
2025年6月13日と14日の2日に渡り、KAMITSUBAKI STUDIOがライブ「KAMITSUBAKI WARS 2025 神椿後楽園戦線 KAMITSUBAKI XPERIENCE」を開催した。
Kanadevia Hall(TOKYO DOME CITY HALL)にて催されたこのライブでは、DAY1では花譜(かふ)、ヰ世界情緒(いせかいじょうちょ)、幸祜(ここ)の3人が、DAY2には理芽(りめ)、春猿火(はるさるひ)、明透(あす)の3人がそれぞれ出演し、少女革命計画のユニットである心世紀(しんせいき)がDAY1に、罪十罰(つみとばつ)がDAY2に、オープニングアクト&ゲストボーカルとして出演した。
現在KAMITSUBAKI STUDIOで活動するアーティストのなかでも、バーチャルな領域に重きをおいて活動する面々がズラリと揃ったライブとなり、集まったファン達を楽しませてくれた。
今回は、ライブ全体には簡単に触れつつ、2日にわたる中での注目ポイントをあげて書いていこうと思う。
三者三様・緩急自在なパフォーマンスで魅せたDAY1
最初に登場したのは、オープニングアクトの心世紀で、「フェイクナイト・シンデレラ」「Ephemeral」の2曲をパフォーマンスした。初めて彼女ら心世紀を見た人は驚いただろうが、暗転したステージの下で生身の姿で歌い踊っていくのが特徴的だ。
7月11日には川崎 CLUB CITTA’にて少女革命計画としてのファーストワンマンライブが開催される。どんな内容になるか期待するファンに応える一幕のようにみえた。

そのままメインアクトともいえる3人のボーカリストによる歌唱へと移る。
トップバッターとして登場した幸祜は、自身の活動復帰曲となった「むすんでひらいて」からスタートした。スローな出だしと鍵盤の入りからゆるく踊りながら歌うその声は、じつに伸びやか。復帰した彼女の歌う姿を初めてみる観客もこの日は多くいたはずで、そんな観客に向け、自身の姿と楽曲でメッセージを送ったのだ。

続く「在処」では、メロディに対してなめらかに絡まるようなボーカルで観客を魅了。「まだまだ声出せますか!?」と煽るMCから、心世紀の御莉姫と「暴力的イノグランス」をコラボ歌唱し、最後は「ミラージュコード」の疾走感あるサウンドとともにエネルギッシュに歌いきってステージから降りていった。

2番手はヰ世界情緒だ。スローテンポな導入から「果てなきソラ」へと入り、ゆったりとした楽曲にビブラートがうまくかかったボーカルをみせてくれる。

「皆さん盛り上がってますかぁー? 今日は最後まで盛り上がっていきましょう! 次はみんな大好きあの曲です!」
ミドルテンポなドラミングの上でそうアピールすると、そのまま「アンビバレント」へ。空気を多く含んだボーカルはアンニュイ&ミステリアスな響きで観客の心を捉え、佳鏡院とのコラボ曲「ネリネの内緒事」では、ダンスビートを受け継いでグルーヴィに歌っていく。

ここまで身体全体を使って踊りながら歌っていった彼女だが、それはラストの「みらいのかたち」でも同じ。ここまでとガラリと声色をかえ、力強くたくましさすら感じさせるボーカルで視線を釘付けにしたのだった。
3人目に登場したのは、もちろん花譜だ。さまざまある楽曲の中で最初の2曲に「ダンダラボッチ」「代替嬉々」と最新アルバム「寓話」からの楽曲を選んだわけだが、なんと登場時から新衣装「梟」で歌っていった。

アップテンポな2曲の次には、硝子宮と「飛翔するmeme」を歌い、最後に披露したのは「痛みを」だった。

“生きる意味を探す僕らの あるべき意味を探す僕らの
間違いだらけでいる理由を 僕らは今でも知らないままだ
だけど 僕らには歌がある 僕らには愛が残っている
答えを探すため歌うのだ 僕らは今でも負けない そうだろう?”
ガラス細工のような繊細さをもったあの歌声は、高い音域を歌う際にはファルセットとも地声ともつかないほどの声色に自然となる。丁寧に歌いながら、感情を込める部分では少しだけ声がブラつく。だがそのブラつきは、”僕ら”と形容される心のフラつき様と重なる。やはり彼女の歌声は特別なのだと感じさせてくれるシーンであった。
この後は約5分ほどのDJタイム「DISCOTHEQUE」が挟まり、花譜・ヰ世界情緒・幸祜3人での歌唱パートへと突入した。
オルゴールが奏でられるなかで1人センターポジションに登場した幸祜が、「愛 mistake? 偏愛 不可知の世界」とゆったりと歌い始めると、花譜とヰ世界情緒の2人がその後ろからすぅっと登場し、ヰ世界情緒の楽曲「パンドラコール」をトリオで歌唱していった。
そのまま幸祜の「TIME」へ。彼女の煽りからオイ! オイ! オイ!と会場中から声が上がる。原曲の4つ打ちビートに、大きく間をあけたリズムやジャージークラブ系の5つ打ちリズムも混ざったダンス・ポップへと変幻し、会場を大いに盛り上げる。「みんなー!? まだ踊れるー!?」という花譜の煽りから「チューイン・ディスコ」でよりググッと会場のテンションをあげていった。
暗転して再度登場すると、V.W.Pの衣装へと変わっており、最近のKAMITSUBAKI STUDIOのライブでは恒例となった乾杯コールとともに水分補給。
「ライブに至るまで3人で練習したじゃん?その期間も含めて宝物なのだぁ~」
少し照れくさそうに話すヰ世界情緒に、笑いながら同意する花譜と幸祜。そのままV.W.Pの「同盟」へと移っていったのだが、「Virtual Witch Phenomenon!」とイントロで歌うタームで、左肩左足を前にした半身の姿勢から片足をあげるポーズを1人ずつしていき、決めポーズとともに楽曲へと入っていくという茶目っ気たっぷりな振り付けを見せてくれた。

3人の笑顔とともに始まったわけだが、どこか普段よりもポップかつ元気よく感じられたのは筆者だけだろうか? 気さくでざっくばらんなムードが会場にも伝わり、より心躍る空間へとなっていった。
「遊戯」では一転してがなり気味な声を多用したパワフルな歌唱をみせてくれる3人。表情も鬼気迫るものであったが、MCに入ると先程までのゆるい空気となり、「見てくれましたか? 3人のオリジナルポーズを!」と再度見せてくれる。DAY1ラストの楽曲として歌われたのは「再会」、雄大なバラードソングで締めくくられたのだった。
歌い、踊って、ハッチャけた! 賑々しいDAY2
DAY1の熱気は、DAY2となっても変わらぬまま。SF色の強いオープニングムービーは前日と同じ。そのままオープニングアクトとして罪十罰が登場し、「弔花」「Synapse」の2曲と歌っていった。2曲の間でメンバーの美古途が大声で会場を煽ると、普段おとなしめな彼女からの煽りに、驚き混じりの歓声が会場から上がった。

罪十罰からバトンを受け取るように、明透がトップバッターとして登場し歌っていく。「HEAVEN IS GONE」「illumina」とキレのあるダンス&ボーカルをみせつける。罪十罰のメンバーである氷夏至とのコラボ歌唱「Shiny」に、最後は「リンカーネーション」のスローテンポなナンバーを、よりドラマティックにしあげていくパフォーマンスで、会場を完全に掌握してしまった。


彼女は歌った4曲ほぼ全編でダンスや振り付けをこなしていたわけだが、その動きのキレ・優雅さは現在のKAMITSUBAKI STUDIOの中でもトップレベルだろう。特に「リンカーネーション」での、ゆったりと歩きつつ体を反ってポージングを決めていくあの動きは、セクシーさすら感じさせるワンシーンであった。
そんなライブに続くのは理芽。会場の観客にハンドクラップを求めてからスタートした「ピルグリム」から、笹川真生とのコラボ楽曲「きみが大人になったんだ」へと繋がっていく。
「きみをどんどん好きになっていくから 断然弱くなった わたし 死にたいのかな まさか まさかね」と厭世的な歌詞を歌ってから、「いつか化石になったって 愛されなくても それで死ぬなんてしねぇよ」と言い切る歌詞へ。しれっととんでもない跳躍とストーリーを感じさせる2曲の選曲には、心震わされてしまった。

美古途とは「素的」を2人で歌い、最後は「舞」を披露。「舞」はGuianoと3年前にリリースした楽曲なのだが、鍵盤のイントロの時点で歓声が上がるあたり、KAMITSUBAKI STUDIOファンの熱心なリスニング歴が感じられる。終始笑顔で歌っていく理芽も印象的だった。

明透、理芽とわたってきたバトンを最後に受け取るのは春猿火だ。1発目に披露した「META」でのラウドロックなギターサウンドで会場を震わせ、続く「回向 -echo-」では鍵盤とギターの単音同士の響きに、ウィスパーな声色からか細くも芯のあるボーカルへとギアを入れていく流れで、観客をグッと掴んでいく。
次は罪十罰の夕凪機と一緒に「SWIPE!」を歌ったわけだが、明透と氷夏至、理芽と美古途、そしてこの2人と、声色が似た組み合わせになっていたのには驚かされた。そのため、ハモるときもユニゾンで歌うときもキレイな響きとなっていた。

ラストの「Deep Invite」は、打ち込みと生ドラムがあいまったビートとゴリゴリに歪んだギターリフが前につんのめるような原曲独特のグルーヴ感を表現し、春猿火のここ一番パワフルなボーカルとぶつかりあった。
まるですべてを振りほどくようなパワーとスピードを持った運動体が、一気に駆け抜けていったかのような、そんな圧巻のパフォーマンスで本編をクロージングしてみせたのだった。

約5分ほどの「DISCOTHEQUE」にペンライトが揺れる会場。理芽、春猿火、明透が登場すると、理芽の楽曲「フロム天国」でソフトタッチな歌声を重ね合い、春猿火の楽曲「ディストーション」、理芽と明透のコラボ曲「アイノ最適解」を披露してくれた。
ここでようやく長めのMCパートとなり、乾杯とともに観客の声を聞きながら会話しようとする3人は、和気あいあいとしたムードだ。明透にここまでのライブの感想を聞き、「電脳」「欲望」とV.W.P2曲を3人で歌うと、再度訪れたMCの時間で「V.W.Pの皆さんに負けず、かっこいい曲を最近歌うようになって……」という明透の言葉に反応し、「illumina」のダンスを真似て理芽が笑いを取っていく流れに。
結果的にノリの良い理芽と明透の2人と、遠くから2人とやりとりする春猿火という構図になり、理芽の会話にうまく乗っかりつつも、最後は春猿火をイジって楽しむという理芽と明透という構図となった。

前日に比べてMCをする時間が長いな? とここまで読んでくれた方もお思いだろうが、理芽曰く「なんで長いかっていうと、ライブを終わりたくないから」と惜しそうに話してくれる。
「次の曲が最後なの、でもみんなの声が聞けて、もう空も飛べそうね」
そんなMCから、最後の楽曲「飛翔」を歌い始める。理芽をセンターにした3人のボーカルとパワフルなバンドアンサンブルでバチっと締めくくったのだった。
以前まで開催されていたメンバーそれぞれのソロ公演や、V.W.Pのフルメンバーが一斉に勢揃いするライブとは違い、これまでKAMITSUBAKI STUDIOのライブで見られたようなゴージャス&ド派手な3Dムービーは最低限に抑えられ、代わりにシンガーである面々のライブパフォーマンスが重きをおかれたライブだった。
加えて後日配信サイトからこの日のライブをみると、各シンガーの頭上・斜め前に歌っている楽曲の歌詞がムービーと同じような形で表現されていた。くわえて以前のライブに比べて、照明など光源から当てられた光の照り返しや輝き方がキレイに表現されているなど、これは今までなかった演出がいくつか加わっているのがわかる。
昨年筆者はPANORAのなかでヰ世界情緒、理芽、春猿火の3人にインタビューをさせてもらったが、「凝った映像・演出があって、そこに本人のパーソナルやエモーショナルな部分をいれることで完成する。他とはまた毛色の違っていて、それがKAMITSUBAKIの音楽ライブだと思います。ただちょっとテイストを変えて、より楽しさに振って、はっちゃけて終わるみたいな感じにしたい」と語った春猿火の言葉を思い出す。
・春猿火、1stミニアルバム「RULE THE WORLD」リリース記念インタビュー 何を言われようが、自分としてはこの姿でずっと歌っていく
その言葉通り、出演するメンバーそれぞれが笑顔を見せながら、歌い、踊り、はっちゃけたライブをしていたように見えた。
さて、盛り上がりを見せた2DAYSが明け、日曜日午前中には劇場公開されたばかりの劇場先行版「神椿市建設中。 魔女の娘-Witchling-」のバーチャル舞台挨拶が行われ、神椿のさらなる広がりを強く感じる週末となった(レポート記事)。
ただのシンガーであるだけでなく、声優であり俳優、そして表現者として今後さまざまな作品に挑戦していくだろう。そういう一面を鑑みれば、この2日間のライブは今後の試金石となるライブだったといえよう。
(TEXT by 草野虹)
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