HTC NIPPONは4月3日、VIVEの最新XRデバイス「VIVE XR Elite」(以下、XR Elite)の販売を開始しました。今年1月のCES 2023で発表され、Best of CESも受賞した同機種。「小さい」「軽い」「メガネ型」と、まさに最新の潮流を組んだXRデバイスといった具合で、購入を検討しているユーザーも多いのではないでしょうか。
しかし、価格は17万9000円(税込)。最近では低価格でバランスの取れたVRデバイスもいくつか販売されている中、少し強気の価格設定に感じた方もいるでしょう。
本稿では、特に「VRデバイス」として見たときの「XR Elite」について、週100時間ほどをソーシャルVR「VRChat」で過ごすVRヘヴィーユーザーの筆者が、実際に数日間使用してみて抱いた感想をシェアしていきたいと思います。なお、筆者は普段「PICO4」(定価4万9000円)を「Virtual Desktop」にて、ゲーミングPCに無線接続したPCVR環境で「VRChat」をプレイしています。
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装着してみてまず思った「噂通りの小ささ」
「XR Elite」について簡単におさらいをしましょう。インサイドアウト方式の 6DoF トラッキングシステムのため、ベースステーションは不要。スタンドアローン/PC接続に両対応しており、PCとの接続は有線・ワイヤレス共に可能です。
「XR」の名を冠する通り、1600万画素のカラーパススルーカメラを搭載しており、「Quest Pro」のようにAR/XRコンテンツも楽しめます(関連記事)。
いちばんの特徴は、その「小ささ」。特に、近年流行を見せる「メガネ型」を意識した造形をしており、後頭部のバッテリー部分を外すと、「グラスモード」としても使用できます。これにより、「PICO4」と比べてもこのサイズ差。VRデバイスの中では、最小級ではないでしょうか?
実際に装着してみても、「これまでのデバイスとは装着感がかなり異なるな」という印象を抱きます。しかし、「メガネ型」として柄の部分を折りたためる構造となっているためか、「Quest2」や「PICO4」にあるような、柄の部分を上部に持ち上げる動作ができません。これにより、特にバッテリー付属モードの際には、装着に少し難があるかなと感じました。
見え方に関しては、スペック上の解像度は両目3840×1920ドットの4K解像度で19PPD。視野角は110度、リフレッシュレートは90Hzと、良くも悪くも近年のデバイスとしては”標準的”な性能。「PICO4」と大きな差は感じませんでしたが、密閉感は「XR Elite」の方が高く、またレンズ自体が目に近いためか視界は広く、開けた印象を感じました。
ちなみに、コントローラーに関しては従来の「VIVE Focus 3」と同一のもの。詳述は省きますが、USB-C充電となっており、見た目からも分かる通り、操作感は「Quest2」のコントローラーとほぼ同様です。1点、「VRChat」で使用する際には、デフォルトの場合、表情操作がスティックとなっていたり、移動がスティック押し込みになっていたりと、若干癖のある挙動をするため、「Quest2」のコントローラーに近づけるようキーバインドを変更することをお勧めします。
難点は「小さすぎること」にあり?
ここからは少し辛口のレビューになります。一通り触ってみて、率直に感じたことはこうです。
「確かに軽いし、小さい。メガネ型VRゴーグルの正当進化という感じがする。けど、普段使いでどちらを使うかと言われれば『PICO4』だな」
もちろん、価格差もありますし、何より「XR Elite」は「XR」デバイス。AR/MR要素を活かすのであれば、「Quest Pro」と同価格帯で、VR用途でも使いやすい、何より小さいということを考えれば、単純に「VRデバイス」として「PICO4」と比較をするのはナンセンスかもしれません。しかし、一番難点に感じたのは、本デバイス最大の売りでもある「小さすぎる」ことでした。
●装着時の圧迫感
小さくて、軽ければ装着も楽になるのではないか?
実際に触ってみないと、そう考える人も多いと思います。「軽い」は確かに装着時の負担が大幅に下がります、一方で「小さい」は本当に必要なのか?と疑問を抱くのです。
「XR Elite」ほど小さいデバイスは、必然的に接顔部分も目の周りのより近い位置になります。こうして「PICO4」と覗き込んだ構図で比べてみると、文字通り一回り小さいですよね。「XR Elite」が「PICO4」を被ってしまえるくらい小さいです。
「PICO4」は、特に接顔パーツが開けた設計になっており、ゴーグルを被ったときにクッション部分は、おでこと顔の側面に当たります。しかし、「XR Elite」の場合は側面が目尻にあたってしまうのです。つまり、瞬きをした際に若干、肌とクッション部分が擦れてしまう。これが個人的にはストレスに感じました。
また、「XR Elite」はサイズを小さくするためにレンズと瞳がかなり接近する設計になっています。つまりクッション部分が浅いのです。これにより、レンズの距離が近くなるため、視覚をよりダイレクトに伝えることができ、広く、開けた印象になるメリットがあります。一方で、瞬きをした際にレンズにまつ毛が当たる感覚がありました。
●視度補正機能のデメリット
「XR Elite」には、視度補正機能がついており、片目ずつダイアルを回すことで、6段階の近視矯正ができます。視力が弱いメガネユーザーにとって、これはかなりメリットのある機能だと思いますが、逆に言えば柔軟性に欠ける対応であるともいえます。
視度補正は、基本的に「近視」にのみ対応。これが、「乱視」や「斜視」であれば対応する術がありません。また、視度補正機能は6段階です。これはおそらく、コンタクトレンズなどでよく見る矯正度数(ディオプター)を参考にしたものだろうと思いますが、だとすると「-6D(視力0.01程度)」にまでしか対応していませんよね。実際、筆者は普段-6.5~-6.75Dのコンタクトレンズを使用しており、裸眼だと視度補正を最大値(6)にしても、若干ぼやけてしまいました。
「PICO4」のように、接顔部分を広めにとっており、かつクッションが高めに設定されていれば、メガネをしたままでも問題なくゴーグルを被ることができます(個人的に、これが満足にできるのはPICO4の大きな利点だと思う)。しかし、「XR Elite」の場合、メガネと組み合わせる選択肢は小さすぎて不可能です。視度補正機能にそぐわない場合、コンタクトレンズと組み合わせなければ使用不可と言わざるを得ません。
「ライトに体験させるデバイス」としては優れてる?
と、ここまで「VRヘヴィーユーザー」の視点から「XR Elite」の使用感をレビューしてみました。後半は少し辛口になってしまいましたが、あくまで「視力の悪いVRヘヴィーユーザー」の視点からのレビューであることにはご留意ください。もう1つのメイン用途である「XR/AR」の視点から見ると、また違った魅力が見えてくるかもしれません。
最後に、ではどんな人にであればおすすめできるデバイスなのかという点について提案させていただきます。それは、ズバリ「VR体験会」です。
VR未経験者や、興味はあるけどやったことはないそんな方に、リアルの場でまず体験してもらうデバイスとしてはかなり優れていると思います。まず、小さくて軽いため、持ち運びが用意であること。そして、やはり「メガネ型」というのはいかにも「先進的なVRデバイス」の見た目であり、洗練されたデザインといえること。さらに、「少し目が悪い」ユーザーにとっては、視度補正もついており、対応の幅が広いことなど。また、密閉感と広く、開けた視界は、最初に体験する「没入体験」として非常に優れていること。「XR Elite」でVRを初体験したユーザーは「VR知らない間にここまで来ていたのか!」と驚くこと間違いなしでしょう。
初心者向けに「購入するデバイス」としては、17万9000円と価格帯もかなり高くなってしまうためハードルは高いかもしれませんが、体験会の主催者や、「友達が家に来たときにライトに貸してあげたい」というVR沼ユーザーには検討に値するデバイスでしょう。また、日常的に長時間付ける場合には、「PICO4」に軍配が上がるかなとは感じましたが、「グラスモードで30分~1時間くらい装着したい」というケースには十分利用価値があると思います。そのため、ヘヴィーユーザーのサブ機としても機能するだろうなと感じました。
ちなみに、「VR睡眠」用途に関しては、個人的には先述した通り接顔部分のストレスが高い点から、巷で言われているほどおすすめはできないなと思います。「グラスモード」の場合、そもそも睡眠中に充電が切れてしまいそうな点も無視できませんし。ここに関してはユーザー間でも意見が分かれるポイントだと思うので、一概には言えませんが、メーカー推奨とはいえないため各人で判断してください。
(TEXT by アシュトン)
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