VTuberの音楽シーンにおいて、音楽ライブは欠かせない要素になる。PANORAでも多くのライブをレポートしてきたが、2024年、印象に残ったライブは何だったのか。
2024年にスタートした連載「Pop Up Virtual Music」の執筆者である草野虹氏と、PANORAの編集である広田と2人で年末に放談して振り返ってみた(ところ、またしても1万字を超えてしまった……)。
一番印象的だったのはマリン船長の2DAYSライブ!?
草野 そもそもなんでこの企画をやろうと思ったんですか。
広田 年末の節目ということがひとつと、コロナ禍の影響が完全に抜けたという2024年だからライブを振り返っておきたいと思ったんです。VTuber×音楽みたいなところでいうと、コロナ禍はオンラインで盛り上がっていましたが、やっぱり「ライブ体験」としては結構辛いなと感じることもあったりして。音楽ライブって2023年頃から声出しがOKになって、それが2024年でかなり元に戻った感覚があったので、このタイミングでまとめておきたかったんです。
草野 なるほど。要はリアル会場でVTuberさんがライブを盛んに実施するようになった、ある種の転換点ともいえると。
広田 そうですね。VTuberの音楽ライブって、業界が盛り上がった2018年頃から開催されるようになったのですが、最初は意外とシンプルだったんです。キャラクターライブといえば、2009年頃から初音ミクなどで積み上げてきたノウハウがあったはずなのに、別ルートで文化が勃興してきたこともあって「なんか断絶してるな」みたいな印象があったんです。
草野 そんなことがあった初期のVTuberのリアルライブから、コロナ禍があって2年ほどリアルで会場やらなくなって、2023、24年とグレードがアップしてきたという。
広田 そうですね。VTuberの音楽シーンみたいなのも、YuNiちゃん、富士葵さん、KMNZ、MonsterZ MATEらが2018年ころから活動を始めていて、それぞれの音楽性をうまくキャラクターと絡めてた。それがライブができなくなって結局うやむやになって……みたいな。
その直後くらいから「にじさんじ」や「ホロライブ」が配信で目立つようになって、VTuberの音楽といえばキャラクターソングみたいな方向にメインストリームが移っていって、結果的に音楽中心にやってる人たちがあまり目立たなくなった感じです。
草野 なるほど。キャラクターソング的な音楽なのかどうかっていうのも見方次第じゃないかなと自分は思っています。
広田 それはそう。
草野 その点で話しをすると、VTuberがリリースした音楽という意味でのシーンとライブ現場での出来って、正直言えば別だと僕は思っています。今年はVTuber関係のライブをいくつ見たのかなと思って数えたんですが、最新で自分はマリン船長のライブを2日間見てレポートを書きましたが、あれ含めて24件のライブを見てるんですよ。
草野 それは音楽ライブだけじゃなくて、FPS関係のイベントとか含めた数で、1ヵ月に2件以上見てるみたいな感じでした。あと24「件」とはいいますが、2日にわたってみていることもあるので、本数でいえばもっと多く見ていると思います。
広田 自分でいえば、今年は草野さんにだいぶお任せしたのでそこまで現場に行っていないけど、1月と11月のV.W.Pと花譜さん、七海うららさん、おめがシスターズ、Albemuth、Re:AcTの花鋏キョウさん、VEEのプラネタリウムライブ、GEMS COMPANY……とかですかね。配信を含めるともっと多くて、オンラインオンリーのCIELさんや「ANISAMA V神 2024」なども見ました。
草野 音楽ライブ以外にもいろんなイベント行っているので、そんな2人で話をすると、結構パワーがあるし範囲は広いんじゃないのかなと。最初に断っておくと、いわゆる配信ライブって言われるものは、今年僕はかなり見なくなったんですよ。単純に時間が取れなくなったというのが8割がたあるんですけど、演出という意味ではほぼ煮詰まったなと思えたんです。
正直な話、これは2023年の途中から思ってたんですけど、場面演出やエフェクトというものがホロライブとにじさんじが突出しすぎたがゆえに、それ以外での配信ライブが変わり映えしなくなったように感じたのが一つあります。企画内容は面白いから見る!というのもありましたが、ホロライブとにじさんじが飛び抜けていいと感じられてしまった。
広田 それは自分も思います。
草野 もう一つ、ステージの壇上そのものに大道具を使ってるかどうか、炎だったり色々なステージ演出を生で感じられることが、やっぱりすごく影響してるなと思ったんです。これがあるかどうかで、その日その瞬間のライブのド派手具合が変わるんです。これは配信ライブとの対比でもそうだし、現地ライブとの対比でもそう感じられます。
広田 特殊効果に関してはすいちゃん(星街すいせい)やマリン船長のライブもすごかった。
草野 しかもマリン船長は初日と2日目で舞台・ステージのセットが変わるっていう。初日は歌謡祭っぽかったけど、2日目は船になっていた。普通のアーティストでもアリーナ公演2日間やったらセット変えないもんですが、そこを大掛かりに変えてまでやってくるっていうところに、このライブのやりたいことに惜しみなくフォーカスしていくのがちゃんと目に見えて分かった。
広田 CGもほんとにスゴくて、ステージでの光の当たり方があまりに美しくて魅了されてしまった。ARも、ステージ床からのカメラで、出演者の背中とスパークラー(火花)を一緒に収めていたりして、「うわー、よくやるー!」と驚きました。
草野 そういう意味で「マリン船長がベストライブだった」……と言いたいところなんですが、その瞬間の音楽的な力強さやパフォーマンスのよさっていう意味だったらどうだろうっていうところがあって。それでいうと、理芽さんのサードワンマンライブの「NEUROMANCE III」を僕はとんでもないパワーがあって、めちゃくちゃ良かったなと思いました。
あとは名取さなさんのファーストライブ「サナトリック・ウェーブ」もよかったです。ステージはそんなにゴテゴテに演出するわけではないんですけど、ドラマーの人が和太鼓を叩いてやってくるとか、昼の部・夜の部で分けられててセットリスト若干変わっていつつ、名取さんがこれまで数年かけてリリースしてきた曲をフルパワーでやってましたね。
広田 理芽さんのライブはよかった! 配信アーカイブも何十回と見ましたし、個人的には「やさしくしないで」の歌い方に心を打たれました。
草野 事前にアルバムなどをリリースしたりして、作品性とか自分がやりたいメッセージみたいなものを「どれだけその瞬間のライブにぶつけていけるか」というのを重視してます。その点では、同じKAMITSUBAKI STUDIOの春猿火さんやヰ世界情緒さんのライブもよかった。
あと、2024年の元旦付近にやっていた朝ノ瑠璃さんのファーストワンマンライブ「謳歌爛漫」。公式のライブレポートを書かせてもらいましたが、彼女の出身地である石川県で元旦に大きな地震があって(石川県能登半島地震)、不運にもそこに被るタイミングでの開催だったんです。
彼女もSNSでその話に触れつつ、ライブではその瞬間の気持ちも全部ぶつけていたという、とてもファーストライブとは感じさせない気持ちのこもったステージでした。こんなことができるVTuberって、なかなかいないよなって。舞台のセッティングとしてはもしかしたら簡素だったかもしれないけど、パワーやパッション、感情をぶつけるという意味だったら朝ノ瑠璃さんのライブは外せない。
広田 どのライブがよかったか挙げ出すと、本当に止まらないですね(笑)
ライブの楽しみ方って、コロナ禍で断絶してない?
草野 さらにもうひとつ「hololive 5th fes. Capture the Moment」も挙げておきたい(レポート1日目、2日目)。まずドデカい!
広田 幕張メッセの3ホールぶち抜きで、正面と左右にステージを3つ建てての公演ですからね。視線があっち行って、こっち行って、そっち行って……。
草野 あのライブ、多分VTuberシーンでも史上最も大きな会場と観客の入りだったと思うんですよ。
広田 今回のマリン船長やすいちゃんのライブも同じくらい?
草野 「Capture the Moment」は2万ちょっとくらい入っただろうなと。本当にでかかったんですけど、もう一点すごかったのは観客のリアクションです。
広田 確かに。本当に盛り上がりがスゴかった。
草野 コロナ禍の影響があったという話もさっきあったんですけど、その中でVTuberが国を超えて広く知られて、色々な年齢層とかシーンを飛び越えてファンの人が生まれて配信を見るようになった。じゃあそういう人たちが一つの現場・イベント会場に集まって音楽を楽しみましょう! イベントを楽しみましょう!となったのが、あの日だったんじゃないでしょうか。その日の観客の盛り上がりって、かなり重要だと思います。
広田 いや、それはほんとそうです。
草野 色々な人がいるので、一概にどういう見方がいい悪いとは俺はあんまり言いたくはないんですけど、やっぱり、みんなで大声上げた方が盛り上がってる感がすごくある。演者さんも「すごい声上がってる! もっとやったろか!」とやる気スイッチが押されるんですよ。
広田 わかるー。結局、ライブはステージ上だけじゃなくて、会場全体での一体感ですよね。
草野 言っちゃうと、ホロライブのライブイベントは全部それがすごいんですよ。音楽ライブじゃないですけど「hololive GAMERS fes. 超超超超ゲーマーズ」を取材したときも、途中でおかゆん(猫又おかゆ)が機材トラブルで止まっちゃって、会場が暗転して演者さんがはけたんです。
照明がほのかに灯るなか、どうやってイベント進むんだろうな?って思ったら、観客が「ウッ!ハッ!」とペンライトを持ちながら上下左右に振り始めて、最終的に約1万人が「ウッ!ハッ!」してメンバーを待つみたいな流れになったんですよ(笑)
広田 ヤバイ(笑)。すごい光景だ。
草野 そのままメンバーが戻ってきたら、当然観客の動きをイジってまた笑いが起きるみたいな、そういう感じだったんです。スタッフもタレントさんも、誰もやれとは言っていない、自然発生したある種のおふざけなんですけど、それを見て「ホロライブのファンは意識が高いな」と思いました。
自分が楽しみたいし、楽しませてほしいという気持ちをイベントに持ってきて、その気持ちをとても大事にしている。それがゆえにイベントを能動的に盛り上げようとすらする。ホロライブのスタッフさんは、ファンのみなさんを誇ったほうがいいかもしれない(笑)
広田 そういえばホロライブは2019年から公式でもコール練習動画を出していたりしますよね。あとはイベントに行くファンの年齢が少し高めで、ある程度ライブやイベントに慣れているというのもあるかも。提供されたものをそのまま受け取るんじゃなくて、自分たちもその場を作る要因の一つなんだというのを理解しているんだと思います。
草野 ホロライブが前々から自社のタレントをアイドルとしてアピールしていたり、アニメ関係の声優を含めての繋がりが色濃い部分があって、ファンのなかでにもアイドルや女性声優のライブのノリを分かっている方々が多分多いんじゃないかな?と勘ぐっています。
広田 「ラブライブ」のライブで「Snow Halation」の落ちサビを歌うときに観客が一斉にUO(すんごく明るいウルトラオレンジのサイリウム)を折るみたいなのもファン発の文化と聞きます。ああいう風に「この瞬間これしたらおもろいよね」というのを、羽目を外さない程度にやってる。
草野 行き過ぎるとめっちゃ暴れて出禁になる人とかも出てくるわけですが、さすがにね。
広田 そうですね(笑)。そこはよし悪しだし、誰かに迷惑をかけたくないから過剰に守りに入ったりする側面もあるかもしれません。でも、ライブを盛り上げようとする気持ちがどれだけあるかが大事で、それがちょうどいい感じで収まってるのがホロライブのイベントなのかなって気がします。
草野 最近だと星街さんのライブがあったんですが、ライブ始まる前に「すいちゃんは?」「今日も可愛い!」っていうやりとりを観客同士がする流れがあるじゃないですか。あれがあんまりにも多すぎるから、その後の配信で咎めるというのがありましたね。「やってくれるのは嬉しいんだけど、やりすぎないように。時間も決めるから」と。
広田 指摘が入るぐらいには、やっぱホロライブのファンって熱量が高い。バランスが難しいですけどね。
草野 あと、にじさんじの三枝さんや不破さんのライブでそういう話があがってて、「みんな思ったり静かだね」「みんなどう?盛り上がってる!?」と観客の歓声をかなり気にしていました。「声出しをしてみよう!」とかそういう話をライブ中にしていたんです。演者側も、「はたして今日来てくれた観客は楽しんでいるのか?」というところが一番に注目しているポイントなので。
広田 絶対みんな心の中で盛り上がってるんですよ。でも多分、「どうやったら全体としてライブ自体が盛り上がるのか?」みたいなのがピンとこない。それはコロナ禍でリアルライブが断絶して、明けてもしばらく声出し禁止みたいな状況だったがゆえに、経験できる場がなかったからだと思います。
1月の花譜ちゃんの代々木でも、静かに聞きたそうな曲で手拍子が入ったりして「ん?」と思った瞬間がありました。一方で、11月の花譜ちゃんの幕張ではそういう違和感がなくなっていて、みんなほかのライブで学んで練度が上がってきたのかなと。単純に経験の差で、だからこそコロナ禍の影響がなくなった今からがVTuberのライブが面白くなっていくんだと思います。
草野 お客も色々なシーンから来てるがゆえに、楽しみ方が共通じゃないところもあるんじゃないですか。僕みたいなロックバンドのライブでバチクソに盛り上がっていたタイプの人たちがみれば、そりゃ「あんまり声が上がらないライブは盛り上がらない」ように感じられますが、今日初めてライブに来ました!という人が静かなライブに混ざって、「拍手をすることが演者さんへのリアクション」という風に感じることもあるわけですよね。
広田 それはそう。草野さんがさっき言われたように、絶対的ないい悪いはないのだけど、むやみやたらにキャーキャー叫んでればいいのか? というわけでもない。誰しもがめちゃめちゃすごく声を上げられるわけでもないし……そこらへん空気を読むのが難しい。
草野 観客のリアクションからさらに一歩深い話しをすると、「今日の演者さんは観客と会話してるのかな?」って話にも注目してます。そういうのってライブの醍醐味で、現場で演者と観客がきちんと会話できると、配信とはまた別の質感が生まれる。ただ……VTuberだと実際は難しいじゃないですか? なぜとは聞かないでほしいところですが(笑)
広田 えーっと、状況によると思います(笑)。MCに関してはきちんと会話が噛み合う部分は多いかもしれませんね……。
草野 要は演者と観客との触れ合いや繋がり、その日その瞬間その場所でしか生まれない繋がりが生まれてるかどうかというとことで、そこまで踏まえてトータル踏まえて今年のナンバーワンのライブは、やっぱり理芽さんの「NEUROMANCE III」だったと思うんです。
ソロライブのときに長めの時間をとって観客の声を聞いてしっかりと会話していたし、その日のノリで乾杯の音頭をとってみんなで飲み物を飲むということをやっていたんですが、それを11月のV.W.P.のライブでもやるとは思ってなかったんですよ。理芽さんが「乾杯やる?やっちゃう?」って観客に聞いて、「カンパーーーァイ!」ってやるという。
V.W.Pを見に来た観客も理芽さんのライブを全員絶対見ているわけでもないだろうに、「え? なにそのノリ? やるんか!?」と感じながら合わせて乾杯するという(笑)。あれを自然とやった理芽さんはすげぇと思いました。
広田 わかる。インタビューでもいろいろ話してくれてましたが、きちんと音楽をやりたい方ですしね。
草野 広田さんはどのライブが印象的でした?
広田 自分はライブのストーリーを評価することが多いです。例えば、1月に代々木で花譜ちゃんが「廻花」をお披露目したときは「マジかよ!」と驚きました。
改めて振り返ると、武道館でオリジナル曲を披露するなどの布石を打った上で、花譜に曲を提供してきたカンザキイオリの卒業があり、さらにシンガーソングライター路線は廻花にまとめるという大きな方針転換が続いたわけですが、廻花の発表はあまりに急すぎて観客もみんなびっくりしていた。そこをMCを重ねて丁寧に丁寧に、みんなの気持ちに寄り添うように解説していったわけです。まさに人生を賭けた首相就任の所信表明みたいな緊張感でした。この代々木のMCを聞いてから、11月の幕張のMCを聞くとだいぶ安堵したんだなという気持ちが伝わってきてとてもいい。
それでいうとV.W.Pの2ndワンマン「現象II」の涙ながらのMCも、それぞれが抱えてきた人生の大切な瞬間というのが伝わってきてとてもよかった。みんないつも「ちいかわ」みたいに「ワァ〜」ってMCであんなにかわいく盛り上がっているのに、歌にかける想いは本物なんだなと。
あとはすんごく綺麗にラストライブを終わらせたAlbemuthだったり、ファンとの関係性を大切にライブに盛り込んだHIMEHINAだったり……。これ、永遠に語れますね(笑)
「ライブのよさ」とは何? VTuberならではのよさもある?
広田 VTuber関係なしにすると、草野さんが今年一番よかったライブって何でした?
草野 難しいこと言いますね(笑)
広田 自分は知り合いから教えてもらったYOASOBIの「DEAD POP FESTiVAL」のアクトがむちゃくちゃ好きで、YouTubeでしか見られてないのですが「ライブのよさって何だ」ってすごく考えさせられました。
YOASOBIのライブって、音楽だけじゃなく、照明やレーザー、特効で作り込まれた舞台演出がすごいという認識があったのですが、DEAD POP FESTiVALは複数のアーティストが出るフェスなので、セットや演出もそんなに特殊なものを使っていない。昼間の屋外なこともあってレーザーも出せない。
でも、YOASOBIのチームとして醸成してきたバンドの強さをすさまじい勢いで出しているし、出演者全員がこの場を楽しんでいて、本当にいい表情をしているんです。カッコよかったり、キュートだったり、パワフルだったりが入り混じってる。観客側もモッシュやリフト上等で、我を忘れて本当に音を楽しんでいる。カメラワークがめちゃくちゃいいこともあって、オンラインでしか見ていないにも関わらず、画面越しでも会場の興奮と喜びが伝わってきたのがシンプルに驚きでした。
こういう無我夢中、忘我の境みたいな体験ってVTuberのライブでできないのかなって。アーティストや観客の表情や肉体の躍動感なのか? 瞬間、客席にマイクを向けて煽ったり、歌ってもらう即興なのか? カメラワークがめちゃくちゃいいのもあると思います。もちろんVTuberのライブはロックフェスとは違うし、同じように客席が激しく盛り上がるのは不可能でしょうが、じゃあVTuberのライブならではで、ここまでライブを楽しむって何なんだろうって。
草野 今年のDEAD POP FESは初日だけで、YOASOBIが出た2日目は行けなかったんですが、去年のSUMMER SONICで彼らのライブを見ていたので、どういうノリでやるかは分かったんです。原曲のYOASOBIしか知らないとそういう風に見えるよなぁと。
で、自分が行ったライブのベストというと……難しいな。基本的に今年は海外アーティストをめちゃくちゃ見に行ってました。
一応いうと、Oneohtrix Point Never、bar Italia、NEW DAD、YARD ACT。Mannequin Pussyの来日ライブにも最近行きましたね。あとはANORAK!っていう日本のインディバンドのリリースパーティー、DEAD POP FESとヒップホップの大型フェスのPOP YOURS。あとは渋谷のclubasiaでやった「FRICTION」というイベントでピーナッツくん、DAOKO、Jinmenusagiらを見ました。
広田 今さらでアレですが我々、VTuberの音楽の話をしてるのにピーナッツくんにまったく言及してないのはダメすぎじゃないでしょうか!?
草野 広田さん。これPANORAとしてみたライブの振り返りで、彼のライブは見てないじゃないですか。
広田 でも、2024年におけるVTuberの音楽シーンを切り取るとしたら、やっぱりピーナッツくんなしじゃ語れなくないですか!?
草野 まぁ連載でも彼のアルバムについて書きましたし、2025年に動いていきたいですね(編註:ぜひ取材させてください)。話を戻すと、印象深かったのはまずOneohtrix Point Never。
この日、世界ツアーの初日だったみたいで、どういうライブをするか全然わからないまま見に行ったんですけど、ダニエル・ロパティン(Oneohtrix Point Neverの実名)がラップトップや機器のほうをイジってとんでもないアンビレントやノイジーな音を出している横で、映像に合わせた人形劇が行われていたんですよ。
広田 へぇー! 面白そう。映像に合わせた人形劇というと、VTuberにもリンクしそう。
草野 アレをそっくりそのままできるかはわからないですけどね(笑)。そのパフォーマンス内容のまま、今年のコーチェラ・フェスティバルまででてました。
広田 スゴいな。
草野 箱のなかで人形劇をしているんですけど、その箱の中でも人形がライブをやっている、みたいな感じになってるんです。イメージビデオにバトンタッチしたり、人形劇の映像になったりと、映像モニターも交互に変わっていく感じ。そのなかでダニエルはずーっとエレクトロニカとかアンビエントとか、ドローン系のサウンドを流してた。
広田 めっちゃ音楽だし、ライブだこれ! VTuberの音楽だったりライブだったりは、歴史が浅いこともあって、そういうアート的な領域まではまだあまり行ってないですね。
草野 まぁ、現状強く求められてないというのは思います。もう一つライブをあげると、「POP YOURS」のTohjiのライブですね。広田さんはTohjiはご存知ですか?
広田 いや、存じ上げないです。ごめんなさい。
草野 簡単に言うと、めちゃめちゃウケのいいハウス系なサウンドと、なんだかよく分からないエレクトロニカな曲、2つの側面を見せながらラップをしている方です。「HIGHER」「TEENAGE VIBE」「GOKU VIBES」「Super Ocean Man」といった曲で人気を得たんですけど、その一方でインダストリアルかつ異様な空気を発する曲もやっていたんです。
そして「POP YOURS」初めてのトリ。幕張メッセ2万人近い観客の前でTohjiが何を初っ端に出してくるのかとなってたんですけど、「YODAKA」「Iron D**k」「ONI」とインダストリアルで異様な方面の曲をやったんですね。
しかもギラギラギラギラと照明が輝く感じじゃない。Tohjiの過去を振り返る映像が流れて、真っ暗な会場でステージに白いライトがふわーっと差して、白いもやがステージにかかったら、そこでTohjiと相方のLootaがラップしはじめたんです。
ポップで踊れる曲から始まるんじゃない?って思ってた客は「はぁ?」となって若干置いてけぼり。ただ楽曲やパフォーマンス含めて妖しさがとんでもなくて、「いまそこでとんでもなくやべぇことが行われている」ってことだけは、ハッキリとバチバチ伝わってくる。なので、「いまそこでなにかとんでもないことが起こっている」という点でOneohtrix Point NeverとTohjiのライブをあげますね。
広田 すごいな。うーん、改めて「VTuberの音楽ライブ」っていうと、音楽を主動にした体験というよりも、パッケージングされたものをそのままみんなで見るみたいな側面が強いのかもしれないのかも。アドリブがあったとしてもブレ幅が小さくて、演劇とかに近いのかも。
草野 その瞬間その人が自由にやって、めちゃめちゃ盛り上がって、うわー!とボルテージ上がってるっていう様を、音楽とパッケージングにくるまってぶつけていくっていうのが音楽ライブだと思うんです。
それが今のVTuberだと、まだ全然そこまで自由にやれてなくて、サウンドとか演出でぶっ飛ぶというわけじゃなくて、「この曲をやる」というパフォーマンスに終始しているって感じという意味ですよね。
ただ、別に自分はそういうあり方が悪いとか劣ってるとかそんなことを思ってるわけではないです。自分はある意味で予定調和というか、「こういう風にやりましょうね」「こういうレールに沿いましょうね」というライブでも全然俺楽しめる側だし、むしろそういうやり方ですごいパフォーマンスをするひとも全然いるし、なんならそっちの方が世界的見ると圧倒的にメジャーですよ。
広田 ですよねぇ。でも自分も感動は綿密な計画の上につくり出すものだと思っていて、言ってしまうとアニメや映画、ドラマも予定調和なわけじゃないですか。そこに対して「なんだこれ作り物じゃねえか!」って文句を言う人ってほとんどいない。ライブも同じで、こうやったら受け手の心が動くという流れを設計して、音楽やMCで伝えて「うわよかったー!!」って気持ちににさせてくれる。それはそれで素晴らしくて、自分も好きなので否定するわけではないんです。
ただ一方で、ライブならではしか体験できないような、「これ伝説だな」「俺行けてよかったな」みたいなライブがもっと増えてほしいとは思う。それでいうと、ホロライブの全体フェスがそうだったのかなもなぁ。
草野 ホロライブの「Capture The Moment」はそうですね。すいちゃんや船長のライブもそうですけど、やっぱりその日その瞬間でバカ盛り上がるという意味では飛び抜けていたライブでしたね。ロックフェスのライブにも負けてないくらいです。
広田 ですねぇ。で、来年以降はどうなると思います?
草野 来年以降ですか……。さっきも話が挙がりましたが、にじさんじとホロライブが突き抜けてすごいとはいえ、今後リアルライブではステージ演出がある上でのライブになっていくと思うし、はっきりいうと「それが当たり前」くらいの流れになっていくだろうと思います。だからこそ、なおのこと3D方面でミスしてはいけないという、レベルが年々高くなっているなと思っています。
広田 3Dの演出もここ数年で大きく進化しましたよね。ここ1、2年でいえば、巨大LEDをドーンと置き、CGで現実のような舞台セットを立てて、さらに奥行きがあるように湾曲させて床を描いて、現場で平面的に見えないように工夫していたりするのがスゴいです。
草野 だがそういった演出に沿ったうえで最高のライブをするのも重要なんだけど、もっと別のテイストのライブというのを求めていってほしいな……っていうのが広田さんの感想という感じですかね?
広田 そうですね。長瀬有花さん、七海うららさん、奏みみさん、パン野実々美さんとか、バーチャルの文脈もあったけど、最近では普通に自分の体を出してライブをしていたりしているので、そういう動きも加速しそうです。
草野 そういったところが名前にあがると、Ado、初音ミク、すとぷりという3者を取り上げつつ「VTuberってどうなの?」と対比的に考えることが必要になると思います。実はVTuberのやれること、限界域って意外と狭いのでは?なんてこともあったり。
広田 なるほどー。
草野 この点はつくり手や演者さんが意識していい話だと思います。しかもこの観点でいくと、もはや音楽ライブの話から大きく逸脱してしまう(笑)、そういった意味でも、来年以降どういう動きが見られるかは楽しみです。
*連載一覧はこちら → Pop Up Virtual Music
●関連事項
・理芽、3rdワンマンライブ・NEUROMANCE IIIレポート 「オルタナかわいい」など二面性の魅力に酔いしれた一夜
・宝鐘マリン「Ahoy!! キミたちみんなパイレーツ♡」2DAYSライブレポート 石井竜也ら豪華ゲストにも会場が沸いた!
・ヰ世界情緒・3rdワンマンライブ「Anima III」ライブレポート 彼女が魅せる表現の最頂点、そして創作活動そのものへの愛情
・花譜、4thワンマン「怪歌」1万5000字レポート そして花は2度咲く【神椿代々木決戦2024】
HIMEHINA、「涙の薫りがする」1万字ライブレポート そして未来は変わり、ボクらは会えるようになった