面白いものを提供できるクリエイターに、個人も企業も関係ない──。
YouTubeやニコニコ動画といった、動画共有サービスが生まれて約15年。そこで生まれた「面白いもの」の勢いはネットにとどまらず、今や「歌ってみた」や「ボーカロイド」といったジャンルで個人で活動を始めたクリエイター、そしてそのコンテンツが「紅白歌合戦」に起用されるぐらい、日本のエンタメの頂点にまで食い込んでいる。15年前には、誰も想像していなかったことだろう。
VTuber業界も同様で、今まさに表舞台に出ている最中だ。そのシーンにおいて、大手企業に所属するタレントのほうが注目を集めやすいものの、個人でも精力的に活動して自分のやりたいことを突き詰め、ファンを増やし続けてきている才能も少なくない。
「バーチャル私立探偵」をうたう個人VTuber・花雲くゆりさんもその一人。
2020年3月に企業所属としてデビューしたものの、その後6月、自分のやりたいことと真剣に向き合うために個人の活動にスイッチ。オンラインの謎解き企画を始めたり、オリジナル曲をリリースしたうえで、個人での活動1周年となる2021年6月に3Dモデルの体をお披露目。「ナゴヤVTuber展 in パルコ」のアンバサダーや、「りなブイ☆VTuber展 in かのや」の謎解き企画提供など、イベントやコラボ企画にも多く参加してきた。
そんな花雲さんが次の挑戦として選んだのが、自身で主催する1stワンマンライブ「PlanTer*」(プランター)だ。4月15日には200万円を目標金額としてクラウドファンディングをスタートし、最終的にすべてのストレッチゴールを超えて、達成率420%の841万8796円という支援を集めた。この大成功を受けて花雲さんはどんなライブを実現しようと構想しているのか。本人にインタビューして、その意気込みを聞いた。
*本記事は、4月9日開催のオンラインイベント「ネットおしゃべりフェス 花雲くゆりワンマンバースデーSP」にてファンより贈られたギフトになります。
花を咲かせるための「プランター」という名前
──まずはクラウドファンディング420%達成おめでとうございます。
花雲 ありがとうございます。びっくりしました。今回、初めてのクラウドファンディングだったので不安の方が大きかったです。個人のVTuberにとって200万円という金額はとても大きい金額なので、まず100%が達成できるかどうかを心配していました。300万円の150%、400万円の200%とストレッチゴールを設けさせていただきましたが、その200%達成するのは謙遜とかではなく、こちらもなかなか難しいだろうなと感じていました。
──それが蓋を開けてみればすごい結果で終わりました。
花雲 本当にありがたいことです。人数的には284人の方がパートナーになってくれていますが、例えば追加のお返しやアルバム限定購入など、複数コースを選んで支援してくれた方もいるんです。
──そんな応援を一手に受けて開催まで突っ走るわけですが、今回のライブのコンセプトは何になりますか?
花雲 今回のライブとアルバムのタイトルが「PlanTer*」つまり鉢植えなんですが、作品=花 × 身体=木をコンセプトにして、ファンのみんなと一緒に大きな花を咲かせたいという思いから名付けてプロジェクトを立ち上げました。だからクラウドファンディングにおけるコースの名前も「ジョウロ」だったり、「ヒリョウ」だったり、「シャワー」だったりとガーデニングに関連するものにしています。
──なんでも、一番上に用意された20万円の「コンプリートセット+α『恵みのタイヨウ』コース」が30秒ぐらいでなくなったとか……?
花雲 そうらしいです。その下の10万円の「コンプリートセット『癒しのシャワー』コース」と同じ内容に、「新曲命名ミーティング」が加わったもので、ご支援いただいた方にデモデータと資料をお渡しして、ライブのステージで披露するための新曲に名前をつけていただけます。
──ファンにとって、「推し」の曲に自分が少しでも関われるチャンスがあるのはとても嬉しいことだと思います。
花雲 いや、なんか、みんな怯えてました。
──えっ、なんで!?
花雲 ぼく、探偵なのでめっちゃエゴサが得意なんですが、これどうだろうと思って。データでもなければグッズでもなく命名だけで10万円も高くなるのはどうなんだろうとエゴサしてたら、みんな怯えていました。みんな自分がなにかをつくる側に回るというのは想定していなかったみたいで、「あ、ここで怯えるんだ。可愛いやつらめ(笑)」って。
──(笑)
花雲 そもそもリアルライブの主催が初めてなんです。イベントに参加することはありましたが、自分自身で立ち上げるのは今回が初で、そんなファンのみんなとリアルの空間で交流したいというのを第一に考えています。
──ファンとの交流というと、過去には「おしゃべりフェス」を始めとする1on1のトークイベントにも参加されてきましたが、そうした要素を音楽でも実現するみたいな感じでしょうか?
花雲 普通のワンマンライブ、つまり歌うだけではもったいないなと思っていて、音と声と映像で魅了する物語調の内容を考えています。謎解きも好きなんですけど、演技や物語をつくるのも楽しくて、例えば、物語として成立するようにきちんと理由をつけて選曲をしたうえで、歌っていきたいです。
──お話を聞いていて、HIMEHINAさんや花譜さんなど、ストーリー重視のライブ構成みたいな感じかな?と感じました。
花雲 お二方とも物凄くリスペクトしています。
──タイトルである「プランター」というコンセプトに沿った物語……というのを期待してもいい感じですかね?
花雲 詳細は言えませんが、ぜひ期待しててください!
──演出面で考えられていることはありますか?
花雲 今回、ライブの制作をライブカートゥーンさんにお願いしました。4月10日に柚子花さんのライブ「柚子花主催LIVE -Planet Station- STAGE.2」に出演させていただいたときにも感じたのですが、ライブカートゥーンさんのライブシステムが、ライティングなども含めて非常にクオリティーが高いんです。めちゃくちゃ映えるというか、リアルで見ても綺麗なんですが、1枚1枚スクリーンショットを撮ったときや、アーカイブで見たときなどの美しさがすごいので、ぜひ注目してみてください。
デビュー直後からコロナ禍 できなかったリアルライブ
──過去に自分がお客として参加して、感銘を受けたライブなどはありますか?
花雲 それこそHIMEHINAちゃんの1stワンマンライブは参加して感動しました。実はVTuberさんの音楽ライブで初めて観たのがこのHIMEHINAさんのライブだったんですが、規模も大きいし、「VTuberでここまでできるんだ」「お二人を主軸としてたくさんの人が一体になっている!」みたいな。
特に煽り映像で感動しました。「心」みたいな感じのコンセプトで、一回、煽り映像でお客さんのみなさんに「名前を呼んで」って呼びかけるんですが、そこで会場のみんなが「ヒメちゃーん」「ヒナちゃーん」って呼んで、カウントがスタートするみたいな演出が印象に残っています。
──HIMEHINAさんのライブも「エモ」ですよね。自分のライブでも、そうしたストーリーや演出を盛り込んでいきたいという?
花雲 そうですね。エモーショナルな感じが理想です。直近で言えば、キズナアイさんのラストライブも本当にすごかったです。パフォーマンスもそうなんですが、後ろにVTuberのみなさんがバーって並んでいて歌うシーンがあるじゃないですか。電脳少女シロさんたちとか、今まで一緒に時代をつくってきた方々が歌に参加されて、ぱって入れ替わっていったり、まさにキズナアイさんのキズナを表していた。人と人とのつながりみたいなのが演出に入ると、キューってなりますよね。
──わかります。ってことはそんなキューってなる仕掛けもあったり?
花雲 できたらいいんですけど、花雲ちょっと友達が少なくてですね……。
──いやいや! しかし、過去にVTuberの音楽ライブをいっぱい観られてきて、心の中でいざ自分がステージに立つときになったら……という構想をされてきたのが今に繋がっているんですね。
花雲 元々デビュー前からリアルイベントをやりたいという構想があったのですが、デビュー直後1ヵ月ぐらいでにコロナ禍に突入してしまって。
──それは本当に不幸ですよね。なんでこのタイミグで……っていう。
花雲 オンラインのイベントにたくさん招待していただいて、なんとか生きながらえた感じなんですが、じゃあいつかリアルライブをやるとしても、どのタイミングいいのかっていう。
──デビューしてこの2年、ずっとコロナ禍ですものね。ひどい話です。でも、ようやくリアルライブをできる時期になってきた。
花雲 そうですね。今回のクラファン大成功でツメツメに詰め込めるかなと。ちょうどクラファンのコースにも、アルバム制作が入っていて、1stアルバムだとか、スペシャル演出もそうですし、映像の演出もすごいですし、「全部盛り」という感じで実現していきたいです。
──となると、準備もやることがめちゃくちゃ多くて大変そうです。
花雲 なので、まだ開催時期などは発表していなくて。クラファンが終わってから「箱」を決めて、なんとか年内に形にしたいです。
──しかし、ここだけの話、VTuberさんのリアルライブは、何某かの形で「出現」させる必要があるため、リアルのタレントさんよりお金も手間もかかりがちです。それをまず個人勢でやろうという意気込みだけでもスゴい。
花雲 音楽ライブは色々なアーティストさんたちから「観にきませんか?」とゲストでご招待いただいて参加してきたのですが、素敵なステージを観る度に「いつか反対側に立ちたいな」、この2、3年でいつになったら立てるかなと。ぼくも「呼ぶ側になりたい!」と思っていました。
──念願かなったりという感じなんですね。
花雲 だから、せっかくバーチャルで活動してるなら、人間のできないことをやりたくて。初音ミクのライブって、歌いながら衣装チェンジしたり、空を飛んだりするじゃないですか。やっぱり現実的にやるにはコストがかかる演出も、Vであれば映像でまかなえたりする部分があるので、それをうまく演出に落とし込めないかなと考えています。そういうことをやりたいなと、このワンマンライブに盛り込めたらと思います。
今回のクラウフォファンディングの成功は、自分の人生にとってひとつの「実績解除」みたいな嬉しいことでしたが、これを終着点にするわけではなく、通過点にして、これをやったから次をこうしようと伸ばしていける、あくまで1stワンマンは通過点として制作できたらなと思います。燃え尽き症候群にならないといいですが……。
──これだけモリモリな構想を実現するとなると、燃え尽きそうなのもわかります。
花雲 しばらくぽけーっとしているかもしれません(笑)
──その先の未来でやりたいことは決まっていますか?
花雲 ぼく、年1で新しいことに挑戦することに決めておりまして、来年は「リアル謎解きイベントをやりたいぞー!」です! 夢はでっかくですね!この1stワンマンライブの時期も、決まり次第追って発表いたしますので、ぜひお越しいただいた上で、これからも応援、ご期待いただけると嬉しいです。
(TEXT by Minoru Hirota)
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