAME/DUSK]の最初のパフォーマンスを行ったのは、ゲストである奥空心白と亜夜のユニット、アルバノクトであった。
最初に2名が披露したのは「EVER RISING」。先の公演で星井が「大切な曲をお借りしたの」と言っていたが、もともとはこのアルバノクトのデビュー曲である。
星井たち3名の「EVER RISING」に優しさを感じたと述べたが、アルバノクトが2人が歌うと、奥空が亜夜を、亜夜が奥空を探し求め、そして出逢えたからこそできるパフォーマンスのように見えた。
それは、星井たち3名が外に向けて手を伸ばすところで、アルバノクトはお互いに向きあい、腕を重ね、手を重ね、視線を重ねるという振りからも見えてくる。
続いては、亜夜のソロ歌唱による「1st Call」。昼公演で歌われたこちらの楽曲も、もともとは亜夜を含む961プロのユニット、「ディアマント」の楽曲だ。
ソロではフォーメーションの妙は見られないが、キレのある動きで魅せる亜夜のダンスに見惚れるには相応しいセットリストである。なにより「Secondじゃいや、私だけを見て」という「1st Call」の世界にぴったりのシチュエーションだ。
奥空がソロで披露したのは、聞いているこちらも踊りたくなるコズミックテクノポップ「ダンス・ダンス・ダンス」。奥空や四条たちが参加したスペシャルユニットの楽曲であるが、奥空のおっとりとした動きと声が、クールなダンスナンバーにキュートさを新たに生み出している。
3曲を披露した後のMCパートでは、アルバノクトの自己紹介が行われた。
「ゲスト出演って聞いていたんだけど、いきなりこんな派手に出てきちゃって大丈夫かな」とか細い声で不安を吐露する奥空に対し、「せっかくできた大チャンスなんだから」と背中を押す亜夜。さらに所属事務所の社長である黒井氏からも「名前を売ってこい」という命を受けていることを聞くと、奥空も自信を取り戻して笑みをこぼした。そして「亜夜ちゃんと一緒にこんなに大きなステージに立てて、とっても嬉しいです」と頬を赤らめて告げると、亜夜も照れながら「心白」とだけ言い、それでいてまんざらでもない様子であった。
このようにアルバノクトは売り出し中のユニットであるが、デビュー曲「EVER RISING」を星井たちにをカバーしてもらったことについては、自分たちの曲なのに違って聞こえ、そしてバトンを渡してくれたような不思議な感覚を覚えたという2人。「私たちのパフォーマンスが、美希さんたちに繋がるといいな」と述べる奥空に続き、亜夜が「美希たちのライブを楽しんでいってね」と観客を煽ると、2人は舞台の上手にはけていった。
暗転した舞台の下手から歩いて登場する3人の影が見え、「Project Fairy in your Heart」の声と共に照明が付くと、星井たち3名による楽曲、「FlaME」のパフォーマンスの始まりだ。
アルバノクトのMCで甘くなった空気を一変する、燃えるような刺激的なパフォーマンスのあとは、蠱惑的な魅力の「KisS」で観客を骨抜きにする。昼公演である[Re:FRAIN/DAWN]でも披露された2曲だが、この温度差を感じさせるセットリストに、見ているこちらも高まってしまう。
ここで星井と我那覇がいったん舞台を降り、四条のソロステージに。
雪が舞う演出とともにとある楽曲のイントロが流れると、客席からはまさかと驚く声が。これは、かつてプロジェクトフェアリーが765プロ所属のアイドルと賞レースで争った時の楽曲、「Melted Snow」。今は側にいないあの人に逢えるかもしれないと「幸せな日々 夢見て」、雪解けの時を待ち続けるという詞を、しっとりと、それでいて大切な何かを求めるような四条の歌唱が情景を豊かにする。
続いて我那覇が披露したのは「黒い犬」。こちらもプロジェクトフェアリーと765プロとの因縁の曲。ではあるが、我那覇の朗らかな歌唱と屈託のない笑顔に釣られて、一緒に散歩をしながら「♪黒い犬」と口ずさみたくなったファンも多いであろう。
となると、星井が歌うのは先の2曲と同時期に歌唱されたという「ストレートラブ!」であると察しがつく。いや、察しがついたとしても実際に目の当たりにするとそのレアさに衝撃が走る。
彼女自身の持ち歌だと失恋の歌が多くなりがちではあるが、この楽曲については星井が全身を使ってまっすぐな恋の歌を表現してくれている。
3名揃っての楽曲で強気なパフォーマンスの後、ソロ歌唱にて四条のお淑やかな、我那覇の快活な、星井のまっすぐな側面が見れた。
自己紹介を兼ねたMCパートに続いて披露されたのは、脆さを知りつつも、Gameと称して相手を妖しく狂おしく惑わす「インセインゲーム」。緩急の激しいセットリストが、3名が持つパフォーマンスの幅の広さを顕わにしている。
危険な香りをまき散らすハードナンバーで観客をトリコにした後に披露されたのは、四条が歌う「Blooming Star」。もともとは聖少女と呼ばれる961プロのアイドル、詩花の楽曲であり、星のような憧れを目指すことを花咲きになぞらえて歌い上げる壮大な一曲。
バレエの心得のある詩花をリスペクトしたのか、四条もバレエのような振付で舞いながら高らかに歌い尽くし、曲が終わると客席からは盛大な拍手が沸き起こっていた。
星井がカバーしたのは、「ナチュラルボーン・アイドル」とも呼ばれる、961プロの玲音の楽曲「アルティメットアイズ」。オーバーランク=規格外の実力を持つ玲音ならはの、夢であれ愛する人であれ、求めるものはひとつではなく手に入れてやる、そんな意志を込めた重厚感と疾走感を兼ね備えた楽曲だ。
星井だって欲しいものを求める意欲は負けてはいない。小悪魔っぽさと好きなものに向かいまっすぐに挑む様子を共存させるという、彼女なりのやり方でこの曲を表現した。
我那覇は同じく玲音が歌うダンサブルなロックチューン、「アクセルレーション」をカバー。二度と負けたくない、夢に向かって全速力で突き進むと、こちらの楽曲も玲音の強さを感じられる一曲だ。
ポニーテールを荒々しく振り乱しながらハイテンポなこの曲を乗りこなす我那覇。大サビ前のスローテンポなパートでは語りかけるように歌うが、このパート終わりにある「希望抱きしめて yeah」という歌詞の「yeah」の歌い方と表情は、まさに車のアクセルをゆっくりと踏み込むようなかけるようなイメージを筆者に連想させた。そして、大サビではこの曲を楽しんでいるような笑みを見せながら、再び圧倒的なハイスピードで駆け抜けていった。
星井たちがそれぞれ961プロのアイドルのソロ曲をカバーした後は、再び3名が揃い彼女たちの楽曲「REALIZE!!!」を披露。
「REALIZE!RE:ARRIVAL」「REAL LIVE!REAL RIVAL」という歌詞が、昼公演である[Re:FRAIN/DAWN]では星井、四条、我那覇のライバル関係を指しているように聞こえたが、夜公演[Re:FLAME/DUSK]でアルバノクトのパフォーマンスや玲音や詩花の楽曲のカバーのあとの歌唱だと、彼女らもライバルとみなしているようにも筆者には思えてきた。
実際、この後のMCで我那覇は「自分たち以外のアイドルにもカバーしてもらいたいぞ」と述べると、星井は玲音と詩花、アルバノクトの奥空と亜夜の名を挙げた。さらに「いつもカッコつけている3人にも」と続けると、四条と我那覇も同調して、元961プロ所属の男性アイドル、Jupiterの天ヶ瀬冬馬、伊集院北斗、御手洗翔太を連想させるポーズを取ったのであった。






四条が「音楽は時間と距離を超えて、皆とつながることができる虹のようなもの」と語ると、星井は「ステージに立ってみんなに歌を届けたい」、我那覇は「たくさん歌って、踊って、みんながコールしてくれると、自分はひとりじゃない、これは夢じゃないんだと感じる」と、ライブステージが持つ力を訴えた。
そう述べてから始まった本編のラストナンバーは、願い事が叶う夜空に虹をかけ、君と一緒に踊る奇跡の夜を歌ったEDM「Miracle Night」。
星空をバックに「夢じゃない」と何度も確認するように歌い、フロアを熱狂させるように踊る3名は終始笑顔であった。
会場のアンコールの声に応えて登場した星井たち3名は、朝焼け=DAWNから夕暮れ=DUSKまでが早く、ライブが終わってしまうことをさみしがりつつ、本ライブで共演したアルバノクトの2名を呼び込む。
奥空がファンへの感謝の言葉を述べ、亜夜は奥空とライブができたことの喜びを表現すると、星井は奥空・亜夜の2名の仲の良さを指摘する。自分たちも仲の良さでは負けていないと我那覇が主張すると、「私たちは『らいばる』ではなかったのですか」と過去の我那覇の発言を引き合いに出し、困らせる。星井たちもやはり息の合った仲でもあるのだ。
亜夜が、アンコールナンバーは星井・四条・我那覇と奥空・亜夜の5名で歌唱することを告げると、奥空はリハーサルの時の様子を語ってくれた。いわく、本公演のプロデュースを行った黒井崇男氏が、普段の厳しい顔から、少しだけ笑ってくれたような気がしたと。我那覇は、彼が勝利を確信したときの顔だと言い、亜夜たちも同意をしたが、奥空は「それでも私たちの想いが伝わったんじゃないかな」と、嬉しさを伝えた。
そして、その楽曲のイントロが流れたとき、会場中とxRライブ配信のコメントから、驚きと歓喜の声が溢れた。楽曲の名は「空」。始まりと終わり、春と夏と秋と冬は繋がって巡るから、自分らしく、それぞれのやり方で歩いてもいいんだよと見守る、暖かみのある虹色の歌。
5名それぞれが自分らしい歌い方と振りではあるが、歌詞を繋げてひとつの歌を作り上げているのを見ると、筆者の気持ちも暖かくなっていて、気が付けば頬を濡らしていた。そして、心を動かした彼女たちの想いは確かに存在しているのだと実感した。
気が付けば夕暮れから始まったライブも夢じゃない夜が明け、朝焼けを迎えていた。
歌終わりにはマイクをオフにして、彼女たちの肉声で精いっぱいの「ありがとうございましたー」で感謝を伝えた。
5名が舞台を降りると、会場にはピアノによるインストゥルメンタルの「空」が流れ始めた。この曲をBGMにしてスクリーンにスタッフロールが映し出されるのかな…と筆者は気を緩めていたら、曲は別の楽曲のイントロに繋げてきていた。このイントロは聞き覚えがある。そしてざわめきだす客席。そう、これはプロジェクトフェアリーの始まりの曲、「オーバーマスター」だ!
大団円を迎えていた空気の中、イントロに合わせ星井・四条・我那覇がステージにせり上がってくると、「やりやがったな!」という驚嘆と興奮が入り混じった「オイ!オイ!」というコールが会場を覆い尽くし、xR配信のコメント欄を埋め尽くした。その声に合わせて、星井たちは最大級のパフォーマンスを行った。
楽曲の最後に星井は、「プロジェクトフェアリーは、みんなの心の中に、ずっとずっといるよー!」と叫んだ。そう、昨夏のライブも含めた5公演で、星井たちがはっきりと「プロジェクトフェアリー」という名前を口にしたのは、最終公演のダブルアンコール楽曲の、終盤であるこの時が初めてなのである。
そして、「だからまた、どこかでー!」と星井は続け、3名の今回のライブにおけるパフォーマンスを終えた。そして、スタッフロールの最後に「Produced by Takao Kuroi」という文字が表示されると、プロジェクトフェアリーとアルバノクトの活躍に、ライブを支えたスタッフに、そして今回のライブをプロデュースをした黒井氏に、「961!961!」というコールで最大級の賛辞を送った。
朝焼けと夕暮れ、白と黒が繋がった先に現れたのは
ここからは筆者の私見ではあるが、今回の「Re:FLAME」追加公演を通じて星井・四条・我那覇が何を経験し、その末に何を求めるようになったか、考察をする。
昨夏の「Re:FLAME」の時から、黒井氏は「夢」「可能性」「輪廻」という言葉を出し、今の時代におけるプロジェクトフェアリーを再定義しようとしていた。それは黒井氏による告知にもあり、新曲を含めた歌唱楽曲の歌詞にもあり、さらに星井たちが着るアパレルの中にもある。


もともと961プロからデビューしたプロジェクトフェアリーは、孤高の王者になるべくアイドル活動を行っていて、リリースされた楽曲もハードで攻撃的・挑発的のものが多かった。一方で昨夏の 「Re:FLAME」公演では、そういったイメージも保持しつつ、ライバル事務所である765プロの楽曲も披露しており、星井・四条・我那覇の、黒色だけではない様々な可能性を提示していた。
さらに今回の「Re:FLAME」追加公演において、夜明けを意味する昼公演[Re:FRAIN/DAWN]ではセットリストに強気な楽曲を多く並べつつ、彼女たちのパフォーマンスの多様さを比較してみれるような形にしていて、切磋琢磨するライバル関係、あるいは各々が違ったやり方で進む存在であることを強調していた。
夕暮れを意味する夜公演[Re:FLAME/DUSK]ではさらに、961プロの他のゲストとの交流で3名にあらたな刺激を与えていた。
[Re:FLAME/DUSK] では、奥空と亜夜によるデュオユニット、アルバノクト(AlbaNoct)もゲストとして参加した。ラテン語でalbaは白、noctは夜という意味であり、奥空心白と亜夜にちなんだユニット名ではあるが、同時に黒がより黒く、白がより白く、その強烈なコントラストによりお互いがお互いを引き立てるという黒井氏の想いが込められている。
今回のライブで歌唱されたアルバノクトのデビュー曲「EVER RISING」では、夜と朝、白と黒を重ねた末、「白夜のように終わらない夢 叶えたときに出会う世界 あなたと見たいんだ 高く遠い場所へ」と歌い、白と黒を繋ぐことで遥かな高みを目指すということを示唆している。
星井たちがカバーした「Blooming Star」「アルティメットアイズ」「アクセルレーション」にも「空」や「星」といった単語が含まれている。星井・四条・我那覇は今回、共演やカバーといった形で奥空・亜夜や詩花・玲音といった星(スター)との交流を経た。
そのうえで「REALIZE!!!」で彼女たちが出した答えは、この曲の歌詞にある「光と闇のルート どちらを辿っても RE:ARRIVAL 到達は」(中略)「同じ場所」、つまり目指す高みは同じであるということを指しているのではないだろうか。さらに「清濁を 掌握する (究極のピュアネス)」とも歌って、これはデビューしたときの王者たらんとする961プロでの活動と、今回の「Re:FLAME」を通じて経験した961プロのプロデュース、あるいは現在所属している765プロのやり方と、両方を受け入れ輝くということなのかもしれない。
出演した5名全員で歌った「空」は、若き頃の黒井氏がかつてプロデュースをしたとあるアイドルの歌と言われている。(なお、その時黒井氏と共に彼女をプロデュースしたのが、現在765プロの社長を務める高木順二朗氏である)
人はそれぞれが異なる存在であり、自分のあるがままに、一歩ずつ歩んでいけばいい。その営みはいずれほかの人と繋がっていく。アイドルが歌えば自分のやり方で歩み続けるという意思表明になる。それは、当初プロジェクトフェアリーが目指していた「孤高の王者」とは違う道であるが、それが今回歌唱した5名の想いなのかもしれない。
同時に、この歌を聞く人にとっては歌唱者からの暖かな応援歌になる。かつて歌ったアイドルから5名へと繋ぐ虹色のエールだと考えれば、黒井氏も思うところがあるだろう。
そして、「オーバーマスター」の最後で星井は遂に「プロジェクトフェアリー」の名を口にした。「孤高の王者」である道も、そうではない道も経験したうえで、それぞれの道を合わせたうえで名乗った名前が「プロジェクトフェアリー」ということだ。
プロジェクトフェアリーの3名に「Re:FLAME」並びに追加公演を通じてこの境地に至らせるということもまた、今回の黒井氏のプロデュースだったのかもしれない。
作りこまれたxRライブとファンの言葉の「実在感」が呼んだ奇跡
いわゆるxRのライブでは、出演するアーティストの「実在感」というのが話題に挙がる。そのために、xRの技術だけでなく、現実のアーティストとの共演やリアル照明とバーチャル照明との連携、身体を震わす音の作りこみ、舞台装置や映像演出、特殊効果の構築など枚挙にいとまがない。
もちろんステージに立つアーティストもボーカルやダンス、ビジュアルを磨き上げる。
今回の「星井が本番中に食べたタコ焼き写真のXに投稿する」など、ステージを離れたところの活躍も見せていく。
ちなみに筆者は「黒井崇男社長が愛した 公式京扇子」なるグッズを持参したところ、3名とも黒井氏の決めポーズを取ってくれた。黒井氏はアイドルにも愛されているようだ
そして、そのアーティストがどうしてステージにいるのか、といった文脈も練り上げていく。
……のだが、今回のライブでは大きなハンデキャップがある。それは、今回出演した5名がなぜ961プロダクションプロデュースでライブを行っているか、という点である。
「アイドルマスター」という作品を追っている人にとって、その活動が深ければ深いほどほど、「星井美希・四条貴音・我那覇響は961プロのプロジェクトフェアリーではなく、765プロでデビューし現在進行形で活躍中のアイドルである」「奥空心白と亜夜は961プロでアルバノクトとしてデュオユニットデビューをしたけれどすぐに解散してしまい、現在は少なくとも『961プロのアルバノクト』としては活動していない」と認識し、2024〜2025年に「なんで彼女たちが961プロダクションプロデュースのステージに立っているんか」と疑問を覚えてしまうはずだ。
もちろん、「プロジェクトフェアリーのライブを観てみたい」「アルバノクトが黒井社長のプロデュースで活動していたら」「961プロに縁があるアイドルによる961フェスが実現すれば」と夢見る人もいるだろう。しかしそれは夢であった。
961プロダクションの黒井社長は、そんな状況であってもあえて「Re:FLAME」とその追加公演を開催した。
スタッフや出演者による、xRライブに「実在感」を与えようとする熱意が、観るものの心にも火が付き、それが炎となって961プロアイドル・プロジェクトフェアリーやアルバノクトがいる世界を再定義する。
言ってしまえば、「実在感」を作り上げるエネルギーを使い、ありえないって決めつけていた世界を巻き込み、可能性という漆黒の炎を燃え上がらせたのである。
昨夏の「Re:FLAME」の新曲であった(今回のライブでも歌われた)「FlaME」には、楽曲の冒頭に「Project Fairy in your Heart」という言葉が埋め込まれていた。その言葉を信じ、そして黒井氏のプロデュースに陶酔した我々ファンは、「961!961!」というコールを叫び、再会を待ち望むという言葉をライブに関わる全ての関係者に届けた結果、今回の追加公演で再び星井たち3名に会うことができた。
そして、「Re:FLAME」追加公演で星井が告げた「プロジェクトフェアリーは、みんなの心の中に、ずっとずっといるよー!」という言葉で、ついにプロジェクトフェアリーに再会するという、「ありえないと決めつけてた奇跡」が起きた。
だから、その後に星井が続けた「だからまた、どこかでー!」 という言葉を信じない道理はもはやどこにもない。だって、今回もまた現地で見ている者もxRで見ている者も、終演後に「961!961!」というコールを叫び、次にまた会いたいという言葉を伝えたのだから。
四条が披露した、想い人を待ち続ける心境を歌った「Melted Snow」は、「幸せな日々 夢見て」という歌詞で終わる。しかし、プロジェクトフェアリーはもう「夢じゃないんだ」。 「幸せな日々 夢見て」 という歌詞は、「あなたの言葉 信じて」に変わったのだ。
ライブの最後には、昨夏京都で開催されたライブも含め、「Re:FLAME」全5公演の映像化が発表された。


ということは、おそらく「Re:FLAME」と題するライブは今回が最後となるのだろうか。
星井美希・四条貴音・我那覇響は、「Re:FLAME」にを通じて、自らのパフォーマンスと、ライバルでもあるアイドルへの/からの刺激を通じて、自分たちの闘争心に漆黒の炎をRe:FLAME=再び燃焼させた。そしてその炎はファンの願いにも火を点け、ファンの願いからくる行動が星井たちをあらためて刺激し、そして、ライブの最後の瞬間に、己の存在をプロジェクトフェアリーとRe:FRAME=再定義した。「Re:FLAME」、つまりこれ以上の定義はプロジェクトフェアリーには不要だということなのかもしれない。
次にプロジェクトフェアリーと961プロの黒井社長が見せてくれるのは、今回縁のあったアルバノクトや玲音・詩花など黒い炎を胸に抱いた星たちが集うライブなのか。黄金色の朝焼けの先にある遥かな高みにある伝説のライブなのか。その日が来ることを夢見て、いや、信じて待とう。
なお、本公演のxRライブは2025年3月2日(日) 23時59分まで有料アーカイブ配信されている。
©窪岡俊之 THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
(TEXT by tabata hideki)
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