アニメの制作手法を大きく変える「AniCast Maker」、実際に使ってわかった実力と可能性【CEDEC 2020】

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CESAは9月2~4日、コンピュータエンターテインメントの開発者・研究者向けカンファレンス「CEDEC2020」(Computer Entertainment Developers Conference)を開催した。

コロナ禍を受けての初のオンライン開催となった今年だが、プログラミング、デザイン、映像、音響、ビジネス、基盤研究など多様なジャンルで約200の充実したセッションを用意。イベント中はTwitterで関連ツイートが増えるなど、例年と変わらない盛り上がりを見せていた。

本稿では、そのセッションの一つ、「AniCast Makerを用いた、ライブセッション式アニメーション制作技法〜リモートワークによる制作事例〜」を紹介したい。


統制を取るオーケストラではなく、ジャズっぽいセッション

AniCast Makerは、エイベックス・テクノロジーズとXVIが開発しているVRを使ったアニメ製作ツールだ。VR空間にスタジオを作り、演者やカメラマンなど色々な役割を1人で行うことで、簡単に映像をつくれる。XVIは、主にVTuberが利用している「AniCast」などを手掛けている企業だ(Unite 2018の記事)。

エイベックス・テクノロジーズは、このAniCast Makerを使ってフルリモートで制作した実証実験作品「彼女は歌う、だから僕は。」を7月30日に発表。この制作過程から得られた知見を共有した。今回は主にゲーム開発者が集まるイベントということもあり、ゲームの中に組み込むアニメ映像制作という観点でまとめていた。

AniCast Makerの特徴を一言で表すなら、セルアニメに近い映像を非常に短期間に制作できることだ。映像をみて分かるとおり、アニメとしてなんら遜色のないクオリティーで、約7分という尺でも2ヵ月で制作したというのだから驚きだ。

アニメは制作に時間もコストもかかる。TVアニメも手がけるスタジオなら、スケジュールが空くのは2年後というのも決して珍しい話ではない。

また、アニメはシナリオを起点とするウォーターフォール型に近い制作体制であり、途中で試行錯誤するということがやりにくい。酒井氏はこれを「オーケストラ型制作手法」と表現する。そして、コストの原因について、人間は本来、論理思考が得意ではないのに、表記的に伝えるという変換作業をしなくてはいけないからと指摘していた。

「彼女は歌う、だから僕は。」の制作では、シナリオを起点にはしているが、尺は厳密には決めていなかったという。先に宅録で声優に音声を録ってもらい、その音声に合わせてキャラクターの演技を付けていった。そしてモーションを担当するアクターは、何度でも演技を取り直し可能だ。各パートの表現やフィードバックを得ながら中間制作物をやりとりし作り上げていくこの手法をセッション型と酒井氏は表現する。コンピューター業界の用語で言うならアジャイル開発に近い。

完全にAniCast Makerだけで制作を完結したわけではなく、最終的には「Avid Pro Tools」や「Adobe After Effects」などのツールも活用して仕上げたとのことだが、そこも含めてのフルリモートかつ短期間だった。

絵コンテから、最終的に映像になるまで。


AniCast Makerの長所と短所は?

酒井氏が実際に「彼女は歌う、だから僕は。」を制作して感じた所感としては、「(視聴にとりあえず耐えられる)クオリティの映像なら楽勝」「とにかく、作ろうと決めてから完成するまでが早い」「3D素材(キャラ)があると早くできる」ということを挙げていた。

「動画ガチャ」がないという独特の表現も飛び出した。アニメ制作を委託した会社が一部分を外注に出し、その一部分がまた外注に……ということがままあるアニメ業界。動画のクオリティーが予測できず半分賭けのような状態になっていることを表していたと思われる。

こうした経験がある立場の方には、AniCast Makerは3DモデルをVR空間内で撮影するというやり方のため、動画のクオリティーが常に一定に保たれるというのは大きな長所として映っていたようだ。

一方で、Oculus Rift Sを利用していたことから、演技が出来るのは頭と両手の3点のみ。上半身特化型ともいえるシステムなので、構図にはどうしても制限が出てきてしまう。実際、引きの構図を作るときは3dsMaxやUnityのCinemachineを用いたという。また、手の演技にもOculus Touchを使う以上、制約がある。

また、今回はフルリモートということで各スタッフが自宅で収録をしたため、ケーブルの取り回しや自宅の空間が制約になってしまったことも語られた。

上半身の演技を手軽にキャプチャーして、簡単にセルアニメに近い映像を得られるツールとしてとても有能というのが酒井氏の評価だ。「リテイクばんばんかけていい」というメリットも語られた。

制約もあるので、今のところは大規模なテレビアニメや映画に代わるものではないが、ゲーム内アニメはもちろん、ウェブ広告など様々なシーンで活用できそうだという。

人や時間が足りない状況でも、アニメ映像を取り入れた演出を断念しなくてよくなるかもしれない。ゲーム制作者出身の酒井氏らしい観点でAniCast Makerの可能性を見せてくれる講演だった。

 
(TEXT by Yuichi Matsushita)

 
 
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